主なポイント
金利と債券利回りの低下を背景に、投資利回りは低下が継続しています。当社では中期(5-10年)リターン見通しを下方修正しており、バランス/グロース型ポートフォリオでは年率4.8%程度となる見通しです。
少なくとも、銀行預金の1%未満リターンよりまだましです。
投資家において重要なのは、現実的な期待リターン水準を年頭に置くことであり、インフレが低い点を認識し、まずまずのインカムを持続的に獲得できる資産にフォーカスするという事です。
はじめに
新型コロナウイルス感染拡大を背景に、株価は今年初旬に35%程度暴落しており、2018年や2015年、2011年にも波乱局面があったにもかかわらず、分散投資を行ってきた豪州の投資家はここ10年でまずまずのリターンを獲得しています。バランス/グロース型のスーパーアニュエーション・ファンドのリターン中央値(報酬・税金控除後)は、5年で年率5.8%、10年で年率7.3%です。これは、より高インフレだった1980年代や1990年代の2桁台リターンと比較すると見劣りするかもしれませんが、年率2%に届くか届かないかという今日の低インフレ環境においては、悪くない結果です。

しかし、ここで気を付けなければならないのは、金利の低下を背景に投資家がイールドを追求した結果、利回りが低下、資産価値が上昇し、過去のリターンが押し上げられたという点です。しかしこれは、最終的にリターンが減速することを示唆しています。
投資の基礎:利回りが低い=リターン見通しも低い
投資リターンを構成する要素は2つ:利回り(インカム)と資本(キャピタル)の成長です。また、他全てが同じ条件であるならば、資産価格は利回りと反対方向に動きます。例えば、資産価値が100ドルで、この資産から得られるインカムが年間10ドルだったとすると、利回りは10%です。銀行定期預金の金利が低下した場合、高い利回りを誇るこの資産に対する投資家需要が増加することになります。そうなると、この資産価格が120ドルに上昇した場合、インカムは年間10ドルのままですから、利回りは8.3%(10ドル÷120ドル)に低下することになります。既にこの資産に投資を行っていた投資家にとっては、資産価値が20%上昇した訳ですから、素晴らしい展開です。しかし、利回りが低下したことから、リターンは今後低下することが示唆されています。もちろん、利回りが低下し続ければキャピタル成長が押し上げられることになりますが、これにも限界があります。
1980年代から利回りは低下している
1980年代初期において、豪州準備銀行(RBA)のキャッシュレートは14%近辺にありました。1年定期預金の金利は14%近くあり、債券利回りは13.5%、商業用不動産や住宅の利回りや8-9%、配当利回りは豪州株で6.5%程度、グローバル株で約5%でした。この様に、投資から得られるインカムは極めて高水準だったことから、キャピタル成長がそこそこあれば、成長資産は良好なリターンを達成できたという訳です。つまり、多くの資産が極めて好調なリターンを記録し、バランス/グロース型スーパーアニュエーション・ファンドの1982-1999年におけるリターン平均(報酬・税金控除後)は、名目14.1%、実質9.4%でした。
しかし、高インフレから低インフレへのシフトによって、ここ40年で利回りは大幅に低下しています。これは金利と債券利回りの低下によるもので、投資家が利回りを追求する中で、その他資産の価格が上昇し、これらの利回りが低下しました。世界金融危機(GFC)が利回り低下に拍車をかけたのと同様に、新型コロナウイルスを受けた世界経済への打撃によって、利回り低下がエスカレートしています。次の図表をご覧ください。

現在、キャッシュレートは0.25%(そして来月には0.1%へと引き下げられる可能性が高い)、1年定期預金の金利は0.75%、10年物国債利回りも0.75%、住宅不動産の利回り(グロス)は3%程度、商業用不動産は約5%、豪州株の配当利回り(フランキングクレジットを含む)は4.5%程度、グローバル株式では2.25%です。これらからは、分散型ポートフォリオのリターンも低下する事が示唆されています。
キャピタル成長はさらに抑制
さらには、成長資産におけるキャピタルの伸びも、過去と比べて抑制されたものとなる見通しです。この背景にあるのは複数のメガトレンドであり、その一部はコロナ禍で加速しています:
- 世帯は借り入れに対して消極的
- グローバル化の後退、規制緩和やポピュリストを選好する小さな政府、市場寄りの政策が減少
- 地政学的な緊張の高まり、中でも力を増している中国を押さえつけようとする米国
- 高齢化と人口成長の減速、ひいては労働力の軟調な伸び
- ネットショッピングと在宅勤務の増加が小売とオフィス需要に影響を及ぼすも、この分の支出はその他の分野で確認できると予想しています
もちろん、テクノロジーの進化や自動化、アジアや中国のミドルクラスの急成長といったトレンドは、成長の促進に寄与します。しかし、総合的に見た影響はポジティブではなく、世界経済の成長はより抑制されたものとなる可能性が高いと考えられます。
中期(5-10年)リターンの見通し
主要な資産クラスの中期リターン見通しを考えるにあたり、当社では、各資産クラスの足元における利回り水準からスタートし、前途したメガトレンドを考慮しつつ、シンプルで一貫性のある前提を適用していきます。分析はシンプルに、予測は避けるようにしています。
- 債券の中期リターンを考える上で最良の指標は、足元の利回り水準です。次の図表ではこの推移を示しました。10年物国債を満期まで保有した場合の当初利回り(豪州では現在0.75%)は、10年間のリターンとなります。当社では、満期が債券指数と合致する5年物国債利回りを参照します。

