2020年は波乱、そして激変の一年となりました。新型コロナウイルスというパンデミックによって私たちの生活と働き方は大きく変化し、深いリセッションが世界経済を揺るがす中で各国政府は過去に類を見ない規模の金融刺激策を次々と打ち出し、リアルアセット(実物資産)セクターではドライパウダーの積み上がりが一段と増加しました。一方で、気候変動に対する危機意識の高まりと取り組み強化に対するコミットメントが見られた点は、プラスの展開でした。現代社会を形成する様々な革新は、コロナ禍で加速しています。パンデミックとの闘いが続く中で、不透明感に覆われた2021年の様相は、昨年とは異なります。
ここでは、インフラストラクチャー・エクイティとインフラストラクチャー・デット、実物不動産、グローバル上場不動産とグローバル上場インフラストラクチャーの各チームが、注目する2021年の主要なテーマと投資機会を紹介します。
第3回は、主要なマクロ要因に関する運用担当者の見解です。
米新政権と経済刺激、高まるインフラ投資への期待感
インフラデットへの資金流入が増加すると予想されます。バイデン新政権が始動した米国については、投資機会の増加について慎重ながらも楽観的な見方をしています。とはいえ、過去10年における歴代政権は全て、インフラを最優先課題と位置付ける一方で、公共インフラにおける民間資金の活用を妨げる官僚的なプロセスが大きな壁となり、実現には至っていません。トランプ政権のインフラ法案は、大きな話題になったものの議会を通過することはなく、オバマ政権もインフラ整備という課題に対して十分な賛同を得られませんでした。必要不可欠なインフラの更新と整備に向けた投資が喫緊の課題となる一方で、インフラ投資は経済戦略でもあります。インフラへの投資を通じて雇用を生み出し、リセッションから抜け出す事ができるのですから。政治的支援が得られるかはともあれ、物流需要から恩恵を受ける冷蔵施設といった新セクターや、デジタルインフラなどパフォーマンスが堅調なセクターでは、投資機会が十分に提供されています。そして、バイデン政権が再生可能エネルギー推進に軸足を戻した点は有意義な変化です。当社でも、再生可能エネルギーを選好するセクターのひとつに位置付けています。

パトリック・トレアス
インフラストラクチャー・デット部門グローバル・ヘッド民主党が適度に優勢な構図から、バランスの取れた刺激対応が期待される
米大統領選挙後の混乱にもかかわらず、バイデン氏が第46代米大統領に就任しました。そして、上院でも民主党が優勢となったことで、米民主党が大統領選と上下両院を制する「ブルーウェーブ」が実現しています。市場への影響に関しては、緩和政策が継続し、追加の財政刺激が打ち出されると予想されます。バイデン新政権の顔ぶれは中道色が濃く、左派はほぼ取り残た格好で、左派が求める一段と野心的な政策が実現することはないでしょう。一方で、連邦準備制度理事会(FRB)で議長を務めたジャネット・イエレン氏が財務長官に就任したことで、財政支援の長期的な継続が示唆されています。
減益とマルチプルの低下という残念な結果で2020年を終えたREIT各社ですが、緩和的な財政・金融政策とワクチン普及を背景とした経済回復のモメンタムによって、今年は優れた絶対パフォーマンスが期待できる一年となるでしょう。

マシューホジキンス
グローバル上場不動産、米州担当ヘッド(シカゴ)ディフェンシブな不動産への選抜的なアロケーション
2020年は、コア不動産にとって不透明感が高まった一年となりましたが、低金利環境が継続する中で、魅力的なリターンを提供する不動産を選好する投資家ニーズは健在です。とはいえ、不透明感が残っており、リスクの管理とプライシングについては、より慎重なアプローチを取る必要があります。投資機会を模索するにあたり注意すべきは、ディフェンシブなキャッシュフローを長期に渡り創出するセクターで、資産を厳選するという事です。
新型コロナ対応や国内経済がその他先進国よりも優れている豪州の不動産市場を、世界の投資家はポジティブに見ています。中でも優れたパフォーマンスを記録しているのは、長期のファンダメンタルズが堅調なロジスティクスですが、価格が高騰しており、エクスポージャーの獲得が困難になっています。選りすぐった小売とオフィスのコア資産とディフェンシブ性を有するオルタナティブなセクターへのエクスポージャーを組み合わせるのも、短期的な不透明感を乗り切る分散戦略として有効です。

