豪州

試された道すじ:豪州における退職制度の進化

先進国を悩ませる人口の高齢化。これは、中でも日本にとって喫緊の課題と言えるでしょう。

国民年齢の中央値が46.9歳である日本は、モナコを除き、世界で最も高齢な国です1。一方、日本よりもそれが8歳以上若い豪州は、世界57位にランクしています。日本において、65歳以上の高齢者は人口の約1/4を占めており、2060年には40%へと拡大する見通しです2

65歳以上の年金年齢人口を20-64歳(日本の統計局による定義では15-64歳)の労働年齢人口で割った「老年人口指数」は、世界各国の若さを図る物差しです3。この指数においても、世界最下位に位置するのは日本です。

多くの観点から、人口高齢化を受けた課題への取り組みを先行するのは日本と言っても良いでしょう。ここで、AMPキャピタルの本拠地である豪州の例が参考となる分野があります。それは、スーパーアニュエーションと呼ばれる強制加入の年金制度です。

 

豪州の制度

退職所得は、豪州政府が常に取り組みを続けてきた分野です。1901年に調印された連邦憲法によって、障害及び老齢年金に関する権限を連邦に付与しています。実際のところ、今から100年近く前の1923年、当時の連邦政府は王立委員会を設置し、退職・病気・障害に関する包括的な国民保険制度の確立に向けた調査に着手しています4

スーパーアニュエーション保証制度が導入されたのは1992年です。これにより、被用者に代わり、雇用者によるスーパーアニュエーション・ファンドへの掛金拠出が義務付けられました。当初の掛金率は被用者給与の3%でしたが、その後引き上げとなり、現在は最低9.5%に設定されています。

その頃、約1,480億豪ドル(950億米ドル)と推定されていたスーパーアニュエーション資産規模は、2019年年末時点で3兆豪ドル(1.9兆米ドル)へと拡大しています。米ドルベースでみると、ここ10年で年平均成長率10%を超えるペースに匹敵し、デロイトのレポートでは、今後20年で10兆豪ドル近くに達する見通しであることが示されています3

スーパーアニュエーション資産の成長見通し

新型コロナウイルスのパンデミック発生以前に、デロイト・アクチュアリーズ・アンド・コンサルタンツ社が発行したレポートに含まれるこれら見通しは、2020年7月までに実施される掛金率の9.5%から12.0%への引き上げを反映したものです。

同レポートによると、現在の低金利環境においても、スーパーアニュエーション基金のリターンは堅調さ維持されています。短期的なボラティリティにもかかわらず、これらファンドの中期リターンは良好で、リタイアメント時の平均残高が拡大しています。さらに、スーパーアニュエーション加入者の多くは、労働生活の大部分において掛金の拠出を受けています。

豪州のリタイアメント制度は、人口の高齢化を受けた資金問題に対応するため、3つの柱で構成されています。

豪州の年金制度:3つの柱

2019年2月時点で、豪州は世界で4番目の規模を誇る年金市場へと成長しており、世界で最も高い成長率を記録していました5

豪州の年金制度の特徴は、確定拠出型(DC)がメインとなっている点です。20年以上前に確定給付型(DB)が段階的に廃止となり、現在は資産の約86%がDCとなっています6

世界の主要な年金市場:DC/DBの内訳(%)

豪州の年金基金モデルにおける鍵は、DC制度が優勢な点にあります。未積立債務を巡る懸念から、豪州政府はDB制度の廃止に乗り出しました。これによって、リタイアメント貯蓄の責任は、政府から個人と雇用主に移行しました。

年金資産の成長ペースは、対GDP比の割合からも明確です。10年前は67%7であった豪州の年金資産は、今日150.9%まで拡大しています8

市場別年金資産規模

ウィリス・タワーズ・ワトソンによるレポートでは、強制加入に基づく拠出、競争力に優れた制度モデル、DCの優勢を豪州の成功例における重要な特徴として挙げています。

(公的高齢年金の受給要件は厳格化しています。現在65歳6か月に設定されている支給開始年齢は、4年後に67歳へと引き上げられる予定です。)

このスーパーアニュエーションの力強い成長を背景に発展したのが、合同運用ファンドの分野です。専門性と効率性に優れる同分野の大部分を占めるのは、リテールファンドや産業ファンド、自己運用型のセルフ・マネージド・スーパーアニュエーション・ファンド(SMSF)です。

豪州健全性規制庁(APRA)によると、SMSFがスーパーアニュエーション総資産に占める割合は約28%、リテールファンドが25%、産業ファンドは23%となっており、残りは公共セクター・ファンドと企業ファンドが占めています6

