主なポイント
豪州の財政赤字は、2020/2021年度に2,000億豪ドル、対GDP比で約10%という第2次世界大戦後最も高い水準に達する見通しです。
対GDP比で見ると、純債務残高は今後数年で2倍近くまで拡大すると見込まれています。
しかし、財政刺激策はより悪い結果を回避するために必要なものであり、豪州の公的債務は比較的低水準にあることや、支援策は不要であれば段階的に縮小されること、政府の借入コストは極めて低いことから、豪州は財政赤字と公的債務の拡大に耐える事ができます。
豪州経済の成長と債務水準の引き下げにおける最良のアプローチは、生産性向上を目指す経済改革であり、10月の予算編成における注目点となるでしょう。
はじめに
本来であれば、豪州予算案の発表日となっていた5月12日。財政の黒字回復が発表されていたはずですが、コロナ危機の発生を受けて、豪州の家計や事業、雇用を支援するために黒字化は先送りとなりました。経済への影響を巡っては不透明感が極めて高く、詳細な財政見通しを示すことは無意味であるため、予算案ではなく新型コロナウイルス感染を受けた連邦財政報告が行われました。フライデンバーグ財務相は、連邦議会でコロナ危機の経済的インパクトを報告し、財政収支のアップデートは6月、そして連邦予算の編成は10月に延期されています。
すでに良く知られているコロナ危機の経済的影響に関して、ここで再び掘り下げることはしませんが、フライデンバーグ財務相の発言における2つのポイントを取り上げます。まず最初に、当初600万人を想定していた「ジョブキーパー」給与補助金制度の受給者が550万人超に達している点です。そして、債務返済における最良の方法は、社員のトレーニングや教育、インフラ、煩雑な手続きなど非効率性からの脱却、税制や労使関係の改正に注目した生産性向上の改革であると強調した点です。つまり、10月の予算案では、コロナ危機終息後の景気回復をサポートする改革が焦点となる可能性が高いと考えられます。
ここでは、当社独自の財政赤字見通しと純債務残高への影響を取り上げ、豪州がこれに耐える事ができるのかを見ていきます。
財政赤字見通し
次の図表では、昨年12月に発表された年央経済財政見通しに基づいて当社が作成した、財政赤字のざっくりとした見通しを示しています。

「政策の変更」においては、今年3月までに発表された政策支援パッケージ3つ、3月に発表されたヘルスケア支援パッケージ、保育や森林火災関連を含むその他多様な産業向け支援パッケージを反映しています。中でも大規模なのがジョブキーパー制度の1,300億豪ドルで、これから9月にかけての本年度と来年度に集中しています。経済の再開時期は政府予想よりも早まる可能性がありますが、ジョブキーパー制度においては、補助金が不要となった受給者から必要な人へと資金を振り当てることで、1,300億豪ドル全額が活用されると想定しています。州政府の財政刺激策も合わせると、支援パッケージの総額は対GDP比で今年10.6%となり、世界金融危機(GFC)時を大きく上回る規模となっています(GFCによる経済敵打撃がはるかに小さかった事を考えると、これは当然のことです)。

経済への打撃は、政府歳入への打撃であり、既存の歳出プログラムにおける支出需要が増加することを意味します。これは、「パラメーターの変化」として表示しています。経済打撃の程度と回復のスピードが不透明であることから、これらの数値は今のところ推測でしかありません。しかし、連邦予算への影響は今年度よりも来年度に大きくなりそうです。これは、今年度6.3%が見込まれている失業率平均は、来年度に8.5%へと上昇するためで、政府歳入の減少と歳出の増加に関する目安を示しています。
簡単に言えば、豪州に必要な政府の財政支援対応と経済打撃による予算への影響を受けて、財政赤字は今年度1,300億豪ドル、来年度は2,000億豪ドルへと膨れ上がるものの、その後支援プログラムの終了と景気回復とともに、2021/22年度に大幅に縮小する見通しです。
これによって、財政赤字は2020/21年度に対GDP比10%程度でピークを打つこととなり、第2次世界大戦後最高水準に達する見通しです。

