主なポイント
最近の住宅建設ブームが供給不足の一部を解消したものの、全国の空室率は上昇し、賃料の伸びが後退しました。
とはいえ、住宅建設は2018年後半以降減少傾向にあり、GDP成長、小売、雇用の重石となっています。住宅建設は2020年中旬には底入れするでしょう。
建設許可件数が(人口増加を背景に高い水準にある)住宅需要を下回っていることから、供給の問題が再び浮上する可能性があります。土地開放において重要な役割を担うのは、地元や州政府です。
全国の住宅価格は今後数か月で上昇を続け、高値を更新する見通しです。上昇幅は、2020年に約10%、2021年は5%程度となる見通しです。
はじめに
2017年9月から2019年6月における豪州住宅価格の下落とその家計資産と消費への影響は、豪州経済の大きな足かせとなりました。このレポートでは、豪州住宅市場について取り上げます。住宅市場における主要分野の見通しは、以下の通りです。

住宅需要と供給不足
住宅需要の決定要因は、人口の伸び(1件当たり人口に調整)です。住宅供給とは、建設が終了、「完成」した物件の数であり、建て替えや改装、空き物件を含みます。豪州では、人口増を背景とした新規住宅不足を背景に、2000年代半ば以来、住宅供給が需要を下回る状況が続いています。

住宅の供給不足を受けて全国の空室率が低下したことで、賃料は2006~2009年にかけて急上昇を記録しており、ここ20年にわたる住宅価格の伸びが加速しました。

(2012年から2017年中旬にかけた)最後の住宅価格ブームによって、価格は(最低から最高で)150%近い伸びを記録しました。これが住宅供給に拍車をかけ、供給不足の一部が解消され、住宅需要と供給のバランスが整ってきた格好です。
2012年に始まった住宅建設ブームは、豪州人口の40%を占めるニュー・サウス・ウェールズ(NSW)州とビクトリア(VIC)州に集中していました。ここ数年にわたる新規住宅建設の増加によって、NSW州の供給不足が(とりあえずのところは)解消されたものの、VIC州では供給不足が続いています。高い人口の伸び(豪州は年率1.5%、NSW州は同1.4%に対し、VIC州は同2.1%)を誇るVIC州では、住宅需要が高くなっています。

このVIC州における住宅不足は、シドニーと比較してもメルボルンの方が賃料の伸びが大きく、空室率も低くなっている点から明らかです。年率で見た賃料の伸びは、シドニーで過去最低水準となっています。

住宅建設の見通し
直近の住宅建設サイクルは、2018年にピークを打っています。(住宅建設活動を見る上で最も有効な先行指標である)建設許可件数は現在、2018年ピーク時から60%下落した水準にあります。ピーク時でGDPの6%を占めていた新規住宅建設は、2020年中旬ごろに5%程度で底入れする見通しで、GDPの伸びが合計1%低下することになります。
(移住を背景に高い水準が続く)需要を満たすには、建設許可件数は月次で18,000件数程度の水準を維持する必要があります。リスクは、住宅需要が新規供給を超える水準で推移することで、空室率が低下し、住宅価格と賃料に(再び)圧力をかけることです。
土地開放を中心に、住宅地計画で重要な役割を担うのは(州と地元の)政府です。世界各国の例を見ると、規則に基づく住宅地計画制度(例:ドイツ)の方が、地元住人によって延期や中止となる事が多い裁量に基づく制度(例:豪州)よりも多くの住宅建設を可能とすることが分かっています。
住宅融資と信用
住宅融資は、投資目的より持ち家の借り手が増加したことで、2019年中旬の最低水準から21%の上昇を記録しています。低金利環境を受けて住宅需要が拡大したことから、住宅融資には更なるアップサイドがあります。しかしながら、世帯のフォーカスは債務返済にあることから、住宅信用の伸びは年率3~4%程度と抑制された水準が続く可能性が高くなっています。今のところ、金融安定性リスクの対応に向けたマクロプルーデンス政策導入のリスクはないと見られますが、信用の伸びが加速する局面ではリスクとなります。
新規ローンに占める初回マイホーム購入者の割合は現在20%と(過去最高水準に近づいており)、増加基調に回帰しています。政府の初回住宅購入者向け頭金制度が寄与している(とはいえ、対象者は今のところ1万人に限定されており、これは初回間住宅購入者の10%程度でしかない)模様で、住宅価格の伸びにも寄与していると考えられます。
住宅価格の見通し
2019年6月に始まった住宅価格の伸びは、まだ上昇余地が残されています。シドニーの住宅価格は過去最高を5.4%下回る水準、メルボルンは同1.2%を下回る水準にあり、今後6か月でRBAによる追加利下げが見込まれていることからも、借入コストの低下を受けて住宅需要が拡大すると予想され、今後数か月で過去最高を更新するでしょう。とはいえ、今年後半には、住宅価格の伸びは減速する見通しです(特に、過去の回復サイクルを比較して)。これは、収入に占める家計債務の割合が上昇(過去最高水準に達している)、銀行貸出基準の厳格化、シドニーとメルボルン市場におけるユニット供給の増加、弱含む経済といった環境住宅価格上昇の妨げとなる要因がいくつか存在するからです。全国の住宅価格は今年、10%程度の上昇を見込んでいます。それ以降は、年率5%程度のペースへと減速する見通しです。住宅価格の上昇は地方でも確認されており、ブリスベンやホバート、キャンベラでもまずまずの伸びを記録しています。パースでは長期の下落基調からやっと安定化の兆しが見ているものの、ダーウィンではまだ価格下落が続いています。
住宅市場の下落を受けて、個人消費が1.0~1.5%程度縮小しています。住宅価格の上昇によってこの影響の一部が相殺されるものの、賃金の伸び悩みが消費の重石となり、家計支出は抑制された状況が続くでしょう。さらに、森林火災の影響を受けた消費控えやコロナウイルスによる観光客の減少がリスクとなっています。
投資家への影響
豪州における住宅投資は、株式市場(年率11%)と似た水準のリターンと上場市場からの分散効果を提供するなど、長期にわたり好調なパフォーマンスを提供してきました。豪州では、長年にわたるマイホーム所有の定着と節税効果(ネガティブギアリング、キャピタルゲイン税の割引、自己運用型スーパーアニュエーション・ファンドにおける優遇など)から、投資住宅が好まれてきました。全国の住宅市場では、今後数年間にわたるキャピタルそして賃料の伸びは緩やかなものとなる見通しですが、債券利回りが極めて低い状態を考えると、節税効果を持つ豪州の住宅は魅力のある投資先となっています。
住宅価格の高騰より大きな問題は、格差への影響です。格差と住宅のアフォーダビリティに関連する緊張は、数多くの先進国で明確です。香港のデモ、ブレグジットの論点、米国大統領選挙における極左派の民主党候補者(エリザベス・ウォーレンやバーニー・サンダースなど)はこの良い例です。低金利環境を受けて、借り手の債務負債能力(サービサビリティ)は近年改善していますが、シドニーとメルボルンを中心に、アフォーダビリティの懸念は根本的な問題であり、利上げ局面で大きな問題に発展する可能性があります。
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