経済&マーケット

新型コロナウィルス:マーケットへの影響

当初、中国国内で広がっていた新型コロナウイルス感染は世界へと拡大しており、世界保健機関(WHO)は30日、「国際的な公衆衛生上の緊急事態」を宣言しました。

中国当局は、中国湖北省武漢市で発生したこの新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため、武漢市の交通機関の閉鎖や春節(旧正月)行事の中止など、対応に追われています。

警戒感が高まる中で、渡航の制限を受けて観光業に莫大な影響が出始めています。

ここでは、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う主な市場の展開を見ていきます。以下コメントは作成時点におけるものであり、実況は常にに変化している点にご注意ください。

これまでに分かっているポイント

  • 状況は変化しています。これまでのところ、アジアを中心に株式市場が打撃を受けているものの、豪州株と米国株への影響はそこまでではありません。
  • これまでにも、SARS(重症急性呼吸器症候群)、鳥インフルエンザ、豚インフルエンザ、MERS(中東呼吸器症候群)、エボラ熱など、世界を脅かす感染症が幾つか発生しています。多数の死亡者を出すという悲劇を受けて、感染が確認された地域の人々の生活は混乱状態に陥りましたが、5千万人の死者を出した1918年のスペインかぜ規模の世界的感染には至っていません。
  • 市場の観点から、投資家は十分に注視する必要があるもののパニックに陥る必要はありません。新型ウイルス感染がどこまで拡大するかを予測するのは不可能ですが、パンデミックの多くは6-18か月の月日をかけて拡大した後、当局による対応策(衛生、隔離、集会の禁止、渡航制限)の効果が出始めると言われています。2003年におけるSARS発生の影響は、当局による対応の早さが功を奏し、より短期間で感染拡大が収束しました。今回の新型ウイルス感染についても、中国当局による迅速な対応は楽観的な見方に寄与するものです。
  • 新型ウイルス発生をSARSと比較して考えるのは有効な方法です。2003年に発生したSARSは、約5か月かけてアジアを中心とした30か国、8,000人の感染者を出し、その死亡率は10%でした。感染者数はそこまで大規模ではなかったものの、数多くの国で経済活動に莫大なマイナスの影響を及ぼしました。人々が出勤や外出を避け(小売売上高の減少)、旅行が次々とキャンセルとなったことから、2003年6月期のGDPの伸びは、香港とシンガポールで2%を超える下落となっています。
2003年SARSのケース:香港とシンガポール
出所:トムソン・ロイター、AMPキャピタル
  • 2003年4月、アジア株が下落する一方でグローバル株式は上昇を記録しました。一般的に、株価は新規感染者数のピークと同時に底入れする(以下図表を参照)ことから、今回もアジア株はさらに下落するリスクがあります。
SARSを受けてアジア株が下落するも、新規感染者がピークに達した後に回復
出所:トムソン・ロイター、AMPキャピタル

成長に冷や水

  • 今回の新型コロナウイルス発生は中国春節(旧正月)と重なっており、(旅行、外食、小売りなど)関連消費が落ち込むことで、経済成長が打撃を受けるリスクは高くなっています。
  • また、中国と新興市場における景気がやっと力強さを取り戻したと見られるこの局面で、今回のパンデミックが発生しています。その他のポイントとしては、新型コロナウイルスの死亡率は(これまでのところ)2-3%と、SARSの10%やエボラ熱の50%超の水準には達していません。
  • 中国の経済成長は3月期にマイナスの影響を受ける見通しで、その下げ幅は、武漢市の隔離がどの程度継続するかと、小売売上や旅行、事業中断といった影響の規模によって決まってくるでしょう。当社では、3月期に2-3%の下落を見込んでおり、その後状況が元通りになることでこの影響は相殺されると考えており、年間で見たGDPの伸びに対する全体的な影響は小規模にとどまる見通しです。
  • 豪州では、(来豪者に占める中国人の割合が大きい)観光と教育セクターが打撃を受ける見通しです。森林火災による経済への影響も踏まえると、GDPの伸びは3月期で0.5%程度の影響を受ける可能性がありますが、この一部は後に相殺される見込みです。

投資家:冷静を保ち、注視

新型コロナウイルス感染の拡大に対する懸念が増していますが、上記の通り、その脅威は収束に向けて管理されていると考えるに十分な理由が存在します。とはいえ、世界的な感染は一般的に6-18か月程度続くことから、収束までにはまだ時間を要するかもしれません。中国政府による迅速かつ大規模な対応、その他各国における感染確認処置と対応は、感染拡大を防ぐ上で重要な取り組みです。市場はこれまでにも、SARS等の似たようなケースから影響を受けた後回復を見せていますが、今回の感染拡大によって投資家は慎重な姿勢を維持するとともに、経済活動への打撃を受けて、市場では短期的にボラティリティが高まる見通しです。感染者数がピークを打ったことが明確になる時点で、市場はこれをポジティブに捉えるでしょう。

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