経済&マーケット

2020年の世界経済見通し

主なポイント

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製造活動の回復、貿易を巡る不透明感の後退、中国の追加刺激策、米ドル下落を背景に、世界経済成長は今年、力強さを取り戻すでしょう。

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米国では、2019年の景気拡大が再び繰り返される可能性は低くなっています。2020年は、製造活動の回復が、ユーロ圏と新興市場、そして日本や韓国、台湾といった貿易動向の影響を受け易い経済の支援材料となるでしょう。

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リセッション入りの兆候は確認されておらず、債券利回りが低水準にある足元の状況は、株式にとって良好な環境であり、グローバル株式の今年のリターンは9-10%程度が期待できそうです。

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米イラン対立激化と原油への影響、米中貿易交渉の難航、自由貿易協定の交渉に伴ったブレグジット・リスク再燃等の政治リスクと、中国の新型コロナウイルス感染などが経済回復を妨げる可能性があります。

このレポートでは、世界経済と金融市場、そして中央銀行の動向に関する2020年の見通しをまとめています。次の図表では、当社が考える主要国の成長見通しを示しています:

主要国の成長見通し

グローバル成長

GDPで見る世界経済成長は、2019年に2.9%を記録し、2018年の予想であった4%近い水準を下回る残念な結果となりました。当社では、世界GDPの伸びは2020年に3.2%、2021年には3.3%へと回復する見通しで、長期平均の3.5%を僅かに下回る水準となるとみています。世界通貨基金(IMF)の予想は若干楽観的な内容ですが、この予想はしばしば下方修正が入る事で有名です(次の図表を参照)。

IMFの世界GDP成長予測は、世界経済危機後、同じパターンが繰り返されている

グローバル製造業とサービス業

2019年、グローバル製造業は、2012~2013年の欧州債務危機以来で最も大きな減速を記録しています。この主な要因は、新たな排出基準が自動車生産に打撃を与え、世界経済が後退したことを受けて、ドイツを中心に自動車セクターが弱含んだ点が挙げられます。技術イノベーションの出遅れや在庫の積み増し、米中貿易摩擦を受けた不透明感なども、製造業に幅広く水を差しました。製造業セクターは、3年サイクル(18か月の上昇サイクルと18か月の下落サイクル)で動く傾向にあります。現在の下落サイクルは2018年初期~中旬に始まったものであることから、そろそろ上昇基調に入る時期です。グローバル製造業PMIは、ある程度安定化してきている様子が確認できます。弱含む製造業とは対照的に、グローバル・サービス業はまずまずの動きが維持されています(次の図表を参照)。

グローバル製造業&サービス業PMI

サービス・セクターがまずまずの状態を維持できている理由は、ここ10年に渡る雇用の力強い伸びと世界的な失業率の低下です(豪州は除く、次の図表を参照)。失業率の低下は余剰能力の削減にプラスであるものの、失業率と不完全雇用を合わせた全体の未活用労働を引き下げるには不十分です。未活用労働率(米国では労働市場の6.7%、ユーロ圏は同15.9%、豪州は同13.4%)には、まだ低下の余地があります。失業率は今年、低い水準が維持されると見込んでいますが、更なる大幅低下の可能性は低いため、個人消費の加速させるには、賃金の伸びが必要でしょう。

世界の失業率

賃金成長を引き上げるには、労働市場の余剰能力が低下する必要があります。賃金の伸びの足枷となっているその他要因には、自動化やギグ労働(単発や短期の仕事)の増加が挙げられますが、これらはそれほど重要ではありません。賃金の伸び悩みは個人消費の妨げとなり、インフレ期待が低すぎる水準で維持されるリスクがあるものの、労働コストを含む賃金の伸びが鈍いということは、力強い雇用の伸びが維持されることになります。

インフレーション

低インフレ環境という問題は、2020年も継続する見通しです。インフレが上昇するためには、経済成長の加速とインフレ期待の上昇が不可欠です。テクノロジーの進化やグローバル化、競争を受けて貨物輸送が容易になったことで、商品価格が安く抑えられています(とはいえ、足元における保護主義的な政策を見ると、グローバル化はピークに達したとも言えますが)。

