インフラストラクチャー

欧州におけるエネルギー転換PART4:ネットゼロ排出に向けたEUの道筋

エネルギー転換は、大規模かつ複雑な課題です。

1980年代からこの取り組みを続けてきた欧州を例に取り、
全4回のシリーズを通してエネルギー転換を考えます。

PART4:大規模かつ持続可能なインフラ投資による、ネットゼロ排出に向けたEUの道筋

ネットゼロ排出の達成に向けて、EUが電力セクター以外へと取り組みを拡大するにあたり、3つの重要なポイントが見えてきました。

まず最初に、これまでの進捗ペースを考慮すると、まだ30年先であるとはいえ、既存の目標は野心的だという点です。EU目標の達成が期待できるのは、他国よりも積極的かつ強硬な政策に取り組んできた英国のみです。

第2に、画一的なソリューションは存在しないと考えられる点です。当社では、テクノロジーと投資プログラムを組み合わせて実行する方法が望ましいと考えます。

最後に、自国の問題解決に際した最良の方法がどうであれ、以下に代表されるインフラ投資は必要不可欠であるという点です:

  1. より高度で弾力性に優れた電力網
  2. EV充電インフラ
  3. 大量輸送機関向け道路、鉄道、駅
  4. 水素生産、輸送インフラ、CO2回収輸送・貯蔵施設
  5. エネルギー効率の改善に向けた不動産投資

一部の用途(ピークシェービングと呼ばれる季節や時間帯によって変動する需要ピークに対応するための対策、再生可能エネルギー資産の最適化、予測メンテナンスなど)はソフトウエアに関連するものですが、エネルギー移行の中心にあるのは実物資産であり、その投資は今後数十年という長期に渡ってサステイナブルである必要があります。

取り組み強化:フォーカスはエネルギー効率と水素

これまでの欧州エネルギー政策は、排出にフォーカスしたものであり、電力市場では排出削減に向けた様々な取り組みが行われてきました。2050年までのネットゼロ排出達成を目指すEU25に必要なのは、電力セクター以外に目を向け、幅広い分野をカバーする変化を実現することです。

以下の図表では、欧州における最終エネルギー需要の内訳を示しています。

  • 折線は、各セクター(運輸、産業、一般世帯、商業、その他)が占める割合を表します。
  • 棒線は、各燃料(石炭、石油、ガス、電力)の割合を表します。
欧州のエネルギー利用、セクターと燃料別内訳

あまり詳細なデータではありませんが、注目すべき点が幾つか示されています。

  • 商業用不動産や住宅といった建物が最終需要に占める割合は40%弱と、1990年以来若干の増加が続いています。事業者に関しては概ね電化されている一方で、暖房油やガスを利用しない一般家庭がその大半を占めています。
  • 最終需要の35%を占める運輸セクターでは、石油燃料がほぼ100%を占めます。公共交通機関が普及しているにもかかわらず、欧州における石油需要が根強いのはこのためです。
  • 工業利用は、その多くが電化されたことを受けて数十年に渡り低下していると同時に、エネルギーの効率化に向けた取り組みが行われてきました。しかし、石油やガスに依存した熱生産を含むプロセスを低減するのは困難となっています。

以下の図表で示した通り、この現状を踏まえた有望なソリューションが複数浮上しています:

  • 既存政策に沿って発電の脱炭素化を図る事は、電力消費におけるCO2排出削減だけでなく、運輸や家庭暖房といったその他用途の電化を促す点からも重要です。しかしこれを実現するには、再生可能エネルギー発電や電力網、充電インフラなどに対する大規模な投資が必要です。
  • 水素やCO2回収・貯蔵は、産業熱利用において有望であるものの、まだ未熟な技術であり、その事業モデルの開発やインフラ建設・改修が必要です。
  • 現在、航空機のジェット燃料に代わるものは存在しておらず、電気トラックも経済性に劣ります。バイオ燃料をブレンドすることで排出の抑制が可能ですが、これには大規模な農地と水が必要です。水素は最も有望視されているソリューションですが、これもまだ成熟した技術ではありません。
有望なソリューション

欧州のエネルギー目標は妥協案とはいえ、達成には相当の努力を要する

欧州の2020年目標は、2000年代半ばから後半にかけて設定されたもので、2018年に見直しが行われています。新たな短期目標は次の通りです:

  • 2030年までに電力の32%を再生可能エネルギーでまかなう
  • 2007年における2030年見通しに対して、32.5%の省エネを実現26これらを踏まえると、今後10年での目標達成に向けてドイツに課されたチャレンジは、再生可能エネルギー発電を3倍増しつつ、エネルギー需要を現在の2/3に縮小するというものです。

一見すると野心的な目標ですが、EU加盟国が2050年までに排出ネットゼロを実現するには、全くといって不十分です。2030年目標は、気候変動のエバンジェリストと懐疑主義者の意見を折衷した内容で、交渉再開の条項が付いているため、2023年にはこれら目標が強化される可能性があります。

EUそして英国はともに、2050年までの排出ネットゼロ実現を目指しています28

EUでは、2021-27年予算が1.1兆ユーロへと再編され、7,500億ユーロ規模の救済措置が決定しています。これに加え、欧州グリーンディール29の取り纏めが行われており、1,000億ユーロ規模のクリーンエネルギー投資支援だけでなく、リサイクル、炭素市場、農業、エネルギー課税、運輸などの取り組みが盛り込まれています。大規模な取り組みが発表されてはいるものの、EUは実行に際して出遅れる傾向にあり、地域別の取り組みに関する詳細はまだ明らかではありません。

欧州のエネルギー政策目標は、エネルギーミックスと効率性の両点から野心的な内容となっている

25. 2017年に英国の欧州連合離脱の是非を問う国民投票後に法律として成立した目標で、その後2018年に欧州エネルギー政策に組み入れられています。
26. https://ec.europa.eu/clima/policies/strategies/2030_en#:~:text=Renewables%20%E2%80%93%20increasing%20to%20at%20least,was%20revised%20upwards%20
in%202018
27. https://ec.europa.eu/energy/topics/energy-strategy/energy-union_en
28. https://ec.europa.eu/commission/presscorner/detail/en/ip_20_335
29. https://ec.europa.eu/info/strategy/priorities-2019-2024/european-green-deal_en

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