経済&マーケット

心配の壁を登る株価は持続するのか?

主なポイント

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3月の底値から力強い上昇を見せている株価は、経済再開や回復の兆し、政策刺激、これまで悲観的な姿勢からアンダーウエイトやショートポジションの手じまいに動きだした投資家の動きを反映しています。

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短期的に、株価はもみ合いや戻りに入りやすくなっていますが、当社の見方が正しければ、経済状況は4月に底打ちしており、株価は今後6-12か月にかけて上昇する見通しです。

はじめに

新型コロナウイルス感染を受けたシャットダウンによる世界的なリセッション懸念を背景に、株価は2月の高値から3月23日付近で底値を付けるまで35%程度下落しています。その後、米国株が先導する格好で急反発し、豪州株(ASX200)は3月以降初となる6,000ポイント台を回復しました。

株式市場の回復

ここで広く懸念されているのが、株価の回復は「過度に楽観的」で「不合理」ではないかという点です。経済状況は極めて軟調、コロナ禍の不透明感は高い状態が継続しており、米国では市民暴動が勃発し、米中貿易を巡る緊張感が高まる中で、なぜ株価は急上昇しているのでしょうか?私自身、この株価反発のペースには驚いているところであり、おそらく市場が先走っているのではないかと考えています。しかし、この様相は以前にも確認されており、「強気相場は、悲観から生まれ、懐疑によって育ち、楽観によって成熟し、幸福感から消えていく」という投資家ジョン・テンプルトン卿の格言を思い出します。今回の株価上昇も幅広い悲観論に反して起きているものであり、株価は心配の壁を登っています。この格言が示す通り、これは珍しい事ではないのです。3月にかけて株価が下落した後、シャットダウンによって経済活動が打撃を受け、リセッション懸念から更に株価が下がり投資家を驚かせた後、現在は懸念が残るものの上昇に回帰しています。

 

株価上昇の主要なドライバー

では、一連の株価上昇の要因は何だったのでしょうか?4月初め、「注目すべき株価の底打ちを示すサイン」と題したレポートを発行していますが、これらについて、以下の図表で現状をアップデートしています。

株価見通しを考える上で注目すべきサイン

事実上、先進国では全てのサインがクリアになっており、これらは表内おいて緑で示しています。つまり、株価の回復は以下の要因が相まった結果と言えます:

  • 先進国における新規感染者数の減少
世界の新規感染者数
  • 抗ウイルス剤/ワクチンに関するポジティブな展開
  • ロックダウン措置の緩和を受けて、先進国経済が再開しています。豪州でも、高度なロックダウンから中度へと緩和が進んでいます。
OECD加盟国におけるロックダウン厳格度指数
  • 世界金融危機(GFC)を超える大規模な財政・金融支援策が実施されており、事業や雇用、収入の維持を通じて、デフォルト回避に寄与しています。低金利環境が続いていることからも、株式はより魅力的な投資先となっています。
  • 回復の芽が確認されています。ロックダウン緩和が続いており、高い頻度で集計される多様なデータ(飲食店予約件数や信頼感、小売店の客足、チケット販売、クレジットカード・データ、モビリティ指数、雇用など)を元にAMPキャピタルが独自で取り纏めた経済活動トラッカーによると、米国と豪州の経済活動は4月に底入れしたことが示唆されています。グローバルPMIは4月に下落した後、5月に上昇に回帰しています。中国でもこれと似た動向が確認されています。
豪州と米国の経済活動トラッカー
  • 3月の大幅下落後、悲観的な見方をする投資家は株式をアンダーウエイトにしています。ということは、投資家は売りよりも、買いに出やすいという事になります。

これらの要因は、米国の市民暴動(現在は鎮火しつつある様ですが)や米中摩擦を巡る懸念を打ち消した模様です。

 

その他市場の展開

反発を見せたのは株式市場だけではありません。その他、景気に敏感な資産/利回りでも、上昇が確認されています。中でも注目したいのは:

