経済&マーケット

豪州労働市場における新型コロナウイルスの影響

By ディアナ・ムシーナ
インベストメント・ストラテジー&ダイナミック・マーケッツ、シニア・エコノミスト 豪州、シドニー

主なポイント

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多くの産業では、労働時間の短縮、賃下げ、休職、正社員の削減など、コロナ危機を受けた事業中断からマイナスの影響を受けています。

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当社では、労働時間短縮、休職、解雇のリスクが高い仕事は約41%に上ると推定しています。しかし、連邦政府による「ジョブキーパー・ペイメント制度」からの賃金助成金によって、これらの多くは仕事を失わずに済むとみられます。

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失業率は4-6月期に10%へと上昇する見通しで、年末にはコロナ危機前の水準を上回る8.5%程度に落ち着くとみています。企業収益への打撃、ソーシャル・ディスタンスや行動・移動の制限を受けて、雇用が正常な水準に戻るのはまだ先となりそうです。

はじめに

豪州における新型コロナウイルス感染の広がりを受けて、多くの産業では事業が一時中断となっています。解雇や休職を強いられた人も数多く、社員は有給・無休休暇の取得や労働時間の短縮、賃下げを要請されています。当然のことながら、失業率は大幅に上昇しており、今後も更なる伸びが見込まれることからも、個人消費、住宅価格の伸び、賃金見通しの足枷となる見通しです。

豪州の失業率見通し

連邦政府による賃金支払い継続のための助成金「ジョブキーパー・ペイメント制度」は大きなプラス要因で、失業率上昇の緩和剤となる見通しです。このレポートでは、2020-2021年における失業率の見通しと、コロナ危機を背景とした事業中断から影響を受ける産業セクターに注目します。

最も影響を受ける産業

多くの産業(雇用全体の~79%)は、労働時間の短縮、賃下げ、休職、正社員削減など、コロナ危機を受けた事業中断からマイナスの影響を受ける一方で、ヘルスケアや行政、通信といった分野における雇用全体の21%程度では、プラスの影響が見込まれています。

新型コロナウイルスによる雇用への影響

失業率への影響を考えるにあたり、職種別に分析を行いました。休職や解雇のリスクが低い職種には、社会生活を維持するために不可欠なエッセンシャルワーク(雇用全体の28%)、在宅勤務が可能な職種(同21%)、基礎産業(例:農業、製造、鉱業、建設業)の稼働に必要な一定水準をキープするための職種(同8%)となっています。

職種別リスク

ということは、雇用全体の41%、雇用者数にして560万人程度は、勤務時間の短縮や休職、解雇の高リスクに直面しています。しかし、これら全員が職を失うという訳ではありません。中には、休暇を取得する社員もいれば、新たに仕事を開始する人もおり、その多くはジョブキーパー制度の助成金を5月から(現時点の計画では)6か月に渡って受け取る事が可能です。

休職となった社員(例:航空会社、小売り、ホスピタリティ業界)は仕事をしていないものの雇用は維持されていることから、雇用データ上でどの様に処理されるのかを巡る疑問が浮上しています。豪州統計局(ABS)は、統計実施の週から数えて1か月以上休職しており、給与が支払われておらず、復帰する仕事はないと考えられ、積極的な求職活動を開始しており、即日就業が可能な場合には、失業者と見なすとしています。とはいえ、これら休職者の大半はジョブキーパー制度の助成金を受け取ると見られており、その場合、賃金支払いを受けており、復帰の可能性が残っていることからも、失業者としてカウントされることはありません。ジョブキーパー制度は、被雇用者の維持を目的とした巧妙な設計となっており、失業率上昇の抑制に寄与します。

一方、米国では状況が異なります。休職者は、仕事に呼び戻された場合でも、失業者とみなされます。現在のところ、単独の賃金補助制度は打ち出されていませんが、ペイロール・プロテクション・プログラム(PPP)と呼ばれる小規模事業者向けの融資制度(返済不要)を活用して賃金の支払いが可能となっています。とはいえ、同制度の対象者は小規模事業のみと、賃金補助制度よりも幅が狭い内容です。また、同制度への申し込みが殺到し、既に予算の上限に達しているため、追加の資金投入が必要です。

