経済&マーケット

豪州の山火事と経済への影響

By シェーン・オリバー博士
インベストメント・ストラテジー&エコノミクス担当ヘッド、チーフ・エコノミスト 豪州、シドニー

主なポイント

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豪州の山火事は、1-3月期のGDPを0.4%程度押し下げるものの、その後復興・再建による支出増が見込まれます。

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個人消費や観光への影響は、長期化すると予想されます。

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経済活動の重石となっていることからも、更なる金融そして財政刺激策の必要性が高まっており、当社では豪州準備銀行(RBA)が政策金利を0.25%まで引き下げるという見方を維持しています。

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一連の山火事によって、気候変動リスクの高い産業や事業を把握する事の重要性が示された格好となり、今後は気候変動に対するアクションを求める動きが活発化すると予想されます。

はじめに

昨年9月に発生した豪州の山火事によって、700万ヘクタールの森林が焼失し、数多くの家畜が失われ、10億匹を超える野生動物と25人以上が死亡、1,800軒を超える家屋が焼失しました。現在も、200件以上の火災が発生している状況です。クリスマスから年明けにかけて状況が悪化したことから、豪州経済に対する影響に注目が集まっており、ここでは主なものについて取り上げます。

GDPと財産への短期的な影響

物理的な災害は、GDPで見た経済活動に一時的な混乱を与えた後、破壊された財産の復興の開始がGDPを押し上げます。この観点から1年程度の期間を通じて検証すると、直接的な影響を受けた被害者にとっては無慈悲に思えるかもしれませんが、災害は経済成長にとってポジティブであると考えることができます。

山火事による不動産や財産の被害は、数十億豪ドル規模に達する見通しです。例えば、今回の一連の山火事における延焼面積は、推定被害額44億豪ドルとされる2009年のビクトリア州森林火災の15倍です。つまり、山火事が一旦収束した後には、復興・再建にかかる大規模な経済活動が期待できるという訳です。とはいえ、数か月続いているこの森林火災は相当広域に広がっており、深刻な被害が出ていることからも、経済活動の混乱以上の大規模な短期的悪影響は避けられないでしょう。

  • 災害地域における農業、製造業、運輸、観光に関連する活動や事業一般では混乱が生じます。この影響を受けるのは人口の約2-3%程度で、その時期は1-3月期に集中するでしょう。しかしその影響の一部は、被災者が(被害にあわなければ不要であった)やむを得ない支出を行う事で相殺されます。
  • 山火事のニュースが連日報道され、その煙が主要都市複数を覆う中で、経済活動へのより大きな打撃は消費者信頼感の低下を受けた個人消費となる模様です。昨年の景気減速や弱含む賃金の伸び、不完全雇用の高まりを受けて、豪州国民のセンチメントは既に悲観的となっています。ロイ・モルガンが昨年末に発表した調査結果によると、2020年は2019年より悪い一年となると回答した人は40%と、1990年代初期の景気後退局面以来、最も高い(悪い)結果となっています。一方で、2020年は2019年より良い一年となると回答した人は過去最低の12%となっており、全体で見ると悲観的な見方は28%と、同調査開始以来40年ぶりの最悪な結果となりました。
豪州国民のセンチメント:来年は良い一年か、それとも悪い一年か?

この調査結果だけを見ると、現状が極めて悲惨な様に見えるかもしれません。豪州経済は、1990年代初期のリセッション時よりもはるかに良い状態にあります(実際に私も体験していますから!)。しかし、ソーシャルメディアの台頭を背景に悪いニュースが多く出回るようになった点や、政治的分断の進行、期待と現実のギャップが広がっている点などが相まって、人々は経済をより否定的に捉えるようになっており、悲観的な見方が強調されているのではないでしょうか。とはいえ、不透明感に落ち込む消費者の姿はその他の調査結果においても確認されており、クリスマス以降この消費者心理が悪化している模様です。10月からひっきりなしに続く山火事の悲惨なニュースや都市の空を覆う煙は、豪州国民のセンチメントに影を落としています。山火事の被害が広がる中で人々は消費意欲が沸かず、個人消費が弱含んでいます。今後は、食品価格の上昇や保険料の上昇によって家計の購買力が打撃を受けることで、この状況がより顕著となるでしょう。

  • 山火事のニュースは世界的にも幅広く取り上げられており、豪州へのインバウンド観光も同様に影響を受けると見込まれます。豪州の大部分(私が今いる場所も含み)が火に包まれている様子を示した山火事地図など、豪州のイメージを大きく傷つけるものです。これらの影響は(2000年オリンピックのプラス効果がそうであったように)短期的となると考えられるものの、それでも1年程度は継続する可能性があります。

