経済&マーケット

豪州の住宅価格は下落を開始、急落は回避するも軟調が継続する模様

主なポイント

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豪州主要都市の住宅価格は、5月に0.5%の下落を記録しました。

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大規模な政策支援と早期の経済再開のおかげで、20%下落という最悪のシナリオは回避される模様です。

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とはいえ、「実際」の失業率は高水準が維持され、政府支援措置や銀行ローン返済の一時停止は9月で終了、入国者の減少、新規供給は政府措置が後押しする可能性が高いことから、当社ではベースケースとして5-10%の下落を見込んでいます。

はじめに

豪州経済の中断を受けた住宅市場への影響を最初に検討した3月19日、そのスケールは失業率の上昇幅によるという結論に達しました(「豪州住宅市場に影を落とす新型コロナウイルスの脅威」を参照)。この時点における当社のベースケースは、リセッションを受けて失業率は7.5%程度まで上昇し、平均住宅価格は5%程度の下落となるものの、失業率が10%程度まで大幅に低下する場合には、住宅価格の下落幅は-20%となる可能性があるというものでした。その後、政府による大規模な支援策と早期の経済再開によって、住宅価格は最悪のシナリオを回避したと見られます。

 

今のところは順調

3月以降、住宅取引件数は大きく後退しています。

オークション成約件数

ソーシャルディスタンシングの必要性と当面にわたる現地オークションの禁止によって、売り出し物件数が大きく減少しました。そして、約350万人の有給雇用の維持を助けている連邦政府の賃金支払い助成金「ジョブキーパー制度」や銀行ローン返済の一時停止といった9月までの6か月間にわたる措置によって、通常であれば増加していたであろう強制売却は回避されています。つまり、住宅需要は低下したものの、供給も同様に後退したことから、住宅市場は奇妙な状態にあります。

足元では売り出しが若干増加を見せているとはいえ、まだ低水準にあり、これら全ての要因によって、本来なら大幅下落を記録していたであろう住宅価格の下げが緩和された状態です。とはいえ、住宅価格は下落を開始しています。コアロジックによると、4月に0.2%の上昇を記録した主要都市の平均住宅価格は、5月に0.5%の下落となりました。この下落は、アデレード、ホーバート、キャンベラを除く全ての都市で確認されており、メルボルンで-0.9%、シドニーで-0.4%、パースでは-0.6%となっています。これを受けて、主要都市の住宅価格は、昨年11月に前月比+2.0%をつけたピークから大きく下落しています。

豪州主要都市の住宅価格は再び下落

今後の展開はどうなるのでしょうか?

 

住宅市場見通しにとってのプラス要因

住宅価格に対するプラス要因は5つ存在します。

  • 住宅ローン金利は、2-3%程度という過去最低水準まで低下しています。これにより、世帯収入に占める債務の割合は約200%と過去最高にあるにもかかわらず、住宅ローンの金利コストが世帯収入に占める割合は過去最高を大きく下回る水準となっています。住宅ローン金利が低水準であるため、投資物件の資金調達コストも低くなっています。
住宅ローン利息払いが世帯可処分所得に占める割合
  • 上記の通り、売り出し物件数は少ない。
  • 連邦政府が打ち出した支援策は、世帯所得を後押しし、事業を支援、約350万人の雇用を維持し、統計上の失業率の急上昇による信頼感の低下を回避したほか、(約44万件が適用を受けている)銀行ローン返済の一時停止により、滞納の急激な増加と物件の強制売却が回避されています。
  • シャットダウン措置は主にサービス業に影響を及ぼしており、稼ぎ手の男性により大きな打撃を与えた過去のリセッションとは対照的に、今回は女性や若手の労働者への影響が著明となっています。この点は、債務返済滞納の抑制に寄与した可能性があります。
  • 中国は、コロナショックからの回復において豪州の2-3か月先を進んでいることから、一例として参考になる部分があります。ロックダウン措置がピークを迎えた2月、中国における住宅取引件数はゼロ近くとなり、平均住宅価格の伸びも減速していますがマイナス成長には至っておらず、現在は若干上向き始めています。

 

