インフラストラクチャー

エネルギー・インフラの新時代

By ジョセフ・ティトマス
グローバル上場インフラストラクチャー、ポートフォリオ・マネージャー/アナリスト 豪州、シドニー

化石燃料から排出ゼロの再生可能エネルギーへと、大規模なエネルギー移行が進行しています。インフラ投資家が、この歴史的な転換局面で上手く舵を取るためには、政策環境だけでなく、牽引役となる供給と需要を理解する事が重要となります。

噴出時代とも呼ばれる石油ブームの始まりは、1901年1月10日、米テキサス州スピンドルトップにおける油田の発見です。勢いよく吹き出す原油の高さは45メートルを超え、1日当たり10万バレル相当の量があふれ出しました。この噴出を制御するまでに、1週間以上の時間がかかったそうです。

原油の発見は、人類の歴史を大きく変えることになります。突如現れた石油という安価な燃料を中心に、世界経済は発達していきます。

今日、米国は新たな歴史的変化を目の前にしています。世界は今、化石燃料から、風力や太陽光、水力といったクリーンな再生可能エネルギーへと大きく転換しています。

これはエネルギー大転換と呼ばれており、エネルギー産業の基盤、そしてグローバル経済そのものを大きく変えるものです。投資の観点から言えば、エネルギー大転換は莫大かつ様々なオポチュニティを秘めています。

私たちの社会や経済の基盤であるインフラは、新しい政策や規制、サプライチェーンの変化、消費者の嗜好や需要の移り変わりなど、このエネルギー大転換がもたらす変化への対応という課題に直面することになります。

 

エネルギー大転換

エネルギー大転換とは、世界のエネルギーシステムを化石燃料から排出ゼロのエネルギー源へと移行するにあたり必要な多くの変化を指します。

排出ゼロの未来を実現するにあたっては、供給、需要、規制といった産業全体が変化しなければなりません。これは大規模な取り組みです。

化石燃料が主要なエネルギー源である理由は、安価で豊富だからです。米国の歴史を振り返ると、化石燃料産業が打撃を受けた局面は2つ、1990年代初期における水力発電の登場と、1960年代の原子力の開発です。

近年では、税控除や州レベルでの再生可能エネルギー目標といった米国政府の方針が、再生可能エネルギーの足掛かりとなっています。テクノロジーの進展とともに、再生可能エネルギーの価格競争力も、化石燃料との差を縮めてきています。

風力発電と太陽光発電の価格競争力はすでに、補助金なしでも従来の発電技術と同等になっています。米国経済支援策の必要性もあることから、政策担当者はグリーン投資を活用した経済成長の促進に注目しています。

この様に、世界の国々、米国の場合であれば一部の州では、CO2排出ゼロ目標の設定に取り組み始めています。

このように、エネルギー大転換は進行しています。

 

エネルギー需要

転換ペースの鍵を握るのは、エネルギー需要の進化とその性質です。長期にわたり市場の特徴となってきたのはエネルギーの効率利用であり、コストと環境への影響の両面で、その恩恵が大きくなるとともに、効率利用の重要性はさらに高まります。

そして、市場の柔軟性が高まるにつれ、エネルギー利用者はよりクリーンかつ安価の電力への乗り換えが容易となるほか、自家発電も可能となります。

異なるトレンドが、異なる消費者層に影響を及ぼしています。

米国で最もエネルギー消費量が多く、化石燃料に対する依存度が最も高いセクターは、運輸です。北米の自動車両登録台数3.6億台のうち、EVはわずか200万台にすぎませんが、この数は急速に拡大しています1

EVの幅広い普及に際して鍵となるのは、ガソリンやディーゼル車と同等の価格設定であり、これはまだ数年先と見られています。したがって、需要のけん引役として、政策が重要となります。

厄介な課題の一つが道路整備の資金で、ガソリン税が財源となっています。EV充電設備の整備も、なくてはならないものです。

もう一つ、電力消費量が多いセクターは建物です。同セクターは、比較的規模は小さいものの、多様な電力利用者を多数有しており、規制環境もそれぞれ異なっています。同セクターでも、より環境に優しいエネルギー消費に向けた取り組みが行われています。

北米では、建物における電力需要の2/3を冷暖房が占めており、供給源の選択において重要な検討事項となっています2。暖房に関しては、涼しい気候の地域では特に、電力よりガスの方が効率が良いと言われています。

