経済&マーケット

バイデン 対 トランプ:投資家にとって次なる大イベント、米国大統領選挙迫る

By シェーン・オリバー博士
インベストメント・ストラテジー&エコノミクス担当ヘッド、チーフ・エコノミスト 豪州、シドニー

主なポイント

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投資市場では、米大統領選挙を受けたボラティリティの高まりが懸念されます。トランプ氏再選の場合、状況が大きく変化することはなく、当初はグローバルや豪州株式よりも米国株にとってよりポジティブとなるでしょう。

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これに対し、バイデン氏が勝利した場合には、短期的にボラティリティが高まる可能性がありますが、これは一時的なものとなり、経済後退観測の理由も存在しないことから、株価も上昇すると見られます。一方で、貿易や外交を巡っては混乱の少ないアプローチを選択する可能性が高いといえます。

はじめに

米国大統領選挙が1か月後に迫っています。市場の注目も高まっており、これには幾つかの理由があります。第1に、バイデン氏は増税と規制強化の方針を打ち出しています。第2に、ギンズバーグ最高裁判事の死去を受けた後任任命への動きによって、大統領選前に追加財政刺激策が成立する見通しが後退しました。第3に、郵送投票の増加によって結果判明により時間を要すると見られています。そして最後に、郵送投票に対して不信感を示しているトランプ大統領が敗北し、平和的な権力移行を拒むようなことになれば、不透明感が高まります(世論調査によると、バイデン支持者の45%、トランプ支持者の10%が郵送投票を活用する計画とのことです)。

 

世論調査と賭けが選好するのはバイデン氏

  • リアル・クリア・ポリティクスの世論調査によると、平均6ポイントの差をつけてバイデン氏が優勢となっています。7月時点では9ポイントリードしていたものの、新型コロナウイルスの1日当たり新規感染件数が7万人弱から4万人に大きく低下した事を受けてトランプ氏が追い上げた格好ですが、ここ2か月で大きな変化はありません。これとは対照的なのが4年前、世論調査ではおおむねクリントン氏優勢とされていましたが、幾度となくトランプ氏が抜き出るなど、激しく変化していました。2016年9月下旬において、クリントン氏のリードは2.5ポイントでした。
世論調査
  • 激戦区におけるバイデン氏のリードは平均すると3ポイントです。
  • オンライン賭けサイト「プレディクト・イット」では、17ポイント差でバイデン氏優勢で、バイデン政権下で上下両院ともに民主党優勢となる可能性は50%となっています。すでに民主党多数となっている下院はこれが維持される可能性が高いものの、上院で過半数を獲得するには副大統領と3席を確保する必要があります。上下両院ともに民主党優勢となった場合には、増税に向けた上院というボトルネックが解消されることになります。
  • 経済データと世論調査を組み合わせたネイト・シルバー氏による538選挙モデルによると、バイデン氏勝利の確率は78%です。
  • 民主党支持者と比較すると、トランプ支持者は本音を言う事に対して消極的であり、これも世論調査を巡る不透明感の高まりに寄与しています。
  • 第1回テレビ討論会では政策に関する目新しい発表はなく、これによって票が大きく動いた可能性は低いでしょう。

 

経済と新型コロナウイルス

歴史を振り返ると、選挙前の2年間で米国経済がリセッション入りした大統領は再選しない傾向にあります。

大統領選挙前2年間におけるリセッションの有無と再選結果

しかし、トランプ氏にとって最も有望なカードは経済回復であり、(大統領選挙直前に発表予定の)7-9月期GDPは8%のリバウンドが予想されていることからも、リセッションからの脱出です。選挙前2年間でリセッション入りしても、選挙前にリセッションから脱出していれば再選するというデータもあります。とはいえ、これは50/50の確率でしかなく、前例は1900年におけるマッキンリー大統領の再選、同じく1904年のルーズベルト大統領、1924年のクーリッジ大統領と、前世紀初期の話であり、それ以外のケース、1912年のタフト大統領、1976年のフォード大統領、1980年のカーター大統領は再選に至りませんでした。一方で、新規感染件数の増加ペースが再び加速し、経済見通しの雲行きが怪しくなる場合には、トランプ氏にとって不利な状況となります。

バイデン氏のリード幅と新型コロナ1日当たりの新規感染件数

米国株式市場では、トランプ氏によりポジティブな兆候が見られています。大統領選挙結果を見る上で優れた目印となっているのが、大統領選挙に向けてS&P500指数が3か月以上上昇すると現職大統領が再選する傾向にあるというもので、その正確度は、1928年以来で87%、1984年以来で100%となっています。現在のところ、S&P500指数は8月3日から1.2%上昇しています。

ボトムラインとして、バイデン氏がリードするものの、トランプ氏の敗北を確信するには時期尚早です。

 

バイデン氏の主要な政策方針

税制:バイデン氏は現行21%の法人税を28%へと引き上げる計画で、上限税率を37%から39.6%に戻し、キャピタルゲインと分配金を経常利益として課税対象とします。

インフラ:両者共に10年間にわたり1兆米ドルを超えるインフラ投資を計画していますが、バイデン氏は再生可能エネルギーにフォーカスを置いています。

気候変動:バイデン氏は、化石燃料の料金引き上げと代替エネルギー開発の促進(炭素税導入の可能性もあり)を通じて、2050年までに排出ネットゼロ達成を目標に掲げています。

