経済&マーケット

コロナショックからの中長期的な影響

By シェーン・オリバー博士
インベストメント・ストラテジー&エコノミクス担当ヘッド、チーフ・エコノミスト 豪州、シドニー

主なポイント

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コロナショックによる主な中長期的影響は次の通りです:低金利環境の長期化継続、グローバル化への更なる打撃、米中冷戦の対立激化、政府・公的債務の膨張、長期的なインフレ上昇リスク、消費者と投資家の警戒心、テクノロジーの受け入れ加速、航空事業への打撃、再び試されるユーロ圏、入国者・移民の減少。

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これらの多くは経済成長の足枷となりますが、テクノロジーの受け入れ加速は景気拡大に寄与するプラス要因です。

はじめに

経済活動、失業率、金利、住宅価格、株価など、コロナ危機が経済や投資にもたらす短期的な影響を巡っては、大規模な議論が繰り広げられています。しかし、コロナショックは壮大な規模であり、中長期的な影響も避けられません。今後の見通しを考えるにあたり、現状に重点を置き過ぎるのも危険ですが、このレポートでは10の中長期的な影響を考えていきます。

 

その1:低金利環境の長期化継続

経済活動は大きな打撃を受けており、積みあがった余剰生産能力を解消するには数年を要するでしょう。グローバルそして豪州の経済活動がコロナ前の水準に戻るのは、2021年年末または2022年頃となる見通しです。

豪州GDP

もっと時間を要すると考えられるのは、上昇は早く、低下は遅い失業率です。ということは、少なくとも今後3年は低インフレ又はデフレ圧力がかかる見通しです。従って、各国中央銀行の姿勢は数年にわたって低金利バイアスとなることから、債券利回りは超低水準となるでしょう。

他の見方をすれば、経済活動への打撃によって、通常の場合、金利はより大幅に低下する事になります。世界金融危機(GFC)時、豪州の政策金利は4.25%まで引き下げられています。しかし今回については、既にゼロ近くにある金利を更に引き下げる事は不可能です。つまり、金融緩和は量的緩和を通じて行われることになります。とはいえ、制約がなければ、豪州の政策金利は-3.0%程度まで低下することとなり、その場合0.25%に戻るのは早くて2023年となるでしょう。当面は、数年間にわたる超低金利環境が継続する見通しです。豪州準備銀行(RBA)が3年国債利回り目標を0.25%、3年間の銀行向け融資利率を0.25%に設定しているのも理解できます。

影響:低金利環境下では、銀行預金や債券からのリターンは極めて低くなりますが、収益や賃料への影響が落ち着いた後には、株式や不動産やインフラといった高利回り資産の魅力が高まります。

 

その2:グローバル化への更なる打撃

トランプ政権やブレグジット、一部の国における移民受け入れ制限からも明らかな通り、グローバル化は近年後退してきています。新型コロナウイルス感染拡大を受けた経済活動の中断が、これを加速させています。医療機器・用品の供給懸念を受けて国内供給への圧力がかかっており、今後はこれが食料安保へと広がる可能性があることから、サプライチェーンの国内回帰に向けた取り組みが進んでいます。海外渡航は健康上の理由から禁止されており、国境が再開する見通しは立っていません。

影響:結果的には、単純に中国依存から新興国への分散化に落ち着く可能性がありますが、リスクなのは新興国における全体的な成長余地の縮小です。経済以外の観点からサプライチェーンが管理されるようになれば、より長期では生産性低下の可能性も出ており、グローバル経済から主要なデフレ圧力が消え去ることになりかねません。

 

