経済&マーケット

豪州連邦政府の年央経済・財政中期見通し:財政赤字はピークを過ぎた模様

主なポイント

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豪州経済が予想以上のペースで回復を見せていることから、連邦政府は成長見通しを上方修正するとともに、失業率見通しを下方修正しました。

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これらと鉄鉱石価格の上昇を反映し、今年度の財政赤字見通しは2,140億豪ドルから1,980億豪ドルへと、若干の下方修正が行われています。

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財政赤字のピークは過ぎた模様です。とはいえ、対GDP比で10%と莫大であることに変わりはなく、公的債務水準がピークを打つのは10年以上先となる可能性が高いでしょう。

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しかし重要なのは、連邦政府が豪州経済の保護に成功したという点であり、財政支援がなかった場合よりも迅速な経済回復を可能にしたという点です。

はじめに

豪州連邦政府は、年央経済・財政中期見通し(MYEFO)において、財政赤字と経済見通しの見直しを行いました。期待以上に堅調な経済成長や鉄鉱石価格の伸びを背景に、歳入見通しは増加、歳出見通しは減少しています。この結果、2020/2021年度の財政赤字見通しは、10月の連邦予算案発表時における2,137億豪ドルから、1,977億豪ドル(対GDP比で9.9%)へと下方修正されました。とはいえ、過去に類を見ない規模の財政赤字である点に変わりはなく、対GDP比で見ると第二次世界大戦(WW2)後で最大規模となっています。しかし、2021年を通して、豪州国内における新型コロナウイルス感染拡大の防止に成功し、ワクチンが幅広く供給されるとすれば、経済回復が継続するため、財政赤字のピークは過ぎ去ったと言って良いでしょう。

 

新たな追加刺激策は小規模にとどまる

3月以降に実施された重要な連邦予算・財政政策発表において、大規模な新規刺激策が盛り込まれなかったのは今回が初めてです。高齢者ケア関連が手厚い内容となっており、連邦予算案の発表後には補助金制度の延長やワクチン資金の積み増しがあったものの、これらの規模は今年度分で49億豪ドルと、連邦予算案前に発表された追加刺激策総額の1,598億豪ドルと比較すると、極めて小規模にとどまっています。豪州経済が予想以上のペースで回復を見せている点や、10月の連邦予算案発表前後で410億豪ドルの追加刺激策が発表されていることからも、現時点ではこれ以上大規模な刺激策は必要ありません。昨年12月の年央経済・財政中期見通し以降に打ち出された刺激策の総額は今年度分が1,647億豪ドル規模と、相当な規模に達しています。

 

経済成長は上方修正

7-9月期のGDPが3.3%のリバウンドを記録した点からも明確な通り、連邦予算案の発表後、豪州経済は予想以上のペースで回復しています。信頼感、雇用、小売売上、自動車販売、住宅関連の指標が予想を上回る力強さを見せており、10-12月期もスピードの速い回復が継続していると見られます。実際のところ、AMPキャピタルが独自で取り纏めている経済活動トラッカーを見ても、4月に58%の縮小を見せて以来、足元では約1年前の水準を取り戻しています。

豪州の経済活動トラッカー

これと合致する格好で、連邦政府は2020/2021年度のGDP成長見通しを-1.5%から+0.75%へと上方修正しており、従来の8%ではなく7.5%でピークを打つと見込まれている失業率については、今後数年間の見通しを下方修正しました。11月の雇用関連指標を見る限り、これら修正後の見通しは、悲観的過ぎる内容と言えるかもしれません。

経済見通し

財政赤字は若干の下方修正

財政予算見通しにおける修正は、次の図表で示しています。予算案が10月に発表されてから、経済成長見通しが上昇修正されており、鉄鉱石価格が予想以上に上昇していることからも、歳入は上方修正、歳出は下方修正(例:当初220万人と予想されていた「ジョブキーパー」給与補助金制度の受給対象者は、要件の厳格化によって150万人に縮小)されています。この結果、「パラメーターの変化」(経済見通しの変化を受けた予算への影響)によって、2020/2021年度における財政赤字は208億豪ドル縮小する見通しです。追加刺激策は僅か49億豪ドルと小規模ですから、今年の財政赤字は1,977億豪ドルまで縮小しますが、これは対GDP比で9.9%と、WW2後で最高水準にあることに変わりはありません。

