主なポイント
新型コロナウイルスを受けて、世界では巨額の財政・金融政策が打ち出されています。これら刺激策は世界GDPの3%超に匹敵する規模となっている他、政策金利の追加利下げや量的緩和プログラムが開始となり、中央銀行からは低金利の融資ファシリティが提供されています。
米国における最新の刺激策はGDPの6%相当で、経済を幅広く支援する内容となっています。しかし、外出禁止などロックダウンによる生産損失が出ている事から、この刺激策を使ってリセッション入りを回避する事は不可能です。
とはいえ、失業率の行き過ぎた伸びを防ぐ観点から刺激策は必要不可欠であり、最終的な経済回復局面で力を発揮するでしょう。
はじめに
新型コロナウイルス感染の拡大を受けて世界各国で打ち出された財政・金融対策は、過去に例を見ない規模となっています。中央銀行や政府らによる刺激策の承認と発表は、素早いペースで行われています。このレポートでは、米国における景気刺激策の詳細と国内経済への影響を見ると同時に、世界の財政政策の現状をアップデートします。
米国における最新の経済刺激策の内容
米国が発表した最新の景気刺激策の規模は、金額にして2兆米ドル超、国内GDPの9%相当となっています。この刺激策に含まれるのは、家計への現金給付、失業手当の拡大、法人税の減額、ヘルスケア支出、小企業向けローン、米連邦準備制度理事会(FRB)融資プログラム向け資金となっています。一般的に、ローン対策は直接的な財政支出とみなされないため、実際はGDPの6%程度と、まずまずの規模となると当社では見ています。次の図表では、刺激策の内訳を示しています:

刺激策の詳細は以下の通りです:
家計への現金給付
- 対象となる家計への現金給付は、大人1名につき1,200米ドル、子供1名につき500米ドル。年間所得75,000米ドル以上の家計については、段階的に減額となる。平均的な世帯が受け取る額は1,600米ドル程度。
- 失業手当の増額(1週間あたり600米ドルを4か月間)と対象枠の拡大。解雇された世帯や休業など収入が深刻な影響を受けている世帯も対象となる。
法人税の減税
- 主要な変更点には、利子控除と営業損失の対象拡大、給与税控除、給与税の繰り延べが含まれる。
小企業向けローン
- 低金利融資ファシリティには、雇用目標の達成等といった条件が付いており、失業率の行き過ぎた上昇を防ぐのに有効。
- 一部産業セクター(航空会社、貨物、国家安全保障)に対する救済策
FRB融資ファシリティ向け資金
過去のケースと比較すると、今回打ち出された景気刺激策では財政と金融面の密な連携がうかがえます。FRB融資プログラムに対する4,540億米ドルの支給によって、これら資金のレバレッジを引き上げる(最大10倍または4.5兆米ドルまで)事が可能となり、地方債や社債、不動産担保ローン証券といった(国債以外の)幅広い資産購入を実行する余地をFRBに与えます。FRBのバランスシート上の資産は、この融資プログラムによって大幅に増加する事になります。当社では、現在GDPの20%程度あるFRBのバランスシートは、40%を超える規模まで拡大するとみています。
米国は、賃金の相当分を失った家計に的を絞った現金給付など、追加刺激策を発表する可能性が高いとみられます。今年の大統領選挙で再選を目指すトランプ大統領にとっても、失業率の行き過ぎた伸びを防ぐこと、そしてリセッションを軽度に抑える事は優先事項です。
当社のベースケースでは、米国の失業率は10%近くまで上昇する見通しです。米新規失業保険申請件数は、3月20日の週に282,000件から300万件超へと過去最高を記録し、今後も増加が継続する可能性が高くなっています。

大規模な財政刺激策によって、財政赤字は大きく悪化することになり、連邦政府債務も拡大します。刺激策が大規模な点や米国経済の後退を考えると、財政赤字はGDPの10%以上へと拡大する見通しです。とはいえ、恐慌に陥るよりも、財政赤字の悪化の方がまだましです。

ここ数日でトランプ大統領の支持率が上昇し、大統領就任以来で最高となっています。これは、米国民が、トランプ大統領によるコロナ危機の対応を多かれ少なかれ評価しているサインです。リセッション局面で大統領が2期続投するケースは珍しいものの、11月に迫る大統領選挙においてトランプ大統領が再選する確率が高まったかもしれません。

世界の財政刺激策
当社予測では、世界の財政刺激策はGDPの4%近くに匹敵する規模となっており、世界金融危機(GFC)局面のあらゆる年を大きく超えています。そして、中国を中心に、追加刺激策が打ち出される可能性もまだ残っています。


投資家への影響
これらの大規模な景気刺激策は、新型コロナウイルス感染が収束した後の経済回復を助ける(インフレ上昇に寄与する可能性もあります)という点で必要なものです。とはいえ、これらの世界的な金融そして財政刺激策は、世界で都市封鎖や外出禁止といった措置が取られている限り、個人消費の活性化には寄与しませんが、世界経済が恐慌に陥る事を防ぐのに役立ちます。そして、1月のピーク時から大きく下落している株式市場のリターン(足元では米国で22%の下落、豪州では26%の下落)に寄与します。しかしながら、新型コロナウイルス感染の封じ込めが進んでいるというサインが出てこない限り、株式市場の回復は期待できません。最近では、イタリアを中心とした欧州の新規感染者数の拡大ペースが若干和らいでいる点は朗報ですが、早いペースで新規感染者の増加進む米国は、注視する必要があるでしょう。
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