主なポイント
投資家にとって、2020年は当初懸念されていたよりも相当良い一年となりました。
2021年は好調なリターンが期待できるとともに、コロナ禍の勝ち組からシクリカル投資へのローテーションが進むと見込まれます。
注目点は、新型コロナウイルスとワクチン、米国政治、中国摩擦、インフレ、豪州への移民減少です。
はじめに
新型コロナウイルス感染の第1波が猛威を振るい始めるともに、株価が大暴落、深いリセッションに陥った2020年ですが、年が明けてみると、バランス/グロース型スーパーアニュエーション・ファンドの平均リターンは3%程度のプラスを記録するなど、当初懸念されていたよりも相当良い結果となりました。堅調だった2019年のリターンは約15%でした。過去5年間における同スーパーアニュエーション・ファンドの年率リターンは平均で7%前後と、インフレと銀行預金からのリターンを大きく上回る水準です。

しかし、このリターン水準は維持されるのでしょうか?このレポートでは、投資見通しに関するインサイツと見解を、箇条書きでまとめました。
投資家にとって、2020年が懸念されていたよりも良い1年となった理由6つ
新型コロナウイルス、リセッション、3月にかけた35%の株価暴落に見舞われた2020年の投資リターンは、次の理由から、懸念されていた程悪くない内容となりました:
- 莫大な規模の財政支援によって、事業、雇用、収入が保護されました。
- 住宅ローン返済の一時保留措置によって、デフォルトが回避されました。
- 大規模な金融刺激策を受けて金利が低下し、ローン利払いの支援となりました。
- その効果は各国間でまちまちであるものの(米国、ヨーロッパに比べてアジア、豪州、NZは良好)、ソーシャルディスタンシング措置が感染拡大防止に寄与し、経済が再開しています。
- 米国大統領選挙でジョー・バイデン氏が勝利したことにより、世界的な政策不透明感と摩擦の後退に対する期待が高まりました。
- 年末にかけて、ワクチンの有効性に関する朗報が続いたことで、正常化に対する期待が湧きました。
完全なる回復はまだ程遠く、感染拡大も続いていますが、1から4のポイントは、2020年下期における予想を上回るペースでの経済回復に寄与しました。回復への期待と超低金利環境を背景に、多くの投資市場はリバウンドを見せました。
2020年からの教訓
- 投資市場においてタイミングを見計らう事は困難である:2月の高値で売り抜けるのが困難だった様に、3月の上昇局面に向けて再び買い入れるのは、当時の憂鬱感を考えると、より困難でした。
- 米連邦準備制度理事会(FRB)、欧州中央銀行(ECB)、中国人民銀行(PBOC)、豪州準備銀行(RBA)には逆らうな:3月にかけた株価暴落を阻止することはできませんでしたが、これら各国中央銀行による大規模な金融緩和措置は、回復の原動力となっています。
- 投資評価は、金利との相対比較で考えるべきである:株価収益率(PER)が高いとはいえ、経済見通しを巡る不透明感が排除された後に重要となるのは、対金利で見た利回り水準です。つまり、低金利環境において、株式は相対的に魅力だと言えます。
- 恐慌は回避可能である:2020年は、迅速で大規模、かつ的確な経済政策措置は、著しいショックから経済を保護するとともに、その脅威が後退する局面では素早い回復を可能とする事を証明してくれました。つまり、投資家においては、経済ショックで慌てる必要はないのです。
- ノイズを排除する:新型コロナウイルスを巡っては、様々な情報や意見が錯綜していますが、これらの多くはノイズでしかありません。大切なのは、このノイズを排除し、長期の投資戦略を貫くことです。
パンデミックのより長期的なプラス影響3つ
失業率の上昇、グローバル化への打撃、中国摩擦、社会不安の悪化、公的債務の膨張、長期でのインフレ進行リスク、空港・小売・オフィスなど数々の産業におけるディスラプションなど、新型コロナウイルスを背景としたより長期のマイナス影響は幅広く知られており、幾度となく取り上げられています。しかし、より長期的なプラスの影響も存在します:
- 生産性の向上:コロナ禍による混乱から、新しいテクノロジーの導入と有効活用が大幅に加速し、オンライン会議やEコマース、コスト削減と生産拡大に寄与するクラウドの活用などが普及しました。
