主なポイント
雇用は3月以降悪化しているものの、現金支給、住宅ローン返済猶予や年金早期引き出しといった政府措置を受けて、世帯総所得は増加しています。
この所得増と消費後退により、消費者における貯蓄が短期的に増加する見通しです。現在7.5%にある豪州統計局(ABS)発表の公式な失業率が9.5-10.0%でピークを打つとともに、世帯所得の伸びは2021年も低調となる見通しであることから、来年はこの家計貯蓄の伸びが消費をカバーすることになりそうです。
とはいえ、世帯消費は2020-2021年にかけてコロナ危機前の水準を5-10%下回ると予想されます。(信頼性の高いワクチンの幅広い普及がない場合)感染者数が劇的に改善し、自由な移動が可能となるまでは、個人消費全体の16%を占める旅行や娯楽、外食といった分野の完全な回復は見込めないでしょう。
はじめに
コロナ危機からの打撃が最も大きい分野のひとつは個人消費、中でも消費者サービスに関連する分野です。政府主導の強制シャットダウンや個人による自主的な規制を背景に、個人の消費パターンが一変し、実店舗における消費がオンラインに流れるトレンドが加速し(豪州の小売に占めるオンラインの割合はコロナ危機前で7%、その後上昇基調にあり、ピーク時においては11%に達しています)、フィットネスや遠隔医療といったサービスのオンライン消費が増加しています。その他、外食や娯楽、旅行に関する支出が減り、家具やインテリア関連の支出が増加するといった消費行動の変化は一時的なものですが、コロナ危機前の状態に戻るにはある程度の時間を要します。全体的な個人消費の見通しは、(移動の判断基準となる)感染者数の数、そして労働市場と政府支援からの影響を受ける消費者所得の状況によります。このレポートでは豪州における個人消費の見通しを取り上げます。
背景
新型コロナウイルス感染が豪州で拡大し始めた3月以来、雇用者の賃金や給与額は(ジョブキーパー給与補助金制度の影響を考慮しても)減少しています。これは雇用の低下を受けたものですが、政府が打ち出した現金支給措置やその他政策は、豪州平均世帯における総賃金の減少分を相殺するに十分な効果をもたらしました。この結果、世帯所得はここ6か月で約5,000豪ドル程度増加しています。

米国でも同じ様な現象が起きています。コロナ危機以前は4%前後の成長を記録していた米国の可処分所得は(今年4月に前年比+16.8%でピークを打った後)6月に前年比8.9%を記録しました。これも、政府による現金支給によるものです。政府支援を除いた可処分所得は6月に同-2.8%となっています。
これら政府主導の棚ぼた収入と個人消費の後退を受けて、消費者貯蓄率が上昇しています。この点は米国で既に明確になっており(次の図表を参照)、コロナ危機前の7%程度だった平均貯蓄率は足元の4-6月期で26%に達しています。これと同様に、豪州でも貯蓄率は上昇していると考えられ、コロナ危機前の5%程度から4-6月期には10%程度へと上昇していたと考えられます(同データはまだ発表されていません)。