その3:米中冷戦の対立激化

2018年から2019年にかけての米中貿易戦争は、今年1月に第1段階の合意に達しています。しかし、コロナ危機を受けたシャットダウンによって中国の対米輸入が合意額を下回っているほか、失業率上昇とリセッション局面で再選した大統領は存在しないことからも、11月の米大統領選挙におけるトランプ大統領の再選が難しくなっています。そして、トランプ大統領のコロナ危機対応も非難を浴びていることから、トランプ大統領は非難の矛先を中国に向けています。同氏は既に「脅し」をちらつかせ、制裁を強化しています。現時点において、トランプ大統領の支持率は以前とほぼ変わらない水準にあり、(合意撤回や追加関税など)より大きなリスクを取りに出る大胆な行動を決断する程の支持率低下は見られていません。しかしながら、今後再選の可能性が大きく後退する場合には、中国に対して悲観的な見方を持つアメリカ人が2018年の48%から現在66%に拡大している事からも、トランプ大統領は失うものは何もないという結論に達する可能性もあります。この中国に対する米国人の見方が示唆するのは、民主党の大統領が誕生した場合でも、より外交的とはいえ、中国に対する強固な姿勢が維持されるであろうという点です。つまり、米中貿易戦争のリスクは高まりつつあります。

影響:この点は、経済成長や多国籍企業の足枷となり、株価にもマイナスの影響を及ぼす可能性があります。豪州にとっても脅威ですが、豪州が全般的に中立の立場を維持する場合、(最近大麦と牛肉を巡る緊張が高まったものの)豪州の対中輸出の多くは中国の国内消費向けで、対米再輸出向けではないため、その影響は小規模にとどまると考えられます。

 

その4:政府・公的債務の膨張

GFCは、経済的合理主義と小さな政府支持に終止符を打ち、公的債務水準の上昇を招きました。過剰な政府介入という問題がこれに油を注ぐ結果となった記憶は、今や薄れてきています。コロナ危機によって、高給取りのホワイトカラーが在宅勤務をする一方で、安月給の労働者は休職や感染リスクの高い環境での労働を求められるなど、不平等の認識が高まった可能性が高いことを考えると、経済における政府介入の拡大や上昇する公的債務水準を支持する声が高まっている可能性があります。ソーシャルディスタンシングを確保するための安全衛生規制は、事業コスト増につながりますが、ワクチンや抗ウイルス剤など医療ソリューションの開発までの短期的な措置となる事を願います。

影響:より大きな政府や不平等是正に向けた大胆な措置は、生産性向上そして経済成長に水を差しかねません。しかし、豪州が生産性向上を目指す経済改革に乗り出す場合には、このトレンドは回避される可能性があります。

 

その5:紙幣印刷によるインフレの加速

この先3年でインフレが問題に発展する可能性は低いものの、公的債務の膨張、紙幣印刷、保護貿易主義の台頭が相まって、長期的にインフレが4%近辺まで加速するリスクとなっています。余剰生産能力の解消後、中央銀行が早期に金融緩和を巻き戻さない場合には、特に注意が必要です。

影響:インフレの加速は、生産性に悪影響を及ぼすだけでなく、イールド追求の動きから恩恵を受けていた資産にとってもマイナスです。とはいえ、これはより長期の問題ですが。

 

その6:消費者と投資家における警戒心の高まり

GFCを受けて、家計に関する慎重な姿勢と投資家の警戒心が高まりました。豪州では、株式市場に対する疑念から「最も賢い貯蓄方法」として銀行預金を選好し、債務返済を進める人の割合が、GFC以前の30%からGFC後に50%へと拡大したことからも、この点は明らかです。新型コロナウイルスというパンデミックによって収入や雇用の安定が打撃を受けたことで、この姿勢は更に強化された可能性が高いと言えます。一部では、外出禁止による自己隔離から人生において何が重要なのかを再考する人が増加し、結果として「本当に必要なのか?」と考えて行動するマインドフルな消費者が増えると指摘する声も上がっています。人間の記憶は短期ですから、この点については何とも言えませんが、消費者の警戒心は継続すると見られ、万が一のために貯蓄や保守的な投資戦略が選好されると考えられます。

最も賢い貯蓄方法:豪州消費者の回答

影響:一般消費財・サービスの小売事業者、銀行、ウェルス・マネージャーにとって重石となります。

 

その7:テクノロジーの受け入れ加速

外出禁止を受けた自己隔離によって、世界のデジタル化が加速しています。働く人、消費者、事業、学校、大学、ヘルスケアワーカー、老若男女全てが、オンライン化した新しい生活の受け入れを迫られています。ネットショッピング利用、在宅勤務やオンライン会議の活用が増加しています。