- 株式の中期リターンを考える上で参考になるのは、配当利回りと名目GDP成長のトレンド(キャピタル成長を示す)です1。
- 不動産の賃料とキャピタル成長を見る上では、現在の賃貸利回りとトレンド・インフレ率が参考になります。ネットショッピングの増加と在宅勤務の普及を背景に、リターン見通しを巡っては通常よりも不透明感が高くなっています。
- 非上場インフラでは、足元の平均利回りとインフレを若干上回る水準のキャピタル成長を考慮します。
- キャッシュの場合、中期リターンを考える上で現在の金利は参考になりませんので、当社では2023年以降における金利上昇を考慮します。
当社のリターン見通しは、次の図表で示しています。2列目が現在のインカム利回り、3列目が5-10年の成長見通し、4列目はトータル・リターン見通しとなっています。この見通しに関しては、次の点にご注意ください:
- インフレは平均で年率1.5%と仮定しています。
- 豪州に関しては、生産性の拡大ペースが遅いことから、比較的保守的な成長見通しとしています。
- 中期リターン見通しは、報酬・税金控除前の年率%で示しています。

主な注目点
これらの見通しにおいて、注目すべきポイントが幾つかあります。
- 利回りの低下と弱含むキャピタル成長を受けて、中期リターン見通しは低下を続けています。バランス/グロース型ポートフォリオに関しては、2009年3月に年率10.3%だったものが、12か月前には同5.6%、現在は僅か同4.8%となっています。

- 金利の低下が債券価格を押し上げたことで、これまでの債券リターンはまずまずの内容となっていましたが、超低金利の環境でリターンは低下する見通しです。
- 商業用不動産とインフラは比較的良好な結果となっているものの、小売やオフィススペース、そして人の移動に関連するインフラの需要を巡っては、通常よりも不透明感が高まると予想されます。
- 利回りの点では豪州株式も負けてはいませんが、成長ポテンシャルの観点から見ると、アジアや新興国株式には及ばないでしょう。
- 当社の中期リターン見通しにおけるダウンサイドのリスクは、リセッションが長期化することで株価が再び下落する、又はインフレがリバウンドすることで利回りが通常の水準に押し上げられ、大規模なキャピタルロスを引き起こす可能性がある点です。
- アップサイドのリスクは、ダウンサイドほど明確ではないものの、世界成長が改善する中でインフレが極めて低い状態が継続する様な場合にはそのリスクが高まると考えられます。
投資家における検討事項
- まず最初に、期待リターンは合理的な水準にしましょう。金利とインフレが低く、成長が抑制された環境下において、持続可能な2桁台や1桁台後半のリターンを期待することは不合理です。
- 第2に、成長資産へのアロケーションを増やすという事は、リスクの増加を意味する点をお忘れなく。
- 第3に、ベア相場を予測することは難しく、痛みが伴うものの、中期リターンを押し上げる効果があるため、投資家にとってはオポチュニティが提供される局面であるという事を頭の片隅に置いておきましょう。
- 第4に、リターン見通し低下の一部は超低インフレを反映したものであり、実質リターンはそこまで低下していません。バランス/グロース型ポートフォリオの年率4.8%というリターンは、定期預金金利を相当上回る水準です。
- 最後に、まずまずのインカムを持続的に生む資産にフォーカスすることで、将来のリターンに関する信頼感を得る事ができます。
1 その他調整項目には:配当性向(しかし過去を見る限り、内部留保がリターン向上につながるケースは少ないため、配当利回りが最も参考になる)、PERが均衡水準に近づく可能性(だが、PERの均衡点を予想するのは困難であり、バリュエーションのシグナルは配当利回りから確認できる)、キャピタル成長見通しにおいて利益率関連の評価を考慮する(しかし、ここで正しい結果を出すのも困難)がありますが、当社ではカッコ内の理由からこれらの予想は行っていません。
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重要事項
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