経済&マーケット

RBAが政策金利を0.1%へ引き下げ、量的緩和を拡大: その効果のほどは?

By シェーン・オリバー博士
インベストメント・ストラテジー&エコノミクス担当ヘッド、チーフ・エコノミスト 豪州、シドニー

主なポイント

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豪州準備銀行(RBA)は、政策金利を過去最低の0.1%へと引き下げ、幅広い量的緩和プログラムを発表しました。

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先月発表された連邦予算案と比較すると、経済効果は小さくなると見られますが、借入コストの低下は世帯や企業を財政面で支援し、住宅需要をサポートするほか、豪ドルの上昇を抑制してくれます。

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投資家においては、低金利環境が更に長期化することとなり、次の利上げは早くて2024年となる可能性が高いと見ています。

幅広い量的緩和の拡大

予想されていた通り、RBAは大規模な追加の量的緩和策を発表しています:

  • キャッシュレート、資金調達ファシリティ(TFF)の金利(銀行向け低金利3年ローン)、3年物国債の利回り目標を、以前の0.25%から0.1%へと引き下げました。これにより、政策金利は過去最低に達し、その他主要国とほぼ同じゼロ近辺となっています。
世界の政策金利
  • 国債購入(量的緩和)プログラムの拡大として、3年物国債利回り目標の引き下げに加え、今後6か月において国債80%・州政府債20%の割合で5-10年物債券総額1,000億豪ドルを買い入れます。市場では来年末まで引き伸ばすという見方が多かった中で、想定以上に早いペースで買い入れが行われることになり、RBAは見直しを継続すると語っていることから、更なる拡大の可能性が残されています。RBAは紙幣を新たに発行して市場に出回る国債を買い入れる訳ですから、経済にキャッシュを注入する効果があり、豪ドルの供給量は増加、豪州債券利回りと長期借入コストは低下することになります。連邦政府にとっては、2,140億豪ドルの財政赤字の穴埋めとして発行する国債の約半分をRBAが買い取ることとなり、資金調達が楽になります。
  • 金融政策におけるフォワードガイダンスは、次の様に正式に修正されています:「実際のインフレ率が目標の2-3%レンジで持続的に推移するまで、RBAはキャッシュレートの引き上げを行いません。これを実現するには、賃金成長が現在の水準から大幅に改善する必要があります。これには、雇用の力強い伸びと労働市場のタイト化が不可欠です。」これまでのフォワードガイダンスは、完全雇用に向けた「進捗」が確認され、インフレ率が持続的に目標レンジ内で推移するまでという内容だったことから、利上げ時期が先延ばしとなったことを意味します。RBAは最低でも向こう3年間は利上げを行わないと語っていますが、早くても2024年までは利上げしないだろうと私は感じています。つまり、借り手においては、低金利が数年間維持されるという確信を持って良いと言えます。

 

追加緩和の背景は?

簡単に言えば、RBAの経済見通しは、今後2年間はインフレと雇用目標の達成は見込まれず、回復の道筋はまだら模様で長いものになるという内容だからです。ここ5年の間、インフレ率は目標の2-3%レンジを下回る水準で推移しています。

豪州の消費者物価指数

より重要な点として、コロナ危機による経済打撃によって完全雇用への道のりは更に遠くなっており、RBAは高止まる失業率の対応を重要な国家の優先課題であると考えています。もちろん、財政政策の方が実際に消費を促す効果はありますが、RBAはできる事はやるという姿勢へのコミットメントを維持しており、目標達成が見込めない場合には、何かしらの行動をとるというプレッシャー下にあります。経済が再開する中で、金融緩和の効果が出やすい状況となっており、より早いペースで量的緩和を実施した他国のケースも無視できません。量的緩和については、豪ドルを押し上げる効果があることから、経済回復が減速することになります。

 

インフレ目標を引き下げるだけで十分ではないのか?

価格の小幅な上昇や下落は良い事なのですから、単純にインフレ目標を引き下げれば良いのでは?と考えるかもしれませんが、それはとんでもない話です。

まず最初に、インフレ目標を設定する意義は、インフレ見通しを固定することにあります。結果を受けて目標が頻繁に変わってしまえば、信頼性を失うばかりか、その意味がなくなってしまいます。

第2に、統計上のインフレ率は実際のインフレ率より高くなる傾向にあり、インフレ目標が低すぎると、景気後退時にデフレに突入するリスクとなります。

第3に、デフレが問題となるのは、賃金が低下、失業率が上昇、資産試算価格が下落、実質債務負担が増加する場合です。

第4に、低インフレは賃金の低成長を意味し、これが人々の不満感につながります。

最後に、問題なのは、目標レンジを下回るインフレ率だけではなく、高い失業率や不完全雇用もです。

 

商業銀行はRBAの利下げ分を転嫁するのか?

