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豪州の住宅価格が再び上昇基調に:見通しを考える上で覚えておきたい7つのポイント

By シェーン・オリバー博士
インベストメント・ストラテジー&エコノミクス担当ヘッド、チーフ・エコノミスト 豪州、シドニー

主なポイント

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超低金利と景気回復の影響が浸透するとともに、豪州における平均住宅価格は今年から来年を通して5-10%程度上昇する見通しです。

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しかしながら、見通しはまちまちとなっています。戸建ては集合住宅ユニットをアウトパフォームすると見られ、中小都市と地方のエリアが追い上げを見せる格好となるでしょう。

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長期に渡り強気相場のけん引役となっている要因は、3-5年後あたりから失速し始める可能性があります。

はじめに

コロナ危機の影響により昨年半ば頃に2.8%程度の下げを記録したものの、豪州主要都市の平均住宅価格は再び上昇基調に入っています。

豪州主要都市の住宅価格は再び上昇へ

簡単にまとめると、過去最低まで低下した住宅ローン金利、政府による住宅購入者に対する複数の支援策や収入支援措置、ロックダウン措置を受けた需要の積み上がり、住宅ローン返済の一時停止、コロナ禍を背景とした都市脱出の動き、FOMO(取り残されることへの恐れ)の再浮上といった要因が、失業率上昇やシドニーとメルボルンにおける賃貸市場の軟化といったマイナスの影響を大きく上回っていることによるものです。つまり、住宅市場はシクリカルな上昇局面に再び突入したということになります。では、今後の展開はどうなるのでしょうか?見通しを考えるにあたり、まず最初に、豪州住宅市場に関する重要なポイントを再確認したいと思います。

 

ポイントその1:まだ割高である

デモグラフィア社の2020年住宅アフォーダビリティ調査によると、住宅価格の年収倍率の中央値は米国で3.6倍、英国で4.5倍、豪州では5.9倍という報告が出ています。シドニーだけを見ると11倍、メルボルンは9.5倍です。

豪州において、住宅価格の年収倍率と賃料倍率はそれぞれ長期平均を上回る水準にあります。豪州と同じく低金利環境下にあるその他のOECD諸国と比較しても、極めて割高だという事が分かります。次の図表をご覧ください。

この年収倍率の大幅な上昇を受けて、家計の所得債務比率はここ30年で5倍増を記録しています。OECD加盟国内で下位にあった豪州ですが、現在は上位に名を連ねる格好となっています。

収入倍率と賃料倍率で見た豪州の住宅は割高である

ポイントその2:住宅価格は、上昇する時もあれば下落する時もある

不動産価格は常に上昇すると誤解されがちですが、そうではありません。シドニーの住宅市場を例に取ると、実質価格(インフレ分を除いた価格)は1934-1935年に36%、1937-1941年に32%、1942-1943年に41%、1947-1948年に12%、1951-1953年に14%、1961-1962年に12%、1974-1977年に22%の下落を記録しています。コアロジック社のデータを基に名目値ベースで見た場合、シドニーの住宅価格は、1980-1983年に25%、1989-1991年に10%、2004-2006年に8%、2008-2009年に7%、2011-2012年に3%、2015-2016年に3%、そして2017-2019年には15%下落しています。

 

ポイントその3:住宅ローン返済負担の増加は、誇張されすぎている

住宅のアフォーダビリティが乏しいのは明確であり、債務水準も高く、一部では住宅ローン返済負担に苦しんでいる世帯があることも明らかです。しかし、多くの世帯は問題なくローンを返済していると見られます。住宅ローン返済の一時停止措置を活用している残高は、昨年5月時点で全体の11%だったのに対し、昨年12月には同2.4%まで低下しています。さらには、住宅ローン金利の低下によって、家計収入に占める利払いの割合が1980年半ば以来の最低水準に達している点も寄与しています。

家計部門の利払いは大幅に減少している

想定外の新たな景気後退がない限り、差し押さえ物件の売却が大幅に増加するとは考えにくいと言えます。この図表、そして住宅購入者向けの政府支援措置を考慮すると、住宅ローンと住宅購入が増加している理由は明らかです。

 

ポイントその4:豪州住宅市場では、1990年代半ば以来ブル相場が継続している

過去100年を振り返ってみましょう。最初の長期的な住宅ブームがスタートしたのは1920年代で、大恐慌そして第2次世界大戦とともに終了しています。その次の活況は、戦後の移民ブームが火付け役となり、1970年代の高金利で終わりを迎えました。直近のブル相場は1990年代半ばにスタートしたもので、融資へのアクセスが改善し、高水準にあった金利が低下した(1980年代後期において17%程度だった住宅ローン金利は現在2-4%)ことで、より高額な住宅の購入が可能となると同時に、慢性的な住宅の供給不足がそのけん引役となってきました。供給不足に関しては、次の図表で確認できます。

