主なポイント
米国の抗議デモが投資市場にとって問題となるのは、経済活動に多大な影響を与える場合のみです。
世界経済と豪州経済の回復は債券利回りを押し上げるため、(これまでに幾度となく終わると言われながらも)40年近く利回り低下が続いた債券の「スーパーサイクル」がついに終焉を迎えると考えられる理由が存在します。
しかし、債券ブル相場は徐々に終了となる可能性が高く、株式や実物資産はイールド追求の動きから一定の恩恵を受けると予想されます。
はじめに
クリスマスや年末にかけての落ち着きを覆すような出来事とともに新年が幕開けするケースは多々あります。2016年は世界成長の先行き懸念、2018年は米国のインフレと金利を巡る懸念など、これら波乱の多くは一時的なものですが、新型コロナウイルス感染の様に長期に渡って影響を及ぼすものもあります。2021年は、トランプ氏の支持者による暴動と共に一年がスタートし、債券利回りが急上昇しました。これらは全て、株式市場が力強いラリー後の調整の入りやすい状態にある局面で発生しています。債券利回りの上昇を受けて気になるポイントは、40年近く続いた債券のスーパーサイクルはついに終わったのかという点です。まず最初に、債券利回りの動向を左右する米国の政治情勢を見てみましょう。
市場は、米国の抗議デモにほぼ反応せず
トランプ米大統領が自身の支持者らに対してワシントンD.C.での抗議デモを呼びかけたことで、武装した集団が連邦議会議事堂に乱入した事件では、死者が出るとともに、一部の参加者はペンス副大統領の吊し上げを連呼、トランプ氏においては支持者の群衆に対して「we love you」といメッセージを送るなど、世界を大きく揺るがしました。その後、トランプ氏は2度目となる弾劾訴追を受けることとなり、共和党支援者でさえも、その多くがトランプ氏に背を向ける結果となりました。しかし、これら一連の流れが投資市場に与えた影響は微々たるものでした。バイデン氏の大統領就任式においてトランプ氏支持者による抗議デモが継続した場合でも、大きな影響が出る可能性は低いと考えられます。なぜなら、経済活動や健全な政治プロセスが著しく中断されることがない限り、投資市場とはあまり関係ないからです。これは、(今回の政治的抗議デモとの比較対象としては相応しくありませんが)2020年中旬におけるBlack Lives Matter(ブラック・ライブズ・マター、BLM)の抗議デモ、1995年のオクラホマ・シティと1996年のアトランタ・オリンピック爆破テロ、その他数々のテロ事件(はるかに大規模だった9.11は除く)からも言える事です。より根本的な観点から言えば、米国は幾度となくカタルシス(精神の浄化)を繰り返し、その復活と共に力をつけている様に見えます。南北戦争、大恐慌、1970年代などがこの例です。今回も、楽観的な見方をする理由には次の3つがあります:
- 米国の民主主義は揺らいでいません。選挙管理人、裁判官、政治家らともに、政治同盟よりも法律や自身の責務を優先しています(激戦州ジョージア州のブラッド・ラフェンスパーガー州務長官が良い例です)。
- 武装集団が連邦議会議事堂に乱入した事件は、米国の制度に対する敬意が欠如しているトランプ氏とその支持者の姿を強調するものであり、さらなる暴動が警戒される中で、共和党主流派(その多くは、共和党を法と秩序ある政党と考えています)と米国民を遠ざける結果となった可能性が高いと言えます。
- 格差など、過度な社会的分裂や二極化への対応を巡って、バイデン政権への圧力が強まります。トランプ氏は、この問題に付け込む形で大統領の座を射止めたわけですが、何の対応も行っていません。今回、連邦議会が上下院ともに民主党優勢となったことで、取り組みの余地が生まれています。資本主義自体をその病から救う必要があるのかもしれません。そうすることで、債券利回りは時間ともに上昇するでしょう。
債券の基本
