経済&マーケット

コロナ危機収束に希望の光:投資家への影響を考える

主なポイント

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力強い上昇を記録した株価は、短期的に、経済や企業業績関連の暗いニュースから影響を受け易い状況にあります。

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とはいえ、新型コロナウイルス感染に関しては、明るいニュースが紙面を飾る様になっています。感染者数のカーブはフラット化が確認されており、ロックダウン措置の緩和や大規模な政策刺激策の導入を受けて、世界は今年下期に成長に回帰する可能性が出てきました。これは、長期的に株価上昇を下支えするでしょう。

はじめに

新型コロナウイルス感染と経済への影響を包括的にまとめた報道は、多大な混乱を招きかねません。抗ウイルス薬に期待が高まるというニュースがある一方で、ワクチン開発には最低1年かかると指摘する記事もあります。感染者数カーブのフラット化が語られる中で、新規感染者数や死者数は増加を続けています。ロックダウン措置緩和のニュースが報道される一方で、感染拡大の第2波を懸念する声も上がっています。これと同時に、落胆させる内容の経済データが次々と発表され、失業率は上昇しています。この現状を素晴らしい投資機会との見方もあれば、金融苦境の悪化を予測する見方もあります。人類は今、危機に直面しており、新型コロナウイルスに感染した人々にとっては特に、試練の時と言えます。しかし、市場のノイズを遮断し、好きな音楽に耳を傾けるべき局面があるとすれば、まさに今がその時です。以下では、現状を朗報と悲報に分けて、取り纏めています。

悪いニュース

  • 世界で報告されている新型コロナウイルス感染者数は増加を辿っており、250万人を超えています。
  • 報告されている死亡率は6.9%に達し、上昇を続けています。
  • 感染拡大の第2波に対する懸念の声が高まっています。1918年のスペインかぜではこの第2波が発生しており、感染封じ込めのお手本とされてきたシンガポールや日本は、第2波発生の例と呼ばれるようになっています(とはいえ、両国ともに、封じ込め措置が失敗に終わり、まだ第1波が継続しているだけの様に見えます)。
  • 医療専門家らの大半は、ワクチン開発には1年以上かかるという見方を示しています。1984-1985年にかけて、HIVワクチンの開発は1年先であるというニュースを頻繁に耳にした記憶が蘇ります。HIVのワクチンは、まだ開発されていません。
  • 効果的なワクチンがなければ、新型コロナウイルスは国から国へと世界を巡り続け、毎年冬に大流行し続ける懸念が浮上しています。
  • 経済データの内容は、崖から転落するように悪化しています。これは、世界通貨基金(IMF)が先週発表した世界経済見通しからも明らかであり、世界経済成長は今年3%、先進国の伸びは6%程度と低水準となる見通しが示されています。この数字に潜むのは、4-6月期における10-15%程度のGDPマイナス成長の可能性です。これ程大規模な景気後退は、大恐慌以来初の事態です。米国と豪州における経済活動の崩壊は、飲食店予約件数やエネルギー消費、信頼感、客足、雇用などのデータを元に当社が独自で取り纏めた経済活動トラッカーからも、手に取るように明確です。
豪州と米国における経済活動トラッカー
  • 失業率の見通しに関しては10%、15%、米国では30%まで上昇するという見解をよく耳にします。(豪州では賃金支払い助成金「ジョブキーパー制度」が打ち出されており、同制度を活用した賃金支払いを受けている人々は失業者とはみなされません。米国では、この様な恩恵は期待できません。)
  • これは、シャットダウンの規制が解除された後に果たして経済が生き残っているのか、各国政府が膨張した債務にどう対応するのか、という恐怖心をあおいでいます。
  • 最後に、非難合戦に火が付きました。政治的意図があるとはいえ、米中間の緊張が再び高まっているように見えます。

