主なポイント
新型コロナウイルスの感染拡大を受けて豪州経済はリセッション入りした可能性が高く、住宅市場でもリスクが浮上しています。
失業率が7.5%程度へと上昇する比較的短期のリセッションであれば、住宅価格は約5%程度下落した後に上昇に回帰する見通しです。
しかし、失業率が10%程度まで上昇するより深刻なリセッションとなった場合、価格の高騰や高い債務水準といった住宅市場の脆弱性が打撃を受けることとなり、住宅価格は20%下落する可能性もあります。
これは当社のベースケースではありませんが、新型コロナウイルスの感染拡大を受けた経済活動の一時停止など、事業や雇用への波及を最小限に抑えるためには、連邦政府と豪州準備銀行(RBA)による措置が重要であることを強調しています。
はじめに
連邦総選挙の結果を受けてネガティブ・ギアリング制度やキャピタル・ゲイン税控除制度の縮小といったリスクが排除された点や、政策金利の利下げ、規制緩和を背景に、豪州の住宅価格は昨年の年央から上昇を続けていました。主要都市の平均価格は昨年の年央までに10%下落し、最低でも40年来の大幅な下げを記録したものの、その後9%回復しています。その当時における当社の見通しは、価格の上昇ペースは減速するものの、低金利環境や堅調な人口の伸び、FOMO(取り残されることへの恐れ)といった要因が相まって、2020年も住宅価格は良好な伸びを記録すると予想していました。
ところが、新型コロナウイルスの感染拡大とこれに伴った経済活動の中断を受けて、住宅市場見通の懸念が高まっています。ここで気になるのは、その脅威の規模がどの程度であるかです。
濃厚接触を避ける動きを受けて、不動産取引が延期に
濃厚接触を避けて人との距離を保つ「ソーシャル・ディスタンシング」が推奨されるようになり、渡航禁止を背景に中国人投資家の姿を見かけなくなっていますが、不動産需要に対する影響は軽微にとどまり、2月のオークション成約率は力強い結果となっています。

しかし、今月のオークション成約率と売上モメンタムからは、減速の兆しが確認されています。これは、新型コロナウイルスの感染を恐れて取引を保留する買い手や売り手の動きを反映したものであると考えられます。ソーシャル・ディスタンシングの措置によってこの状況は悪化するとみられ、取引が激減する可能性もありますが、価格の伸び分を取り消す程度に収まるかもしれません。
大きな脅威はリセッション
とはいえ、新型コロナウイルスを背景とした経済活動の中断を受けて、豪州経済はリセッション入りした可能性が高く、これは大きなリスクです。GDP成長は、1-3月期と4-6月期でマイナスを記録すると見込んでおり、7-9月期もマイナスに転じるリスクがあります。観光、旅行、娯楽そして小売りなど、経済の大部分が影響を受けることから、景気後退は深刻なものとなる可能性があります。トイレットペーパーや手指消毒剤、缶詰や冷凍食品に対する需要の急増はスーパーマーケットの一時的なサポート要因となりますが、ドイツ銀行が発表した試算では、これら商品の消費1ドル当たりでみると、ソーシャル・ディスタンシングで影響を受ける商品の消費は15ドルに上ると言われています。
過去の市場暴落のケースを見ると、不動産価格への影響はまちまちとなっています。50%の下落をもたらした1987年の株式市場のクラッシュに関しては、投資家が株式から不動産に乗り換えたことから、不動産価格は上昇しています。しかし、重要なポイントは、強制売却や需要の縮小を引き起こす失業率の動向です。1987年における豪州経済の状況は堅調で、失業率は低下していましたが、1980年代初期と1990年代初期のリセッション局面では失業率が上昇しており、主要都市の平均住宅価格がそれぞれ8.7%、6.2%の下落を記録しました。株式市場が55%の下落を記録した世界金融危機(GFC)では、景気後退局面ではなかったものの、失業率は4%から6%近くまで上昇し、住宅価格は7.6%下落しています。

つまり、リセッションがどの程度深刻なのかと失業率の上昇幅によって、状況は大きく変化します。当社のベースケースでは、失業率は7.5%程度へと上昇し、住宅価格は約5%の下落となった後に、低金利政策によって経済が回復し、積みあがった需要が再び市場に戻るとともに、来年にかけて回復に向かうとみています。連邦政府とRBAの措置によって、新型コロナウイルスを受けて苦境に直面するビジネスや家計に支援が提供されれば、失業率の大きな伸びは避けられるでしょう。
しかし、リセッションが長期化し、失業率が10%を超える場合には、価格の高騰や高い債務水準といった豪州住宅市場の脆弱性が打豪を受けることになります。対収入(そして賃料)で見た住宅価格はここ20年で急騰しており、OECD諸国の中で低水準にあった家計債務も、これに合わせてOECD諸国の上位へと大きく増加しています。

これは何ら目新しい話ではなく、これまでにも豪州の唯一の弱点(アキレス腱)として取り上げてきました。最近では、以下に挙げた要因を背景に、住宅価格がおのずとクラッシュすることはないという信頼感を取り戻しています。
- まず最初に、不動産市場は慢性的に供給不足であるという点です。2005年までの10年間で217,000人だった年間の人口成長は、5年前当たりから373,000人へと伸びており、1年当たり追加で75,000件の住宅が必要となっています。この人口の伸びに住宅供給は追いついておらず、この供給不足が住宅価格を押し上げています。2015年以降ユニット供給数が大きく伸びたことから、供給不足が一部解消されたものの、主要都市の空室率は長期平均近辺が維持されており、供給は過剰になっていないことが示されています。とはいえ、シドニーではリスクが高くなっています。


- 次に、住宅ローン返済負担の増加は誇張されすぎであるという点です。昨年の年央にかけて一部でネガティブ・エクイティが見られ、住宅ローン借り手の多くが当初利息分のみを返済するインタレスト・オンリー(IO)ローンから元本と利息返済型のローンに切り替えている(これを受けて、ローン全体に占めるIOの割合は40%弱から18%へと低下)とはいえ、強制売却や不良債権の大幅増加は確認されていません。豪州の融資基準は前回のブーム時に緩んだとはいえ、GFC前における他国程ではありません。債務増加分の多くは、年齢層の高いより裕福な豪州国民、つまり住宅ローン返済能力に長けた借り手によるものです。

これまでも繰り返しお伝えしているように、金利の上昇またはリセッション入りなしに、住宅価格の上昇と高い債務水準だけでは住宅バブル崩壊に至ることはありません。しかし、ここにきてリセッション入りに直面しています。10%を超える水準まで失業率が上昇した場合には、ローン返済に問題が生じ、強制売却や大きな住宅価格の下落が予想されます。住宅価格の低下は消費の後退と失業率の低下、デフォルトの低下などを引き起こすことから、幅広い豪州経済へもその影響が波及する可能性があります。このシナリオでは、住宅価格は20%程度の下落となるでしょう。
しかし、この下落の一部は、昨年の年央以降における主要都市平均価格の9%の伸びと相殺される点を忘れてはいけません。
また、これは当社のベースケースではありませんが、新型コロナウイルスを背景とした企業や家計の破綻や失業率の大きな上昇を避けるためにも、連邦政府とRBAはしっかりとした措置を打ち出す必要があります。
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