経済&マーケット

豪州経済&財政アップデート:財政赤字は過去最高となるも、まだ拡大する見通し

By シェーン・オリバー博士
インベストメント・ストラテジー&エコノミクス担当ヘッド、チーフ・エコノミスト 豪州、シドニー

主なポイント

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豪州連邦政府の見通しでは、財政赤字は今年度1,845億豪ドルでピークに達します。これは対GDP比で9.7%と、第二次世界大戦後で過去最大となります。

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追加刺激策の導入や、歳入回復のペースが政府見通しよりも緩やかになると見込まれることから、財政赤字は最終的に2,200億豪ドル程度まで拡大すると予想しています。

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公的債務は比較的低水準、借入コストも極めて低く、かつ連邦政府の借入は豪ドルベースで、対外債務に依存していないことから、予算や関連債務の膨張が大きな問題に発展する可能性は低いと言えます。財政赤字の増加を拒まない事は正しい選択です。

はじめに

7月23日に行われた経済&財政アップデートは、2019年12月の年央経済・財政中期見通し以来、初の発表となります。新型コロナウイルス感染拡大による経済への打撃と支援パッケージが打ち出されるなど、財政黒字化が目の前に見えたその当時から状況は一変しています。

 

政策刺激

発表された声明には、ここ2週間で発表となった追加の政策刺激以外、新たな措置は含まれていませんでした。

  • 見習&研修に対する助成金20億豪ドル
  • ジョブキーパー(給与補助金)制度の2021年3月までの延長、推定160億豪ドル。支給額は段階的に縮小となり、今年2月に週20時間以上働いた対象者には2週間当たり1,200豪ドル、その後同1,000豪ドルを支給、それ以外の対象者は同750豪ドル、その後同650豪ドルを支給。受給条件として、雇用者は7-9月期末と10-12月期末時点における離職率の継続的な低下を証明する必要があります。
  • ジョブシーカー(求職失業者援助金)制度の2020年12月までの延長、推定38億豪ドル。支給額は縮小され、2週間当たり250豪ドルとなります。

これまでに発表された経済支援策(実際の支出や減税、保健措置など)に加え、上記220億豪ドル規模の追加支援が発表となり、新型コロナウイルス対応措置の規模は1,740億豪ドル近くとなる見通しです。支援策の中核を成すのはジョブキーパー制度ですが、ジョブシーカー制度、事業や対象世帯に対する現金支給や、(政府と豪州中央銀行からの)ローンや保証支援1,250億豪ドル(対GDP比6%強)規模も含まれています。

減税の前倒しと追加の投資インセンティブに関する案は10月の予算編成まで延期となっており、追加の産業支援パッケージも同様の取り扱いとなる可能性が高いでしょう。この延期という判断の裏には、感染第2波の封じ込め状況に大きく左右される追加支援策の規模を見極めたいという連邦政府の意向があったと見られます。また、追加刺激策の発表を小分けにすることで、より効率的に信頼感の向上が図れる可能性もあります。

 

経済見通し

連邦政府の見通しによると、豪州経済は今年度2.5%のマイナス成長となり、1946/47年度以来最大の縮小幅となります。この見通しに含まれているのは、足元4-6月期の-7%という過去最大のマイナス成長と今年下期における緩やかな回復です。経済成長と失業率の観点から、連邦政府の見通しは当社よりも楽観的な内容となっています。

経済見通し

財政赤字見通し

連邦政府による修正後の財政見通しと当社見通しは、以下の図表で示しています。経済見通しが不透明であるため、通常以上に慎重な取り扱いが必要となる点にご注意ください。

基礎現金収支見通し

年央経済・財政中期見通しが発表された2019年12月以降、経済しかり歳入・歳出は720億豪ドル規模という大きな打撃を受けています。これは「パラメーターの変化」で示しており、今後経済が回復するにつれて徐々に減少するはずです。2019年12月以降に発表されている政策刺激(主にコロナ危機対策関連だが、それ以外も含む)は、「これまでの刺激策」で示しています。

財政対応と景気後退による歳入への影響を背景に、連邦政府見通しにおける財政赤字は昨年度の860億豪ドルから今年度は過去最大の1,845豪ドルへと拡大する見込みで、支援措置が段階的に終了し、経済が回復するとともに、この赤字は縮小する見通しです。連邦政府の見通しでは、財政赤字は2021/2022年度に対GDP比9.7%程度となり、第二次世界大戦後のピークを打つことになります。歳入へのより大きな打撃や10月予算編成で発表が見込まれる分を含む追加刺激策170億豪ドル規模を勘案すると、今年度の財政赤字は2,200億豪ドル程度になるとAMPキャピタルでは予想しています。追加刺激策には、2022年の減税、追加の投資インセンティブ、産業支援プログラムが含まれる可能性が高いと見ています。財政赤字の拡大を背景に、公的債務は2022年に向けてGDPの20%程度膨張すると予想しています。