カイリー・オーコナー
不動産部門ヘッド(シドニー)上場インフラ企業にとって良好なマクロ環境が整う
一般的に、高レバレッジかつデュレーションが長いインフラ資産は、低金利環境下において優れたパフォーマンスを見せる傾向にあります。これは、金利見通しに対するバリュエーションの感応度が極めて高いためです。平均水準を上回る配当利回りによって長期トータルリターンがサポートされている上場インフラ企業は、低金利環境において特に魅力的な投資先です。足元の低金利環境、そして各国中央銀行がこの低金利を維持するというコミットメントを示している点からも、上場インフラ企業にとって極めて良好なダイナミクスが形成されています。

ジュゼッペ・コロナ
グローバル上場インフラストラクチャー、ヘッド(ロンドン)量的緩和が不動産利回りに与える影響
ここ10年間にわたる量的緩和の直接的な影響は、中央銀行の介入によってイールドカーブが低下し、資金コストが低下したことです。これに対し、不動産が提供する利回りは、その水準、確実性、デュレーションの観点から投資家にとって魅力的な内容となっており、不動産に対する需要が増加した結果、バリュエーションが上昇するとともに利回りの低下を招きました。重要なのは、ベースレートとイールドのスプレッドは、過去と同じ又はこれを上回る水準が維持されていたという点です。新型コロナに対する経済支援策として追加の量的緩和が実施されている事を考えると、同スプレッドは全体的に縮小すると予想されます。
ベースレート以外にも、不動産利回りの決定要因は多々存在します。例えば、市場賃料の水準とその持続可能性といった差別化要因も、利回りの動きやその幅を決定する重要なポイントです。賃料リスクが大きいと考える場合、買い手はその対価としてより高いイールドを求めます。これは、足元において、特に小売セクターで明らかです。
一方、オフィス・セクターは二極化しています。契約が長期かつクオリティの高い都市部の優良物件は、コロナ前と同じ又はそれを若干下回る水準で取引されていますが、リーシングのリスクが出ているセカンダリー市場の物件は買い手がつかない状態です。これは、プライシングを巡り、売り手と買い手の期待値に大きなギャップがあるからです。ロジスティクス市場では、Eコマースの普及拡大を背景に需要が爆発的に増加したことを受けて、イールドはコロナ前の水準を下回るところまで低下しています。

ライアン・ワトソン
グローバル上場不動産、欧州担当ヘッド(ロンドン)新興国市場のインフラ投資がメジャーに
ディスラプションは変化を加速させます。世界を襲った新型コロナウイルス感染を巡っては、米国と欧州が初期対応に誤ったと報道される中で、地政学面で僅かな変化が起きました。市場の相対的な魅力が変化したことで、投資家の視線は世界へと移っています。先進国市場ではインフラ投資のリターンがコモディティ化していることから、AMPキャピタルでは長期に渡り、選抜的に新興国案件の検討を続けてきました。成長過程にある経済は、世界クラスのインフラ整備に向けた資金の調達先として、海外投資家に目を向けています。ラテンアメリカではグリーン調達支援、インドでは投資家フレンドリーな投資ビークルという支援的な政府方針が打ち出されていることを背景に、当社は2020年、ラテンアメリカのeモビリティ・プラットフォームとインドのグリーンエネルギー送電網への投資を実施しました。インフラという資産クラスのグローバル化だけでなく、世界のエネルギー転換をリードする新興国市場の莫大な投資機会を背景に、2021年も投資機会に恵まれた一年になるでしょう。

