経済&マーケット

2021年における米国経済の見通し

By ディアナ・ムシーナ
インベストメント・ストラテジー&ダイナミック・マーケッツ、シニア・エコノミスト 豪州、シドニー

主なポイント

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大規模な財政出動を背景に、米国では今年力強い経済回復が見込まれています。新型コロナウイルス感染による昨年の経済損失は足元の1-3月期で取り戻し、GDPは今年年末までにコロナ前のトレンド水準を回復する見通しです。

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今年年末から来年初期にかけては、財政刺激策を受けた景気過熱が懸念されます。消費者物価見通しは、既にここ複数年の最高水準に達しています。

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とはいえ、事業投資の伸びは出遅れています。

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財政出動によって公的債務はGDPの130%程度と過去最大に達する見通しです。(金利の行き過ぎた上昇など)債務返済が問題に発展する場合には、高い債務水準は見通しのかく乱要因となります(しかし、今のところ問題ではありません)。

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経済と株式市場の動きは、常に足並みが揃っている訳ではありません。米国株式市場では今年もプラスのリターンとなるものの、世界的な成長回帰と相対的なアンダーパフォーマンスを背景に、米国以外の株式市場でより優れたリターンが期待できるでしょう。

経済活動をコロナ前の水準へ

2020年、世界GDPの落ち込みに足並みをそろえる格好で、米国経済は3.5%縮小しました。ユーロ圏や英国、カナダ、日本と比較すると良好なパフォーマンスとなった米国ですが、先進経済国の平均を下回っています。しかし、感染者数が多いにもかかわらず(とはいえ、新規感染者数と入院者数はようやく減少傾向に入っていますが)、2021年はより力強い回復が見込まれています。少なくともGDPの13%に匹敵する大規模な財政刺激を背景に、GDPは今年6.4%の伸びとなり、当社の世界成長見通しである5.5%を上回る勢いとなるでしょう。新型コロナによる経済損失は足元の1-3月期で取り戻し、GDPは今年年末までにコロナ以前のトレンド水準を回復する見通しです。次の図表をご覧ください。

米国GDP水準のシナリオ

これは、米国経済の余剰生産能力が予想以上に速いペースで低下する事を意味し、インフレ上昇圧力が生じる可能性があります。

個人消費の回復は、成長のリバウンドにおける重要な牽引役です。これまでの財政刺激措置は、コロナ禍で失われた個人の収入を補う事に焦点を置いた内容となっています。通常のリセッションと異なるのは、政府給付金によって収入の伸びが維持されている点です。政府支援策が効果を発揮したことで、総所得は12月時点で前年比4.7%のプラス、これら政府支援分を除いた総所得(主に給与所得)は同時点で同0.9%のプラスとなっています。次の図表をご覧ください。

米国の個人可処分所得

そして、追加の経済対策を通じて個人所得は更に増加すると見られます。一方で、労働市場では引き続き回復が見込まれています。これまでのところ、米国では2020年3月から4月にかけた初期ロックダウン局面で失われた雇用の56%が回復していますが、93%近い雇用回復を遂げている豪州と比較すると、米国の回復はまだ低水準と言えます。米国の失業率は昨年4月のピークである14.8%から、今年1月に6.3%まで低下しましたが、コロナ前に63.3%だった労働参加率は61.4%へと大幅に低下しており、落胆した求職者の様子が伺えます。これを加味すると、米国における実際の失業率は9.1%前後となります。この状態が継続するとなれば、失業率は長期的な問題へと発展します。次の図表で示した通り、一時帰休の失業者よりもそれ以外の失業者の割合の方が高くなっています。豪州の労働市場がより優れた状況にあるのは、現金を給付するのではなく、ジョブキーパー(給与補助金)制度を通じて雇用の維持を図った効果によるものです。とはいえ、新型コロナウイルスの感染拡大は豪州よりも米国で深刻な状態にあり、感染の広まりが比較的軽度だった点が豪州経済の回復に寄与しています。

理由別に見る米国の失業者

事業投資の先行き不透明感は、米国の成長見通しにおけるダウンサイド・リスクです。小企業の景況感はコロナ前の水準を下回っているものの、大企業のCEO信頼感はコロナ禍の下げ分を取り戻しています。しかし、大企業は今後リスクに直面することになります。バイデン政権は法人税を21%から28%へと引き上げる計画(とはいえ、25%前後に落ち着くと予想されます)であることから、企業利益に影響が出ると予想されます(しかし、追加の経済措置を背景とした収入増がその影響を相殺する展開も考えられます)。

