不動産

グローバル上場不動産セクターの新たな勢力

デモグラフィック(人口統計上の属性)の歴史的な変化を背景に、人々の選好は持ち家から賃貸へとシフトしています。この流れを受けて、住宅不動産セクターでは機関投資家所有の一戸建て賃貸という新しいトレンドが加速しています。ここでは、この成長著しい勢力を取り上げます。

世界人口の高齢化が進んでいます。ほぼ全ての先進国では、これまでに類を見ない規模の高齢者人口の増加に直面しています。国連(UN)は、人口高齢化を21世紀最大の社会変化と呼んでおり、社会と事業のあらゆるセクターに幅広く影響が及ぶと予想しています1

国連のデータによると、世界人口は2050年までに6人に1人が65歳以上となります。欧州や北米だけを見ると、4人に1人と、65歳以上の人口はその他若年層を上回る規模に達するのです2

これは無視できないデータです。しかし、グローバル統計を使ってトレンドの解説を試みるのは最良の方法ではないかもしれません。そこで、もう一つの実態に目を向けてください:米国では1日当たり1万人が65歳の誕生日を迎えています3

これは驚異的な変化です。

投資家にとっては、大規模な課題 ― そして、オポチュニティ ― が提供されています。

最大の課題は、住宅です。

ベビーブーマー世代が退職を迎えるにつれ、収入がなくなり、貯蓄を切り崩す生活が始まります。

生憎、この大規模な世代は、過去最低水準にある金利環境下で退職生活を送る羽目になり4、ライフスタイルを維持するに十分なインカムの獲得が困難となります。

この様な流れを受けて、新たな動きが加速しています。それは、投資からのインカム収入に頼って生活するのではなく、資産を売却して生活資金を確保するというものです。

大半の人々にとって、最大の資産はマイホームでしょう。

しかしここで問題なのは、買い手を見つけるのが難しくなっているという点です。

 

ミレニアル問題

1980年代から1990年代にかけて生まれたミレニアル世代は今や30代、最年長では40代に突入しています。

同年代は人生で最も働き時とも言え、従来であれば数多くの人が住宅ローンを組んでマイホームを購入していました。

しかし、ミレニアル世代は違います。その多くは、マイホームを一度も手にすることなく人生を送るのです。

この背景には、幾つかの要因が存在します。

まず最初に、ミレニアル世代の多くは、不動産を購入するに十分な貯蓄や収入を持っていません。

同世代の逆境は、リセッションだけではありません。米国では、金融やテクノロジー・セクターの台頭、雇用・働き方の変化を背景に、高給与の仕事は沿岸ゲートウェイ都市に集中しており、供給不足から価格が高騰しています。

しかし、より重要なポイントは、ミレニアル世代は賃貸を好むという点です。

マイホームを持つというこれまでの世代のアメリカン・ドリームは、生涯ずっと賃貸という欧州式に変わりつつあります。

持ち家を夢見る米国のミレニアル世代の割合は、2016年に40%だったものが、2019年には18%まで低下しています5

世代別に見る米国のマイホーム選好
出所:アメリカン・ホームズ4レント、Investor Highlights、2020年9月

米国では、ミレニアル世代がベビーブーマー世代を追い越す規模に成長している6ことからも、ミレニアル世代の意思は重要なのです。

また、単純に投資の観点から見ても、持ち家を嫌がるミレニアル世代の行動は理にかなっていると言えます。

インカムを生まない、レバレッジのかかった単一資産に対して30年のコミットメントを行う ― これは賢い投資と言えるでしょうか?

とはいえ、後世へと繰り返し相続されていく点を考えると、世代を超えた優秀な資金源となってきた事は間違いありません。

今は、より魅力的な資金源が他に存在します。米国では、手数料が低い又は無料の証券口座の普及に伴って、金融市場や仮想通貨への投資を始める人が増えており、貯蓄を効率的に増やす方法として、低コストのインデックス投資が人気を集めています。

 

コロナ危機

ここで注意したいのは、マイホームから賃貸へのシフトは、新型コロナウイルスというパンデミックが発生する以前から始まっていたという点です。そして、2020年の異例な出来事を長期予想だと推測しないことが極めて重要になります。

しかし、進行中のトレンドがコロナ危機によって加速している事は事実です。

米国では、人口が集中する都市部から、大都会ほど人口密度が高くない地域での生活を求める人が増えています。これは、今に始まったばかりのトレンドではありません。

渋滞、過密、暴力、高い生活費 — これらは、新型コロナウイルス感染の拡大、ロックダウン措置と社会的な混乱が始まる前から、多くの米国都市を悩ませてきた問題です。2020年は、主要都市の一部が感染のホットスポットになっています。

