経済&マーケット

豪州の住宅市場:長年にわたる活況が終わりに近づいている3つの理由

By シェーン・オリバー博士
インベストメント・ストラテジー&エコノミクス担当ヘッド、チーフ・エコノミスト 豪州、シドニー

主なポイント

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豪州の住宅価格はシクリカルな上昇基調にあり、来年も上昇を続ける見通しです。

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しかし、1990年半ば以来トレンド水準を上回る活況が継続している住宅市場ですが、長期にわたる金利の低下が底入れし、住宅供給が不足から過剰に転じるとともに、都心部の住宅価格に対する上昇圧力が都市脱出の流れによって緩和されることで、これまでの上昇トレンドが終了に近づいている可能性があります。

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少なくとも、豪州主要都市の平均住宅価格の押し上げ圧力は、今後10年で緩和されると考えられます。

はじめに

豪州の住宅市場は活況ぶりを呈しています。価格は急騰しており、オークション成約率は堅調、販売戸数も急増、住宅ローンも過去最高水準に達しています。この流れの牽引役となっているのは、住宅ローン金利が過去最低水準にある点や、経済と雇用市場の回復、需要の積み上がり、都市脱出の流れに伴った取引、FOMO(取り残されることへの恐れ)感です。今年15%、来年20%という住宅価格の成長見通しは、今やコンセンサスとなっています。乏しいアフォーダビリティと高い債務水準にもかかわらず、住宅市場は再びシクリカルな上昇局面に再び突入しています。このレポートでは、足元の上昇基調を、豪州住宅市場の長期トレンドという観点から検証します。

 

豪州住宅価格のメガバブルとその崩壊

次の図表では、1926年を100として指数化した豪州における(平均住宅価格から消費者物価上昇分を除いた)実質住宅価格(赤線)とその長期トレンド(青線)を示しています。

豪州の住宅価格とその長期トレンド

過去100年にわたり、実質住宅価格は年間平均3%の成長を記録しており、これは実質GDP成長の長期平均(長期インカム成長の大まかな指標)と合致しています。住宅価格は数多くの短期サイクルを繰り返しますが、前述した図表がそうであるように、年次データからはこの様子がはっきりと確認できません。より大きな視点から見ると、豪州の住宅価格はここ100年で、大きな長期バブル3回(緑線)とその崩壊2回を経験していることが分かります。

  • 最初の長期バブルは1920年代、第一次世界大戦(WW1)後の堅調な経済情勢と人口の伸びを背景としたもので、1930年代初期まで継続しました。次の図表の円枠部分をご覧ください。
  • その後、世界恐慌や第二次世界大戦(WW2)の始まり、移民や自然人口の成長が大幅に低下したことから、住宅価格は急落、実質価格が底入れしたのは1943年です。もしかすると、1942年に日本の特殊潜航艇によるシドニー港攻撃を受けて、多くの人々がシドニー東部郊外の家を売り払って、サザン・ハイランズへ引っ越したためかもしれません。
豪州の人口成長
  • 2つ目の長期バブルはWW2後に始まり、極めて力強い経済と人口の伸び(上記図表における中央の円枠)に支えられ、1970年代初期まで続きます。長期トレンドを50%下回っていた実質住宅価格は、1973年までにそれを50%上回る水準に達しています。
  • その後、当時の景気低迷、人口成長の減速、1980年代の金利上昇を背景に、1970年代半ばで住宅ブームは終焉を迎えます。最初のバブル崩壊と異なる点は、時折、堅調な局面(例:1987年の株価暴落後、1988-89年にかけて)が見られたものの、実質住宅価格がボックス圏で乱高下した点です。しかし、20年を超える激しい動きにより、1990年代半ばまでに、実質住宅価格は長期トレンドを20%下回る水準まで低下しました。当時は、豪州不動産投資を開始する最良のタイミングだったと言えます。
  • これが1990年代後半にスタートした足元の長期ブームの土台を形成することとなり、長期トレンドを下回っていた実質住宅価格は、それを大きく(コンセンサス予想では来年半ばまでに15%、最初の図表を参照)上回る水準へと推移します。

現在の長期ブームの火付け役は金利の低下で、住宅ローン金利は1990年代初めの17%程度から、足元では2%未満まで低下しています。1990年代前半は、リセッションや利上げ再開に対する懸念が足枷となったものの、後半には金利低下のトレンドが確立されました。これと同時に、金融自由化や住宅ローン市場の競争激化を背景に、ローンの借り入れが容易に可能となっただけでなく、共働き世帯が増加したことからも、住宅購入者はより多額の借り入れ、そして高額な住宅購入が可能となりました。そして、住宅価格と家計債務が膨張していきます。

住宅価格は1998-2004年で年率11%の伸びを記録しています。この様な住宅価格の高騰は、通常であれば供給の大幅な増加をもたらし、住宅価格は再び低下するのですが、潜在需要の大幅な拡大を受けて、2000年代半ば以来、住宅は供給不足の状態にありました。次の図表をご覧ください。

