経済&マーケット

豪州の2020/2021年度連邦予算

By シェーン・オリバー博士
インベストメント・ストラテジー&エコノミクス担当ヘッド、チーフ・エコノミスト 豪州、シドニー

主なポイント

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今年度の財政赤字は過去最高の2,137億豪ドルに達すると豪州連邦政府は見込んでいます。これは対GDP比で約11%と、第二次世界大戦後最大となります。ここでのリスクは、財政赤字が2,300億豪ドル程度まで拡大することです。

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主な措置には、減税の前倒し、投資に対する大幅な税優遇、新しい賃金補助制度が含まれます。

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財政赤字対応を後回しにして更なる経済刺激を優先することは、正しい選択だと言えます。しかし、黒字化に向けた取り組みや公的債務の安定化に向けた道のりは長く、険しいものとなりそうです。

はじめに

「黒字化は計画通り」とされた2019/2020年度から、2020/2021年度の連邦予算は大きく道を外れた格好です。昨年は待ちに待った黒字化達成が全面的に打ち出されましたが、今年は経済回復に軸足が置かれています。つまり、2020/2021年度の連邦予算におけるフォーカスは、需要を後押しするための刺激策を提供し、その過程において失業率を許容範囲内まで引き下げることです。従って、財政赤字は過去最大の2,137億豪ドルとなる見通しです。緊急支援策は来年以降に終了となっていくものの、失業率が6%を十分に下回る水準で落ち着くまでは、財政の修復にフォーカスを移すことはないとしています。失業率6%未満の達成は少なくとも3年先であると考えられ、これが計画通りに進んだ場合でも、黒字化達成は早くて10年後となる可能性が高いでしょう。

 

景気刺激策

連邦予算に盛り込まれた主要な刺激策は、次の通りです:

  • 2022年7月に計画されていた減税措置を2020年7月に前倒しで導入。32.5%課税枠の下限が37,000豪ドルから45,000豪ドル、37%課税枠の下限が90,000豪ドルから120,000豪ドルへと引き上げられ、低所得者向け税控除が拡大となります。所得が80,000豪ドルの場合、2週間当たりの減税額は83豪ドル、同14,000豪ドルの場合には同99豪ドルとなる計算で、これに加え7月以降支払い済みの税金超過分が返金となります。
  • 売上高50億豪ドル以内の事業が行った投資に関しては、2022年6月末までの間、税務上の即時償却が可能となると同時に、前期間の利益に対して損失を相殺することで税還付を受けることが可能となります。
  • R&D税優遇措置の再導入
  • ジョブキーパー(給与補助金)制度を一部置き換える形で、若者の雇用に紐づけた「ジョブメーカー」制度を新しく導入
  • 新規見習生100,000人に対する12億豪ドルの助成金
  • インフラ支出に30億豪ドルを上乗せ、州政府に対して実費ベースで提供
  • マイホーム初回購入者向けローン頭金制度の拡大を通じた、住宅市場の支援
  • 製造業支援として当初130億豪ドルの投資
  • 医療や高齢者ケア分野における支出拡大
  • 年金受益者やその他生活保護者に対する追加の現金支給

今回の連邦予算に盛り込まれた経済改革は極めて限定的だったものの、官僚主義的な手続きの簡略化が含まれています。

7月に発表された経済&財政アップデート以降、830億豪ドル規模の刺激策が導入されており、新型コロナウイルス感染関連支援は総額で2,570億豪ドルに達します。ローンや保証と共に、連邦政府と豪州準備銀行(RBA)が5年にわたり提供する支援規模は5,070億豪ドル、対GDP比25%となります。

 

経済見通し

連邦政府は、今年度におい1.5%のマイナス成長を見込んでいます。しかし、この見通しに隠れてしまっているのは、足元4-6月期の-7%という過去最大のマイナス成長と今年下期からの緩やかな回復です。経済成長と失業率の観点から、連邦政府の見通しは当社よりも若干楽観的な内容となっています。景気拡大を妨げる大きな要因は、移民純増がマイナスとなることで豪州人口の伸びが1917年以来最低の0.2%となる見通しだという点です。

経済見通し

財政赤字見通し

連邦政府による最新の予算見通しは、以下の図表で示しています。豪州経済、つまり歳入と歳出への打撃は、昨年12月に発表された年央経済・財政中期見通し以降で今年度599億豪ドルに上ると推定されます。これは図表の「パラメーターの変化」で示しています。7月の経済&財政アップデートでは720億豪ドルだった見通しが、成長見通しの改善を受けて下方修正された格好ですが、今度は賃金の伸びと人口成長のペース鈍化を受けて、時間とともに悪化する見通しに転じています。昨年12月以降に導入された(主に新型コロナウイルス関連の)財政刺激策は、図表において「これまでの刺激策」として示しています。現時点では年初来で総額1598億豪ドルと、7月以降に414億豪ドルという予想を超える追加刺激が行われています。これらの財政対応、そして景気後退を受けた歳入への打撃を受けて、連邦政府は2019/2020年度ににおける財政赤字見通しを、850億豪ドルから過去最大の2130億豪ドルへと修正しました。これは対GDP比で11%と、第二次世界大戦後最大の規模となります。