影響:主要な影響は6つあります:

  • 従来の小売業態は更に困難な状況に直面しており、小売店やショッピングセンターのオーナーはサービスの見直し・改善が急務となっています。
  • オフィス需要が後退しても、ワクチン開発の遅れによって一人当たりスペースのニーズが拡大すれば、この影響は相殺される可能性があります。
  • 都市から郊外への移住:シャットダウン措置からは、多くの人にとって沿岸や田舎への移住が実現可能なオプションであることが示されています。
  • これによって、ピーク時の交通渋滞が緩和し始めるかもしれません(しかし、感染リスクが排除されない限り、短期的には車利用が増加する可能性があります)。
  • オンライン会議の利用拡大によってビジネス旅行・出張のニーズが後退しています。
  • これは、オンライン活動をサポートするITテクノロジー銘柄にとってプラス要因です。

 

その8:航空会社への打撃

ビジネス旅行・出張需要の後退は、航空会社への深刻な打撃を示唆しています。これは観光旅行にも言える事だと指摘する声も一部で上がっていますが、ワクチンや抗ウイルス剤など医療ソリューションが開発されるか、もしくは新型コロナウイルス自体が消滅した場合、旅行者は再び増加すると見込まれます。しかし、9.11の例を見る限り、完全なる回復には10年程度かかるかもしれません。

影響:既に大打撃を受けている航空会社は、回復スピードが最も遅い産業のひとつとなる可能性が高いでしょう。

 

その9:再び試されるユーロ圏

イタリア支援に時間を要したことで、ユーロ圏(EU)崩壊に対する懸念が再浮上しました。コロナ危機を受けて、特にリビアからの移民が再び押し寄せることになった場合には、ユーロ圏の大衆主義リーダーらによる更なる支援獲得に寄与する可能性があります。しかし、欧州の行動はこれまでと何ら変わりなく、ユーロ圏共同債発行に対してドイツがフランスから同意を得る格好で、財政刺激の方向に動いているようです。ユーロ圏存続に対する圧力(多数は安全、欧州人としての高いアイデンティティ、通貨ユーロに対する強固な公的支援、ドイツがEUから受けている恩恵、欧州中央銀行を介してドイツが持つイタリア国債への莫大なエクスポージャー)は、崩壊を試みる力よりもはるかに大きい状態が続いています。

影響:私なら、ユーロ圏の崩壊に賭ける事はしません。

 

その10:入国者・移民の減少

これは、渡航が禁止されている豪州で既に現実となっています。豪州における人口成長の約1%を占める移民が消えたことで、豪州経済成長も1%マイナスとなります。問題は、この状況がどの程度継続するのかという点です。新型コロナウイルスの感染拡大封じ込めに成功した豪州は、移民や学生にとって人気の目的地となることでしょう。そして、厳格な検査実施や隔離措置によって、両者ともに早期の来豪が可能となるはずです。しかしながら、留学生の戻りが速いとしても、失業率上昇を受けた政治的圧力を背景に、移民の回復は緩やかなものとなる見通しです。

影響:入国者・移民の減少を受けて住宅需要は年間8万件のペースで低下しており、住宅建設と住宅価格にとって悪いニュースです。とはいえ、今後5年で徐々に回復が見られると予想しています。

 

まとめ

グローバル化の後退、より大きな政府、消費者警戒心、入国者・移民の減少など、上記で解説した長期的影響の中には、経済成長そして投資リターンの足枷となるものも複数存在します。一方、生産性向上を促すテクノロジーの受け入れ加速は朗報であり、低金利環境の継続は成長資産にとってプラス要因です。

最後に、1918-19年のスペインかぜ発生時において長期的影響を悲観過剰に考えていた人たちは、「狂騒の20年代」からの恩恵を完全に取り逃していた可能性があること点は、注意したいポイントです。悲観的な思いつきを描くことは、本当に簡単ですから。

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