良いニュース

  • 新型コロナウイルス感染者数は増加していますが、新規感染者数は横ばい又は減少の傾向にあるようです。
新型コロナウイルス感染者数と新規感染者数の推移
  • イタリアを代表とする複数の欧州諸国では、新規感染者数が爆発的に増加した後にロックダウン措置を導入、その後2-3週間で新規感染者数はピークを打った後に減少となる、中国と同じ経過を辿っているようです。豪州もこの経過を上手く辿っており(ピーク局面はより早期に到来)、米国でも同じ様な進展が見られていますが、新規感染者数の十分な減少はまだ確認されていません。人と人とが一定距離を保つソーシャルディスタンスの効果が明確に示されています。(この様に、複数の国が中国と同じ経過を辿っているという事は、報告されている中国の新規感染者データは、その信頼性を疑う声が上がっているものの、大まかに正しいと言えるでしょう。)
新規感染者数の推移:イタリア
新規感染者数の推移:イタリア、米国、豪州
  • その後、注目はロックダウン措置の緩和に移っています。複数の欧州諸国とニュージーランドでは、部分的な緩和を発表しており、一部の店舗で営業が再開となります。一方米国では、経済活動の再開に向けて実施手順を定めたガイドラインが公表され、各地域の感染状況や医療態勢が基準を満たした場合、州知事が制限の緩和・解除を3段階で進めていく方針です。
  • 豪州のモリソン首相は、現在導入されている幅広い制限はあと数週間継続するとしており、検査の実施と感染経路調査の改善、そして感染封じ込めの3点を緩和の条件に挙げています。豪州はこれから冬を迎えることからも、これらは理にかなった対応と言えます。もちろん、新型コロナウイルスの抗ウイルス薬やワクチンが登場すれば状況は相当良くなるものの、まだこれに頼る事はできません。
  • 規制緩和を検討している国のほとんどは、感染が再び拡大する第2波のリスクを十分に理解しています(しかし、州の「解放」を叫ぶトランプ米大統領の空威張りは懸念されますが)。従って、検査実施や新規感染者数、封じ込めなど、一定の条件を満たす場合のみ段階的な緩和を実施する方法に注目が高まっています。これは、検査がほぼ実施されなかったスペインかぜの例とは、大きく異なります。豪州では、5月から徐々にシャットダウン緩和がスタートする見通しです。新型コロナウイルス向けのワクチンが存在しない中で、最後まで規制解除が期待きないのは海外渡航です。これは朗報ではありませんが、豪州GDPに占める割合は僅か0.5%未満で、制限緩和を受けた回復は国内関連の活動に留まる点を事を考えると、事業・営業停止を受けた同10-15%の打撃や、事業・営業縮小を受けた同25%と比較して、影響は微々たるものと言えます。
  • 政府が打ち出した財政・金融刺激策は大規模な内容となっており、経済への二次的影響の低減に寄与し、スピードの速い回復を可能とします。中でも見通しが明るいのは豪州で、雇用維持を目的とした助成金や事業支援に注目した措置が打ち出されており、RBAによる超低金利融資を通じて、銀行は住宅ローン返済の猶予を提供しています。債務解消における長期的な問題が浮上する可能性は否定できませんが、シャットダウン期間に事業や収入の保証を行わなかったことによる、より大きく深刻な経済への打撃よりもまだましです。

幅広い規制緩和は5月から6月あたりとなる可能性が高いと見られており、これが実現する場合、中国で2月に改善が確認されたのと同様に、経済データは4月や5月辺りから回復に向かうでしょう。とはいえ、素早い正常化は期待できません。再開とならない事業も一部ありますし、不透明感は完全に消え去らず、債務水準は上昇します。事業モデルも、異なる働き方や買い物の方法に順応する必要があります。成長率は深いⅤ字回復になると当社では予想していますが、経済活動の正常化にはより長い時間を要するでしょう。従って、10%程度でピークを打つと見込まれる失業率の低下にも、時間がかかると考えられます。しかし、少なくとも成長が戻り、労働市場の余剰能力と高い失業率を考えると、物価の上昇は当分先となることから、低金利環境が長期に渡り継続する見通しです。

6か月間にわたるロックダウン措置の継続、雇用を巡る信頼感の欠如、政策対応が不十分であると考えられていた5-6週間前と比較すると、これは大きな変化です。

投資家への影響

明るいニュースが全くない中で、2月の最高値から3月下旬に最安値を付けるまで、グローバル株式は34%、豪州株式は37%下落しましたが、その後、政策刺激策が打ち出され、感染者数カーブがフラット化している兆候を受けて、株価は足元で20%を超える伸びを記録しています。この力強い上昇を受けて、株価は短期的に不安定な状況にあり、今後は極めて軟調な経済データや企業収益のニュースが出始めることからも、注意が必要です。米WTI原油先物が史上初のマイナス40ドルを付けるなど、原油価格の崩れも市場に波紋を広げていますが、ガソリン価格の低下は経済活動の回復に寄与するものです。つまり、株式市場の超短期的な見通しは不透明であり、2番底の可能性も否定できません。

しかしながら、感染者数カーブのフラット化がしっかりと確認され、シャットダウン措置の緩和や政策刺激策の効果によって成長が戻るとともに、低金利と低債券利回りが継続することを考えると、1-2年後の株価はより高値を付けている可能性が高いでしょう。

基礎的な投資の観点から言えば、リセッションや戦争、(1918年の)パンデミックが発生した過去の局面から分かるのは、株式やその他成長資産の長期トレンドは上昇しているという点であり、底打ちを予測するのは常に極めて困難であるという事です。悲観的な投資家センチメントがピークに達する局面が株価の底となる訳ですが、これを知らせる鐘は鳴りません。株価は3月に既に底打ちしていたのかもしれませんし、今後2番底があるのかもしれません。経済学者のジョン・ケネス・ガルブレイス氏の言葉を借りて言うとするならば、「私が知っているのは、知らないという事です」1。つまり、長期目線の投資家はドル・コスト平均法を念頭に置いて行動するのが賢明だと言えるでしょう。

1 「予測者には2種類ある:分かっていない人。そして、自分が分かっていないことを知っている人だ。」-JKガルブレイス

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インベストメント・ストラテジー&エコノミクス担当ヘッド、チーフ・エコノミスト シェーン・オリバー

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