インターネットと接続されたメーターや温度調節器など、スマート技術の登場により、価格や利用量に対する利用者の認識が高まったことで、需要も影響を受けています。

これらの新しいテクノロジーは、需要側での管理を可能とするものです。消費者は利用量をコントロールすることで恩恵を受けるため、ピーク時の需要抑制に寄与します。

建物セクターとは対照的に、産業部門における電力消費の特徴は、その数は少ないものの、異なるニーズを持った大規模な電力利用者が存在し、供給会社と直接的なリレーションシップを有するケースが多くなっています。

産業部門でも、グリーンエネルギーを選好する動きが加速しており、より長期のPPA(電力購入契約)を通じたリニューアブル電力の利用が増加しています。

 

エネルギー供給

供給側の視点から見ると、政策支援を背景としたテクノロジーの進化が意味するのは、化石燃料に代わり再生可能エネルギーの成長が続くという事です。

商品やサービスの原材料という点で経済に根付いている石油は、エネルギーミックスにおいて今後長期にわたり重要な役割を担うことになり、米国はいまだ大規模な石油資源を有しています。

これと同様に、米国で豊富かつ安価なガスも、再生可能エネルギーをサポートする柔軟性に優れたエネルギー源という役割を中心に、熱源や前述した理由の観点からも、エネルギー移行において欠かせないプレイヤーのひとつです。

しかし、石炭火力発電所に関しては、リニューアブルの経済性が改善する中で、閉鎖の流れが継続する見通しです。そして、再生可能ディーゼル燃料や再生可能天然ガスといったより環境に優しい人工燃料が最終的に導入される局面では、これらエネルギー源の経済性を助ける補助金制度の継続が必要不可欠となります。

一方で、再生可能エネルギーや排出ゼロのエネルギー技術のモメンタムはさらに加速すると見られます。風力や太陽光については、その安定供給が懸念点であるとはいえ、技術の進化を背景にエネルギーミックスに占める割合が拡大しています。

屋上ソーラー発電も増加しており、太陽光総発電量の1/3を占めています。米国で設置されている270万件のソーラー設備のうち半分以上は南西部に集中していますが、北部や大陸全体へと浸透しつつあります3。パネルや蓄電技術の進化が同セクターの追い風となるでしょう。

その結果はまちまちとはいえ、大型蓄電システムでも、持続時間が短いものを中心にモメンタムが強まっています。現在は揚水式水力電力貯蔵のみしか有効でないのが実状で、持続時間の長い大型蓄電システムに対するフォーカスが高まると見られます。

CO2回収・貯留(CCS)のポテンシャルは極めて大きいものの、まだ規模の経済性が十分ではありません。同技術の大躍進はエネルギー移行のカタリストとなるもので、研究開発やテストプロジェクトの焦点となっています。

そして、エネルギー大転換において中心的な役割を担うと期待されているのが、水素です。

水素は、再生可能エネルギーから製造することが可能であり、その貯蔵と輸送が容易である点が特徴です。

また、水素を使った発電から排出されるのは水のみという、クリーンなエネルギー源です。

米国やカナダでは、既に生産加工プロセスで使用されている水素ですが、蓄電や発電の試験的なプロジェクトが立ち上がっています。水素の商業利用が拡大するとともに、大規模な需要が生まれることになります。

原子力はCO2排出ゼロのエネルギー源で、ベースロード電力を安定的に提供してくれるため、重要な電源のひとつである事に変わりありません。

エネルギー大転換では重要な役割を担うことになるものの、原子力発電所の開発には極めて多額の費用を要するため、供給源としては今後縮小する可能性が高くなっています。

インフラへの影響

それでは、インフラ投資家への影響を考えてみましょう。

供給と需要を結ぶインフラの存在がなくては、エネルギー大転換は不可能です。

エネルギー・インフラは、ここ100年以上にわたって大きく変化してきましたが、最も重要なのは今回のエネルギー大転換といえるでしょう。

変化のけん引役となっているのは、新しい技術と目まぐるしく進化する消費者の嗜好です。一方で、規制当局は、対応の焦りに潜む危険を実感させられる局面にしばしば遭遇します。2020年におけるカリフォルニア州で実施された計画停電や、今年2月に発生したテキサス州電力危機は、安定供給の必要性を強調するものです4

規制当局には、既存アセットの座礁資産化を防ぎながら、新規投資に必要な資金を確保するという巧なバランスの維持が求められます。

AMPキャピタルにおけるグローバル上場インフラストラクチャー・チームでは、北米のエネルギー移行に関連する投資機会として、次の5つを主要分野として考えています:

