主なポイント
コロナ一色に染まる一年となった2020年ですが、刺激策やワクチン開発を背景とした楽観的な見方を受けて、株式市場はまずまずの結果となり、バランス/グロース型スーパーアニュエーション・ファンドは、小幅ながらもプラスのリターンとなっています。
大規模な刺激策とワクチン開発の順調な進捗を受けて、2021年末/2022年初めには、私たちの生活がより正常な状態に戻ると見られ、経済成長も十分なリバウンドが確認できるでしょう。
これに加え、低金利環境が継続することからも、株式リターンは堅調となる一方で、債券はリターンに乏しくなり、豪州株式については、相対的にアウトパフォームする可能性が高いと見ています。
注目すべき主なポイントは:新型コロナウイルスとワクチン、対中関係の緊張、インフレ、豪州の移民減少と住宅価格への影響です。
予想外の展開となった2020年
2020年がこんな展開になるとは、誰が予想できたでしょうか。豪州では、深刻な水不足から過去最悪の山火事が発生するという、暗い年明けとなりました。やっと山火事が鎮静化してきたと思いきや、新型コロナウイルス感染というパンデミックが世界を襲いました。著名経済学者ドン・スタマー博士が「ファクターX」と呼ぶ大きなサプライズは今年に限ったことではありませんが、新型コロナウイルス程深い影響を与える事象は稀です。
- 大規模な医療危機をもたらし、150万人を超える死者を出しています。多くの国では、少なくとも感染第2波が確認されています。
- 多くの人々が外出制限を受け、経済の大部分が停止したことで、経済活動は第2次世界大戦/大恐慌以来で最大幅の低下を記録し、主要国GDPは最大で10-20%程度のマイナス、豪州経済は7.3%縮小しました。これを受けて失業率が急上昇、インフレも大きく低下しています。
- 投資家が債券など安全な資金の逃避先に向かう中、株式市場は2月から3月にかけて35%程度下落し、商品価格も急落、原油価格は一時マイナス圏に突入しました。
- 米国では、お粗末なコロナ危機対応が影響し、トランプ米大統領の再選は実現しませんでした(同氏はまだ負けを認めていませんが)。
また、コロナ禍で対中関係の緊張が高まっており、グローバル化の更なる後退、社会不安の高まり、大きな政府に向けた動きや公的債務の膨張、大規模な資金投入を受けたインフレの上昇、テクノロジーの急速な普及を背景とした構造変化の加速、消費者警戒感の高まり、豪州における移民の減少を受けた人口成長の減速など、コロナ危機の影響は長期化する可能性が高くなっています。
しかし、新型コロナウイルスが世界中で脅威を振るう中、2020年は早く忘れてしまいたいと思うかもしれませんが、経済の状態は3月や4月に恐れていた程悪くありません。この理由は次の通りです:
- 事業、雇用、収入を守るため、過去に類を見ない規模の刺激措置が迅速に打ち出されたこと。
- ローン返済の一時的な猶予措置によってデフォルト(債務不履行)が回避されたこと。
- 大規模な金融刺激策によって金利が低下したこと。
- ソーシャルディスタンシングが感染拡大防止に寄与し、国によってその程度はまちまち(アジアや豪州、ニュージーランドでは良好)であるものの、経済が再開したこと。
この結果、行動制限が緩和されるとともに、経済活動は今年下期を通して当初予想よりも早いペースで回復を見せています。感染が再び拡大するなど、つまずく場面も見られており(例:豪ビクトリア州、欧州、米国)、完全なる回復はまだ先となる見通しですが、投資市場のパフォーマンスは恐れていた程悪い結果にはなっていません。

- コロナ危機初期の3月に急落した株式市場ですが、大規模な経済刺激策、経済の再開、低金利・債券利回りを背景とした割安感、ワクチン開発を巡る明るいニュースを受けて、2021年における更なる回復への期待感から回復しています。
