主なポイント
株式市場はしばしば経済回復を先行します。
株式市場では、成長株からバリュー株へと選好がシフトする可能性が高く、豪州やその他米国以外の株式にとってプラスです。
ワクチンについて、市場の織り込み具合は一部のみです。
米ドルは更に下落する可能性が高く、豪ドルは今後6-12ヶ月で1米ドル0.80豪ドルまで上昇することも考えられます。
はじめに
先日開催したウェビナーでは見通しに関する質問を多数頂きましたが、時間の関係で全て回答する事ができなかっため、同レポートでは主要な質問をQ&A形式で解説します。
市場は実質経済から乖離しているのか?
必ずしもそうではありません。市場は常に景気サイクルを先行します。新型コロナウイルスによる世界経済への打撃に先行し、株式市場は3月かけて35%の下落を記録しました。その後の回復は、経済への影響を軽減するための政府措置や、超低金利によって株価が割安となったこと、新規感染者数の減速、治療やワクチン開発に関する朗報、経済指標の改善(例:米国GDPは今四半期7%程度の回復が見込まれています)を反映したものです。つまり、市場はこの先改善を見込んでおり、最終的な政府支援策の終了にも耐えることができると予想しています。
米国株は過去最高値で推移していますが、今後も上昇を続けるのか?それとも大幅下落となるのか?
当社のベースケースでは、約7割の確率で来月頃に短期的な下げを見込んでいます。その後、相対的に割高なテクノロジーやヘルスケア関連株など米国株離れが進み、シクリカルな米国以外の株式へとローテーションが進行するとともに、6-12ヶ月に渡って上昇トレンドが継続すると予想しています。
一方リスクケースとしては、今後数ヶ月の間に、景気後退の再加速や米国大統領選挙、中国摩擦、インフレや債券利回りの予想外の上昇といったニュースが引き金となり、相対的に割高なテクノロジー株を中心に株価が大幅下落するシナリオで、その確率は3割と予想しています。
(株価は時間と共に上昇するため)市場はしばしば過去最高値を更新しており、過去最高水準=下落が間近に迫っている、とは必ずしも言えません。
テクノロジー/グロース株は急降下するのか?
コロナショックを受けて、フェイスブックやアップル、アマゾン、マイクロソフト、ネットフリックス、グーグルを中心としたメガキャップのテック株、そしてヘルスケア関連株が更に値上がりしています。テクノロジー企業が多く上場しているナスダックは、年初来で30%超、過去12ヶ月では50%超の上昇を記録しています。コロナ危機を背景とした需要の高まりから恩恵を受けているのはテック株だけではなく、グロース株における長期の収益源も低金利環境からプラスの影響を受けています。この様相は1999/2000年のITバブル時とは異なっています。その当時と比較すると、ナスダックの予想PERは足元で32倍と大幅に低く、テクノロジー・セクターは実際に収益を実現しており、株価はITバブル時の様に割高ではありません。とはいえ、今後12ヶ月程度でテクノロジーや成長株がアンダーパフォームすると考えられる理由が幾つかあります。それは、株価が相対的に割高で、金利にはこれ以上下がる余地は少なく、テック株は規制強化に敏感である点や米中摩擦といった要因です。世界経済の成長回帰から恩恵を受けるのは、シクリカル/バリュー株となるでしょう。
豪州株式は引き続きグローバル株式に追随するのか?
可能性は低いと言えます。近年において豪州株式がグローバル株式をアンダーパフォームしている主な理由は、米国株の力強いアウトパフォーマンスです。米国株式は、今年そしてここ数年でグローバル株式と豪州株式をアウトパフォームしています(例:過去5年の年率パフォーマンスは、米国株14.5%、豪州株7.5%)。米国株式市場は成長株へのエクスポージャーが比較的高いのに対し、豪州やその他米国以外の株式市場では景気循環株(工業、資源、小売など)や金融関連へのエクスポージャーが高くなっています。世界経済が回復に向かい、金利が底入れした後には、シクリカルや金融セクターが恩恵を受けることとなり、豪州など米国以外の株式がアウトパフォームすることになるでしょう。追加の金融緩和も米国株にプラスの影響をもたらしたと考えられますが、この影響はやがて後退します。
新型コロナのワクチン開発は成功に近いのか?市場の織り込み具合は?