これら一連の流れを受けて、税金と生活費用が低めで、優れたライフスタイルを楽しめる米南部サンベルト地帯へと移り住む人が増加しています。在宅勤務という新しい働き方が幅広く普及したことも、この流れを加速させています。

2020年は、少なくとも、テレワークの世界的かつ大規模な実験の年であったと言えるでしょう。テレワークが実際に機能する事が確認できただけでなく、人気の高い働き方であることが判明しました。

ビデオ会議、クリエイティブ、コラボレーションを可能とするパワフルなITツールが数々と登場しており、生活の質向上を望む人々が大都市を脱出するというトレンドが加速しています。

米国のナレッジワーカーの多くは、今や場所を選ばずに働く事が可能で、主要都市のオフィスまで通勤が可能なエリアに住む必要はなくなっています。これは働く人にとって好ましいだけでなく、雇用者側にとっても採用候補の幅が広がるという点でプラスです。

 

機関投資

この様に、複数のトレンド ― テクノロジーの進化を受けた在宅勤務の普及;都市部から郊外や人口密度の低い地域への脱出;マイホームは購入ではなく賃貸の選好;ベビーブーマー世代の退職に伴って一戸建て住宅が大量に市場に出回る ― が交差した状況にあります。

これらトレンドを背景に台頭しているのが、シングルファミリー向け(一戸建て)賃貸で、機関投資に相応しい新たなセクターとして確立されつつあります。

今では人気を博す同セクターですが、ここまでの道のりは険しいものでした。10年程前の世界金融危機(GFC)時には、1千万人もの米国人が家を失っています7

住宅に対する米国人の考え方が大きく変化したきっかけは、このGFCでした。しかし、持続不可能なモーゲージ債務のバブルが崩壊するとともに、機関投資家が多数の差し押さえ物件を取得したことで、機関投資家所有の住宅が大幅に増加し、新興セクターとしての確立に向けた第一歩が踏み出されたという訳です。

米国において、機関投資家が所有するシングルファミリー向け賃貸物件は20万件あり、個人所有のシングルファミリー住宅1,500万件と比較すると僅かな規模に過ぎません。これはまさに、断片化され、統合の機が熟した市場です8

これとは対照的に、法人所有のマルチファミリー向け(マンション)賃貸物件が占める割合は55%です8

シングルファミリー向け賃貸は、急速な成長を遂げています。ベイビーブーマー世代が退職に向けた準備を進めるとともに、今後10年で住宅1,200万件余りが売りに出されると予想されています8

従来、これら住宅の買い手となってきた世代は、今や賃貸を選好することから、これら住宅の多くは新しいオーナーが見つからないという事になります。

ここで新たな買い手となっているのが、機関投資家です。彼らは大規模な物件取得を行っており、2030年までにシングルファミリー向け住宅1,800万件程度を所有する規模に達する勢いです。機関投資家所有が賃貸市場全体に占める割合は、ここ10年で10倍増を記録しています。

SFR(シングルファミリー向け賃貸) リートは10倍近く拡大する見通し
出所:モルガン・スタンレー・リサーチ、REITレポート、2019年3月

最終的に、責任ある投資を行う私たちAMPキャピタルの義務は、世界経済に影響を及ぼす長期トレンドの評価と対応を行う事であり、いま最も重要なトレンドがデモグラフィックの変化なのです。こういったトレンドの誕生は、時に不快感を伴うものですが、それが現実であり、足元の低金利環境やマイホーム所有を巡るアフォーダビリティの変化、コロナ危機、そしてGFC時にも同様の展開が見られています。

これら要因が重なり合うことで、米国住宅不動産の投資市場では、これまでの世代以上に柔軟性を求めるミレニアル世代にとって、息の長いリアルな変化が起きています。そして、このニューノーマルこそが、今後数十年にわたり住宅賃貸市場を活性化させる刺激剤になるであろうと、AMPキャピタルでは考えています。

 

 

1. 国際連合(UN)、https://www.un.org/en/sections/issues-depth/ageing/
2. UN、World Population Prospects 2019年、https://population.un.org/wpp/
3. 国際連合(UN)人口部
4. イングランド銀行、https://www.bankofengland.co.uk/-/media/boe/files/speech/2015/stuck
5. アメリカン・ホームズ4レント、Investor Highlights, 2020年9月、https://s22.q4cdn.com/136596447/files/doc_presentations/2020/09/AMH-Investor-Highlights-September-2020.pdf
6. 世界経済フォーラム、https://www.weforum.org/agenda/2020/04/millennials-overtake-baby-boomers-largest-generation-america
7. 米セントルイス連邦準備銀行、https://www.stlouisfed.org/publications/housing-market-perspectives/2016/the-end-is-in-sight-for-the-us-foreclosure-crisis#endnote1
8. モルガン・スタンレー・リサーチ、REITレポート、2019年3月

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グローバル上場不動産、ヘッド ジェームズ・メイデュー

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