マイナス要因

これらのプラス要因に対して、コロナショックに起因する大きなマイナス要因は以下の通りです。

  • 高い失業率。高水準の住宅価格と家計債務を「豪州のアキレス腱」と呼んでいるように、失業率の上昇によって債務返済の滞納が増加し、強制売却による住宅価格の大幅下落を恐れていたのは3月の話です。しかし蓋を開けてみると、統計上の失業率は抑制され、世帯所得は支援措置によって下支えされた格好です。これは、シャットダウン期間を通した事業・雇用・収入のサポートを目的としたものであり、住宅価格20%下落という3月の最悪のシナリオは回避された模様です。しかし、政府支援策が9月に終了することで、統計上の失業率は8%程度まで上昇し、コロナ前の水準である5.2%近辺に戻るには相当の時間を要すると見込まれます。(約44万件が適用を受けている)銀行ローン返済の一時停止措置も9月に終了することから、住宅ローンのデフォルトと強制売却がある程度増加することとなり、住宅需要が冷えるものの、シャットダウン期間を通した支援策がなかった場合と比較すると、軽度な打撃となる可能性が高いと見られます。
  • 入国者の大幅減少。渡航禁止を受けて、昨年度24万人を記録した入国者は、今年度17万人弱、来年度3.5万人程度となる見通しです。そうなった場合には、入国者の受け入れを早期に再開するというオプションが残されていますが、これは大きな打撃であり、2020-21年における豪州の人口成長は1917年以降最低の0.7%となります。
豪州の人口成長
  • これを受けて、8万件程度の住宅需要が失われることとなり、昨年20万件程度あった住宅需要は、今後12か月で12万件となる見通しです。そして、2010年代半ば頃から住宅価格を高水準で維持してきた長年の供給不足が巻き戻しとなることで、大幅な供給過剰のリスクが浮上します。中国では、入国者減少の対応は行われていないため、中国住宅市場の動向はあまり参考にはなりません。
住宅建設 vs 人口成長
  • 賃料の低下と空室率の上昇。空室率は4月に急上昇しており、これに賃料救済が相まって、賃料には下方圧力がかかっています。入国者の減少もこれに拍車をかける見通しです。投資家需要が更に冷え込むことで、ギアリングが高い不動産投資が問題に発展する事も考えられます。
空室率はシドニーを中心に平均を超えている
  • 住宅建設の支援策。今後1年で住宅建設活動の大幅な低下が見込まれることから、連邦政府は建設業者の雇用維持を目的とした建設活動支援策を計画しており、これは助成金や公営住宅開発を通じて行われる模様です。通常であれば、マイホーム初回購入者向け助成金は全体的な需要を押し上げる効果がありますが、入国者減少を受けて需要が軟化する局面において供給の後押しだけにフォーカスした場合、平均住宅価格の下落圧力に拍車をかける事になりかねません。(一部の州で計画されている印紙税から土地税への移行は短期的に住宅価格の支援材料となりますが、税収額が同じかつ移行時期や移行自体の実現が不明確な場合には、長期的な影響はニュートラルとなります。)

 

まとめ

連邦政府の支援策と経済の早期再開が功を奏し、住宅価格の20%下落という当社の最悪シナリオや、-30%の可能性を指摘する見方が実現する可能性は低くなっています。これら最悪のケースに至るのは、新型コロナウイルス感染の第2波、シャットダウンの延長、破綻増加を受けた景気の更なる後退が発生する場合です。

しかし、(9月以降に明確となる)「実際」の失業率は数年間にわたって高水準で推移し、政府支援策や銀行ローン返済の一時停止といった措置は9月に終了、入国者が減少し、政府による住宅建設支援策の導入が見込まれていることから、住宅価格が更に下落する可能性は高くなっています。当社のベースケースでは、全国平均住宅価格は来年にかけて5-10%程度の下落を見込んでいます。入国者の動向に影響を受け易く、債務水準がより高いシドニーとメルボルンの下落幅は10%となる一方で、アデレードやブリスベン、パース、ホバートでは小幅下落となり、キャンベラでは横ばいとなるでしょう。

住宅アフォーダビリティの観点から言えば、これは合理的な結果に見えますが、これと同時に(住宅価格下落、個人消費における負の資産効果による)経済への打撃を防ぐことが必要です。

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インベストメント・ストラテジー&エコノミクス担当ヘッド、チーフ・エコノミスト シェーン・オリバー

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