ワクチンや治療薬に関する明るいニュースが報道されています。ワクチン開発を先行するのはオックスフォード大学とアストラゼネカで、一部では第3相試験の終了に先駆けて生産が始まっています。とはいえ、ワクチンの幅広い普及は来年となる可能性が高く、(インフルエンザの予防接種がそうであるように)完全な免疫が得られない場合も考えられるため、その他治療を併用する必要が出てくるかもしれません。ワクチン普及の影響は一部織り込み済みですが、まだ完全とは言えません(例:旅行関連株では、まだ大した回復は見られていません)。
投資家は、豪州の莫大な公的債務を懸念していないのか?
投資家は、財政刺激を背景とした公的債務の高まりを十分認識していますが、状況は必ずしも見た目程悪いという訳ではありません。まず最初に、財政刺激がなければ経済への打撃はより大きくなっており、結果として公的債務水準もより高くなっていたはずです。そして第2に、家計や事業が支出を削減する局面で公的部門がこれら部門から借り入れ、経済支援に充てるのは理にかなった判断です。第3に、政府の借入コストは超低水準で、しばしばマイナスです。この例として、公的債務総額が対GDP比で200%超に達している日本では、大きな問題には至っていません。もし問題に発展した場合でも、中央銀行が保有する国債を帳消しにしてしまうという選択肢も考えられます(つまり、中央銀行への投資において政府が被る損失は、政府側の負債が減少することで相殺される訳で、特に大きな影響は出ません)。最後に、豪州の公的債務は相対的に低い水準にあります。赤字財政における問題はインフレですが、これもまだ低水準です。
債券は、対株式でまだディフェンシブな資産と言えるのか?
はい、ディフェンシブと言えます。債券利回りは超低水準にあり、債券投資からの中期リターンも極めて低くなる見通しですが、株式との組み合わせにより分散効果をもたらすこと変わりはありません。例えば、豪州株は年初来で約8%下落していますが、債券のリターンは約4%のプラスとなっていますから、ポートフォリオに両方を組み入れることで全体のリターンを滑らかにしてくれます。
豪州準備銀行(RBA)による量的緩和の効果とは?
銀行への超低金利融資の提供や国債購入を実施することで、RBAは通貨発行を通じて経済における流動性を高めており、貸出しの維持や、借入コストと豪ドルの上昇を防いでいます。これによって、負債を抱える世帯でもまずまずの消費水準を維持する事ができ、事業においてはローン返済や雇用の維持を助けています。
インフレとデフレのリスクは?
ロックダウン措置を受けて一部の商品(例:生活雑貨や食品の一部)が売り切れとなったり、(旅行やサービスから生活雑貨への)需要の変化により一部では物価が上昇する可能性があるものの、短期の主なリスクは低インフレ又はデフレです。これは、工場の生産能力には余剰感が強く、失業率の上昇が賃金の伸びを妨げているためです。一方で、中央銀行らが発行する通貨はやがて消費される可能性があるため、中期的にはインフレ加速の方が大きなリスクです。中央銀行はより多くのインフレリスクを取っていることになり、コロナ危機によるサプライチェーンへの影響を背景とした製造業の国内回帰が進み、保護貿易主義が強まるとすれば尚更大きなリスクと言えます。
世界金融危機後(GFC)の量的緩和(QE)によって米国でインフレが加速しなかったのはなぜか?
QEによって狭義のマネーサプライが増加したものの、貸出が行われず、GFC後の緊縮財政によってインフレへの影響が阻害されてしまったのかもしれません。これと同じことが今回も繰り返される可能性がありますが、大きな違いは刺激策の規模が大きい点です。余剰生産能力が解消されればインフレリスクはより大きくなりますが、そうなるのはまだ数年先の話です。
米ドルは今後も下落を続けるのか?
恐らくそうだと考えられます。安全な通貨と考えられている米ドルは、世界的に不透明な局面において上昇し、不透明感の後退とともに下落します。これは、景気循環性に対するエクスポージャーが相対的に低い米国経済の特徴を反映しています。主要通貨に対する米ドルは、コロナ危機を受けて記録した3月の高値から、現在は10%程度下落しており、次に挙げる理由から今後も更なる下落の可能性が高いと見ています:米国と世界の金利差はほぼ消滅している、米ドルは割高になっている、連邦準備制度理事会(FRB)はその他中央銀行よりも大規模な通貨発行を実施している、世界回復とともに安全通貨としての米ドル需要が低下する。
米ドル安の影響は?