規制:規制緩和の時代はバイデン政権下で終わりを迎える可能性が高くなっています。

新型コロナウイルス:バイデン政権からは、より強靭で組織的な安定した新型コロナウイルス対応が期待できるでしょう。

ヘルスケア:バイデン氏は、オバマケアの強化を掲げています。

貿易・外交:トランプ氏が再選した場合、米国生産を税優遇する「メード・イン・アメリカ減税」や中国製品に対する関税(欧州を含むその他地域でも同様の関税が課される可能性あり)などを通じて、米中貿易摩擦が悪化する可能性が高くなっています。これとは対照的に、バイデン氏は欧州との同盟を再建し、世界貿易機関(WTO)など国際機関との協働や、イラン核合意に再び参加するための取り組みを行う可能性が高く、中国との摩擦対応に関しては(欧州やアジアの同盟国との協働を通じた)より外交的なアプローチを採ると見られます。

財政赤字:短期では、選挙結果に関係なく、高水準の状態が継続する見通しですが、歴史的に見ると、共和党政権下で拡大した財政赤字は、民主党政権下で縮小しています。とはいえ、経済回復のペースが十分でない場合において、大規模な公共投資プログラムを打ち出す可能性が高いのはバイデン氏の方です。

 

バイデン氏勝利による経済的影響

バイデン氏が掲げる増税と規制強化は、単独で見ると、成長見通しにとってマイナスです。しかし、経済に関する全てがそうであるように、そう簡単ではありません。

  • まず最初に、増税と規制強化を受けた短期的なマイナスの影響は、インフラ支出拡大によって十分に相殺されます。
  • 第2に、軟調な経済を考えると、バイデン氏は、大統領就任後に増税の延期又は縮小を行う可能性が高いと言えます。
  • 第3に、高所得者に対する増税は、インセンティブの面でマイナスであるものの、格差の縮小に寄与する可能性があります。
  • 第4に、バイデン氏の貿易・外交政策は、同盟国との関係強化にフォーカスを置いたもので、中国に対して外交的にアプローチすることで、トランプ政権時代における不安や恐怖、不透明感を和らげると見られます(トランプ氏勝利の場合はこれが悪化します)。
  • 最後に、バイデン政権下でのより安定した予見性のある政策決定によって、事業にとっても確実性の高い環境が整うこととなり、事業投資増加につながるかもしれません。

つまり、短期的な不透明感を除けば、バイデン政権下における景気後退や投資減少を予想する理由は存在しません。

 

市場の反応

1927年以来、選挙年における株式リターンは平均して年率11.2%と、まずまずの結果となっています。もちろん、今年は新型コロナウイルス感染によって複雑で、通常よりも不透明感が高い中で総選挙が行われることになります。ここで注目したいポイントが幾つかあります。

第1に、ボラティリティは来月あたりまで継続する可能性があり、株価には更なる修正が入るかもしれません。

  • バイデン氏勝利の場合、特に上院が民主党優勢となる可能性が高くなれば、投資家の反応は増税と規制強化に対する嫌気が先行するでしょう。
  • 大接戦にもつれこむ場合、選挙結果が判明するまでに時間がかかることとなり、市場はこの不透明感を嫌うでしょう。
  • トランプ氏は、本人が発言したように、平和的な権力移行を拒む事も考えられます。

第2に、郵送投票の集計に遅れが生じれば、選挙結果判明に時間を要すことになりますが(ここでは、当初トランプ氏優勢となった後、郵送投票の集計が進むにつれてバイデン氏優勢の構図となるシナリオが考えられます)、平和的な権力移行を保証しないというトランプ氏のスタンスは真剣に受け止めるべきですが、文字通りに受け取ってはなりません。トランプ氏が内戦を開始するとは考えにくく、マコネル米共和党上院院内総務が「1792年以来、4年おきに秩序ある権力移行が行われてきたように、今回も秩序ある権力移行が行われる」と発言しているとおり、共和党の重鎮議員らからの支持もありません。

第3に、最終的にトランプ氏の勝利が確定した場合、米国株は当初、祝杯ムードに染まり、グローバル株と豪州株をアウトパフォームする可能性がありますが、その後来年は、米中貿易摩擦の激化とともに不安定な動きとなる見通しです。これに対し、バイデン氏が勝利した場合、上記の通り、市場の反応は当初ネガティブとなりますが、これは一時的なものとなり、経済後退観測の理由も存在しないことから、株価も上昇すると見られます。

最後に、歴史的に見ると、米国株は民主党政権下で優れたパフォーマンスを記録しており、1927年以降で比較すると、民主党政権下の年率リターン平均は14.6%、共和党政権下では同9.8%となっています。最も優れたパフォーマンスは、民主党派大統領と共和党が上院か下院、または上下両院で優勢だった場面で、年率リターン平均は16.4%でした。

政治構成別に見る米国株のリターン

最後に

米国大統領選挙は、投資市場に更なるボラティリティをもたらす可能性があります。トランプ氏勝利の場合、状況が大きく変化することはなく、(その他が同等である場合)当初はグローバルや豪州株式よりも米国株にとってよりポジティブな展開が予想されます。これに対し、バイデン氏が勝利した場合、ボラティリティが短期的に高まる可能性があるものの、これは一時的なものとなります。景気後退を見込む理由は存在しないことからも、バイデン政権下でも株価は上昇すると考えられます。一方で、貿易や外交を巡っては、バイデン氏は混乱の少ないアプローチを選択する可能性が高いでしょう。

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