世界的な経済活動の中断によって上昇する失業率への注目が集まっています。しかし、ニュースヘッドラインからは見えてこない現実があります。それは、雇われる身の人々にとって、世界的なパンデミックによって新たな職場の苦難が到来しているのです。
コロナ禍を受けて、労働者の権利を巡る経済の構造的な問題が明るみに出ています。失業率の上昇により、均衡勢力は被用者から雇用者へと確実にシフトしています。収益圧迫に苦しむ企業がコスト管理に乗り出した結果、一部では一環として賃金や手当、条件などを失った人も出ています。
社員の正当な待遇を目指す企業も多数存在するとはいえ、サプライチェーンにおける労働者の搾取は重大なリスクとなっています。
新しくも、似た形態
失業率が上昇する局面において、労働者は通常よりも悪い条件を承諾する傾向にあることは、十分裏付けされています1。最も貧弱な立場にあるのは、新規失業者そして搾取的かつ不安定な労働環境で働く人々2です。
Eコマースの拡大と新たな需要の高まりを受けて、アプリを活用したオンラインの食品デリバリー・サービスなど、全く新たな規制の緩い産業が多数誕生しており、これら貧弱な立場にある人々は、構造的に異なった労働環境へと流れています。
これら産業には、責任あるプレイヤーとそうではない悪役が存在します。これら事業を取り巻く規制は、請負業者の独立性、そして正社員を希望する人々の搾取の可能性とのバランスを保つことを目的とするものです。しかし、問題は景気後退です。正社員を希望する労働者が増加することで、労働者全体の賃金や条件が引き下げとなり、搾取のリスクが浮上します。新型コロナウイルスのようなパンデミック発生時においては、サプライチェーン上で最も消費者近くに位置するのがこれら労働者であり、ソーシャルディスタンシングによる感染防止が物理的に不可能となるなど、この問題は更に悪化します。
搾取のリスクは、ギグエコノミーに限ったものではありません。米国の食肉処理場では、日常生活に必要な「エッセンシャル事業」として営業を許可された事業が、その特権(作業員が新型コロナウイルスに感染した場合にその責任が制限される)を悪用したとして非難を受けています。豪州でも、連邦政府による労働者支援プログラムを不正利用する企業が報告されています。
状況は先進国でより深刻です。バングラデッシュだけでも100万人以上の衣料作業員が職を失っています。国際労働機関(ILO)からは、賃金未払い、過密かつ不十分な住まい環境、行動制限の強化、強制復帰など、状況の悪化が報告されています。
出稼ぎ労働者は高リスク
特に懸念されるのは、出稼ぎ労働者が置かれている環境です。シンガポールを襲った感染第2波は、物理的な距離を保つことが不可能なほど混雑した寮で生活していた出稼ぎ労働者から発生しています。一方中東では、アフリカやアジアからの出稼ぎ労働者が地元国民を超える数に達している国々において、労働者が安全とは言えない環境でのロックダウンを強いられ、一部では大勢の労働者が母国に送り返されたりしています。
不法滞在も、出稼ぎ労働者にとって搾取リスクを高めます。不法滞在者は、帰国に十分な資金を持っておらず、帰国しても収入を得られないなど問題を抱えており、その多くは、旅費や仕事の紹介など仲介料を支払うために借金を負っています。また、出稼ぎ労働者は主に在宅勤務が難しい業種で働いており、政府の賃金支援を受けることもできません3。結果的に、感染リスクや条件に関係なく、労働を続けることになるのです。
組織犯罪団体による搾取リスクを背景に、イタリアは不正滞在している出稼ぎ労働者に対して、一時労働許可を与えています。
投資家ができること
コロナ危機を乗り越えるためには、企業に時間と余地を与える必要がある事を投資家は意識する必要があるでしょう。被用者に対する責任を果たさない企業や、サプライチェーンにおいて十分な搾取対策を怠る企業は、注視が必要です。
一部の国では、これらの問題に関する十分な開示が要求されるようになっています。英国現代奴隷法では、企業は詳細なリスクと低減のプロセスに関する現代奴隷法に関する表明を求められています。豪州でも、12月から大手企業に対して類似する報告義務が課せられることになります。投資家が労働者保護に関する企業の実績を知るにあたっては、基礎的な情報源として、これら表明が有効なツールとなります。
更なる対応として投資家が最初に行うべきは、企業の取締役や経営陣とのエンゲージメントであり、サプライチェーンのリスクに対する懸念を表明し、モニタリングと評価プロセスの変更を要求します。ウェブサイトにおける工場一覧の公開やオックスファムなど民間団体による現地調査など、投資家として様々な要求を提示することが可能です。
発覚している深刻な問題への対応がなされない場合には、より過激な方法として、株主年次総会において経営陣の撤退を求める等の方法があります。
世界を苦しめるこのコロナ危機においても、正当に従業員を取り扱う企業は数多く存在することを忘れてはなりません。雇用者としての責任を怠る企業を非難するだけでなく、労働者やサプライチェーンの保護に最大を尽くす企業についても広く称賛すべきでしょう。
1 一例:Stewart M. & Swaffield J(1996年)、「Constraints on the desired working hours of British men」, University of Warwick Working Paper No. 468、1996年7月
2 Al Jazeera、「Coronavirus exposes UK low-wage essential workers to exploitation」
3 奴隷・人身取引廃止における企業責任(CREST、Corporate Responsibility in Eliminating Slavery and Trafficking)
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