主なポイント
安全な逃避先としての需要低下などを背景に、米ドルはピークを打った模様で、今後更なるダウンサイドの可能性が出ています。
金価格は、米ドル安、インフレヘッジとしての投資家需要、保有にかかるオポチュニティコストの低下を反映し、過去最高値を更新、今後もまだ上昇する可能性が高くなっています。
米ドル安と商品価格の伸びを受けて、豪ドルは高値を付けており、今後も上昇トレンドが継続する見通しです。
はじめに
金価格が史上最高値を更新し、豪ドルもコロナ危機の影響を受けた3月の最安値から30%上昇し、1豪ドル0.70米ドル台に乗りました。このレポートでは、この伸びの背景にある要因を考えます。まずは、主な課題からみていきましょう。
米ドルはピークを打った模様
最近における金価格と豪ドルの上昇で共通しているのは、米ドル安基調です。コロナ危機のパニック初期、米ドルは安全な逃避先として大幅上昇を記録しています。その他グローバルで比較しても、米国経済はシクリカルなセクター(製造、素材、金融など)へのエクスポージャーが低く、(コロナ禍から恩恵を受ける)ITやヘルスケアといった成長セクターへのエクスポージャーが高くなっています。つまり、世界成長が減速する局面において米国に資金が流入し、世界経済が加速する局面では米国から資金が流出するということになります。足元では、米ドルは下落基調となっている模様です。

米ドル指数は、コロナ危機パニックを受けた3月の高値から9%低下しています。米ドルは高値のピークを打った可能性が高く、今後6-12か月で下落基調が予想される背景には、幾つか理由があります。
- まず最初に、米連邦準備制度理事会(FRB)がゼロ金利政策を導入したことで米国と世界の金利差がなくなり、米ドルの投資妙味が薄れた。
- 第2に、貿易加重ベースの米ドルは、相対的な消費者物価水準(購買力平価、PPP)で見ると割高である。
- 第3に、FRBによる量的緩和は、その他多くの中央銀行よりも積極的な内容であることから、米ドルの相対供給量が増加した。
- 第4に、財政刺激を巡っては、ユーロ圏は米国よりも体制が整ってきたと言え、通貨ユーロの相対的な魅力が高まっている。
- 第5に、米国経済はシクリカル・セクターへのエクスポージャーが相対的に低いことからも、、(新型コロナウイルスの脅威が継続する中で、足元がおぼつかないとはいえ)世界経済の回復は米ドルにとって下落圧力となる。つまり、米ドルの安全な逃避先としての需要は後退する可能性が高く、新型コロナウイルスの封じ込めに苦戦している点も、これに拍車をかけることになる。
- 最後に、テクニカル面を見ると、米ドルは7月、50日移動平均が200日移動平均を下回り、デスクロスが出現。また、2016年の高値とのダブルトップが確認されている。
歴史を振り返ると、米ドル安は世界的なリフレーションの進行を知らせる兆候であり、世界経済見通しに対する信頼感が回復していることを示しています。米ドルがピークを打ったとすれば、(米ドル建て債務を抱える)新興国にとって朗報であると同時に、金を含む商品価格にとってもプラスであり、豪ドルの上昇トレンドと合致することを意味しており、実際のところ商品価格と豪ドルの上昇が確認されています。これは、全ては相対的であるという現実を反映している部分があり、米ドルが下落すれば、必然的に米ドルで値付けされる金と豪ドルが上昇するためです。しかし、その他の要因も働いています。
2011年の過去最高値を更新した金
次の図表では、1900年以降の金価格を名目値と実質値で示しました。米ドルは、1970年代初期まで金価格に固定されており、1934年などがその例であるように、定期的な切り下げの対象となっていました。その後、投資家におけるインフレヘッジとしての金需要が高まったことを受けて、金は1970年代初期から1980年にかけて長期の上昇基調に突入します。しかし、1980年から1999年には、インフレの抑制を背景に金は継続的な下落トレンドに入ります。2000年代、その他の商品価格と足並みを合わせる格好で、金は再び上昇基調に回帰し、世界金融危機(GFC)時に上昇が一時中断したとは言え、欧州債務危機が価格をさらに押し上げ、2011年にかけて中央銀行が追加緩和を実施したことを受けて、2011年に1オンス1,921米ドルで最高値を更新しました。その後、世界経済が回復し、金価格は2015年にかけて下落します。しかし、その後再び大きく上昇し、今回2011年の過去最高値を更新したわけですが、実質金価格は(1週間のスパイクだったとはいえ)1980年に記録した1オンス819米ドル(現在のドル換算)には届いていません。

