経済&マーケット

2020年に注目すべき世界経済と市場に関するチャート5つ

主なポイント

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昨年好調だった株式市場では、センチメントが極めて強気となっており、短期的な調整又は底固めの局面に入りやすい状況にあります。とはいえ、低金利環境が継続する中で世界成長が徐々に回復するにつれ、投資リターンは今年も良好となるでしょう。

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今年注目すべきグローバルのデータは、グローバル景況感PMI、世界のインフレ率、米国のイールドカーブ、米ドル、世界貿易成長です。

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PMIは若干の改善、インフレ率は引き続き低い水準にあり、イールドカーブはスティープ化、米ドルはピークアウトの兆候が確認されており、米中貿易戦争も合意に向けて順調に進んでいることから世界貿易の回復が期待され、今のところは順調に推移しています。

はじめに

2020年における投資リターンは、世界成長の改善を受けた収益の拡大と金融緩和の継続を背景にまずまずとなるものの、堅調だった2019年には至らないというのが当社の見方です。このレポートでは、この見通しにおいて重要なチャート5つについて解説します。

チャート #1:グローバル景況感PMI

速報性が高いグローバル購買担当者景気指数(PMI)は、世界経済の状況を示すデータの中でも優れた指標です。サービス業PMIは、よりシクリカルな製造業PMIよりも良好となっているものの、両者ともに2018年から2019年年央にかけて悪化した後、改善の兆しが見られており、2019年を通した利下げや量的緩和など金融緩和政策の効果が発揮されていることを示唆しています。今後は、当社の世界成長の回復見通しとともに、製造業とサービス業の両方で改善が見込まれます。

グローバル製造業PMIと中央銀行の政策方針

とはいえ、今までのところ、2018年から2019年にかけた企業景況感PMI(つまり、世界成長)の減速は、世界金融危機(GFC)時のリセッション局面よりも、2012年や2015年から2016年にかけての景気減速時の様相と似ているように見えます。

チャート #2:世界のインフレ率

大きな景気後退は常に、インフレが目標を上回る水準へと加速し、中央銀行が急ブレーキをかけた後に発生するものです。足元を見ると、主要経済国における(値動きの激しい食品やエネルギーを除いた)コアインフレ率は低い状況が継続しており、米国、ユーロ圏、日本では、各中央銀行の目標である2%水準を大きく下回っています。中国のインフレ率は昨年を通して4.5%へと上昇したものの、コアインフレ率は1.4%へと低下しており、同国政府の目標/見通しである3%を十分に下回る水準にあります。コアインフレ率の明らかな上昇は、余剰能力の縮小と行き過ぎた金融緩和を警告するサインであり、強力な金融引き締めが目前に迫っている事を示すものです。しかし、現状を見る限り、引き締めは当分遠い先の話といえます。

コアインフレ率

チャート #3:米国のイールドカーブ

イールドカーブは、金融政策スタンスの手引きとなるものです。短期金利が長期金利よりも低い場合、企業が短期借入を通じた長期貸出(投資)を行う事で、経済は成長します。一方、短期金利が長期金利よりも高くなる逆イールド現象は好ましくなく、これまでも米国景気後退を暗示する危険信号となってきました。つまり、昨年イールドが逆転した局面でも、米国のリセッション突入懸念が高まったのです。

しかし、ここ数か月におけるイールドカーブ、10年物国債利回りとFF金利や10年物国債利回りと2年物国債利回りのギャップを見ると、米連邦準備理事会(FRB)の利下げで短期金利が低下したことや良好な経済データがリセッション回避に対する信頼感を押し上げたこと、そして米中貿易摩擦の鎮静化受けて貿易戦争の脅威が後退したことなどから、逆イールドは解消されています。

米国イールドカーブの逆転とリセッション

過去には、米国のイールドカーブ逆転が解消されたにも関わらずリセッションに突入したケースがありますが、ここ数か月における短期的な逆イールドの解消を見ると、昨年におけるイールド逆転は、(上図表では〇で示した)1990年代中~後期がそうであったように、誤った兆候であった可能性が高いと言えます。