AMPキャピタルは、機関投資家や個人投資家、そしてSMSFを対象にサービスを展開する資産運用会社で、資産総額2,031億豪ドルの運用を手掛けています9

年金資産がその多くを占める豪州の合同運用ファンド業界の良い所は、投資ホライズンがより長期であるという点です。つまり、ここ最近金融市場を襲ったボラティリティの高まりを、見越すことが可能なわけです。投資家が退職間近でない限り、スーパーアニュエーションは極めて長期の投資であるとAMPキャピタルのチーフエコノミストであるシェーン・オリバー博士は指摘します。

「最近の様子からも明らかな通り、株式の様な成長資産のパフォーマンスは、債券やキャッシュを下回る時期があるものの、リタイアメント貯蓄の育成に欠かせない優れた長期リターンを提供してくれます。スーパーアニュエーションがこのエクスポージャーを高く持つ事は、理にかなっていると言えます。私たちのアプローチは、スーパーアニュエーションと株式の投資は長期だという点を認識する事です。」

豪州におけるスーパーアニュエーション・ファンドのパフォーマンスは堅調さが続いており、過去5年の年率リターン平均は、低金利環境にありながらも、6-9%を記録しています10。2019年12月末時点における推定資産アロケーションは、国内外株式51%、債券&キャッシュ31%、不動産&インフラ14%で、その他主にヘッジファンドやコモディティは3%となっています。

スーパーアニュエーションにおける推定資産アロケーション

豪州の年金制度にも欠点は存在します。生産性委員会の報告では、現代における働く人のニーズと退職者の増加に合わせて、スーパーアニュエーション制度自体の改革も必要であると指摘されています。

スーパーアニュエーション制度の導入によって浮上した構造的な問題は、一個人につき多数の口座が開設された点です。加入者が転職する際、転職先でファンドを指定する書類手続きを行わなければなりませんが、これを怠ったことから、転職先のデフォルト(標準)ファンドに拠出が行われてしまった結果、複数のスーパーアニュエーション口座が解説され、それぞれにおいて手数料が請求されるという事態が発生しました。

同レポートはまた、一部のファンドが安定した高リターンを創出している一方で、そうではないファンドも存在する点を指摘しています。生産性委員会報告書、APRAによる分析、アドバイザーの意見が示しているのは、拠出が義務付けられている豪州のスーパーアニュエーション制度が豪州経済を支えているという点です。

莫大な規模を誇るスーパーアニュエーション制度を保護するために、連邦政府は継続的な取り組みを行っています。APRAが指摘する通り、「退職所得を提供するリタイアメントスーパーアニュエーション制度は誇らしい成功である一方、その見直しや改善、改革のニーズに終わりはありません。」

2019年9月、フライデンバーグ財務相は退職所得制度の見直しを発表しました。これにより、豪州のスーパーアニュエーション制度が登場して以来27年目にして初の見直しが実施されます。上記の3つの柱が見直され、個人による退職資金の積立運用におけるインセンティブや制度の持続可能性などの検討が行われます。これらは、退職所得制度の継続的な改善の一環です。

 

最後に

豪州のスーパーアニュエーション制度は、常に進化を続けています。足元では、新型コロナ危機の支援としてスーパーアニュエーション資金の引き出しルールを緩和し、今年度と来年度にかけて1万豪ドルの引き出しを2回可能とするなど、豪州国民へにサポートを提供しています。これまでに引き出しを申請した人は約120万人に上っています。早期引き出しは新型コロナ危機後の回復を取り逃すリスクではあるものの、豪州のスーパーアニュエーション制度の巨大さと強靭さを示すものです。

世界経済のミドルパワーである豪州にとって、世界成長への寄与度は限定的です。しかし、豪州がグローバルリーダーとしての力を立証し、一目を置く経済を有する分野は、今後何十年という長期に渡って存続する退職貯蓄制度と言えるでしょう。

 

豪州の年金制度や歴史に関するお問い合わせは、こちらからどうぞ。

AMPキャピタルが提供するリタイアメント・ソリューションについては、ゴールベース投資をご覧ください。

1. World by Map
2. 世界銀行データ
3. デロイト、「Dynamics of the Austraian Superannuation System: The next 20 years to 2038
4. 豪州連邦政府
5. ウィリス・タワーズ・ワトソン
6. 豪州健全性規制庁(APRA)
7. オーストラリア貿易促進庁
8. ウィリス・タワーズ・ワトソン、「Global Pension Assets Study – 2020
9. 2019年12月末時点。全額投資済みベースのドローダウン総額。
10. APRA、「Quarterly Superannuation Performance Statistics Highlights」、2019年12月

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