基礎現金収支見通し

2023/24年度までのフォワード見通しでは、一時的な支援措置が段階的に終了となる事を反映し、財政赤字は大幅な縮小が見込まれています。次の図表で示した通り、連邦政府による支援策を反映し、歳出は対GDP比で25%から35%へと膨れ上がっています。

豪州連邦政府の歳入・歳出

しかしながら、近年で240,000人程度の水準が維持されていた人口の純移入が今年は72,000人のマイナスとなることの影響もあり、豪州経済は当初見通しよりも縮小すると見られることから、財政黒字化への道のりは、長く険しいものとなるでしょう。連邦政府による2031年までの財政赤字と公的債務見通しを示した次の図表2つからは、財政赤字の継続が確認されています。たとえ、世界金融危機(GFC)後における「財政修復」の取り組みが再現された場合でも、財政均衡化は早くて2032年となる見通しです。しかし、GFC時、財政は今回ほどの打撃を受けていなかったことからも、これは楽観的な見方だと言えます。

豪州の財政赤字
豪州の負債総額

連邦債務は、対GDP比で1950年代以来最高水準に達しています。生産性向上の経済改革は景気拡大に寄与するものの、第2次世界大戦後の様に対GDP比を大幅に低下させるには力不足です。当社では、債務の対GDP比は今後も拡大を続ける可能性が高いとみており、2030年代初期に70%近辺、2兆豪ドル近くまで上昇すると予想しています。

 

評価

最新の刺激策を含むと、豪州における新型コロナウイルス関連の財政刺激策の総額は今年対GDP比で10%程度に達することになり、これは他国と比較しても高水準です。これと、来年にかけての継続的な刺激策によって、豪州経済の回復が下支えされるでしょう。しかし、直接的な収入支援や銀行ローン返済の猶予といったサポートが徐々に終了する今後が試練の局面となります。高失業率の長期化や不完全雇用を考慮した場合、連邦予算に盛り込まれた追加刺激策が十分であるかには疑問が残ります。従って、AMPキャピタルでは財政赤字見通しが若干悪化するリスクがあると見ています。

より大きな観点からは、財政赤字の膨張は適切であり、かつ対応可能であるという見方を維持します:

  • 第1に、刺激策は絶対に必要なものであり、これがなければ、事業や雇用、収入に対する短期的な影響と長期的な傷跡はより大きなものとなっており、回復ペースも大きく後退することになります。
  • 第2に、豪州経済の多くが再開したとはいえ、寄与度の大きい教育や旅行、小売り部門は再開しておらず、回復にはより長期の時間を要します。従って、刺激策や雇用を巡る政府からの継続的な支援が必要です。
  • 第3に、支援策は足元のニーズに基づいたものであり、永久的に政府歳出が増加する訳ではありません。
  • 第4に、前倒しとなった所得税減税の一部は貯蓄に回るものの、高所得者よりも貯蓄が少ない低・中所得者における減税効果が大きい内容となっています。また、一時金ではなく継続的な措置であることから、減税分が消費に回る可能性が高いと考えられ、一時金も支援策に盛り込まれています。
  • 第5に、豪州の公的債務は対GDP比23%と、その他先進国平均の83%と比較して低い水準にあります。財政赤字見通しを加味しても、比較的小規模にとどまります。
  • 第6に、連邦政府による借入は豪ドルで行われているものであり、外貨危機を引き起こすような対外債務への依存はありません。
  • 最後に、政府の借入コストは10年で約0.85%、3年で0.25%と極めて低水準です。

 

豪州資産への影響

キャッシュ&定期預金:政策金利は0.1%まで引き下げられる可能性があるため、キャッシュや銀行預金からのリターンは長期に渡り低水準となる見通しです。

債券:他の条件が全てが同じであると仮定すると、公的債務の大幅な増加は債券利回りの上昇を示唆するものです。しかし、余剰生産能力の積み上がりや、軟調な民間セクターの借り入れとインフレがこれを相殺することになり、債券利回りのアップサイドは限定的と言えます。新型コロナウイルスの感染抑制に成功した場合でも、ダウンサイドは限定的であることから、債券からのリターンは中期的に低水準となる可能性が高いでしょう。

株式:追加刺激の継続が景気回復をさらに後押しすると同時に、超低金利が維持されていることから、株式市場にとっては好ましい環境が形成されます。

不動産:失業率の高止まり、収入支援の縮小、移民への打撃を背景に、メルボルンとシドニーでは不動産価格が更に下落する可能性がありますが、住宅価格や郊外地域、移民からの影響を受けにくい都市といった分野を中心に、連邦政府による継続的な住宅関連支援によって、これらマイナス要因の影響は相殺されるでしょう。

豪ドル:他国と比較しても大規模な財政刺激策が継続する一方で、商品価格は上昇、米ドル安の展開となっている点からは、豪ドルに更なるアップサイドがあると事が示唆されています。

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