経済&マーケット

RBAは政策金利を当面据え置き、完全雇用はまだ遠い

主なポイント

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豪州準備銀行(RBA)は、4月の会合において政策金利を0.1%で据え置く事を決定しました。

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豪州経済は予想以上のペースで改善しているものの、実際のインフレが2-3%の目標範囲内で持続的に推移し、賃金の伸びが3%を十分に上回るという利上げの条件が揃うのは、数年先となる可能性が高いでしょう。

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とはいえ、RBAは今年年末に向けて、量的緩和プログラムの縮小を始めると予想されます。

はじめに

新型コロナウイルス・パンデミックから打撃を受けた豪州経済を救済するため、RBAが幅広い非伝統的な金融政策を打ち出し始めて1年以上が経過しており、足元では力強い回復が確認されています。通常であれば、RBAは来年に向けて利上げの検討を始めるタイミングにあると考えられるものの、RBAの市場操作の手法は今や、新型コロナ以前のもとから大きく変化しています。

RBAは政策金利を再び据え置き

幅広く予想されていた通り、RBAは4月の会合において政策金利の据え置きを決定しています。世界経済と豪州経済は想定よりも早いペースで回復しているという認識を示す一方で、以下の点を再び強調しています:

  • 実際のインフレが、2-3%の目標範囲内で持続的に推移するまでは、政策金利を0.1%で維持します。
  • これを達成するに十分な、雇用市場のひっ迫化や力強い賃金の伸びが確認できるのは、早くて2024年となる見通しです。
  • 3年物国債利回りの目標は0.1%を維持します。
  • 必要に応じて、追加的な国債買い入れを実施する用意があります。

幸いなことに、債券市場が安定を取り戻し、豪ドルの上昇が減速したことで、RBAに対する圧力が和らいだ格好です。

力強い回復

新型コロナの影響を引き続き受けている旅行関連やビジネス街のサービス事業を中心に、回復に出遅れているセクターが一部存在するものの、これらの消費活動はその他セクターへと流れており(例:ビジネス街のカフェから郊外のカフェ、旅行関連は日用品へ)、様々な指標からも確認できる通り、豪州経済全体の回復は想定を超えるペースで進行しています:

  • 豪州GDPは、12月時点で新型コロナ以前の水準を1.1%下回るレベルまで回復しており、-7.3%という下げ分の85%を取り戻しています。
  • 当社が独自に取りまとめている豪州の経済活動トラッカーは、1年前を大きく上回る水準で推移しており、GDPが新型コロナ以前の水準を上回っている事が示唆されています。
  • 雇用に関しては、ロックダウン期間で失われた雇用の99.8%を取り戻しています。ジョブキーパー(給与補助金)制度の終了に伴った失業率の上昇が見られるかもしれませんが、労働時間がゼロや大幅短縮となっている被雇用者の数は大幅に減少しており、求人件数も1年前の水準を大きく上回るレベルで推移していることから、上昇幅は小さいものとなる可能性が高いでしょう。

スピード感のある豪州経済の回復は、経済再開、政府支援策、需要の積み上がりを反映したものです。

これに加え、昨年のデフレ分は今年のインフレ率の計測には含まれないことや、商品や原油価格の上昇、商品サプライチェーンの目詰まりの影響、豪州で発生した洪水の影響による青果価格の上昇を背景に、総合インフレは当四半期に年率4%近くまで上昇する可能性が高まっています。

RBAが慎重でハト派姿勢を維持する理由

RBAがハト派的姿勢を維持する理由は、複数存在します:

  • まず最初に、新型コロナ感染の抑制・防止が回復を左右する状況が続いています。
  • 第2に、ロウRBA総裁が先日言及した事業投資など、豪州経済の一部では回復が遅れています。
  • 最後に、より根本的な観点から言えば、豪州経済がフル稼働になるのはまだ当分先とみられます。

重要なのは最後のポイントです。賃金成長の大きな伸びによってインフレ見通しの上昇が確実にならない限り、保育関連の問題やガソリン価格の低下、商品供給の拡大、消費者需要が再びサービスに向かうとともに、今年における総合インフレ率の伸びは一時的なものにとどまる可能性が高いためです。生産性の伸びが年率1%程度だと仮定すると、2-3%の目標レンジ内でのインフレの持続的な推移と足並みを合わせるには、賃金は少なくとも年率3.5%のペースで成長する必要があります。未活用労働(失業率+不完全雇用)率は昨年の高水準から14.4%まで低下したとはいえ、2014年以降におけるレンジの高い位置にあり、賃金の伸びは年率2%程度から上昇することができずにいます。これは、インフレが目標水準を下回っている最大の理由です。現在前年比1.4%の賃金成長を3.5%以上へと引き上げるためには、恐らく未活用労働率を10%近辺まで低下させる必要があり、これを達成するには、失業率は4%未満、不完全雇用率は6%程度まで引き下げなければなりません。