まず最初に、債券の仕組みについて手短におさらいしましょう。国が国債を100ドルで発行し、年間3ドルの利子を払う場合、応募者利回りは3%となります。利回りが高い程良いわけですが、短期的に、債券価格は利回りと反対の動きをします。経済成長やインフレが減速し、中央銀行が金利を引き下げた場合、年間3ドルの利払いを受けられる国債を購入する投資家が増え、その利回りは低下しますが、債券価格が上昇するため、投資家はキャピタルゲインを獲得することが出来ます。ここ数十年にわたり債券利回りが低下傾向にある中で、そのリターンが良かった理由はここにあります。一方で、経済成長やインフレが加速し、債券利回りが上昇する局面では、投資家はキャピタルロスを被ります。さらには、利回り2%の債券を10年満期まで保有した場合のリターンは、年間2%にしかなりません。
債券利回りの全体像を取り巻く状況
次の図表は、米国と豪州の10年物国債利回りの推移を示したものです。

1940年代以降、債券利回りには2つの長期的な動きが確認されています:
- 1980年代初期にかけて40年近く続いた債券利回り上昇のスーパーサイクル:大恐慌と第二次世界大戦後における経済拡張政策による物価上昇、ベトナム戦争の戦費調達、商品価格の上昇、保護主義、生産性の減速、景気不透明感の高まりによって、実質利回りが上昇しました。
- 1980年代初期にスタートし、40年近く続く債券利回り低下のスーパーサイクル:この背景にあるのは、1980年代初期から1990年代にかけて中央銀行が積極的にインフレ抑制に動いたことによる物価の急落、供給サイドの改革、グローバル化、デジタル化によるコストの低下と競争の激化、格差の広がりを背景とした消費低迷、デフレ懸念を受けた余剰生産能力と労働者の交渉力低下、人口の高齢化に伴って安定したインカムを生む資産の需要が増加、世界金融危機(GFC)後の中央銀行による国債買い入れです。
新型コロナウイルス感染が世界的に猛威を振るいだした昨年3月から4月にかけて、市場はパニックに陥り、債券利回りは米国で0.5%から1.09%、豪州では0.6%から1.08%へと急上昇しており、直近ではここ数週間で再び大きく上昇しています。この理由は、経済回復、ワクチン接種の開始に伴った楽観的な見方の広まり、米国連邦議会は上下院で民主党優勢となったことで追加刺激策の可能性が高まっている点です。米国投資家を対象とした調査結果によると、足元における最大の懸念事項は、新型コロナウイルスではなくインフレと金利上昇です。
しかしながら、1980年代初期からの債券ブル相場では、循環的な景気の上向きに伴った利回りの反転上昇が複数回確認されており、その後は再び低下のトレンドに戻っています。このスーパーサイクルが終わるかと思いきや、再び新たなデフレショックに見舞われるという場面は、これまでに度々ありました。これは、GFC、欧州債務危機、2015-2016年にかけた世界成長の減速、トランプ政権下における米国貿易戦争であり、債券利回りの更なる低下を招いています。この観点から、最近の債券利回りの上昇は、長期的な低下トレンドにおける一時的な上昇でしかないのです。実際のところ、循環的な景気回復局面において、債券利回りが上昇し、イールドカーブがスティープ化するのは極めて正常なことです。
債券のブル相場は終了、もしくは終わりに近づいている
とはいえ、より根本的な観点からは、40年近く続いた債券利回り低下のスーパーサイクルは終了又は終わりに近づいており、トレンドは上昇に向かう可能性を事を示唆する要因が複数存在します:
- 各国中央銀行は、インフレ率の引き上げを狙って、ありとあらゆる政策を講じています。これは1980年代初期のインフレ抑制に向けた対応と似た様相です。大規模な資金供給や、行き過ぎた物価上昇の余地を残しつつも、インフレ率が目標レンジ内で持続的に維持されない限り利上げを行わないというコミットメントからも、この点は明らかです。
- 財政緊縮によって金融緩和の成果が相殺された過去10年とは反対に、大規模な財政刺激策によって、マネーサプライの増加を通じた消費ひいては物価の押し上げが可能となっています。