住宅建設 vs 人口成長

豪州の人口は2005年あたりから急増しています。1996-2005年にかけて215,000人だった年間の人口成長平均は、2006-2019年にかけて370,000人まで拡大しており、概算すると追加の住宅需要は年間当たり5万戸程度だったことになりますが、供給がやっと追いついたのは2015年で、住宅不足が慢性化していました。

このような要因を背景として、1990年代半ば割安だった豪州住宅市場は2000年代初期に割高へと転じ、現在に至っています。税金の優遇措置や海外投資家需要が影響した局面もあったと考えられますが、最大の牽引役は低金利、そして需要の高い地域(大都市)における供給不足です。他国でも、低金利や税優遇という同様の条件が揃っていたものの、需給バランスがより上手く維持されていたことから、住宅アフォーダビリティの著しい低下は見られませんでした。デモグラフィア・ハウジング・アフォーダビリティ調査によると、豪州の住宅価格中央値は年収中央値の約6倍であるのに対し、米国は同3.6倍、英国は同4.5倍、シドニーとメルボルンに関しては約10倍となっています。

 

長期ブームは終わりに近づく

当社では、2022年年末までに住宅価格が更に15%の伸びを記録すると予想しています。とはいえ、アフォーダビリティの低下、貸出基準が厳格化される見通しであることから、そのペースは減速すると見られます。長期にわたって続いてきた豪州住宅ブームが終わりに近いと考えられる理由は、幾つか存在します。直近2回の長期ブームは恐慌とスタグフレーションが引き金となり終わりを迎えましたが、今回はその様な展開にはなりません。そして、住宅価格の暴落があるとも限りません。今後複数年をかけて緩やかに幕を閉じると考えられる理由は3つあります:

  • まず最初に、1980年代初期にスタートした長期にわたる金利の低下は、債券利回りそして住宅ローン金利の低下につながり、1990年代に金利は底を打ったか、それ間近のように見えました。現在、豪州準備銀行(RBA)やその他中央銀行は、インフレの引き上げに向けて、より過激な手段を使わざるを得なくなっており、ここ40年でインフレを押し下げてきたグローバル化や規制緩和といった構造的要因は、すでに息絶えた模様です。インフレが底入れ間際であるとすれば、金利も底入れするはずで、新たな景気後退局面が住宅ローン金利の更なる低下や債務水準の上昇、ひいては住宅アフォーダビリティの悪化をもたらすスーパーサイクルは、終わりに向かうと見られます。
  • 2つ目のポイントは、2015年からの住宅建設ブーム、移民の減少、住宅建設インセンティブが功を奏し、慢性的な供給不足が緩和され始めている模様で、少なくとも今後12か月の間は、住宅建設の好調が続くでしょう。ひとつ前の図表からも明らかなとおり、今年から来年にかけて力強い供給が維持される見通しであるのに対し、人口の伸びは大幅に低下しており、ここ10年程度の供給不足は供給過剰に転じることが示唆されています。この点については、人口成長に基づく住宅の潜在需要見通し(青線)と住宅ストック数と新築住宅完工件数の比較(赤線)を示した次の図表でも確認できます。緑線で示した累積住宅ストックのバランスからは、潜在需要は2006年から大きく拡大し、2013年までに供給不足は20万戸を超える水準に達しています。人口成長が崩壊したことで住宅の供給不足は解消したとみられ、政府が予想する通り、人口の伸びが今後2年間低調となり、住宅建設の活発さが維持されるとすれば、明らかな供給過剰に転じる事になります。これは、新規住宅購入者や賃貸派にとっての住宅アフォーダビリティが健全となることを意味します。
住宅建設と潜在需要
  • 最後に、コロナ危機でオフィス勤務のスタイルが大きく変化しました。週5日まではいかなくとも、在宅勤務(WFH)のトレンドは今後も継続する可能性が高く、職場へのアクセスが良いロケーションに住む必要性が減り、ライフスタイルに対する関心が高まることで、都心から離れた郊外やより小さな都市、地方など、よりアフォーダビリティに優れたエリアの需要が高まることが予想されます。また、コロナ前よりも在宅勤務が増加することで、CBDのオフィススペースを住居用に変えるといった用途変更が増加すると見られ、これも供給増加につながります。

 

最後に

ここ20年にわたり、幾度となくアップサイドのサプライズを生んできた豪州の住宅市場ですが、金利のさらなる引き下げ(マイナス金利を予想する人はいますか?)、国境再開に伴って人口成長が予想を上回るペースで回復、新型コロナの終焉とともにライフスタイルを忘れて仕事重視の生活に戻るといったシナリオでは、再びサプライズを見せる可能性もあるでしょう。とはいえ、過去20年の間、豪州主要都市の平均住宅価格をトレンドを大きく上回る水準へと押し上げ、住宅アフォーダビリティを大きく悪化させてきた要因には終止符が打たれた模様です。もちろん、6年間のベア相場からやっと抜け出したパースやダーウィンは例外です。

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