- よりバランスの取れた生活と住宅アフォーダビリティの改善:コロナ危機によって、多くの人は在宅勤務が可能だということが証明されており、よりバランスの取れた、ストレスの少ないライフスタイルが定着し、都市集中型から分散型への生活が可能となることで、都市部における住宅価格の過熱感が和らぐ事も考えられます。
- 科学と専門家意見を信頼するメリット:ワクチンの迅速な開発が化学の力を証明したと同時に、豪州など感染拡大防止で優れた結果を出している一部の国では、死亡者数も最小限にとどまっており、専門家意見を信頼する事の恩恵が強調されています。これらは共に、無知なポピュリスト政治家を非難すると同時に、気候変動などその他課題への取り組みに関して希望を与えるものです。
2021年を楽観視する理由4つ
- 臨床試験の最終段階フェーズ3で高い効果が証明されたワクチン複数の投与が始まっています。先進国では、2021年下期にも集団免疫を獲得できる可能性があります。
- 財政刺激と金融緩和が継続しており、その効果はまだ出きっていません(米国では、昨年末に9,000億米ドル規模の追加刺激策が承認され、今後は民主党主導で更なる追加景気対策が打ち出される可能性が高くなっています)。また、高い貯蓄率は、消費の潜在需要が莫大である事を示唆しています。
- バイデン氏を次期大統領に迎える米国では、民主主義がトランプ氏からの攻撃に耐える中で、より安定かつ統合された、専門家意見を信頼する政権へと移行します。
- パンデミックによって世界は無秩序状態に陥る、という悲観的な見方が実現することはありませんでした。
1と2のポイントは、(短期的なロックダウン期間を超えて)世界的な成長と収益の力強い回復をサポートするものです。余剰生産能力が膨大となる一方で、インフレと金利は低水準である事から、投資サイクルではスイートスポットが維持されています。
2021年の主な市場見通し
- 11月初めから力強いラリーが続いた株価は、短期的なそこそこの下げ(5-15%程度でしょうか)に見舞われやすい状況です。(2010年、世界金融危機からの回復後に見られたのと同様に)2021年はボラティリティが高まる局面が複数予想されますが、短期的なノイズを排除すると、世界成長の回復と低金利という、成長資産にとって好ましい環境が形成される見通しです。
- パフォーマンスに関しては、米国株、テック株、ヘルスケア銘柄、債券といった新型コロナウイルスとロックダウン措置から恩恵を受けていた投資から、資源株、資本財、観光銘柄、金融関連株など回復から恩恵を受ける投資へのシフトが継続するでしょう。
- グローバル株式のリターン見通しは8%程度ですが、テクノロジー関連のエクスポージャーが相対的に高い米国市場から、よりシクリカルな欧州、日本、新興市場へのローテーションが予想されます。
- 豪州株は、感染拡大防止において優れた結果を出したことで、短期でより力強い景気回復が可能となり、刺激策の効果にも優れている、成長の回復と共に資源や資本財、金融サービスが恩恵を受ける、イールドを追求する投資家の動きが継続することで、増配に対する期待から恩恵を受けるといった要因を背景に、相対的なアウトパフォーマーとなる見通しで、リターンは12%程度を見込んでいます。
- 債券に関しては、極めて低いイールドと、0.5-0.75%程度のイールド上昇を受けたキャピタルロスから、マイナスのリターンとなる可能性が高いと見ています。
- 非上場の商業用不動産とインフラは、最終的にイールド追求の動き再開から恩恵を受けると見られますが、コロナ禍を背景としたスペース需要、ひいては賃料への打撃については、引き続き短期的なリターンの足枷となるでしょう。
- 豪州の住宅価格は、過去最低の住宅ローン金利水準、住宅購入者に対する政府奨励金、収入支援策、ローン返済猶予などを背景に、5%程度上昇する可能性があると見ています。しかし、移民流入が消え、賃貸市場が弱含んでいる点は、メルボルンやシドニーの都市部周辺やユニットにとって重石となるでしょう。郊外、戸建て、小規模都市、地方のエリアでは、更に力強い伸びが予想されます。
- 政策金利が0.1%という超低水準にあることを考えると、キャッシュと銀行預金にとってはリターンに乏しい1年となる見通しです。