  • 原油と金属価格は共に、直近の底値から大きく上昇しています。
  • 豪ドルなどのコモディティ通貨は、安全な逃避先である米ドルの下落と同時に上昇に回帰しています。
  • 株価の回復に後れを取った債券利回りは、現在は上昇を始めているものの、まだ極めて低い水準にあります。

 

米国が株価回復を先導した理由

米国の株式市場では、コロナ危機から恩恵を受けているテクノロジーやヘルスケア銘柄へのエクスポージャーが比較的高くなっており、アマゾンの時価総額は今や小売銘柄全体の55%を占める規模まで成長しています。また、米国の量的緩和や資産の買い入れは、豪州やその他の国と比較しても大規模です。これとは対照的に、豪州を含む米国以外の株価はよりシクリカルですが、回復の継続に伴って恩恵を受け始めるでしょう。

 

株価の調整リスク

大幅な上昇を記録した株価は、テクニカル面で買われ過ぎの状態にあり、今後数か月で調整が入る可能性があります。とはいえ、主要な弱気相場の底入れ後にはしばしば買われ過ぎの状態となる様に、多くの市場で同様の展開となっており、今後6-12か月のリターン`にとってはポジティブと言えます。

 

企業収益悪化の影響

経済活動への影響を背景に企業収益も打撃を受けており、収益見通しは厳しく、株価収益率(PER)が上昇しています。これは明らかに懸念点ですが、一般的なシクリカルの株価回復は3段階で進行する点を覚えておきましょう:

  • 第1段階:金融緩和によって割安となったバリュエーションが巻き戻しとなるものの、株価下落のリスクが後退したことで一部の投資家が割安株の買いに動きます。株が「不安の壁」を登るのは、この局面です。
  • 第2段階:収益向上が株価を押し上げます。
  • 第3段階:株価は割安となり、中央銀行による利上げが開始となるも、幸福感にかられた強気な投資家によって株価が過度な水準まで上昇します。

現在は、第1段階の終盤にあります。経済状況の回復とともに、企業収益も改善する可能性が高く、第2段階に突入する見通しです。PERは高い水準にきているものの、超低金利環境を背景に株式のリスクプレミアム(期待収益率と国債金利の差)はまだ妥当な水準にあります。とはいえ、収益の改善は注視すべきポイントです。

株式は債券より割安な状態が継続

主要なリスク

主要なリスクは3つあります。1つ目は感染第2波(これは、検査実施の拡大、接触追跡や隔離で回避することが出来るはずです。第2波が発生した場合でも、ロックダウンは以前よりも緩やかなものとなり、死亡率も以前より低くなる可能性が高いことから、経済への影響も緩やかなものになる事も考えられます)、2つ目はシャットダウンの影響によって失業率が上昇し、破綻が急増することで、景気回復のスピードが減速したり、より多くの時間を要する可能性(今のところは順調で、政府や中央銀行による支援策が効果を発揮していることからも、願わくばこのリスクは排除されるでしょう)、3つ目は米国大統領選挙(再選の雲行きが怪しくなった場合、トランプ大統領が大胆な行動に出ることで米中貿易摩擦を悪化させたり、大統領と議会選挙における民主党勝利を受けた増税を警戒する投資家)です。

 

最後に

短期的に、株価はもみ合いや戻りに入りやすくなっていますが、当社の見方が正しければ、経済状況は4月に底打ちしており、株価は今後6-12か月にかけて上昇する見通しです。ここ2-3か月の経験から言えることは、株価の底入れを予想するのは極めて困難であるということです。株価が大幅下落した後の買いは数か月という時間をかけて行うのが、長期目線の投資家にとって良いアプローチと言えるでしょう。

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インベストメント・ストラテジー&エコノミクス担当ヘッド、チーフ・エコノミスト シェーン・オリバー

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