主なポイント
ビクトリア州におけるロックダウン措置の厳格化を受けて、同州そして豪州全体の経済は少なくとも120億豪ドル規模の打撃を受けることとなり、豪州GDPのプラス成長回帰は10-12月期へずれ込む見通しです。
経済への更なる打撃や失業率の上昇圧力が強まる可能性が出ており、追加の政策刺激策に対する圧力が高まっています。これを受けて、今年の財政赤字は(連邦政府による最新の見通しである1,845億豪ドルから)最終的に2,350億豪ドルへと増加する見通しです。
豪州準備銀行(RBA)は8月の会合で政策金利を据え置いたものの、今後は更なる緩和の可能性が高まっており、政策金利を0.1%まで引き下げる事も考えられますが、単に3年物国債利回り目標0.25%を維持する(所謂イールドカーブ・コントロール)だけでなく、追加の量的緩和にフォーカスを置く可能性が高いでしょう。
RBAは再び据え置き
幅広く予想されていた通り、RBAは今回で5か月連続となる政策金利の据え置きを決定しています。RBAは3月に打ち出した大規模な金融緩和パッケージが想定通りの効果を示している点を認識すると同時に、3年物国債利回りを0.25%目標で維持するために追加の国債買い入れ実施を発表しましたが、これは新たな緩和ではなくイールドカーブ・コントロールの継続にすぎません。また、ビクトリア州の感染第2波を受けて経済見通しの不透明感が高まっているとし、2020年の成長見通しはマイナス6%を維持しつつも2021年の成長見通しを(以前の+6%から)+5%へと下方修正した模様で、今年年末にかけて失業率が10%まで上昇する見通しとしています。雇用、収入、事業を支援するために「できることは全てやる」というコミットメントを再度確認しています。とはいえ、メルボルンではステージ4という厳格なロックダウン措置が発令されており、RBAは金融政策を据え置く決定をしたものの、連邦政府を中心にRBAにおいても、追加刺激策に対する圧力が高まっています。
ビクトリア州ロックダウン措置によって少なくとも120億豪ドル規模の損失
3.5週間にわたるステージ3のロックダウン措置を講じても新規感染者数を十分に抑制できなかったことから、メルボルンでは6週間にわたるより厳格なステージ4のロックダウン措置が発令され、それ以外のビクトリア州全域では同じく6週間に及ぶステージ3のロックダウン措置が講じられています。

ステージ4のロックダウンを実施したニュージーランドを例に取り、ビクトリア州経済が初回ロックダウンから完全に回復していなかった点を考慮すると、同州の経済打撃は120-140億豪ドル規模になるとAMPキャピタルでは予想します。これは、メルボルンのステージ3ロックダウンによる経済への影響50億豪ドルという当初の予想から悪化しています。
メルボルンでステージ3ロックダウン措置が発令される以前、豪州GDPは4-6月期に7-8%程度のマイナス成長を経て、今四半期に2.5%のプラス成長を見込んでいました。5月の経済再開後における小売売上高など経済指標の回復は、この見通しの方向性と合致したものでした。
しかし、ビクトリア州における120億豪ドル規模の経済打撃によって、プラス成長は0%近辺となる見通しで、信頼感に対するマイナスの影響を受けて7-9月期も経済は再び若干後退する可能性が出ています。これは、高い頻度で集計される多様なデータを元にAMPキャピタルが独自で取り纏めている豪州経済活動トラッカーの動向と合致しており、クレジットカード・データや求人広告は4月中旬に上昇したものの、6月以降フラット化しています。

しかし、次の点に注意してください。ビクトリア州以外の地域における信頼感への影響が最小限にとどまり、ビクトリア州外への感染拡大がなかったと仮定した場合、これらから確認できるのはビクトリア州を除く全国の成長であり、ビクトリア州経済(豪州GDPの25%に相当)の大きな収縮は隠れてしまいます。
総合的に見ると、対GDP比で見た豪州全体の経済回復は10-12月期へとずれ込む可能性があります。もちろんこれは、ビクトリア州における感染第2波の抑制に成功し、再び経済が再開すると仮定した場合の話です。
追加の財政刺激策に対する圧力
経済&財政アップデートが発表された7月23日時点において、AMPキャピタルでは、今年度における1,845億豪ドルという財政赤字見通しは楽観的すぎであり、力強さを欠く歳入と連邦政府の想定よりも大規模な追加刺激策を考慮すると2,220億豪ドル近くになると予想していました。しかし、足元におけるビクトリア州におけるロックダウン措置の厳格化を反映すると、今年度の財政赤字は最終的に2,350億豪ドル近くに達すると予想されます。当社の修正後連邦予算見通しは以下の通りです。勿論、経済見通しが不透明であるため、通常以上に慎重な取り扱いが必要となる点にご注意ください。

経済の更なる減速を背景に、今年度、税収は連邦政府見通しから更に250億豪ドル減少する(パラメーターの変化を参照)とともに、250億豪ドル規模の追加刺激策を当社では予想しています。連邦政府は既に、ビクトリア州を対象に、有給病気休暇を受けられない人に対して2週間当たり1,500豪ドルを支給する有給パンデミック休暇制度を発表しています。ステージ4のロックダウン措置を受けてビクトリア州の雇用に幅広い影響が出る可能性があることからも、ジョブキーパー(給与補助金)制度とジョブシーカー(求職失業者援助金)制度はともに、経済&財政アップデート時点の予想を超える規模となる見通しです。また、2022年の減税の前倒しや追加の投資インセンティブ、産業支援プログラムなど、追加刺激策の可能性も高まっています。
第二次世界大戦以来最大となる財政赤字と同最高水準に達する公的債務残高を懸念する声も出ていますが、支援策なしでは豪州経済見通しは更に悪化することになり、金利は超低水準であるほか、豪州の財政赤字と公的財務水準は他国と比較しても小規模である点、そして外国資本に依存していない点からも、大きな問題に発展することはないという見方を当社では維持しています。

そして、金融緩和の可能性も高まる
しかしながら、更なる経済支援の圧力の多くは財政刺激策に向かうと想定される一方で、RBAからの追加支援の可能性も高まっています。その場合、除外されているマイナス金利、為替介入、歳出の財政ファイナンスを除く全ての方法がRBAには残されています。マイナス金利直前まで金利を引き下げたり、3年物国債利回りを目標の0.25%で維持するだけでなく緩和目的の追加国債買い入れが、可能性のあるオプションでしょう。政策金利を0.1%まで引き下げる事による効果はあまり期待できないため(それでもRBAは実行するかもしれませんが)、今後は主に量的緩和が活用されるということになります。量的緩和の方法には、3年物国債以外の買い入れやその目標規模の設定などが考えられます。一方、利上げは少なくとも3年先となるでしょう。
最後に
これらを考えた際に頭をよぎる疑問は、なぜ株価が持ちこたえているのかという点です。答えは簡単です。新型コロナウイルスの感染第2波によって経済見通しの不透明感が高まった一方で、ビクトリア州以外の地域では、感染の抑制ひいては経済回復、新型コロナウイルス治療そして最終的にはワクチン開発に関してポジティブな兆しが継続的に確認されているなど、より明るい兆候がその影響を相殺しており、政策刺激が経済をサポートしている点や超低金利政策を受けて株価が比較的割安に見えるためです。結論として、株価は修正が入りやすい状態にあるものの、今後6-12か月で上昇する可能性が高いという見方をAMPキャピタルでは維持しています。
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重要事項
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