豪州の財政赤字

評価

過去2週間で発表された220億豪ドル規模の追加刺激策は歓迎すべきもので、懸念される10月の「財政の崖」を「財政の下り坂」に緩和する役割を果たすものです。これを受けて、新型コロナウイルス関連の財政刺激策(ローンと保証を除く)は合計で対GDP比8.7%に達することになります。豪州の刺激策は他国と比較しても大規模となっており、経済回復への寄与が期待されます。

世界の新型コロナウイルス支援措置

しかし、コロナショックを受けて失業率は長期に渡り高い水準で推移する見通しであることから、追加支援が十分であるとは言い難い状況です。ジョブキーパー制度がなければ、実際の失業率は現在11.3%となっているはずで、豪州統計局(ABS)発表の正式な失業率である7.4%を大きく上回ることになります。経済再開を受けて、実際の失業率は4月の14.8%から低下していますが、ビクトリア州における感染第2波とメルボルンでのロックダウン措置再開による経済回復への影響や、ニュー・サウス・ウェールズ州への感染拡大懸念を受けて、9月の実際の失業率は下がっても10%程度、今後来年にかけては9%強となる可能性があり、収入サポートの維持は必要不可欠です。連邦政府の注目は10月の予算編成における経済改革へとシフトしており、これには更なる財政支援の追加が含まれる可能性が高くなっています。

当社では、豪州は膨張する財政赤字と公的債務を乗り切れるという判断を維持しています。まず第1に、支援策がなければ経済への打撃ははるかに大きなものとなっており、絶対に必要な措置です。

第2に、家計や事業が支出を削減する局面で公的部門がこれら部門から借り入れ、支援を必要とする事業や個人に振り分けるのは合理的な判断です。

第3に、支援策は足元のニーズに応じて実施されているものであり、これにより公共支出が永久的に増加することはありません。

第4に、豪州の公的債務は対GDP比23%と、その他先進国平均の83%と比較して低い水準にあり、財政赤字見通しを加味しても、比較的小規模にとどまっています。次の図表をご覧ください。

公的債務、2019年と2021年

第5に、連邦政府による借入は豪ドルであり、足元の経常収支残高を見る限り、外貨危機を引き起こすような対外債務への依存はありません。

最後に、政府の借入コストは10年で約0.85%、3年で0.25%と極めて低水準です。

 

豪州準備銀行(RBA)への影響

AMPキャピタルでは、RBAは今後複数年間にわたり政策金利をゼロ近くで維持する必要があり、豪州経済における余剰生産能力と目標レンジを下回るインフレを考慮すると、追加の量的緩和が必要となる可能性があるという見方を維持しています。家計や事業に対する追加の連邦政府支援だけでは、この見解を変えるには不十分です。

 

豪州資産への影響

定期預金とキャッシュ:金利は長期に渡り0.25%が維持される可能性が高く、定期預金やキャッシュからのリターンは今後低い状況が継続すると見込まれます。とはいえ、財政刺激とマネーサプライの増加を受けて、インフレと金利は今後ある時点で上昇する可能性が出ていますが、少なくとも3年後以降となるでしょう。

債券:他の条件が同じであると仮定した場合、公的債務と起債の増加は債券利回りの上昇を意味しますが、過剰な生産能力や民間セクターの借入が低水準である点、インフレが極めて低く、政策金利は0.25%が当分の間継続する見通しである点を考慮すると、債券利回りのアップサイドは大きいとは言えません。しかし、新型コロナウイルス感染を上手く抑制できれば、ダウンサイドも大きくはないため、中期的に見ると債券からのリターンは低水準となる可能性が高いでしょう。

株式:追加の政策刺激は、新型コロナウイルスによる経済への影響を相殺し、成長への回帰に対する信頼感の回復に寄与することから、株式にとってプラスです。

不動産:収入支援の継続が寄与する格好で住宅価格の大幅下落は回避されていますが、高止まりする実際の失業率や弱含む賃貸市場、移民の激減といったマイナス要因を見る限り、住宅価格は来年以降もシドニーとメルボルンを中心に下落基調が維持されると予想しています。

豪ドル:他国と比較しても大規模な財政刺激策が継続的に実施される中で、商品価格は上昇、米ドルは下落基調にあり、豪ドルには更なるアップサイドがある事が示唆されています。


最後に

コロナ危機によって民間セクターの支出が打撃を受ける中、連邦政府がそのギャップを埋め、豪州経済を支えるの役目を果たすのは合理的な判断です。債務水準の引き下げにおける最良のアプローチは、経済改革アジェンダの再活性化を通じた経済成長ですが、この先当分の間は政府による財政支援が必要となります。

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