主なポイント
世界の株式市場はベア相場に突入していますが、これが短期的なものなのか、それとも長期に渡るものなのかを左右するのは、新型コロナウイルスの経済への影響がどの程度継続するのかです。
足元の状況は経済活動の中断であり、短期では極めて深刻となり得るものの、過去のリセッションや恐慌とは大きく異なる点があります。
世界そして豪州の株価下落は、一般的にベア相場入りの目安とされる20%幅を大きく超えています。投資家がコロナ危機による経済活動の中断が成長に与える影響を織り込む中、主要な株式市場は、直近の高値から直近の低値まで、約35%下げています。リセッション入りを回避する事は不可能とみられ、そしてリセッションには深い長期のベア相場が伴う傾向にあります。しかしここにきて、もっと深刻な恐慌の可能性を示唆する声も上がっています。実際のところ、過去のリセッションや大恐慌とは大きく異なる点があることから、現状は過去に類を見ない経済への打撃であると言え、ベア相場への影響も大きく異なると考えられます。まずは、過去のベア相場を見ながら、その教訓を考えてみましょう。
2つのベア:グミベアとグリズリー
株式市場におけるベア相場には2つの種類があります:
- 「グミ」ベア相場:幅広く使われているテクニカル面の定義に合致した20%程度の下落で、その後1年で上昇に回帰するもの。例:1998年の米国、2011年と2015-16年の豪州と世界の株価。
- 「グリズリー」ベア相場:下落幅がより大きく、長期化したもの。例:1973-74年、ITバブルや世界金融危機(GFC)における米国と世界の株価。
グミベア(gummy bear)とグリズリーベア(grizzly bear)という用語は、数年前にクレディ・スイス発行のレポートで目にしたものですが、ベアマーケットの概念を描くにあたり有効な用語です。グリズリーは投資家に乱暴である一方で、グミベアは最終的に(お菓子の様な)悪くない後味を残します。次の表では、従来の定義に基づいた豪州株のベア相場、株価が20%程度の下落した後1年で完全に回復しなかった局面を示しています。

1900年以降、オレンジ色で示したグリズリーベア相場は6回、それ以外のグミベア相場は12回となっています。ここで注目したい点は:
- グミベア相場は、より短期で、下げ幅は26%程度とグリズリーベア相場の46%よりも小さくなっている。
- 20%下落後の12か月間における株価の動きは、グミベア相場で15%の上昇に対し、グリズリーベア相場では23%の下落となっている。
- より深刻なグリズリーベア相場には常にリセッションが伴うものの、1987年の暴落を含むより軽度なグミベア相場はそうではない。1951-52年を除く全6回のグリズリーベア相場の局面では、米国と豪州のどちらか又は両方がリセッションに突入しているのに対し、グミベア相場でリセッション入りした局面は半分以下となっている。これは米国株式市場でも同じ。
- ベア相場が終わった後のリバウンドは、平均で+29%と力強い伸びを記録している。このタイミングを見計らうのは困難であり、下落局面で売りに出た投資家が買いに戻るのは、株価がその売りを超す水準に戻った後である。
リセッション、恐慌、それとも?
過去からの重要な教訓は、リセッション突入となる場合のベア相場はグリズリーの深刻なものとなる可能性が高く、今後12か月で株価はさらに低下すると考えられるという点です。とはいえ、今回のショックは過去とは様相が大きく異なる事から、そこまで単純なものではありません。まずは悪いニュースから見ていきましょう。ここにきて、リセッション入りは避けられない模様です。中には恐慌を懸念する声も上がっています。新型コロナウイルス感染の封じ込めにかかる時間、つまり経済が中断する期間がどの程度になるのかは未だ不明なままですが、短期的なGDPへの影響が第二次世界大戦(WW2)後で最大規模となるのは明らかです。従って、戦前の恐慌との比較が増えているのです。
- 中国では、1月23日に導入された武漢市の封鎖措置を受けて、2月のPMIは前例を見ない24ポイントの低下を記録しています。これに沿った形で、経済活動指標も1年前の水準から20%下落。1-3月期におけるGDPは10%程度の下落となる可能性があります。
- 閉鎖措置が広まる中で、米国、ユーロ圏、日本、豪州のPMIも3月に全て低下しました。これらの国を合わせた統合PMIの平均下落幅は過去に類を見ない12ポイントと、GFC時を下回る水準まで下げています。そして、閉鎖措置はまだ開始されて間もないため、この下げは4月も続く可能性が高いでしょう。つまり、先進国のGDPも、中国と同様に、4-6月期を中心に10%程度の落ち込みとなる可能性があります。