さらには、その他指標からも、米国における金融政策の引き締め開始はまだ遠い事が示唆されています。実質フェデラルファンド(FF)金利は僅かにプラスの水準にあり、名目FF金利は名目GDP成長を大きく下回るなど、両者ともに過去の米国がリセッション入りする水準には至っていません。

足元における米国イールドカーブのスティープ化は、良い兆候です。イールドカーブが再び逆転し、昨年よりもその幅が大きくなる場合には、懸念が必要です。

チャート #4:米ドル

主要通貨に対する米ドルの動きは、世界的にも重要な意味を持っています。これには二つの理由があり、まず最初に、米国経済は製造業や素材等のシクリカルなセクターに対するエクスポージャーが低いため、米ドルが(世界成長の懸念が高まると上昇する)「リスクオフ」の通貨となる傾向にある点です。そして二つ目に、米ドルは準備通貨となっていることから、新興国を中心に米ドル建て債務の残高が多く、米ドルが上昇すると、これら新興国にとって借り入れ負担増となる点です。

主要通貨に対する米ドル貿易加重指数

従って、世界的に不透明感が高まる局面では、米ドルが上昇し、新興国による米ドル建て債務の返済が困難となります。当社が予想する通り、世界成長が回復を見せ、貿易戦争リスクが一時的に後退し、イラン情勢の更なる緊迫化が回避される場合には、米ドルは更に下落する可能性が高いと考えられ、新興国にとってはプラスとなります。

チャート #5:世界貿易成長

経済活動に占めるサービスの割合が増加し、製造業における労働力への依存度が低下するとともに、世界貿易の成長は時間と共に減速すると考えるのが妥当でしょう。しかし、トランプ米大統領が2018年に引き金を引いた事で始まった貿易戦争と世界成長の減速が相まって、世界貿易は昨年減少を記録しました。今年の大統領選挙で再選を目指すトランプ米大統領が米国経済の維持にフォーカスすることで貿易摩擦の悪化が回避され、世界成長が回復を見せる場合には、この世界貿易の減少分が一部取り戻されるでしょう。

世界貿易量

米国のリセッション入りはまだ遠い

ここ近年で、株式市場が新たに大規模な弱気相場入りするのではという議論が繰り広げられています。この様な懸念は大体、株式市場が20%程度下落した後に収まります(2011年、2016年、2018年がこの良い例です)。過去の経験から明らかなのは、米国の動向が下げ幅の決定要因となる点です。GFC時の様に下落幅が50%を超える深刻なベア相場は、常に米国の景気後退と紐づいています。つまり、米国や世界的なリセッションが迫っているのかは、大規模なベア相場入りが近いのかを見る上で、重要であるという事です。この観点から、当社が注目する主要な指標を次の表に取り纏めました。

リセッション入りの警告サイン

これら指標を見る限り、米国のリセッション入りが間近に迫っている前兆はありません。最もリスクが高いのは、再度となるイールドカーブの逆転でしょう。とはいえ、その他の米国金融政策は引き締め的ではなく、GDPに占める割合で見た裁量支出/シクリカル消費など一般的にリセッション入りの前兆となる過剰な消費は確認されておらず、行き過ぎた民間債務の拡大もありません。先行指標もリセッションの水準には至っておらず、インフレも低水準にあります。

まとめ

今のところ、これらチャートで示した指標/データは正しい方向に進んでいます。PMIは若干改善、インフレ率は引き続き低い水準にあり、イールドカーブはスティープ化、米ドルはピークアウトの兆候が確認されており、米中貿易戦争も合意に向けて順調に進んでいます。しかしながら、当社の見通しである良好な投資リターンを得るには更なる改善が必要であることからも、今後も引き続きこれらデータの動向に注目すべきでしょう。

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インベストメント・ストラテジー&エコノミクス担当ヘッド、チーフ・エコノミスト シェーン・オリバー

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