- この結果、グローバル株式は良好なリターンとなり、中でもアジア株と(ITとヘルスケアセクターのエクスポージャーが相対的に高い)米国株がアウトパフォームしています。景気により敏感な日本株と欧州株はアンダーパフォームしています。
- シクリカルな豪州株もまた、アンダーパフォーマンスを記録しました。
- 政策金利の引き下げを受けた利回りの低下や政府による国債購入、資金の安全な逃避先需要を受けたキャピタル成長によって、国債のリターンはまずまずとなりました。
- 不動産需要や賃料が打撃を受けたことから、REITはマイナスのリターンとなっています。
- 実物商業用不動産と非上場インフラも、REITと同じ展開となりましたが、例外なのは産業用不動産で、好調なパフォーマンスを記録しました。
- 移民の減少、賃貸市場の軟化、失業率の上昇を背景に、豪州の住宅価格は年央近辺で3%下落したものの、低金利、政府支援策、経済再開によってその影響が相殺された結果、回復を見せ始めています。戸建て、郊外、地方は、「都市離れ」の動きから恩恵を受けています。
- 豪州準備銀行(RBA)は政策金利を0.1%へと引き下げており、キャッシュと銀行定期預金もリターンに乏しい1年となりました。
- 3月に1豪ドル0.55米ドルへと急落した豪ドルは、商品価格と米ドルの下落を背景に、再び上昇しています。
- 株式リターンはまずまずとなるも、不動産とインフラのリターンが低調だったことから、バランス/グロース型スーパーアニュエーション・ファンドのリターンは、僅かなプラスとなっています。しかし、2019年は特に好調な1年だったことをお忘れなく。
回復の2021年
2020年は、投資市場や株価の動向を含む全てがコロナ一色だったように、2021年は回復一色の一年となるでしょう。これは、投資市場にも大きな影響をもたらします。楽観的な見方をする理由は4つあります:
- まず最初に、大規模な財政・金融刺激策はまだ続いているという点です。そして、貯蓄率が極めて高いことから需要の積み上がりが示唆されており、信頼感が回復した後にはこれらが消費に向かうことから、豪州の「ジョブキーパー」給与補助制度など一部支援策の段階的な終了によるマイナスの影響は、一部相殺される見込みです。
- 第2に、ワクチンを巡るニュースはポジティブです。不透明感が残るとはいえ、2021年末から2022年初めまでに、世界的に一定の集団免疫を獲得できている可能性は十分にあるでしょう。
- 第3に、米国の次期大統領にジョー・バイデン氏が選ばれた事で、世界最大の経済大国ではより安定した専門意見に基づく政策が期待されます。中でも、2021年に大混乱をもたらすであろう米中貿易摩擦の再燃は、回避される可能性が高くなっています。米国がより外交的なアプローチをとることで、豪中間の緊張解決に寄与する事が期待されています。
- 最後に、今年非常にうまく舵を切ったのは豪州とニュージーランドです。両国における感染対策はその他主要国と比較しても優れた結果を出しており、官民連携もスムーズに行われました。そして、ニューサウスウェールズ州の資産税や全国的な労使関連など、将来の成長を助ける構造改革の実行につながりました。
ワクチン、刺激策、積み上がった需要という要因が相まって、2021年は経済回復の勢いが強まる見通しで、世界GDPは5.2%程度、豪州GDPは4.5%程度のリバウンドが見込まれています。これを受けて、収益成長も2桁台を回復する可能性が高くなっています。
余剰生産能力はいまだ高水準にあり、金利も低水準が維持されることから、インフレは軟調さが継続する見通しです。銀行預金金利に頼る投資家にとっては悲報ですが、これは(債務が銀行預金を上回る)家計部門全体と企業に恩恵をもたらし、高水準にある公的債務の利払いが容易になる他、株が割安になります。つまり、成長が改善しつつも金利が低いという、投資サイクルのスイートスポットが維持されるということです。豪州では、2021年を通して0.1%の政策金利が維持される見通しですが、追加の量的緩和のリスクが残っています。