- アングロ諸国における政局の振り子は、再び左へと戻りつつあり、経済への介入が増えています。米国では、バイデン政権下において、格差是正(これは消費にとってプラスです)や企業から雇用者への権力移行を目指す政策へのフォーカスが高まると見られています。
- グローバル化は後退し始めています。これは、中国との貿易摩擦を背景に、生産の一部を国内回帰することでサプライチェーンを保護する事に対する各国政府の意欲を反映しています。
- 債券利回りはゼロ近辺で推移しており、自然の障壁にぶち当たったと見られ、債券のブル相場も相当長い間継続しています。
- マイナス金利やゼロ近い金利が超長期で維持される可能性は低いと見られます。債券名目利回りの長期平均は、長期名目GDPの水準近辺で落ち着く傾向にあります。当社の控えめな長期経済成長見通しと比較した場合でも、10年物国債利回りは持続可能な水準を大きく下回っていると言えます。

- 最後に、資金が流入超過となっているのは、米国株式ファンドやETFではなく米国債券ファンドやETFであることからも分かるように、市場参加者は相当な規模の債券ポジションを持っていますから、利回りが大幅に上昇するとなれば、キャピタルロスが発生する可能性があります。
しかし、利回り上昇のトレンドは緩やかなものとなる可能性が高い
40年近く続いた債券利回り低下というスーパーサイクルは、複数年かけて緩やかに幕を閉じる可能性が高いと見ています。
- 過去を振り返ると、長期の低下トレンドにあった債券利回りは、その後複数年をかけてベースが構築されていきます。これは、成長とインフレ見通しが上昇するのに時間がかかるためです。最初の図表、米国と豪州の債券利回りにおいて丸で囲んだ箇所を参照してください。
- 成長は今年回復に向かう可能性が高いものの、高い失業率と不完全雇用からは生産能力が未だ過剰である事が示されており、賃金成長の重石となっていることから、商品価格が上昇しているとはいえ、今後2年程度におけるコアインフレ率の伸びは限定的になると予想されます。
- 主要国の中央銀行や豪州準備銀行(RBA)が金融引き締めに動くのは相当先となることから、世界的にもまだ緩和的な金融政策が継続する見通しです。
- 1970年代や1994年とは対照的に、インフレ予想はいまだ低水準のままで、短期的な価格上昇がより長期のインフレ上昇トレンドに変化する可能性は低いと言えます。
- 最終的にインフレ率が目標をオーバーシュートする場合でも、中央銀行による対応の余地があります。実際に、公的債務水準が高いということは、利上げを通じてより高い効果が得られることから、過去ほどの利上げを実施せずにインフレの制御が可能となります。
投資家への影響
債券利回り低下のスーパーサイクルが終了となることで、投資家には次の様な影響が及ぶと考えらえます:
- 国債については、利回り低下によるキャピタル成長が期待できないため、これまでの様なリターン水準は望めません。豪州10年物国債の利回りが1.1%ならば、今後10年のリターンは僅か1.1%です。また、短期的には、利回り上昇はキャピタルロスにつながります。
- 債券利回りの上昇によって株価が割高となることで、株式市場のリターンにも影響が出てきます。債券利回りの上昇が緩やかであるならば大きな問題ではなく、今年は当社が予想している様に収益増がその影響を相殺してくれます。しかし、債券利回りが急に大きく上昇する場合には、懸念材料となります。
- 債券利回りが底打ちする局面で恩恵を受けるのは、資本財や銀行、資源など、景気回復を取り込んで収益を伸ばすセクターの株式です。
- 非上場の商業用不動産やインフラなどの実物資産に関しては、利回りが急上昇しない限り、イールド追求の動きが投資家需要をサポートする場合も考えられます。しかし、両セクターともに、コロナ禍で需要が低迷する店舗やオフィス、空港など需要など、幾つかの課題が残されています。
そして、賃貸派の方においては、豪州の住宅ローン固定金利は恐らく底打ちしたか、底打ち間近にきています。
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