商品価格のボラティリティ、中でも石油価格の動向は、インフレに予期せぬ影響を与える場合があります。世界成長の改善を受けて、金属価格は今年上昇すると見込まれ、商品価格の上昇に寄与するでしょう。米イランの対立激化を受けて、今年既に確認されている原油価格のボラティリティが悪化する可能性があります。とはいえ、サービス・セクターの伸びを受けて原油消費が減っている米国は、原油価格の動向に影響を受けにくくなっています。

米国:強い個人消費、弱い設備投資、政治リスク

米国経済が良好なのは、力強い個人消費のおかげです。失業率は低いものの、これ以上低下する可能性は低く、雇用の伸びは緩やかとなり、求人は減少の兆しが見えます。足元の景気サイクル局面において、設備投資の伸びは力強さにかけており、残念なことに、選挙の年という点も設備投資に好ましくありません。

米国の景気拡大は堅調である一方で、インフレ率は1.6%と、米連邦準備制度理事会(FRB)が目標とする2%にはまだ手が届きません。今年、米国成長の減速を受けた米ドルの下落が、インフレを引き上げる可能性があります。FRBはインフレ目標の見直しを行っており(レビューは年央に終了)、結果として、平均でインフレ目標の達成を目指す、より柔軟性を持たせた仕組みを導入すると見込まれています。これにより、FRBは利上げを気にせずにインフレを上昇させることが可能となります。

今年は、米国を巡る数多くの政治リスクが存在します。米中貿易摩擦は、先週署名された「第1段階の合意」で若干和らいだものの、中国ハッカーによる米企業攻撃や中国の産業補助金といったより大きな問題の解決に向けて、交渉は今後も継続する見通しで、成長の足枷となるようなハプニングが再び発生する可能性が残されています。

トランプ米大統領の弾劾裁判の審理が上院で開始されましたが、共和党が過半数を握る上院で、罷免となる可能性は極めて低いと言えます。それよりも重要な問題は、11月の大統領選挙です。民主党候補指名争いでトップに立つのはジョー・バイデン前副大統領でしたが、足元ではバーニー・サンダース上院議員が支持率を伸ばしています。とはいえ、数多くの立候補者が出ており、混戦が予想されます(指名争いの初戦は、2月3日のアイオワ州党員集会)。バーニー・サンダース氏やエリザベス・ウォーレン氏など極左の候補者が指名されるような場合には、コンプライアンスや大企業の規制強化、増税に対する懸念を受けて、株式市場が下落する可能性があります。とりあえずのところ、米国経済が堅調を維持し、低い失業率が維持される限り、トランプ氏再選の可能性が最も高いというのが当社のベースケースです。

欧州:より強靭なポジションに

ドイツ製造業の改善、ブレグジット・リスクの後退、中国経済の改善、金融緩和を背景に、ユーロ圏では今年成長が加速する見通しです。欧州中央銀行(ECB)は2019年11月に毎月200億ユーロのペースでの量的緩和(QE)を再開しており、政策金利を据え置く一方で、QEは今年下旬まで継続する可能性が高いとみられています。財政刺激策から受ける恩恵の方が多いと考えられるものの、主要国では追加支出のサインは確認されていません。ECBもまた、金融政策の戦略レビューを行っていますが、インフレ目標の変更は予想されていません。

中国:債務圧縮を抑え、刺激策を強化

2020年における中国のGDP成長は、6%程度となる見通しです。インフラ投資を通じた政府支出、更なる利下げ、預金準備率の引き下げなど、追加の景気刺激策が見込まれています。しかし、政策担当者のフォーカスが債務圧縮と持続可能な成長に置かれていることを考えると、刺激策の規模はここ近年(2015-2016年など)程には至らないと想定されます。

投資家への影響

世界の中央銀行は、今年も緩和姿勢を維持すると予想されており、マネーサプライの伸びと流動性の面でプラスです。世界経済が回復する一方で、リセッション入りの兆候は確認されておらず、債券利回りも低水準にある足元の状況は、株式にとって好ましい環境であり、グローバル株式は今年9~10%程度のリターンを創出すると予想されます。債券利回りは若干の上昇となるものの、大幅な利上げがない中で、過去レンジの低め近辺で推移する見通しです。

米イラン対立激化と原油への影響、米中貿易交渉の難航、自由貿易協定の交渉に伴ったブレグジット・リスク再燃といった政治リスク、そして中国の新型コロナウイルス感染が、経済回復の妨げとなる可能性があります。

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