投資家への影響
最近大きく値を上げた株式は短期的な調整が入りやすい状況にあり、2021年は(世界金融危機からの回復後がそうであったように)幾つかの混乱局面が予想されます。しかし、短期的なノイズはさておき、世界成長の回復と低金利環境というコンビネーションは、2021年が成長資産にとって良いい年になる事を示唆しています。特に、新型コロナウイルスやロックダウンから恩恵を受けて好調なパフォーマンスとなった米国株やテック株、ヘルスケア関連銘柄や債券に替わって、回復からの恩恵を受ける資源や工業株、観光や金融関連銘柄などのパフォーマンスが好調となる見通しです。
- グローバル株式からのリターンは8%程度を見込んでおり、グロース株の割合が多い米国株から、よりシクリカルな欧州株や日本株、新興国株式へのローテーションが予想されます。
- 強力な経済支援策が打ち出され、感染拡大防止において優れた成果を出している豪州の株式もアウトパフォームとなる見通しです。これは、短期的により力強い景気回復を遂げ、資源や工業、金融セクターが成長回復からの恩恵を受けており、イールドを追求する投資家の動きを受けて配当利回り(フランキングクレジットを含む)が4.4%へと上昇していることによるものです。S&P/ASX 200指数は、7,200近辺で2021年を終えると予想しています。

- 債券は、超低金利環境と0.5-0.75%程度の利回り上昇を受けたキャピタルロスによって、マイナスのリターンとなるでしょう。
- 実物商業用不動産や非上場インフラは、イールド追求の動きが再開することで最終的に恩恵を受けると見られますが、コロナ危機による需要や賃料への打撃は、引き続き短期リターンの重石となる見通しです。
- 過去最低の住宅ローン金利水準、政府助成金、収入支援、住宅ローン返済の一時停止措置を背景に、豪州の住宅価格は上昇していますが、高い失業率、移民の減少、軟調な賃貸市場は、メルボルンやシドニーの都心部に悪影響を及ぼすと見られます。郊外や小規模都市、地方は、2021年に力強い伸びが期待できるエリアです。
- キャッシュと銀行定期預金にとっても、0.1%という過去最低のキャッシュレートを反映し、2021年はリターンに乏しい一年になるでしょう。
- 新型コロナウイルスや対中関係の緊張を巡る不透明感から影響を受け易い豪ドルは、RBAの国債購入によって行き過ぎた上昇は回避されているものの、商品価格の上昇や米ドルのシクリカルな下落を受けて、今後12か月で1豪ドル0.80米ドル近辺まで上昇する可能性が高くなっています。
注目ポイント
2021年に注目すべき主なポイントは、次の通りです:
- 新型コロナウイルスとワクチン:ワクチンの開発や投与を巡る問題から、新規感染者数の増加が続き、経済回復のペースが予想よりも遅くなる可能性があります。
- 米国政治:来年1月5日に予定されているジョージア州の上院決選投票で民主党が勝利すれば、バイデン次期大統領のもと左派への傾きが強くなるリスクがありますが、これは保守的な民主党議員によって回避されると考えらえます。また、トランプ大統領がひと騒ぎを起こす可能性もあるでしょう。
- 対中関係の緊張:外交的なアプローチへの変化が予想されますが、米中ともに誤った判断を下すリスクが残っており、より長期で経済成長が減速する可能性があります。
- インフレ:低調が維持される見通しですが、予想よりも早いペースで回復する場合には、債券利回りも駆け足で上昇し、資産価値に下落圧力がかかる事になります。
- 豪州における移民への打撃:70万人規模の移民減少が2023年中ごろまで継続することになれば、シドニーの都心部やメルボルンの不動産価格に影響が出る事は間違いないでしょう。