経済&マーケット

ラッキー・カントリー:豪州がこの暗黒時代を他国よりも上手く乗り越える事ができる理由3つ

By シェーン・オリバー博士
インベストメント・ストラテジー&エコノミクス担当ヘッド、チーフ・エコノミスト 豪州、シドニー

主なポイント

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新型コロナウイルスの「感染対策」において、その他数多くの国よりも優れた結果を出している豪州は、より強力な経済政策対応を打ち出しており、その主要貿易相手国では、世界より2-3か月早く経済回復に向かっています。

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もしこれらが、当社の予想通りに豪州経済の比較的力強い回復をもたらす事になれば、グローバル資産と比較して豪州資産が恩恵を受ける事になるでしょう。

はじめに

森林火災が猛威を振るっていた2020年1月、私は豪州の運が尽きたのではと懸念をしていました。しかし今は、俗称「ラッキー・カントリー」と呼ばれる豪州に住んでいる自分を幸せに思っています。1964年にドナルド・ホーン氏が著した本のタイトルであるこのフレーズは、豪州人を「運だけが良く、努力をせずに繁栄を謳歌する月並みの人々」と表現するものであり、私は常にこれは否定的すぎると感じていました。時にはその様に見える事もあり、間違いを犯す事もありますが、本当に重要な局面における豪州の指導力は、評価に値するものだと思っています。特に、危機の局面においては。1980年代のホーク政権やキーティング政権下では、豪州経済の国際化と現代化が進みました。また、世界金融危機(GFC)時、迅速に政策対応を打ち出したことでリセッションを回避したのも豪州です。このコロナ危機も、豪州がその実力を見せつける新たな局面となるでしょう。

もちろん、新型コロナウイルス感染の完全なる封じ込めにはまだ成功しておらず、今後も落胆させる内容の経済指標の発表が予想されています。高い頻度で集計される多様なデータを元に当社が独自で取り纏めている経済活動トラッカーによると、豪州経済は現在、1年前の水準を40%下回るレベルで推移しており、これはシャットダウンの影響が大きい要素が大部分を占めている様子を反映しています。

豪州経済活動トラッカー

4月の最低水準から回復が見られている点は朗報ですが、公式の統計は今後悪化が予想されています。失業率は先月10%近辺まで上昇した可能性が高く、20%を記録した大恐慌時以来の高水準となる見通しです。今月発表が予定されているその他データも、今年1-6月期における10-15%のマイナス成長を反映した内容となる模様で、信頼感がさらに低下するリスクとなっています。

しかし、その他多くの国と比較しても、豪州がこの世界的な危機を上手く乗り越える事ができることを示す3つのポイントがあります。つまり、豪州経済の縮小幅は他国よりも小さく、素早い回復が可能である事が示されており、最終的には、他国の資産よりも豪州資産により多くのプラス効果をもたらすと考えられます。

 

ポイントその1:新型コロナウイルスの感染対策において、豪州は他国よりも優れた結果を出している

3月下旬、世界では感染の悪化が見られる一方で、新型コロナウイルスの感染対策に成功した豪州の例は、世界的にもトップクラスと言えるでしょう。豪州では、新規感染件数の急増を受けて、3月22日前後にシャットダウンが実施されました。2-3件のクラスター感染がまだ問題ではあるものの、3月末にピークを迎え1日当たり500名を超えていた新規感染件数は、その後同30名へと減少しています。一方米国では、山場を越えた可能性があるとはいえ、新規感染件数は平均して1日当たり29,000人といまだ高い水準にあります。

OECD加盟国における新型コロナウイルスの感染対策(回復率、人口1人当たり陽性件数、人口1人当たり検査実施件数、最初の感染が確認されてからの経過日数に基づいて調整した感染件数)を比較しても、世界トップは豪州、次いでニュージーランドとなっています。これに対し、日本は17位、イタリアは28位、英国は31位、スウェーデンは36位、米国は最下位の37位です。

OECD加盟国における新型コロナウイルスの感染対策

気候の良さ、それ程混雑していない生活、若い人口、そして運が寄与しているのかもしれませんが、最大の要因と考えられるのは、強がりや途方もない理論ではなく、医療専門家の助言に基づいた公衆衛生対応であり、正しい行動に向けて一丸となった豪州国民がこれを後押しした結果です。豪州とは対照的に、欧州や米国の対応はスピードに欠けています(例:イタリアとスペインでロックダウンが開始したのは100万人当たり新規感染件数が30前後に達した時期であるのに対し、豪州では同12件前後の時期に開始されています)。そして豪州は、ニュージーランドの様な厳格なロックダウンを実施することなく、同様の感染対応結果を達成することができたのです。

豪州における優れた感染対応が意味するのは次の2点です。まず最初に、医療体制の逼迫が回避されたことで、入院が必要な患者の受け入れが問題なく行われています。この結果、豪州は、他国よりも多くの命を救う事に成功しています。豪州の死亡者数が100万人当たり3.9人であるのに対し、ドイツは同84人、米国は同221人、スウェーデンでは同280人、英国は同443人、そしてイタリアでは豪州の124倍となる同485人という結果になっています。救われた命の価値は、シャットダウンによる経済への打撃よりも大きいのです。