- 一例として、次の図表では豪州経済の産業内訳を示しました。封鎖措置によって、宿泊&文化、小売、不動産を中心に、豪州経済の約25%が打撃を受ける見通しです。

過去のリセッションや恐慌とは大きく異なる点
コロナ危機による経済活動への打撃は戦後最悪ではあるものの、それを恐慌と呼ぶのは最適ではないでしょう。恐慌の定義の多くは、期間が数年にわたり、GDPの大幅低下を伴うもので、リセッションはこれよりも短期で軽度なものです。今回の経済打撃は極めて深刻なものとなる可能性がありますが、必ずしも過去のリセッションより長期化するという訳ではありません。そして、新型コロナウイルス感染が今後2-6か月で封じ込めとなれば、閉鎖措置からのダメージを最小限に抑える事が可能となり、経済への影響も短期的なものになると考えられます。現状には、過去のリセッションや1930年代の大恐慌とは大きく異なる点がいくつか存在します。
- (米国では4年間でGDPが36%縮小し、失業率が25%まで上昇、豪州ではGDPが9.4%縮小し、失業率が20%へと上昇した)大恐慌やリセッションでは、これに先行する形で、巻き戻しを要する過剰な投資や消費、民間債務やインフレが進行する期間がありました。今回においては、この様な過剰は確認されておらず、景気後退を引き起こすような大規模な金融引き締めもありません。
- 大恐慌の初期や過去の景気後退局面では、リセッション入り前に金融政策の引き締めが行われていましたが、足元では、豪州で昨年緩和が行われており、今月は追加利下げと量的緩和が発表されている他、世界の中央銀行らも信用緩和など様々な措置を講じています。1930年代、銀行の救済は行われませんでしたが、現在は超低金利が財政支援となっています。これはGFCの経験を受けて、中央銀行による量的緩和の拡大や支援策への取り組みが容易になったためです。
- 大恐慌前、予算の均衡を図るために緊縮財政が取られたものの、現在はGFC時を上回る大規模な財政緩和策が発表されています。米国の財政刺激策だけをとっても、米国GDPの9%相当に匹敵する規模です。

- 1930年代、米国が輸入品に対して20%を課税するスムート・ホーリー関税法を打ち出したことで世界的な報復を受け、世界貿易が大きく落ち込んだ様な貿易戦争は、現在進行していません。
結論として、閉鎖措置や事業中断によって、世界そして豪州のGDPは1930年代以来で最大の打撃を受ける可能性があるものの、状況は大恐慌時とは大きく異なっており、世界的な景気後退の長期化が避けられないという訳ではありません。基本的には、外出禁止によって通常の生活や経済活動が中断されているだけです。実際のところ、新型コロナウイルス感染の封じ込めが成功し、刺激策が効果を見せ始めれば、成長は素早くプラスへと回帰する可能性もあります。そうなれば、株式市場のベア相場も、深刻なグリズリーではなく軽度のグミベアにとどまることとなります。もちろんのこと、今のところは底入れを示す確かな証拠の出現を待っている状況です。重要となるのは、新規感染者数の伸びが減速し始める事と、閉鎖措置や事業中断による影響を最低限に抑える事です。
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