豪州の失業率は、4-6月期に10%程度に達し、ピークを迎える見通しです。これはは、1991年リセッション時における11%程度水準を下回るもので、大恐慌時における20%程度水準を大きく下回っています。連邦政府が打ち出したジョブキーパー制度からの助成金がなければ、失業率は20%程度まで上昇する事になるでしょう。移動・行動の制限やソーシャルディスタンスからの影響、完全なる正常化(レストランやバー、シアターにおいて客足が以前の状態に戻るとき)の見通しが不透明である事を考えると、一部産業では2020年を通して雇用への圧力が維持される見通しです。また、企業収益がマイナス成長となる中で、新規雇用の大きな伸びも期待できないでしょう。豪州における失業率は、8.5%近辺で年末を迎えると予想される一方で、米国では20%まで大きく上昇する見通しです。

豪州の失業率見通し

雇用が大きく低下する局面では、求職意欲が失われるため、労働参加率も低下する傾向にあります。労働参加率の低下は、失業率の上昇においてクッションの役割を果たします。豪州の労働参加率は、足元の66%から63%程度へと低下する見通しです。

2021年については、社会面における規制の継続や(願わくば)渡航制限の解除により、超低金利環境が支援する格好で、経済活動が力強さを取り戻すと予想されます。しかし、企業収益への打撃など、コロナ危機の影響は尾を引くとみられ、失業率がコロナ危機以前の5%を若干上回る水準に回帰するのは、2022年以降となるでしょう。

労働時間も大幅に縮小すると見込まれており、失業率だけでなく、既に14%に達している未活用労働(失業率+不完全雇用)率も上昇すると予想されます。未活用労働率が高水準の間は、賃金の伸びは期待できません。

投資家への影響

失業率の上昇は、個人消費、住宅価格、賃金の伸びに打撃を与えます。現在4%を僅かに下回る貯蓄率は、今年倍増する見通しです。賃金の伸びは、年末にかけて横ばい又は若干のマイナスを記録すると予想しています。賃金の低成長は、物価上昇が予想を下回る事を意味しており、コアインフレ率は今年、年率1%の伸びにとどまると見込まれます。

これを受けて、個人消費は2020年を通して冷え込むと予想されます。住宅市場に関しては、短期で10%の下落を当社のベースケースとしています。銀行が住宅ローン返済を猶予する支援策が打ち出されており、滞納や強制売却の大幅な増加を防ぐとともに、住宅価格の行き過ぎた低下は回避される見通しです。現地見学やオークションを巡る制限を受けて、売り手と買い手の多くはこの制限が緩和されるのを待つと見られ、住宅取引件数も減少が見込まれています。

賃金支払いの継続を支援する助成金制度と新型コロナウイルス新規感染者数の素早い減少を受けて、豪州の労働市場は他国よりも好調となる見通しです。また、豪州におけるロックダウン措置は、欧州の一部や米国程厳格な内容ではありません。

豪州そしてグローバル経済の短期見通しは、厳しいものとなっています。とはいえ、豪州政府や豪州準備銀行(RBA)が打ち出している政策からは、豪州経済の恐慌入りを回避するために必要な事は全て行うという姿勢が示されています。金融市場では、今後6か月に渡る経済活動の大幅な後退が既に織り込まれています。勿論、実際の結果は予想よりも悪くなる可能性もありますが、大規模な支援策や新規感染者数がピークに達した点、ロックダウンの緩和見通しを受けて、最近では豪州そして世界の株式市場で株価が上昇しています。(集団免疫を判断するサインとなる)大規模な新型コロナウイルスの抗体検査実施、抗ウイルス薬やワクチン開発に関するニュースは、市場のセンチメントを後押しするものです。これらに関する楽観的な見通しを背景に過去数週間で上昇を記録した株価は、現在反落し易い状態にあります。とはいえ、短期的な不透明感を除けば、コロナ危機を受けた下落で株価は割安の状態が続いており、今後は世界的な金融・財政激策と経済活動の回復がサポート要因となる見通しです。

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