経済&マーケット

豪州2019/2020年度のリターンは低調となるも、もっと悪化していた可能性もある

By シェーン・オリバー博士
インベストメント・ストラテジー&エコノミクス担当ヘッド、チーフ・エコノミスト 豪州、シドニー

主なポイント

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2019/2020年度は、投資家にとって試練の時となりました。新型コロナウイルス感染の世界的な拡大を受けて、バランス型ファンドでも少なからず損失を被っています。

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投資家にとって重要な教訓は:ポートフォリオの十分な分散を維持する、市場動向のタイミングを見計らうのは困難である、大衆には注意が必要、ノイズを低減する、そして米連邦準備制度理事会(FRB)には逆らうな、という点です。

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新型コロナウイルスのリスクは高い状態が継続しており、投資市場は短期的なボラティリティに再度見舞われる可能性があります。今後12か月において、分散型ポートフォリオのリターンは抑制されたものとなるとはいえ、まずまずの結果となるでしょう。

はじめに

新型コロナウイルス感染が1930年代以来最悪とみられる経済の悪化をもたらした2019/2020年度は、投資家にとってリターンに乏しい一年となりました。株価は大幅下落した後、6月に力強いぶり返しを見せ、その影響が若干緩和されました。このレポートでは、2019/2020年度を振り返り、今後の見通しを考えます。

 

コロナ危機の前と後

2019/2020年度は、実質的に2つに分ける事ができます。2019年7月から今年初めにかけては、中央銀行による緩和を背景にリセッション懸念が後退し、米中貿易戦争にも和解の兆しが見え、世界経済成長見通しが改善したことで、株式や成長資産からのリターンは全般的に力強いものとなりました。大きな被害をもたらした森林火災や豪州経済の減速見通しにもかかわらず、豪州株は2月に過去最高を記録しました。この様な環境下において、国債からのリターンは抑制されたものとなりました。

今振り返ると、これはまるで異次元の世界だったかの様で、1月に新型コロナウイルス感染が中国で本格的に拡大するとともに、その記憶は薄れはじめ、やがて悪夢へと変化しました。当初、中国における感染封じ込めが期待されていた(実際のところ、感染抑制に成功した後、3月には経済が再開しています)ものの、2月下旬から欧州で感染が広まり、その後米国や豪州、そして新興国へと拡大した結果、厳格なロックダウン措置が講じられ、経済活動が大きく縮小しました。2月20日から3月23日にかけて、株価は35%程度の下落を記録し、商品価格の下落を引き起こしました。また、米ドルが急騰し、豪ドルは1豪ドル0.55米ドル近辺まで下落しました。

しかし、政策刺激、新規感染者数の減少、経済の再開、経済データの回復を受けて、株価は3月下旬に再び上昇を記録しています。3月の過去最低から6月の過去最高まで、グローバル株式は約40%、豪州株は約35%の上昇を遂げ、商品価格や豪ドルもリバウンドを見せています。

つまり、荒々しい動きだったとはいえ、2019/2020年度を通したグローバル株式のリターンは、豪ドルベースで5.2%という結果となっています。この流れを先導したのは、シクリカル銘柄へのエクスポージャーが比較的小さく、テクノロジーやヘルスケア銘柄へのエクスポージャーが大きい米国株で、FRBによる大規模な量的緩和も寄与した格好です。豪州株のパフォーマンスは優れず、2019/2020年度は-7.7%という結果となりました。

キャッシュと銀行預金からのリターンは、豪州準備銀行(RBA)が政策金利を0.25%へと引き下げたことから、極めて低いもののとなりました。一方で、利回り低下を受けてキャピタルが上昇した債券のリターンは、まずまずの内容となっています。金利と債券利回りが低下したにもかかわらず、コロナ危機を受けた経済活動の中断によって、小売りやオフィス・セクターにおける空室率の上昇と賃料の低下を招いたことから、上場不動産は2桁台のマイナスとなりました。空港のリターンも同様に低下し、非上場インフラのリターンの足枷となりました。