住宅建設と人口の伸び

豪州の人口は2005年あたりから爆発的に増加していますが、住宅の供給がこの増加ペースに追い付き始めたのは2015年前後であり、慢性的な住宅不足を引き起こしています。これに加え、低金利と融資アクセスの改善を背景に、割安だった豪州の住宅は割高に転じ、この状態が25年以上に渡り続いている格好です。他国でも、低金利や税優遇措置という同様の条件が揃っていたものの、十分な供給があったため豪州ほど割高にはなっていません。

 

ポイントその5:長期の住宅ブル相場は終わりに近づいている可能性がある

まだ少し先になるかもしれませんが、長期の住宅ブル相場は終わりに近づいている可能性があります。まず最初に、金利は過去最低又はそれ近くまで低下しており、豪州準備銀行(RBA)は極端な手段を用いてインフレを引き上げるしか方法がない状態です。ということは、最終的に金利は上昇に向かう事を意味しています。もう一つは、慢性的な供給不足が解消されつつある点です。これは、2015年からの住宅建設ブーム、コロナ危機による移民の減少や住宅建設に対するインセンティブ措置の影響によるもので、住宅建設は今後12か月にわたり高水準が維持される見通しです。一つ前の図表からも明らかな通り、供給は今年高水準が維持される可能性が高く、激減した人口の伸びが回復するには何年もの月日を要すると考えられます。こういった事から、この先3-5年後には、住宅価格に対する上昇圧力が弱まってくる可能性があります。

 

ポイントその6:「都市脱出」の流れは大きな影響力を持つ

新型コロナの影響で、オフィスワーカーの働き方が大きく変化しています。中でも、在宅勤務を組み合わせた新しいワークスタイルは今後も継続すると見られます。つまり、オフィスへのアクセスを考慮して住む場所を選ぶ必要がなくなり、ライフスタイルを重視する傾向が高まることで、都市部の集合住宅ユニットではなく、郊外や地方の一戸建て住宅に対する需要が増加すると考えられます。

 

ポイントその7:全国の不動産市場には大きな開きがある

一概に「豪州の住宅市場」と言っても、その様相は都市間で大きな乖離があります。この点は、過去10年の動きを見ると明らかです。シドニーとメルボルンでは2017年まで活況さが継続した一方で、資源ブームの終わりとともにパースやダーウィンでは住宅価格が大幅に低下、その他主要都市や地方では緩やかな価格の伸びを記録しています。次の図表をご覧ください。

豪州の住宅価格:その他主要都市がシドニーとメルボルンを追う

足元の状況を見ると、パースとダーウィンでは回復が始まったばかりで、ブリスベンやアデレード、ホバート、キャンベラやその他の地方は、シドニーとメルボルンを追う格好となっています。2017年まで続いたシドニーとメルボルンのブームは移民の大幅増に起因するところが大きく、現在は「都市脱出」の動きを反映し、その他の主要都市や地方都市で人口と住宅価格の伸びが確認されています。

住宅の空室率も都市間で開きが出ています。シドニーとメルボルンでは、集合住宅ユニットの供給増加と移民の激減を背景に空室率が上昇しています。一方で、その他の都市では空室率が低下、賃料や価格に対する上昇圧力を示しています。

空室率も都市間で大きく乖離している

住宅価格の見通し

豪州の住宅価格は、今後2年にわたり上昇を継続する可能性が高いと見られます。これは、住宅ローン金利が過去最低水準まで下がっていることや景気回復を受けたもので、収入支援や住宅ローン返済の一時停止といった政府措置の段階的な縮小による影響は、経済の回復によって相殺されています。住宅融資の規模は過去最高に達し、オークション成約率も住宅価格の力強い伸びと合致した水準となっています。

この結果、住宅価格の主要都市平均は今年から来年にかけて5-10%上昇すると見込まれます。マイホーム初回購入者に対する補助金は減額となる可能性が高いものの、投資家需要の高まりがこれを穴埋めする格好となるでしょう。

とはいえ、見通しはまだら模様です。移民の減少を背景に、シドニーとメルボルンの都市中心部や集合住宅ユニットの価格は伸び悩むと見られます。一方、郊外や中小都市、地方、一戸建てに関しては、移民減少の影響が比較的少なく、「都市脱出」の流れから恩恵を受ける格好で力強い伸びを記録すると見込まれます。アデレード、ブリスベン、パース、ホバート、キャンベラ、ダーウィン、その他の地方エリアにおける住宅価格の伸びは10%前後となる見通しです。

豪州経済が十分な回復を遂げ、RBAが利上げに動くタイミングは早くても2023年頃と予想されます。しかし、住宅市場の過熱感が続き、金融安定性の面で懸念が浮上する場合には、来年にも融資基準の厳格化が図られる可能性があります。この場合、過熱感が徐々に薄れ、やがて金利サイクルが底入れし、不足していた供給が過剰へと転じることで、住宅価格の上昇圧力が弱まると見られますが、これはまだ先の話です。

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