- 豪ドルは、新型コロナウイルスや中国摩擦を巡る不透明感に翻弄されやすい状態にあり、RBAによる国債購入がその行き過ぎた上昇を防いでいます。しかし、商品価格の上昇と米ドルのシクリカルな下落を受けて、1豪ドル0.80米ドル近辺まで上昇すると予想されます。
6つの注目点
- 新型コロナウイルスとワクチン:ワクチンとその投与に関する問題が発生した場合、新規感染の増加が継続することになり、回復のペースが予想よりも遅くなる可能性があります。
- 米国政治:1月5日に行われたジョージア州の上院決選投票で民主党が勝利したことで、バイデン政権下では左派寄りの傾向が強まる可能性がありますが、保守派の民主党議員がこの行き過ぎを抑制するでしょう。トランプ氏が政権を離れるとはいえ、社会面そして政治面で緊張が高い状況が続いています。
- 米中間、豪中間の摩擦:次期米大統領バイデン氏が先導する格好で、外交的なアプローチが取られると予想されますが、どちらかに誤算があった場合には、豪州のより長期的な成長が減速するリスクとなります。
- インフレ:低調さが継続すると見込んでいるものの、予想以上に早いペースで回復する場合には、債券利回りが駆け足で上昇し、資産バリュエーションに下方圧力をかけることになります。
- 豪州への移民減少:70万人規模の移民減少が2023年中ごろまで継続することになれば、シドニーやメルボルンの都市部周辺エリアにおける住宅価格に影響が出るでしょう。
- グローバル成長指標(PMI):2020年上期の低水準から順調に回復を見せており、この堅調さを維持しなければなりません。
豪州がアウトパフォームする理由5つ
- 新型コロナウイルス感染拡大の防止において、その他数多くの国よりも優れた結果を出しています。
- 他国の殆どと比較して、優れた政策刺激の効果が見られています。
- 鉄鉱石価格の上昇によるプラスの影響は豪中摩擦の影響を上回っており、中国とアジアに対するエクスポージャーが高いことによる恩恵を受けています。
- 資源ブーム終焉の影響は過ぎ去っています。
- 豪州の経済と株式市場は相対的にシクリカルであるため、世界の循環的回復から恩恵を受けると考えられます。
投資家が忘れてはならないポイント9つ
はい、これは昨年もお伝えしたものですが、その多くは不朽のポイントです:
- 複利の力を最大限に活用する:成長資産への定期的な投資を通じて、長期で資産を大幅に成長させる事が可能です。「72の法則」によると、年率リターンが0.5%の場合、資産価値を倍増するには144年かかります(72÷0.5で計算)が、年率リターンが5%だった場合には僅か14年で資産を倍増することが出来ます。
- 市場サイクルに惑わされない:熟考された戦略があるにも関わらず、市場の下落に動揺し、誤ったタイミングで戦略を踏み外してしまうことがあります。2020年3月はこの良い例だったと言えます。
- 長期の投資を行う:短期的な市場の動きを予想する事は困難ですから、自身の資産、年齢、リスク許容度に合致した長期の投資計画を考え、それに忠実に行動することです。
- 分散投資を行う:一つの事に全てを賭けないことです。
- ノイズを排除する:前述の通りです。
- 安値で買い、高値で売る:購入が安値であるほど、将来高いリターンを得られる可能性が高まります(その逆もしかり)。
- 行き過ぎた大衆意見には注意:投資資産を巡る行き過ぎた楽観的意見や悲観的な見方に惑わされないようにしましょう。
- 自身が十分に理解し、持続可能なキャッシュフローを提供する投資にフォーカスする:怪しい、理解できない、奇妙なバリュエーション方法でないと投資を正当化できない、債務が積み重なるといった場合には、投資を控えるのが最良の選択です。
- 名目リターンが低い環境である事を受け入れる:インフレ率が1.5%であれば、過去5年間の年率リターン平均が7%前後というバランス/グロース型スーパーアニュエーション・ファンドのパフォーマンスは、かなり良い結果です。
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重要事項
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