とはいえ、予想以上に早期かつペースの早い経済回復と、これに関連した歳入増と歳出減を反映する格好で、財政赤字幅は今後数年間にわたり若干の縮小となる見通しです。ここで注目したいのは、連邦政府による鉄鉱石価格見通しで、来年9月末までに1トン当たり55米ドルまで下落するという慎重な内容となっていることから、アップサイドのサプライズが続くとすれば、財政赤字幅はさらに数十億豪ドル程度縮小することになります。

基礎現金収支見通し

豪州経済が予想通りに回復を続けると仮定すると、財政赤字のピークは既に過ぎ去った可能性が高いと言えます。新型コロナウイルス関連の一時的な支援措置が段階的に終了するにつれ、連邦政府の歳出は大きく減ることとなり、財政赤字は2023/2024年度にかけて大幅に縮小する見通しです。

豪州連邦政府の歳入・歳出

しかし、黒字化達成までの道のりは長く、今後10年は財政赤字が継続する可能性が高くなっています。仮に、世界金融危機(GFC)後における「財政修復」の取り組みが再現された場合でも、財政の均衡化は早くても2032年になると見られ、今回はGFC時よりも大きな打撃を受けている事を考えると、これは楽観的な見方だと言えるでしょう。

生産性向上を目指す経済改革は景気拡大に寄与するものの、第2次世界大戦後の様に、公的債務の対GDP比を大幅に引き下げるには力不足です。実際のところ、公的債務の対GDP比は今後も拡大を続け、2020年代後半に53%程度でピークを打つと連邦政府は見込んでいます。ここでのリスクは、足元における35%程度から、2030年代初期には70%前後まで、金額にして2兆豪ドル近くまで上昇する可能性です。

豪州連邦政府の財政赤字
豪州連邦政府の負債総額

評価

豪州経済と雇用市場が予想を上回るペースで回復していることにより、予算案に対する圧力が若干和らぐとともに、来年は直接的な収入支援や銀行ローン返済の猶予といったサポートが段階的に終了となることを受けて、財政の崖に対する懸念は後退しています。連邦政府は、支援策を突然終了するのではなく徐々に終了に持ち込む計画である点も、財政の崖という脅威の軽減に寄与しており、豪州経済の回復が予想通りに続くとすれば、政府支援への依存は低くなるため、(9月末、ジョブキーパー給与補助金制度とジョブシーカー求職失業者援助金制度が厳格化・縮小された局面と同様に)これらの段階的な終了が豪州経済に大きな影響を与える可能性は低いと言えます。例えば、ジョブキーパー給与補助金制度によって「保護」されている雇用は150万件と、6か月前の360万件から大幅に減少しています。ここでは、積み上がった需要と貯蓄も、大きなクッションの役割を果たしています。

年央経済・財政中期見通しの改善はさておき、より幅広い観点から言うと、今年における財政赤字幅の拡大は適切であり、大きな問題ではないというのがAMPキャピタルの見方です。刺激策がなかったとすれば、事業、雇用や収入に対する短期的な打撃と労働者における長期的な傷はもっと酷いものとなっていたはずであり、景気回復のペースは遅く、財政赤字は最終的に悪化していたことでしょう。また、豪州における公的債務の増加は、その他先進国と比較しても低い水準からのスタートとなっており、連邦政府による借入は豪ドルであることから外貨危機のリスクもなく、その借入コストも極めて低水準となっています。

 

豪州資産への影響

予想を上回るペースで進行する豪州経済の回復と足並みを揃える格好で、小幅であるとはいえ、連邦予算見通しも改善しています。回復の道のりはまだ長いものの、来年は豪州株式、不動産市場、豪ドルにとって好ましい環境が整うでしょう。

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インベストメント・ストラテジー&エコノミクス担当ヘッド、チーフ・エコノミスト シェーン・オリバー

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