経済&マーケット

経済ショックがインフレに与える影響

By ディアナ・ムシーナ
インベストメント・ストラテジー&ダイナミック・マーケッツ、シニア・エコノミスト 豪州、シドニー

主なポイント

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新型コロナウイルス感染の拡大を受けて、個人消費の動向が大きく変化しています。先進国では、モノ需要が一般的に増加した一方で、サービス需要は激減しました。一部における供給面の制約や需要の変化を受けて、製品の価格が上昇するも、サービスの価格は軟調となっています。

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消費者物価指数(CPI)は、主要な消費項目を組み入れた「バスケット」を固定し、これらの価格変動を指数化したものです。現在のコロナ禍において、このバスケット項目の関連性が低下しています。

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当社が現在の環境下で関連性が高いと考えるバスケット項目に基づいて豪州CPIを算出すると、豪州統計局(ABS)の発表値よりも高いインフレが確認されます。4-6月期の総合CPIはABS発表値が-1.9%であるのに対し、当社の試算では僅か0.1%のマイナスとなります。つまり、実際のインフレ率は政府統計よりも高いということになります。

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このため、コアインフレ率のトリム平均値を参照するのが望ましく、政府統計における4-6月期の同値は-0.1%と、当社の試算値と合致しています。

はじめに

一般的に、CPIの算出に使われるバスケット項目の価格は、短期で大きく変化することはありません。従って、バスケット項目の見直しは頻繁には行われず、豪州では18か月前のデータに基づいて年次で行われています。消費パターンは長期で変化することがあり、これは価格の上昇を受けて消費者が安い代替品を探す「代替バイアス」によるものです。一方で、足元のコロナ禍の様な経済ショック時においても、消費パターンは変化します。

コロナ危機による産業の閉鎖や移動制限を背景に、モノやサービスに対する需要が大きく変化しました。概して、モノ需要が増加する一方で、サービス需要は後退、先進国のインフレ統計は今年上期に極めて低い値となっています。豪州では、4-6月期の総合CPIが-1.9%と、デフレに突入しています。しかし、これらのインフレ統計はコロナ危機前のバスケット項目に基づいたものです。需要が高いモノの価格は上昇し、需要が低いサービス価格は低下しています。インフレ統計がコロナ危機における消費パターンを反映した内容だった場合、より高い水準のインフレ率が確認されることになります。このレポートでは、これらの問題について掘り下げます。

 

コロナ危機における豪州のインフレ率

新型コロナウイルス感染の拡大を受けて、サービス価格は低下しましたが(一部サービスセクターの一時閉鎖による)、モノの価格は上昇しており(以下図表を参照)、家庭用品(在宅勤務に必要な設備、生鮮食品、掃除用品、トイレットペーパー)など価格が高騰したものもありました。

インフレの推移:財 vs サービス

感染拡大が始まった3月から4月にかけて供給が一時的に中断したことを受けて、需要の高い一部商品は価格が高騰しました。以下の図表では、コロナ危機で需要の高かった項目と低かった項目を比較しました。

コロナ禍のインフレ:高需要の項目 vs 低需要の項目

価格の動きに大きなばらつきが出たと同時に、豪州では、通常のバスケット項目の年次見直し以上に、ここ6か月間で消費パターンが大きく変化しています。コロナ危機関連で消費が最も伸びたのは食品・アルコール類や家庭用品・家具となっており、最も減少した項目は外食、交通、娯楽、カルチャーとなっています。インフレのデータにおいても、これら分野の一部は最も価格の変動が大きかった部分となっています。

当社が推定するコロナ禍のバスケット項目に基づいて豪州の4-6月期CPIを算出し直した場合、政府統計とは大きく異なるインフレ率が確認されることになります。総合CPIは前期比僅か0.1%のマイナスとなり、政府統計の-1.9%程大幅なデフレは示されていません。実際のインフレ率と推定インフレ率の明らかな差異は、価格が上昇した項目の消費増加を反映しています。同じような試算を米国など他の先進国について行った場合でも、同様の結果が得られるはずです。

 

期待インフレ率

このレポートでインフレ率を取り上げるというアイデアは、CPIデータはパンデミック時において現実を正確に反映しないという意見を度々耳にしてきた事で、2020年におけるインフレ見通しと消費パターンの変化を考えたことから生まれたものです。歴史的に見て、CPIは実際のインフレを過大評価する傾向があります(次の図表を参照)。

豪州の期待インフレ率

正常時であれば、期待インフレと実際のインフレ率の差異は、生活必需品(ヘルスケア、公益、生鮮食品、教育)の価格が時間とともに平均以上の伸びを記録する事で説明がつきます。しかし、裁量消費(衣類、テクノロジー関連商品、通信サービスなど)に関しては近年価格が低下しています。消費者は、必需品価格の上昇を嫌い、その価格動向により敏感となる傾向にあります。

カナダ銀行(中銀)のシェンブリ副総裁は、最近行ったスピーチにおいて、期待インフレ率が実際よりも高くなる傾向にある理由を述べています:

  • 消費者は、総合CPIの算出に使われるバスケット項目が現実を反映していないと感じるかもしれ前ん。カナダ銀行とカナダ統計局は、様々な世帯に適した異なるバスケット項目の組み合わせを使った試算を試みましたが、平均インフレ率は総合インフレに近い水準で推移するという結果が出ています。
  • 消費者においては、価格上昇に伴った品質向上を考慮していない可能性があります(一方で、統計ではクオリティ改善が考慮されている)。モノの品質向上は、計測が困難なため、当然の事の様に捉えられがちです。
  • 消費者は、住宅価格をバスケットの一項目と捉えているかもしれません。住宅価格は、その他項目のような消費財ではなく投資として扱われることから、CPIには含まれていません。生活費(賃料、家計サービス、新築関連費用など)はCPIに含まれますが、これら分野の価格上昇は、住宅価格の伸びを大きく下回ります。インフレ率と比較すると、住宅価格は、変動も多く、大幅な上昇を記録してきています。豪州の例については以下図表をご覧ください。
豪州におけるインフレ率 vs 住宅価格

影響

足元のコロナ危機において、総合CPIは実際のインフレ率を過小評価していると考えられます。主要なバスケット項目は、コロナ危機以前のものとは異なる状況が続くと見込まれます。更なる経済ショックによって、消費動向においても同様の変化(モノ消費増、サービス消費減)が確認される可能性があるでしょう。消費者物価を理解することで、生活費負担が過小評価されている現状が見えてくるかもしれません。例えば、総合CPIの大幅低下によって、(名目からインフレを差し引いた)実質賃金の伸びが誇張される可能性があります(以下の図表を参照)。生活保護や事業補助金などを含む経済の多くの分野で、CPI連動の仕組みが取られています。

賃金の伸びは低調さが継続

CPIデータにおけるバスケット項目の見直し頻度を高めることは不可能かもしれませんが、現在の様な大規模な経済ショック時においては、消費者を苦しませる生活費といった問題を理解するにあたり、見直しの実施を検討する余地があるのかもしれません。この問題はまた、短期間の大きな価格変動による歪みが少ないコアインフレ率をより幅広く活用する必要がある点を強調していると言えるでしょう。

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