バランス型グロースのスーパーアニュエーション・ファンドも、手数料・税金控除後で-1.5%と、マイナスのリターンを記録しています。4-6月期の株価回復がなければ、もっと悪い結果となっていたのは明らかです。ここ数年におけるスーパーアニュエーション・ファンドのリターンは5年平均で5%強と、(税引前の)銀行預金金利が2%程度、インフレが平均して1.5%である事を考えると、まずまずの内容と言えます。

2019/2020年度における主要資産クラスのリターン

株式と同様に、豪州住宅市場もジェットコースターの様な動きとなり、利下げと連邦総選挙結果を受けて10%上昇した後、コロナ危機によって減速しています。

 

2019/2020年度からの教訓

2019/2020年度から投資家が学ぶべき教訓として、次が上げられます:

  • ポートフォリオの十分な分散を維持する:株式とリートにとっては試練の年度となった一方で、債券やグローバル株式と外貨へのエクスポージャーがある程度の安定性を提供しました。
  • 市場動向のタイミングを見計らうのは困難である:振り返って考えると容易に見えますが、2月の高値で売り抜け、3月の低値で買い戻すタイミングを見計らうのは、極めて困難なことです。
  • 大衆には注意が必要:常に言えるように、投資家の悲観的見方がピークに達した3月に株価は底値を打っています。
  • ノイズを低減する:新型コロナウイルスを巡る報道は最高潮に達しており、長期投資へのフォーカスを維持することが難しくなっていますので、ノイズを遮断するのがベストです。
  • 米連邦準備制度理事会(FRB)には逆らうな:金利はゼロに近く、公的債務も高水準にありますが、莫大な規模の政策刺激を活用して投資市場に影響を与える選択肢がまだ残されています。

 

マイナス要因

短期的な株価調整、ボラティリティの継続、抑制されたリターンを招くような脅威が幾つか存在します。中でも大きなものを、以下で取り上げています。

  • まず最初に、一部の国では新規感染者数が大幅に減少しているものの、新興国や米国を中心に世界的にはいまだ上昇を続けており、豪ビクトリア州でも再び増加を見せています。この流れを受けて、経済活動を麻痺させる(特定地域に限定するのではなく)全国的なロックダウン再開のリスクが浮上しています。部分的なロックダウンであっても景気回復の足枷となるのは明らかで、豪州GDPの20%を占めるメルボルンで6週間のロックダウンが再開したことで、今四半期GDPから1%近くが失われる事になると当社では予想しており、回復のペースが減速することになります(しかし、他州における成長がマイナスの影響を相殺する格好で、完全に回復軌道から外れるこはありません)。
  • 第2に、シャットダウンによってテクノロジーの普及が加速し、企業が費用削減やスキル委縮に動くことで、破綻や高い失業率という形で長期に渡る影響を及ぼすこととなり、成長の足枷となります。
  • 第3として、豪州にとって最大のリスクは、高い失業率や、移民減少を受けた住宅需要と賃貸市場の後退が相まって住宅価格が下落し、負の資産効果を引き起こすことです。
  • 第4は、11月の米国大統領選挙に向けて、バイデン氏が勝利し、法人税の増税を実施する可能性が高まるとすれば、株式市場ではボラティリティが高まる可能性があります。もしトランプ大統領が自棄になり、中国や欧州との緊張が高まる事の方がリスクは高いと言えます。賭けサイトでは、民主党による総入れ替えを予想する確率が高くなっていることからも、バイデン氏勝利のシナリオは既に織り込み済みであると考えられますが、貿易摩擦の激化は恐らくまだでしょう。
  • 最後に、株価収益率(PER)の様な従来の指標によると、株価は割高です。

 