貯金残高の大半が既にゼロ近い金利であることを考えると、0.15%の利下げ分全てを転嫁する場合には銀行の利益率に圧力がかかることになり、銀行は利益がマイナスになるのは避けたいでしょう。とはいえ、銀行に対して手厚い支援(今回TFF金利は0.15%引き下げられています)を提供しているRBAや連邦政府からの圧力をうけて、銀行は利下げ分の多くを転嫁すると考えられます。もし転嫁しない場合には、社会的な反発を買う羽目になります。標準変動金利を0.1%引き下げ、固定金利を0.2%引き下げるというのも一つの方法でしょう。固定金利の引き下げから恩恵を受けるのは新規顧客のみですが、社会的に良い評価が得られます(RBAの国債買い入れによって債券利回りが低下したことで、借入コストが低下したからこそ出来る取り組みです)。この取り組みは3月にも確認されています。住宅ローン3年固定金利は2.35%近辺と、既に極めて低い水準にあります。

金利は過去最低にある

追加緩和は効果を発揮するのか?

RBAによる追加緩和は、連邦予算案ほどの経済押し上げ効果はありませんが、経済に追加的なプラスの影響をもたらします。まず最初に、0.1%という僅かな金利引き下げであっても、45万豪ドルの住宅ローンであれば、利払いが年間で約400豪ドル少なくなります。豪州の家計債務水準は同銀行預金の2倍超ですから、総合的に見て、家計は低金利の受益者と言えます。第2に、固定金利の低下は新規住宅需要を押し上げます。第3に、利下げ、そして量的緩和拡大を受けた豪ドル供給量の増加によって、豪ドルの上昇が抑制されることで、輸出や輸入業者が恩恵を受けます。そして最後に、RBAによる国債買い入れ拡大によって、連邦政府による赤字財政の運営が楽になります。

 

金融不安のリスクは?

住宅ローン金利の更なる引き下げと貸出基準の緩和(責任ある貸付義務とマイホーム初回購入者向け頭金制度の廃止)を受けて、家計債務水準が更に悪化し、今後金融不安のリスクが高まる可能性は確かにあります。これは、移民が減少する中で住宅価格に調整が入った場合には、特に言えることです。しかし、RBAが足元でフォーカスしているのは、雇用拡大と債務返済問題の回避です。

 

RBAはマイナス金利政策に乗り出すのか?

その可能性は低いと言えます。なぜなら、欧州や日本における効果はまちまちであり、人々が混乱することで信頼感が失われる可能性があるためです。従って、マイナス金利は「極めて可能性が低い」とRBAは定期的に語っています。とはいえ、英国、カナダ、ニュージーランドの中央銀行はマイナス金利を検討しており、他国の中央銀行がマイナス金利政策に乗り出した場合にはRBAに同様の対応を求める圧力が更に強まると考えられるため、その可能性を完全に排除することはできません。しかし、米連邦準備理事会(FRB)がマイナス金利に乗り出さない限り、RBAがそうする可能性は低いと思われます。

 

RBAに残された手段は?

従来の金利引き下げの観点からは、RBAがこれ以上の取り組みを行う事は不可能です。しかし、世界金融危機(GFC)以降、多くの中央銀行が示してきた様に、量的緩和の継続の点で数多くの手段が残されています。

 

投資家への影響

RBAによる利下げが投資家に与える影響は複数存在します。まず最初に、超低金利環境が更に長期化することから、銀行預金は魅力に欠ける投資先となり、同資産を有する投資家においては、その他の代替策を検討する必要があるでしょう。

第2に、低金利環境を受けたイールド追求の動きも継続する見通しであることから、相対的に高い安定した利回りを提供する資産にとってポジティブな環境が続く見通しです。豪州株は、配当が引き下げとなったものの、フランキングクレジットを含む配当利回りは、銀行預金の金利をはるかに上回ります。まずまずのインカム獲得を求めるのか、それともキャピタル保全を望むのか、投資家においては何が重要なのかを検討する必要があります。もちろん、経済活動が後退する場合には状況は悪化することは、言うまでもありません。

銀行預金と比較して、豪州株は魅力的なイールドを提供

第3に、住宅ローン金利の継続的な低下と銀行貸出基準の緩和は住宅価格を後押しするものですが、来年は高い失業率と移民減少の影響が出てくることを覚えておきましょう。住宅市場の見通しは都市間で大きく異なっており、これら各都市における需要は都市中心部よりも郊外で高くなっています。

最後に、利下げと量的緩和の拡大を受けて豪ドルの上昇が抑制されますが、世界経済が回復を続ける場合には、来年にかけて上昇する可能性が高いと考えられ、その場合には商品価格を押し上げることになります。

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