財政刺激策によって景気が過熱する場合、インフレが予想外に急上昇する可能性があり、これは成長見通しにおいて大きな下方修正リスクになりつつあります。当社の見通しが正しければ、一連の財政刺激によって米国の経済活動は年末までにコロナ前の水準(余剰生産能力はゼロの水準)を回復する見通しで、米連邦準備制度理事会(FRB)はコロナ前より低い金利水準を維持すると見られることから、(年率3%のペースで物価が着実に上昇する)行き過ぎたインフレ高進のリスクが出ています。この兆候は、来年の消費者物価見通しが1月に6年半ぶりの高水準に達している点からも確認できます。短期的に、インフレは過去10年の水準よりも高めで推移すると予想されます。ただし、米国労働市場の回復が出遅れる場合には、インフレの上昇が維持されることはないでしょう。

 

2021年の政策情勢

今年、金融政策は二の次となります。FRBは資産買い入れプログラム(月額800億米ドルの国債および400億米ドルの住宅ローン担保証券)を継続し、政策金利は0-0.25%が維持される見通しです。FRBは長期的に平均2%のインフレを目指す新たな枠組みを導入しており、実質的に2%を超えるオーバーシュートやこれを下回るアンダーシュートを容認する姿勢です。つまり、インフレの行き過ぎた上昇があった場合でも、FRBが直ちに利上げに動くとは限りません。とはいえ、資産買い入れ規模の縮小に向けてFRBに圧力がかかるのは必至で、2023年末までは利上げを行わないというスタンスを見直す必要が出てくるでしょう。

2021年における政策のフォーカスは、財政支出です。手始めとなるのは、今年度中に可決された新型コロナウイルス救済策です。(昨年12月に可決されたGDPの4%相当に匹敵する支援策に続き)バイデン大統領は当初、中低所得世帯に対する1人当たり1,400米ドルの直接給付、州・地方政府に対する財政支援、失業給付上乗せ、ワクチンや医療品の供給支援を含んだ1.9兆米ドル(GDPの9%相当)規模のパッケージを提案、その他として、最低賃金の引き上げや学校向け支援拡大が含まれています。民主党優勢の米議会では、「財政調整措置(リコンシリエーション)」によって法案を可決する事ができます。これは、歳出・歳入・財政赤字の変更に関する法案を迅速に審議するため、上院において単純過半数での可決を可能とするもので、民主党はこれに十分な議席を有しています。ただし、10年という枠の中で支出と同額のコスト削減を行う必要がある(財政収支の悪化をもたらさないことが要件となっている)ため、民主党は財政刺激策を通じた米国経済の強化を想定しているようです。米議会では、財政調整措置に関する条項が含まれた2021年度の予算案が可決しており、この財政調整措置の発動が最優先課題となっています。

2022年度に可決が見込まれている追加の経済支援策は、インフラと環境に注目した投資がメインとなり、企業と富裕層を対象とした増税でこれを補う格好です。実際の投資規模は今のところ不明です。その他の政策として、米中貿易摩擦に関しては中国に対する強固な姿勢が維持されており、民主党は米国企業に対してサプライチェーンにおける国産品の活用を促しています。

 

米国の連邦債務問題

過去に類を見ない規模の財政刺激策が打ち出されたことで、その他多くの先進国と同様に、米国でも連邦債務が膨張しています。財政赤字は今年、対GDP比で17%程度となる見通し(次の図表を参照)で、中期的には同4-5%程度まで縮小すると予想されます。一方、連邦債務残高は同130%程度という過去最高水準で推移する可能性が高くなっています。借入コストが上昇した場合、対GDP比で見た高い債務水準は経済にとっての脆弱性となります。今のところ、10年物国債利回りは1.5%を下回る水準で推移しており、米国経済の名目成長率の中期平均である2-3%を下回っていることから、債務返済は問題ではありません。そして、支援策や資産買い入れ措置がなければ、経済成長は崩壊していたことでしょう。しかし、貯蓄率は高水準が維持されており、行動制限の緩和が進み、ワクチンが普及する中で、極めて大型の追加支援については疑問が残ります。

米国の財政赤字と債務

投資市場への影響

S&P総合500種指数は16%近い伸びを記録するなど、米国株は昨年極めて良好なパフォーマンスを記録しました。今後6-12か月は、堅調な増収、財政刺激、低金利環境という米国株にとってポジティブな環境が整う格好です。しかし今年、相対的なアウトパフォーマーとなるのは米国以外の株式市場となる可能性が高いでしょう。この理由としては、世界成長の回復や米ドル安、昨年対米国株でアンダーパフォームしていた点や金融やエネルギー、素材など、コロナ危機で打撃を受けたテクノロジー以外のセクターが占めるウエイトが相対的に高く、これらはインフレ上昇局面でパフォーマンスに優れるためです。

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