しかしここから先、世帯収入の減少とともに貯蓄の増加分が消費に回るにつれ、貯蓄率は再び低下に向かうと見られます。政府支援策の効果も薄れていきます。雇用の伸びは低水準が継続する見通し(ビクトリア州におけるロックダウン措置再開もマイナス要因です)で、ABS発表の公式な失業率は現在の7.5%から今年年末には9.5-10.0%へと上昇すると予想される中で、賃金や給与にも引き続き圧力がかかると見られます。総賃金の伸びが年率でプラスに転じるのは、2021年半ば頃となる見通しです。
ジョブキーパー給与補助金制度が2021年3月まで延長されたことは(更なる延長となってもサプライズではありません)、失業率上昇の抑制に寄与します(同制度の導入がなければ、失業率は10%超に達していると想定されます)。とはいえ、10月から支給が減額(1週間当たりの勤務時間が20時間以上の場合には1週間当たり現行の1,500豪ドルから1,200豪ドルへ、20時間未満の場合には750豪ドルへと減額)となり、2021年1月には更なる減額(前者は1,000豪ドル、後者は650豪ドルへと減額)が予定されています。ジョブシーカー求職失業者援助金制度も今年年末まで延長されましたが、支給は減額(2週間当たり550豪ドルから同250豪ドルへと減額)となります。また、ジョブキーパー給与補助金制度の受給資格も若干厳格になります。
銀行らも、ローン返済猶予措置を2021年初旬まで延長しています(しかし適用条件は厳格化)が、その他政府による現金支給は一度限りの措置です。つまり、足元における貯蓄の積み上がりは、これら政府支援の減少とともに弱含む世帯収入をカバーするために必要なものです。この様な状態が来年を通して継続するということは、個人消費の伸びが年率でプラスに回帰するのは2021年中旬頃になると予想されます。とはいえ、コロナ危機を受けて新たな消費行動やパターンが確認されていることからも、この見通しには数多くの流動的な要素が含まれています。
コロナ危機と個人消費のパターン

個人消費の中でも、コロナ危機から最大かつ永続的な影響を受けるのは旅行、娯楽、外食(全体に占める割合は16%と、それなりの規模がある)になると見られます。豪州では、旅行は厳しく制限され、娯楽のアクティビティも閉鎖となる一方で、個人消費は抑制されたものとなる見通しです。とはいえ、これを一部相殺するプラス要因も存在します。人々は、海外旅行の代わりに国内旅行、外食に代えて持ち帰り、屋外の娯楽の代わりに自宅での娯楽を楽しむようになります。しかし、失業率が上昇している間は特に、この消費行動の変化においてもコロナ危機前の水準を取り戻す可能性は低いと考えられます。
豪州では、驚くほど力強い小売売上高の回復が見られています。コロナ危機によって、食品や家具、インテリアといった巣ごもり消費が増加しています。一方これと同時に、衣類や靴、百貨店(これらはコロナ危機前から既に減少傾向にありました)などの裁量支出、そして外食の分野では売上が減少傾向にあります(しかし、7月のデータは大幅増加を記録しています)。次の図表をご覧ください。この様な代替消費の中には一時的なものもありますが、その他では永続的なトレンドを示唆しているものもあります。耐久財消費が前倒しされていることからも、足元で見られている生活雑貨の大幅増加が維持される可能性は低いでしょう(再びロックダウン措置が発令されたビクトリア州は除く)。そして、外食がコロナ危機前の水準に戻るのにも、まだ時間を要する見通しです。

小売売上高が個人消費に占める割合は僅か30%程度しかなく、旅行や娯楽、パーソナルサービスは統計対象外となっているため、家計消費の全体像を掴む事は困難です。全体として、個人消費はコロナ危機以前の水準を5-10%下回る状態が2021年後半まで継続するとAMPキャピタルでは予想しており、移動制限の緩和や失業率低下による世帯収入の改善が見られてやっと、回復し始めると見込んでいます。
小売セクターの弱含みで良い例と言えるのは中国です。これは、消費者ではなく産業部門にフォーカスしたの財政刺激策が導入された事によるものです。7月の小売売上高は前年比で1.1%のマイナスとなっており、コロナ危機以前の水準である8%を回復するのはまだ先となりそうです。

投資家への影響
豪州GDPの60%近くを占める個人消費が2020-2021年にかけて弱含むことで、GDP成長の重石となります。金利と債券利回りは低水準が維持されています。信頼のおける新型コロナ治療やワクチンが登場するまでは、旅行や娯楽、パーソナルサービスといった分野における事業収益にも圧力がかかる状況が続く見通しです。個人消費は、短期的にコロナ危機以前の水準を下回って推移すると見られることからも、従来のショッピングセンターは統合に追い込まれる可能性もあるでしょう。
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重要事項
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