足元の失業率は5.8%、不完全雇用率は8.5%ですから、まだ相当高い水準です。したがって、RBAが慎重なハト派的姿勢を維持しているのも当然です。豪州のインフレ率は2015年辺りから目標レンジである2-3%を下回っており、賃金の伸びも2012年以来目標達成には不十分な水準で推移しています。2010年代半ば以降、RBA(そしてエコノミストも同様に)のインフレ見通しは慢性的に楽観的過ぎる内容となっており、定期的に言及される利上げ開始についても同様の事が言えます。

RBAにとっての脅威は、完全雇用と3.5%の賃金成長を達成する前に金融政策の引き締めを開始することで、インフレが平均して目標レンジの2-3%に達しないというシナリオです。そして、この状況が長期化するほど、目標達成のハードルは高くなります。

つまり、世界金融危機(GFC)から得た教訓を踏まえ、RBAは(米連邦準備理事会(FRB)と同様に)インフレ予想に注目するのではなく、実際のインフレ率が目標レンジで持続的に推移することにフォーカスし、これを達成するために必要な労働市場の改善に重点を置くアプローチへと舵を切ったのです。予想ではなく実際のインフレ率に注目するということは、利上げ開始時期は必然的に遅れることとなり、インフレ期待が高まる余裕ができるため、賃金の伸びはより大幅なものとなり、インフレ率を目標レンジ内へと引き上げる助けとなります。

インフレ目標を引き下げない理由

簡単に言ってしまえば、インフレ目標を引き下げるなんて、とんでもない話です。なぜなら、目標が達成されない度に目標を動かしていては、信頼性が失われてしまいます。また、統計上のインフレ率は実際よりも高くなる傾向にあり、目標が低すぎるとデフレに突入するリスクがあります。賃金の低下や失業率の上昇、資産価格の低下、実質債務負担の増加を伴うデフレは、良いことではありません。そして、ここで求められているのはインフレ目標の達成だけでなく、完全雇用と十分な賃金成長の達成でもあります。不完全雇用率が高く、十分な賃金の伸びが得られないことは、社会面においても望ましい状況ではなく、不平等や不満など社会的緊張の高まりをもたらすからです。

RBAのアプローチにおけるリスク

主なリスクは2つあります:

  • 1つ目は、超低金利環境の長期化を背景とした資産価格の高騰と債務超過に伴う金融不安です。最も懸念されるのは住宅市場です。2017年以降の経験からは、利上げが不可能な局面では貸出条件を厳格化することで一部対応することが可能だということが示唆されています。RBAと豪州健全性規制庁(APRA)は状況を注視しているものの、貸出条件の厳格化に乗り出すほど懸念はしていないようです。過去を振り返ると、足元で確認されているような住宅価格の上昇局面において、貸出条件は常に緩和されることが分かっていますから、早期に貸出条件の厳格化に踏み出すのは理にかなった行動です。
  • 2つ目は、行き過ぎたインフレです。インフレ率の押し上げを狙ったRBAの超積極的なアプローチには、今後3-5年という中期でインフレがオーバーシュートするリスクがあります。

RBA金融政策の見通し

豪州経済の回復ペースを考慮すると、利上げ開始時期は「早くても2024年」というRBAのコメントよりも前倒しとなる可能性も十分にあることから、当社では2023年終盤というタイミングも考慮に入れています。とはいえ、これは当分先の話です。注目すべきは、失業率が4%近くまで低下してくるか、そして賃金の伸びが3%を超えてくるのかという点です。

しかしながら、豪州経済が予想通りまたはそれ以上のペースで回復を続けた場合には、その他の金融支援策の一部を今年中に縮小または終了させるのが適切でしょう:

  • ターム・ファンディング・ファシリティ(TFF)を通じた銀行向けの低金利融資は6月に終了となる予定です。資金供給が正常に機能していることからも、これは適切な展開です。
  • 利回り0.1%の目標を2024年4月満期の債券の設定のまま維持するか、2024年11月満期へと移行するかについては、2024年4月満期の債券の設定を維持し、満期が近づくにつれて「時間的価値が低下」するのを待つ方が理にかなっています。
  • 商品価格の動向に沿わない大幅な豪ドルの上昇がなく、他国の中央銀行も量的緩和の縮小を始める場合には、9月から長期債の購入規模を縮小(1週間当たり50億豪ドル程度から例えば25億豪ドル程度まで)する可能性も高いと言えます。

投資家への影響

RBAによる対応スピードが減速することで考えられる投資家への影響はいくつかあります。

  • 第1に、超低金利環境は今後も数年に渡って継続する可能性が高いことから、銀行預金は金利が極めて低い状態が続きます。
  • 第2に、低金利環境の長期化によって利回り追求の動きがある程度継続することを意味しており、比較的高い持続可能な利回りを提供する資産のサポート役となるでしょう。ここで注目されるのは、配当の急速な回復を受けて今後12か月で総配当利回りが5.2%に達すると見られる豪州株です。
  • 第3に、変動金利も低水準が継続することで、長期にわたり住宅市場をサポートすると見られます。しかし、長期債利回りの上昇を背景に、住宅ローンの4年固定金利はじりじりと上昇を見せ始めています。これと低調な人口成長が相まって、2021年から2022年にかけて住宅市場では過熱感が一部冷め始めるでしょう。
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