米ドルの下落は、世界的なリフレが効果を発揮し、世界経済見通しが改善に向かっているサインです。これは、次の資産に関して朗報だと言えます:米ドルで取引され、力強い世界成長から恩恵を受ける商品価格、景気循環銘柄へのエクスポージャーがより高い豪州を含む米国以外の株式、豪ドルに代表される資源国通貨。商品価格の上昇や、対米の金利差が再びプラスに戻るとともに、豪ドルは今後も上昇トレンドを継続し、今後6-12か月で1豪ドル0.80米ドル台に近づくと予想されます。
商業用不動産の見通しは?
コロナ危機を背景とした経済活動への打撃、中でも(ネットショッピングと在宅勤務の急速な普及を受けた)小売店舗需要やオフィス需要への打撃、ひいてはこれらスペースにおける賃料収入の低下は、短期的に小売不動産やオフィス不動産リターンの重石となります。一方で、産業用不動産はコロナ禍から莫大な恩恵を受けています。より中期的に見ると、低金利環境とイールド追求の動きは、全セクターにとってプラスです。
コロナ危機の影響が欧州でより深刻となる可能性が高い理由は?
コロナショックによって欧州分裂の危機が浮き彫りになると思われましたが、欧州中央銀行(ECB)による量的緩和プログラムを通じて、割り当て方式ではなく必要に応じてEU加盟国債券の買い入れが行われている点や、ユーロ圏共同債発行(これは共同財政政策に向けた第一歩の様に見えます)を通じた7,500億ユーロ規模の復興基金に対する合意など、今までのところは団結が強まっている模様です。
米国大統領選挙の影響は?
株式市場は現職大統領を選好する傾向にあるため、1928年以降87%の確立で、米国大統領選挙前の3か月における米国株式の上昇はトランプ大統領の再選を示唆するという事です。一方で、株価下落はバイデン氏の勝利を示唆する事になります。減税、中国や欧州そして日本に対する敵対姿勢などトランプ氏の方針は米国株を選好するものであり、バイデン氏勝利における場合のその逆もしかりです。米国株の歴史を振り返ると、最もパフォーマンスが良かったのは分裂議会を持つ民主党大統領政権で、次に上院・下院ともに完全なる民主党政権です。もしバイデン氏が勝利した場合、始めは激しい売りに見舞われる可能性がありますが、この歴史が再び繰り返される事になると考えられます。もちろん、大統領選挙結果を巡る混乱は短期的な不透明感を引き起こすと見られます。
米中摩擦悪化のリスクは?
大統領選挙に向けた票確保という政治的理由から、トランプ米大統領は中国に対する強い姿勢をアピールしようとする一方で、追加関税など米国経済回復の妨害は避けたい様子で、中国も好機の到来をうかがっています。大統領選挙の勝者が誰になるのかによって、来年の様相も左右されます。トランプ政権下では対立が激化し(とはいえ直接的な軍事衝突の可能性は低い)、貿易を巡り市場の混乱を招く可能性があります。中でも、南シナ海は注視すべき主要な問題となるでしょう。一方で、バイデン政権では、より外交的なアプローチが取られる可能性が高いと見られます。
住宅価格下落による銀行への影響は?
当社予想である10-15%程度の下落ならば問題はなく、銀行ではこれに関連した不良債権増加に対する引当金が積まれています。一方で、住宅価格の下落幅が20%となる場合には、問題に発展する可能性があります。
豪州経済の回復時期は?
4-6月期における豪州経済は、前期比7%、前年同期比6.3%のマイナス成長となり、年率で見て世界大恐慌以来最大の下げ幅を記録しています。しかし、他国より優れた感染抑制の実績や財政刺激策、中国に対するエクスポージャーを背景に、同期マイナス幅は他国よりも小幅にとどまっています(例:米国-9.1%、日本-7.8%、欧州-12.1%、英国-20.4%)。豪州の大部分ではゆっくりとした回復が既に進行しているものの、感染第2波に見舞われたビクトリア州における打撃は大きく、全国的な回復が見られるのは10-12月期にずれ込むと予想されます。
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重要事項
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