これらを総合的にみると、山火事は1-3月期を中心にGDPを約0.4%程度押し下げると予想され、その後4-6月期に復興・再建を通じた押し上げ効果が期待できます。不確実要素が多いため、このGDPに対するマイナス影響の幅は-0.25%から、夏の終わりまで収束がつかない最悪のケースで-1.0%となると見ています。この影響の殆どは、復興・再建によって巻き戻されると考えられるものの、観光や個人消費の影響が長期化する可能性など、不透明感が多く残されています。

過去最悪と言われる今回の山火事は、全国的な干ばつが大きく影響しています。干ばつによって既に減少している農業生産は、ここ2年でGDP成長を約0.2%押し下げています。残念なことに、南方振動指数(南太平洋タヒチと豪州ダーウィンの気圧差を指数化したもので、貿易風の強さの目安となる)はいまだエルニーニョ現象を示しており、豪州東部や北部では比較的乾燥した状況が継続する見通しとなっています。

エルニーニョ現象と豪州農業生産

追加刺激策の必要性

山火事の影響を受けて、経済指標は今後数か月にわたり軟調となる見通しとなっていることから、豪州経済は「緩やかなターニングポイントにある」というRBAの見解には疑問が生じており、完全雇用とインフレ目標達成が更に遠ざかることからも、追加刺激策の必要性が高まったと言えます。RBAは2月に政策金利を0.5%まで引き下げ(これに関する市場予想は、クリスマスの36%から現在は53.4%まで上昇しています)、3月には再び0.25%まで引き下げるという見方を当社は維持します。山火事によって食品価格や保険料の上昇が見込まれますが、RBAは基調インフレにフォーカスしていることからも、これを見過すであろうと考えられます。実際のところ、これらの価格上昇は消費者購買力の負担となることから、個人消費にはマイナスであり、基調インフレを押し下げる可能性があります。

追加の財政刺激策に対する圧力が強まっています。連邦政府は既に、今年から来年にかけて山火事復興資金20億豪ドル(これは1年当たりGDPの0.05%相当と比較的小規模です)の追加拠出を決定しており、ニュー・サウス・ウェールズ(NSW)州政府も10億豪ドルの支出を決めています。しかしながら、既存の支援プログラムや消火作業にかかる追加費用、歳入の伸びが短期的に減速することなどを考慮すると、山火事が予算に与える総合的な影響はより大規模となる可能性が高くなっています。

より幅広い観点からは、信頼感の低下を考えると、経済成長を促進するにはサーキットブレーカーの措置が必要だと言えるでしょう。金融政策だけでは不十分であり、個人向け減税や失業手当、投資控除など、より幅広い財政刺激策が必要です。刺激策が十分な効果を発揮するためには、最低でもGDPの0.5%相当(もしくは100億豪ドル程度)の規模が必要です。

山火事という非常事態に直面している連邦政府は財政黒字化達成に向けたフォーカスを緩めており、これが正しい行動とはいえ、今年から来年にかけての黒字化達成は不透明となりました。しかし、豪州の財政状況は比較的健全であることを考えると、これはそこまで大きな問題ではありません。

長期的な課題

山火事を受けて、長期的な課題が明るみになっています。

まず、CO2排出削減に対するより強硬な姿勢を求める圧力が強まっている点です。豪州では干ばつや山火事は昔からのことですが、世界そして豪州における気温上昇に対する警告は10年前から出ており、この主な原因である地球温暖化ガス排出の世界的な削減に向けた行動を起こさなくては、地球温暖化がさらに進み、嵐や洪水、干ばつ、深刻な森林火災等の異常気象や、海面上昇という悲惨な結果をもたらすと指摘されていました。

豪州における猛暑日の数

第2に、深刻な山火事による被害は、気候変動の物理的な影響や排出削減対策等の気候変動リスクが高い産業や事業を把握する事の重要性をハイライトしています。

第3に、過去最悪という今回の山火事の重度とこれが今後のニューノーマルとなるリスクを考えると、不動産における将来的な山火事リスクの低減に向けて戦略を改善する必要性が生じています。

最後に、政策アクションがない中で、山火事によって主要産業が焼失し、住民が転出している地域を中心に、一部の地方コミュニティの衰退が鮮明になっています。この流れを受けて、大都市への人口集中が進行し、交通渋滞や家賃や住宅価格の高騰が加速するでしょう。

投資家への影響

RBAによる追加緩和の可能性や短期的な経済成長の軟化を考えると、豪州の債券利回りはグローバルのそれを下回り、さらに低下する可能性があります。

これにより、豪ドルは比較的弱含んで推移するでしょう。

今までのところ、豪州株式市場は、経済成長に対する短期的な影響を見越して復興からの押し上げ効果に注目しているものの、山火事リスクによるマイナスの影響を受けて、グローバル株式をアンダーパフォームするでしょう。

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