豪州の公的債務残高は、今後数年をかけて対GDP比20%近くまで拡大することになります。
豪州は膨張する財政赤字と公的債務を乗り切れるのか?
望ましい状況とは言えませんが、豪州は問題なく乗り切る事ができます。まず最初に強調したいのは、刺激策は絶対に必要であるという点です。政府によるロックダウン措置の実施がなければ、医療が破壊し、現在確認されている97名よりも多くの死者が出ていたことでしょう。豪州における死者数は100万人当たり4名ですが、英国やイタリアの様に同500名となっていた場合、12,500人の豪州国民が命を落としていたことになります。連邦政府が、RBAや州政府とともに、雇用や事業、収入の保護対策を講じていなければ、ロックダウンによる経済への打撃ははるかに大きくなっていたと想定され、今後の景気回復ペースも相当遅いものとなるでしょう(恐らく、財政赤字と公的債務の拡大幅も大きくなると考えられます)。違う見方をすると、今年下期における対GDP比10%程度の経済への打撃を相殺するには、同規模の刺激策が必要だということです。
第2に、ロックダウンや不透明感から消費が減少するこの局面において、公的部門が世帯や事業から借入し、その資金をコロナ危機から直接的な影響を受ける事業や個人に割り当てるのは理にかなった行動です。ジョブキーパー給与補助金制度を通じた資金の活用は、賢い選択でした。これによって、雇用が維持され、雇用者と被雇用者の関係が保たれることで、失業率上昇を受けた信頼感の低下を最小限に抑制してくれるからです。
第3に、支援プログラムは、経済サポートが最も必要となるであろう時期の4-6月期と7-9月期に焦点を置いた設計となっています。上記の図表からも明らかな通り、政策刺激策は2021/22年度から段階的な縮小が図られます。つまり、現行の法令によれば、歳出の永久的な拡大は確認されていないという事になります。この点は、GFC後の状況と対照的です。
第4に、豪州の純債務残高は対GDP比23%と、米国の84%やユーロ圏の69%、日本の154%と比較しても低水準です。次の図表をご覧ください。IMF見通しによると、財政赤字を受けて豪州の純債務残高は対GDP比+17%になるとはいえ、それでも2年後の残高は同40%と比較的小規模なままです。つまり、豪州に残されている財政刺激策の余地は、他国よりも大きいという事になります。

第5に、連邦政府の借入コストは3年が0.25%、10年が0.95%と極めて低い水準にあります。もちろん、これは流通市場におけるRBAの債券買い入れによるものですが、この買入措置がなかった場合でも、シャットダウンによる経済への打撃によって債券利回りは低水準となっていたことでしょう。RBAによる国債購入の奇妙な点は、連邦政府がRBAに対して行う国債利払いのほとんどは、配当として連邦政府に戻ってくるという点です。
最後に、財政赤字の悪化を埋めるために豪州連邦政府が行っている借り入れは、豪ドル建てです。そして近年では、大幅な経常赤字から黒字回復又はそれ近くまで収支が改善しています。つまり、対外債務に頼り、外国通貨危機のリスクを増大させているという事ではありません。
最後に
豪州連邦政府の財政赤字と公的債務の膨張は、好ましい展開ではありません。しかし、新型コロナウイルス感染拡大による死亡者やシャットダウンによる人々の生計への影響を最小限に抑えるためには、必要な痛手です。債務水準の引き下げに関しては、減税措置の廃止や増税よりも、一時的な赤字課税が好ましいと言えます。しかし、私の意見はフライデンバーグ財務相と同じく、経済改革アジェンダの再活性化を通じた経済成長こそ、債務水準引き下げの最良な手段であると考えています。
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