1. ますます戦略的になる石油・ガスのパイプライン

化石燃料は今後数10年にわたって重要な供給源となるため、この需要と供給をつなぐパイプラインは、引き続き重要な役割を果たすことになります。

その価値は市場毎に異なるものの、新規パイプライン開発の承認獲得が困難であることを考えると、既存パイプラインの一部は、その分価値が高まることになります。

2. 既存インフラの再活用

インフラ資産の中には、水素や炭素の輸送、貯蔵用として再活用できるものが一部存在します。パイプラインや貯蔵施設は異なるコモディティ資源に対応できるものへと作り替える事ができますが、転換コストが障壁となる可能性があります。

カナダでは、精製所や工業プロセス、発電所から排出されるCO2の貯蔵において、枯渇した油田や帯水層を活用しています。これに関連する輸送インフラも、成長分野の一つであることが分かっています。

3. 再生可能エネルギーの送電網

海上・陸上の風力や太陽光発電所は、需要の中心地から遠いエリアに位置しているケースが多いことからも、再生可能エネルギーの送電網は、大きな需要ドライバーとなっています。

つまり、これら発電所を結ぶため、送電網の拡張に対する需要が生まれています。

これらの投資機会は、今後長期にわたり継続する可能性が高いと見られています。

これと同様に、発電ミックスの変化や供給ロケーションの多様化を背景に、新たな電力の流入にも対応できる電力網へと、その適性改善に向けた投資が必要となっています。

4. EV充電と配電ネットワーク

EVの普及を受けて、充電インフラという新たなニーズが生まれています。

政策担当者は、環境面そして経済面におけるEVのポテンシャルを認識する一方で、電欠により路上でストップしてしまうという現実的な不安を抱えています。また、EVが市場シェアを拡大するためにも、充電インフラは欠かせないものです。

充電ステーション開発のコストは誰が負担するのかについて、コンセンサスは存在せず、政府、エネルギー・公益企業、民間企業といったアイデアに対する賛否両論が飛び交っています。

充電設備に関する基準も設けられていないため、自身のEVに対応した充電ステーションをドライバー自身で探す必要があります。

米国において、2040年までのEV普及拡大に必要な充電ステーションのうち、現在稼働中のものは僅か4%であると推定されていますので、同分野には相当規模の投資オポチュニティがあると考えられます5

5. ガス配給網の未来

米国の暖房用として、ガスは最も安く、石油などと比較してもクリーンなエネルギー源です。

しかし、一部の都市では、新しく開発されるビルでのガス利用を禁止するなど、ガス産業の成長性に不透明感をもたらしています。

とはいえ、電力を使った暖房の経済性が低い点には変わりなく、中期的にも、経済性の改善は見込めません。

ガス配給網の投資プログラムは、劣化で亀裂の入ったパイプの修復、安全性の改善、メタン排出の削減など、相当な規模に達します。

ガスインフラは、最終的に、再生可能資源から製造される再生可能天然ガスや水素向けのものが主流となっていく可能性があります。

In Focus:米国

バイデン米大統領は、野心的な気候変動政策を数多く提案しています。これら法案はまだ成立しておらず、詳細も大きくは明らかになっていないものの、最も重要なプロジェクトには次が含まれます:

  • パリ協定への復帰
  • 2050年までに、実質排出量をゼロ、100%クリーン・エネルギー経済を達成
  • 10年間で1.7兆米ドル規模の気候や環境関連投資を実施(州政府や地方自治体、民間セクター分を合わせると総額5兆米ドル)
  • クリーンエネルギー分野において、10年間で4,000億米ドル規模のイノベーション投資
  • 小型・中型自動車の新規販売を100%排出ゼロ車とし、大型車の新規販売では排出ゼロ車を拡大
  • 2030年までに50万件のEV充電ステーションを新設
  • 2035年までに建物のカーボンフットプリント50%削減
  • 積極的なメタン排出削減目標
  • 農業セクターの排出ネットゼロを世界で最初に達成
  • 雇用1,000万件の新規創出
  • 社会全体における環境正義の改善

 

1. https://www.statista.com/statistics/183505/number-of-vehicles-in-the-united-states-since-1990/#:~:text=How%20many%20registered%20motor%20vehicles,12%20million%20units%20in%202019
2. ブルームバーグ・ニュー・エナジー・ファイナンス(BNEF)
3. 太陽エネルギー産業協会(SEIA)
4. https://www.forbes.com/sites/davidblackmon/2021/03/17/texas-power-blackouts-last-standing-puc-commissioner-resignsamid-controversy/?sh=47c889415581
5. モルガン・スタンレー、Utilities: The Unintended Bottleneck to Mass EV Penetration?

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