ボー・パハリ
インフラストラクチャー・エクイティ部門グローバル・ヘッド(ロンドン)新興市場のハイライトは、中国のロジスティクス施設とデータセンター
米国金利は当分の間低水準となる見られ、米ドルが弱含む中、新興国市場への資金流入は堅調さが維持されています。米バイデン新政権がスタートしたことで、中国は従来の慣行に則った形での貿易交渉を再開する事が可能となり、貿易協定の安定化に寄与すると予想されます。2021年も、中国の先進的物流施設とデータセンターに対するポジティブな見方を維持します。ロジスティクス市場の中でも先進的な物流施設に関しては、個人消費の増加を背景としたEコマースの普及やサプライチェーンの近代化が加速する中で、これらアセットに対する需要が拡大し、供給の先細りが見られていることから、バリュエーションが上昇、キャップレートは低下を続けています。データセンターも同様に、クラウドサービスやデータストレージの利用が広まる中で、需要が加速している状況です。パブリッククラウド市場の著しい成長を受けて、中国のデータ生成量は、2018年から2025年にかけて年間平均30%のペースで増加する見通しです1。この様な構造変化は、新型コロナウイルスによって加速しているだけでなく、アフターコロナの世界でも継続すると見込まれます。
1. ゴールドマン・サックス株式調査、「China Data Centres」、2020年4月

ジェシカ・コー
グローバル上場不動産、アジア担当ヘッド(香港)アフターコロナ:バリュエーションのオポチュニティ
空港事業にとって2020年は極めて厳しい一年となりましたが、足元では投資機会が生まれています。この理由の一つに、長年にわたり割高感が出ていた上場空港会社ですが、株価の下落を受けて、一部で相対的な魅力が高まったという点です。第2に、空の旅、特に観光や帰省を目的としたものは、低迷が長期化する可能性は低いと考えるためです。中国がこの良い例で、国内の航空旅行は数か月の間に2019年の水準を上回るところまで回復しています2。また、新型コロナ感染の拡大が続くメキシコでも、国内航空需要は70%程度まで回復しており、100%を超える都市も一部出てきています3。航空会社が危機に直面している事は明らかですが、幾つかの構造的変化が進むと予想され、低コスト基盤(かつ、低運賃)の実現によって成長に回帰する事が可能だと考えています。最後に、コロナ危機を乗り越えることで、空港はより堅固な事業へと成長を遂げると考えられます。空港における顧客体験をより安全でスムーズなものにするためにテクノロジーへの投資を強化し、旅客者第一主義により重点を置いた産業へと復活するために、規制当局や小売事業者との関係を見直すなどの取り組みが行われています。
2. バンク・オブ・アメリカ株式調査、「Nowcast #21: High frequency travel reads across Asia Pacific aviation」、2020年12月
3. グルポ・アエロポルタリオ・デル・パシフィコとボラリス、各社トラフィック量月次レポート

アンディ・ジョーンズ
グローバル上場インフラストラクチャー、ポートフォリオ・マネージャー(ロンドン)コロナからの再興:借り手のニーズに沿ったデットソリューションが回復を支援
世界を突然襲った新型コロナウイルス感染の影響で、昨年大きな打撃を受けた運輸セクターでは、相対バリュエーションの観点から魅力的な投資機会が登場しています。当社では、今年も引き続き、コロナ危機の影響が出ている運輸インフラに対する流動性支援の融資機会を模索しています。デット案件のストラクチャリングとオリジネーションにフォーカスを置くAMPキャピタルは、借り手毎のニーズに合致したローンを組成するだけでなく、投資家がこの先行き不透明な時期を乗り越えるための十分なプロテクションを確保するあたり、優れたポジションにあります。当社が検討を行っているのは空港や鉄道、港湾や有料道路のセクターで、戦略ポジションが強固で競争は限定的、かつ長期レバレッジ水準が健全なインフラ事業への投資です。

エマ・ハイト・チェン
インフラストラクチャー・デット部門パートナー(ロンドン)次回は、リアルアセットにおけるESGに関する運用担当者の見解をご紹介します。
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重要事項
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