主なポイント
厳格なロックダウン後の経済再開や感染者対応の向上、政策支援の継続を背景に、先進国がリードする形で世界経済は2020年下期にかけて堅固な回復を見せると予想されます。製造業、鉱業生産、住宅関連の米国経済指標からは、循環的な上昇が確認されています。
当社見通しにおけるアップサイド/ダウンサイドのリスクは、ワクチン開発です。現在の成長見通しは、先進国人口のまずまずの割合に対してワクチンが2021年半ばまでに行き渡るという仮定に基づいたもです。
しかし、2020年に成長が大きく後退したことで、GDPの伸びは2021年下期までコロナ危機前の水準を下回って推移することとなり、当分の間は、生産能力の余剰、低インフレ、金融緩和政策、低い債券利回りといった環境が継続する見通しです。
グローバル経済指標で確認されている循環的な上昇、世界成長の広がり、米ドル安は株式市場、特に米国以外の株式にとってポジティブです。
はじめに
新型コロナウイルス感染が世界的に拡大し始めた3月以来、当社では、その悪影響が長期化する(旅行の減少、ソーシャルディスタンシング規制、一部でのロックダウン)ことを踏まえ、世界経済は当初V字の回復を経てコロナ禍以前の水準を下回る成長に入るという見通しを維持してきました。これまでのところ、経済再開を受けて個人消費や工業生産が回復しており、当社のV字回復予想は正しかったと言えます。足元の回復を後押ししたのは、各国中央銀行や政府が打ち出した過去最大規模の支援策です。このレポートでは、世界成長見通しを考えると同時に、ワクチン等様々な進展の影響を含むリスクを取り上げます。

当社の世界経済見通しは上記図表の通りです。世界経済の大半は、コロナ危機を受けて2020年上期にリセッション入りしています。中国はテクニカル・リセッションを回避し、工業生産と製造業で大きな回復を遂げています。世界GDPは4-6月期に大きく後退したものの、7-9月期にはV字回復が確認されると予想されます。世界GDPは、財政・金融支援を受けて、2021年下期にコロナ危機以前の水準に戻る見通しです(以下図表を参照、とはいえ、新型コロナウイルス感染が発生しなかったケースを下回る水準になります)。しかし、余剰生産能力は引き続き問題であり、コロナ禍で失った成長が穴埋めされるまでは、低インフレが継続することになります。

当社予想では、3月に実施されたような厳格なロックダウンが世界的に再開する可能性は低いと仮定しています。これに代わり、各国政府は(必要に応じて)地域ごとに移動制限を実施すると予想され、一部では国内外の旅行制限が継続すると見られます。この点については、感染第2波に見舞われている国で明らかです。また、症状管理の向上、重篤化しやすい人々(高齢者など)の保護など、新型コロナウイルスの治療方法が継続的に改善することを仮定しています。感染第2波は欧州や米国でより大規模であるものの、死亡率は低下している点からも、厳格なロックダウンなしでも新型コロナウイルスの治療と管理が可能である事が示されています。

当社の見通しは、先進国人口のまずまずの割合に対してワクチンが2021年半ばまでに行き渡るという仮定に基づいています。これまでのところ、ワクチンに関しては懐疑的な見方が多く、手続きなどを簡素化して開発されたワクチンは、通常必要となる規制当局の認可を受けておらず、長期的な副作用を示すデータも存在しないため、安全性に欠けるという懸念が出ています。免疫効果が続く期間についても疑問の声が上がっており、これらはもっともな懸念点と言えます。しかし足元では、ワクチン開発にポジティブな展開が見られています。第3段階の臨床試験に入ったワクチン候補は10件あり、大規模な被験者への投与を経てワクチンの安全性と効果が確認されれば、政府当局による認可を受けることになります。最近では、アストラゼネカ/オックスフォード大学(最も有望視されている候補のひとつ)が、試験参加者1人に有害反応の疑いが見られたために第3段階の臨床試験を中断すると発表しています。この様な臨床試験の遅れは想定される展開であり、全てのワクチン候補が認可を受けるとは限りません。ですが、その他候補が十分に存在するため、来年には認可ワクチンが登場すると見ています。
ワクチンの普及は、アップサイドそしてダウンサイド両方のリスクです。ワクチンの提供が遅れる場合、当社成長見通しを下方修正する必要が出てくるかもしれません。一方で、2021年に人口の大部分に対するワクチン供給が可能となる場合には、アップサイドのリスクとなります。金融市場もまた、2021年までのワクチン普及を織り込んでいる模様です。

ワクチンの接種を巡っても懐疑的な意見が出ていますが、調査結果からは人口の大部分(50%以上)がワクチン接種を受ける意向であることが分かっています(以下図表を参照)。

当社見通しにおけるその他のダウンサイド・リスクは、次の通りです:新規感染者数の増加を受けた移動制限の厳格化、コロナ危機による打撃(破綻など)の第2波、政府支援策の早すぎる終了。
成長ドライバー
新型コロナウイルス感染拡大以前の見通しでは、世界の製造業は2020年に上昇基調となる予想でした。これは、米中による第1段階の貿易合意を受けて輸出を巡る信頼感が回復したためで、金融政策は緩和され、昨年大幅に減少した自動車販売は回復が見込まれていました。コロナ危機の発生により2020年上期における上昇基調は実現しなかったものの、循環指標である工業生産や耐久財受注は力強い回復を見せており、中でも米国では4月の大幅下落後に大きな改善が確認されています(次の図表を参照)。在庫水準はロックダウン期間に大きく低下しており、小売売上高の急速な回復が工業生産を押し上げることからも、再び積み上げが必要です。改善が見られているもう一つの循環セクターは、米国の住宅市場です。これは超低金利環境からの恩恵を受けているためで、住宅着工件数と建設許可件数ともにコロナ危機以前の水準を上回っています。

世界の自動車販売もまた、上昇基調に向かっています。前年比18.5%のマイナス(コロナ危機以前から減少が見られていましたが)となっていた世界の自動車販売は、足元でコロナ危機以前の水準まで回復しています。(中国でウイルス鎮圧が行われた地域の公共交通機関利用が減少している様に)公共交通機関の利用を避ける動きが自動車販売の増加に寄与するでしょう。
しかし、これら産業活動が回復した後の長期見通しに関しては、2020年における経済活動の大幅な後退を考えると、(特に政府からの)追加支援策が鍵を握ることになりそうです。
投資家への影響
世界の経済指標で確認されている循環的な上昇は、企業収益を引き上げることから、株式市場にとってポジティブな展開です。シクリカルな回復とリフレーションは、テクノロジー株以外の株価にプラスに働きます。米国や世界のテクノロジー株下落とバリュエーションを巡る懸念を背景に、テック株はまだ少し下げる可能性があります(とはいえ、ドットコム・バブル時ほど割高にはなっておらず、これら企業の収益も増加していることから、2000年代初期の様な暴落はないでしょう)。しかし、テック株以外の株価が短期的に回復した場合でも、米国株式市場に占めるテクノロジー銘柄の割合が高いことから、指数全体を引き下げることになりかねません。世界成長の幅広い改善も、米国以外の株式にとってプラスであり、再び米ドル安の展開となれば特にそうと言えます。
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