米ドル安以外にも、金相場の上昇に寄与した要因は複数存在します。
- 第1に、量的緩和(資産購入)を受けて消費者物価インフレが上昇するという前提のもとに、インフレヘッジとして金を購入している買い手が存在する。
- 第2に、量的緩和による流動性の供給と公的債務水準の上昇を背景とした主要な紙幣通貨のリスクを懸念する見方から、代替通貨としての需要が高まった。この点ついて、金価格はほとんどの通貨に対して上昇している。
- 第3に、恐らく最も重要なポイントととして、金利と債券利回りの更なる低下を背景に、現金や国債に代わる価値保全の方法として金を保有するオポチュニティコストが再び大きく低下した。
中央銀行が金融引き締めに動き出し、債券利回りが大きく上昇するまで、つまり当分の間は、金相場が更に上昇する可能性があります。
金価格の急騰は悪い兆候であるという見方もありますが、価格を押し上げている要因が様々であることから、良いか悪いかは明確ではありません。一方で、世界経済の動向と安全な逃避先としての投資家需要の低下という観点から、米ドルの下落はマイナスよりもむしろプラスであるという事はより明確です。
金への投資
金のエクスポージャー取得には様々な方法があり、それぞれに良い点と悪い点を持っています:
- 現物の金:純粋なエクスポージャーを提供する一方で、保管に高いコストがかかる。
- 金先物:保管の問題はなく、レバレッジを容易に効かせることが可能なものの、満期に合わせたロールオーバーが必要。
- 金ETF:流動性は極めて高いものの、カウンターパーティ・リスクを伴う。
- ゴールドシェア:金相場を反映しているものの、個別企業のパフォーマンスからも影響を受ける。
- 金ファンド:上記を組み合わせたもの。
ここで、金は極めて投機的である点を強調すべきでしょう。通常の株式や不動産、債券、現金の様な収益源は持っていません。これまで生産されてきた金は今でも全て存在しており、市場に戻ってくる可能性があります。また、莫大な金の在庫に対して、ジュエリーや産業向けの生産と需要は極めて小規模です。この結果、「アニマルスピリット(野心的意欲、時として予測不能で不合理な行動をする心理)」が金相場を大きく左右することもあります。ということは、ボラティリティが高いということで、過去を振り返ると、金相場は長期の上昇基調と下落基調を繰り返すことが分かっています。まとめると、投資家のポートフォリオにおいて、紙幣通貨の下落/インフレに対するヘッジ手段としての役割を持っているとはいえ、(投資家の状況によりますが)恐らく5%以下に抑えるべきでしょう。
豪ドルが上昇を続ける理由5つ
コロナ危機のパニックが最高潮に達した3月、1豪ドル0.55米ドルで底打ちした豪ドルは、ここにきて同0.70米ドル台に乗りました。金相場と同じように、豪ドル高の背景にも複数の要因が存在します:
- まずは米ドル安で、理由は前述の通り。
- 第2に、豪州準備銀行(RBA)による豪ドル供給よりも、FRBが供給する米ドルの方が大量である。
- 第3に、FRBによるゼロ金利政策導入を受けて、2か国間の金利差が縮小した。次の図表が示す通り、豪米間の金利差が縮小する局面では通常豪ドルが下落する、その逆もしかり。

- 第4に、鉄鉱石価格が1トン当たり100米ドルに近づき、金属価格は3月の底値から30%近くの伸びを記録してコロナ危機以前の水準近くまで回復、原油価格は4月以降約2倍に上昇するなど、商品価格が上昇している。
- 第5に、商品価格の上昇、堅調な中国向け輸出、純資産ポジションの増加が、豪州の経済収支黒字の維持に寄与しており、これは豪州が海外資本に依存していない事を意味している。
- 最後に、新型コロナウイルス感染拡大が深刻な米国よりも、豪州経済は早期に回復する見通しである。
これらの理由から、豪ドルは上昇を続けると見込まれ、年末までに1豪ドル0.75米ドル水準を超える可能性が高いと予想されます。
現時点において、豪ドルはまだフェアバリュー(PPPに基づくと1豪ドル0.73米ドル近辺)前後にあり、その上昇は商品価格といったファンダメンタルズに合致しています。ですが、基礎的な支援材料がない中で急激にフェアバリューを超えて上昇する場合には、RBAは経済回復への脅威とみなし、対策を講じると予想されます。RBAはマイナス金利や為替介入に前向きでない事から、追加の量的緩和を打ち出してくるでしょう。

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