プラス要因

とはえいえ、これらマイナスの影響を相殺するプラス要因も存在します。

  • 第1に、中国や韓国、台湾、日本といった一部のアジア諸国では、新型コロナウイルスの封じ込めに成功しています。SARS(重症急性呼吸器症候群)での経験やマスク着用の文化が功を奏したのかもしれません。世界も、これらの国から学ぶことができるでしょう。
  • 第2は、新型コロナウイルスのワクチンや治療薬の開発が進んでいる点です。ワクチンに関しては私は懐疑的ですが、治療薬は死亡率の抑制に寄与している可能性があります。第1波時より死亡率を抑制することが出来れば、厳格なロックダウンや隔離措置再開のリスクは低くなります(ビクトリア州は除く)。
  • 第3に、対GDPで見て過去最大規模の財政刺激策が打ち出され、莫大な金利刺激策が導入されたように、政策担当者は、事業や収入、雇用支援に向けて可能な事は何でもするという姿勢とコミットメントを維持しています。今回は、政策アクションの実施まで時間を要する通常のリセッション局面とは異なります。米国は追加刺激策の検討に入っており、豪州でも新しい収入支援や減税の前倒しが議論されています。
  • 第4に、中国や先進国の経済指標の多くでは、シャットダウンを受けた大幅マイナスから深いV字回復を見せており、積み上がった需要が莫大である事を示唆しています。この点は、購買担当者指数(PMI)でより明確に出ており、小売売上高からも確認できます。今後は段階的な経済回復が見込まれますが、その道のりは起伏あるものとなるでしょう。豪州GDPは今年4.5%縮小した後、来年は4%の拡大を見込んでいます。
グローバル製造業PMI&サービスPMI
  • 最後に、金利と債券利回りの低下により、株式やその他成長資産の時価が上昇しています。PERなどマルチプルが高くなっているのは、これが理由です。言い換えれば、銀行定期預金など他の選択肢はより魅力に欠けることからも、収益や配当が低下しても、株式は魅力ある投資先となっています。
銀行定期預金に比べて、豪州株式は魅力的な利回りを提供

リターンの見通し

新型コロナウイルス感染のリスクは高い状態が続いており、投資市場は更なるボラティリティに見舞われる可能性があります。しかし、今後12か月における分散型ポートフォリオのリターンは抑制されたものとなるとはいえ、まずまずの結果となるでしょう。

  • 新型コロナウイルスを巡る不透明感や米中貿易摩擦を背景に、3月につけた過去最低から力強いラリーを記録した株価は、短期的な調整に見舞われやすくなっています。とはいえ、今後6-12か月にかけては、経済活動の加速や大規模な政策刺激が支援となり、妥当なリターンが期待できるでしょう。
  • RBAは政策金利を0.25%で維持すると見込まれることから、キャッシュや銀行預金からのリターンは1%未満と、貧しい結果となる見通しです。投資家は、何を追求するのかを考えなければなりません:キャピタルの安定性ならばキャッシュを維持し、インカム獲得であれば他の選択肢を考慮する必要があるでしょう。
  • 債券に関しては、利回りが低水準からのスタートとなった場合には、新型コロナウイルスが落ち着きを見せた後のリターンも低くなるでしょう。
  • 非上場の商業用不動産やインフラは、イールド追求の動き再燃から恩恵を受ける見通しです。しかし、経済活動が打撃を受けたことで賃料にも影響が出ており、短期的にリターンの重石となる見込みです。
  • 豪州の住宅価格は、失業率の上昇や移民受入れの中断、弱含む賃貸市場からの影響を受ける格好で、来年にかけて5-10%程度の下落を見込んでいます。
  • 豪ドルは、世界経済の回復を巡る不透明や米中貿易摩擦からの影響を受け易くなっていますが、新型コロナウイルスの脅威が後退するとともに、上昇トレンドが継続する見通しです。

 

注視すべきポイント

注視すべき主なポイントは:シャットダウンの厳格度図るガイドとして新型コロナウイルスの入院患者数と死亡者数、グローバルPMI、失業率、米国大統領選挙、豪州の住宅価格です。

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