100万人当たりの新型コロナウイルス死者数

新規感染者数の減少が見られない米国とは対照的に、豪州では早期における経済再開の余地が生まれ、感染拡大の第2波が回避されるという信頼感も高まります。豪州連邦政府からは、5月中の段階的なシャットダウン緩和開始に向けて、良好な進捗が確認されていることが示唆されており、ほぼ全ての事業が7月までに再開する見通しです。

 

ポイントその2:豪州は卓越した政策対応を打ち出している

世界各国の政府が、新型コロナウイルスによる経済への打撃に対応するため打ち出した政策措置は、大規模なものでした。しかし多くの国では、政策措置の大部分を占めるのは、支出や減税など実際の財政刺激策ではなく、ローンや債務保証となっています。例えば、事業を維持するために、ローン(またはその保証)を提供するのか、賃金補助金を提供するのか、という違いです。

豪州はG20中最も充実した財政対応を打ち出している

ローンや保証は役に立つものの、事業を更なる債務の罠に陥れます。一方、実際の財政支援は直接的な刺激を与えるものです。つまり、財政支援の方が優れた措置であり、豪州ではGDPの10.6%に匹敵する規模のG20中最も充実した財政刺激策が打ち出されています。さらに、豪州における支援策の中核を成す「ジョブキーパー」賃金支払い助成金制度は、その他多くの国が導入しているアプローチよりも優れた仕組みとなっており、雇用者を維持することで失業率の上昇を巡る信頼感の低下を最小限に抑制し、雇用者と被雇用者の関係や賃金支払いを助けし、行き詰まった事業に補助金を提供するものです。失業率は10%辺りまで上昇する可能性が高いものの、ジョブキーパー制度がなかった場合の15%や、米国の20%近辺という失業率よりも相当ましであると言えます。

 

ポイントその3:豪州の主要貿易相手国は、世界より2-3か月早く経済回復に向かっている

豪州にとって最大の輸出相手国は、輸出全体の1/3を占める中国です。中国経済の回復は世界の2-3か月先を進んでおり、そのフォーカスはインフラ支出に置かれています。(豪州は純輸入国である)原油の価格と比較しても、豪州の主要輸出品である石炭価格がまずまずの推移となっているのは、このためです。

 

豪州経済への影響

現在有望視されている通り、ロックダウンの段階的な緩和が今月中に実施される場合、豪州における経済活動の底入れは4月となり、今年下期には成長に回帰する見通しです。とはいえ、全てが素早く正常化するという事ではありません。「感染拡大の第2波」リスクを低減するためにもロックダウン緩和は段階的に実施されることから、不透明感が残り、債務水準は上昇、事業モデルも新たなやり方への適応が必要となります。例えば、オフィス勤務のスケジュールをローテーションで組んだり、再開した店舗やレストランではソーシャルディスタンスのルールが敷かれる可能性などが考えられます。国内旅行は数か月後に再開するかもしれませんが、ワクチンが開発されない限り、海外旅行が今年中に再開する可能性は低いでしょう(ニュージーランドは除く)。成長への回帰が見込まれるとはいえ、豪州の経済活動がコロナ危機以前の水準に戻るのは、来年末頃となる見通しです。

抜き出た感染対策の結果と感染拡大第2波のリスクが低いということは、経済の保護にも優れていると言え、強靭な政策対応と中国のエクスポージャーを考えると、豪州経済の縮小幅は他国よりも小さく、その回復ペースはより速いものとなる見通しです。

観光と移民なしでは豪州の回復は不可能だと懸念する声も多く上がっていますが、これは間違いです。豪州経済への打撃において渡航禁止による影響は微々たるものです。実際のところ、観光産業の貿易赤字はGDPの1%程度でしかなく、(海外旅行者の来豪から得る収入よりも、豪州国民の海外渡航から発生する支出の方が大きいため)海外旅行禁止は豪州GDPにとってはプラスです。一方で、教育産業の貿易黒字は同2%であることから、海外からの留学生が減少すれば、この収入を失う事になります。これと同様に、経済成長における移民の寄与度も年間で同1%弱となっています。しかし、国内のシャットダウンによる影響で経済活動が10-15%縮小したことで、これらは全て小規模に見えています。一方で、検査や自宅待機などの強制措置を設ける事で、6-9か月後には海外留学生や移民の受け入れ再開が可能となると考えることもできます。

 

注視すべきリスク

注視すべき主要なリスクは次の通りです:感染拡大の第2波によって、ジョブキーパー制度の対象期間である6か月を超える新たなシャットダウン措置が講じられること;求職者の増加と銀行ローン返済猶予の増加;ロックダウンによって住宅価格が暴落し、豪州経済に深刻な2次的影響をもたらすこと ― この点は、ロックダウンが9月以降も継続する場合、より大きなリスクとなります;新型コロナウイルスの発生源を巡る政治的緊張の高まりによって、豪州・中国間の貿易関係が何らかのダメージを受ける可能性。

 

投資家への影響

優れた感染対応の結果、力強い経済政策対応、回復しつつある中国経済へのエクスポージャーを背景に、豪州経済が当社の予想通りに比較的力強い回復を見せるとするならば、グローバル資産と比較して、豪州資産が恩恵を受ける事になるでしょう。これは、足元で見られている豪ドルの上昇を通じて確認されるかもしれません。

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