ここでは、足元の経済見通しと先進市場の主要資産クラスにおける投資アウトルックを検討するとともに、ポートフォリオにおいてオルタナティブ投資が果たす役割を検証します。
経済見通し
2018年4月、堅調な経済成長見通しを背景に、「インフラストラクチャー:金利上昇の影響」と題して、先進市場における金利上昇がインフラのバリュエーションに与える影響を検証しました。今になっては、これらの景気見通しが楽観的過ぎだった事は明確です。

上の図表が示す通り、最新のIMF世界成長見通しでは悲観的な見方が鮮明となっています。中でも、主要経済における大規模かつ長期の成長減速が予想されています。
2020年に予測されている世界成長の回復は、ラテンアメリカの新興経済や中東の見通し改善によるものです。
国際貿易取引量は、貿易摩擦の影響を受けて、2012年以来最低水準へと落ち込んでいます。IMFの推定によると、米中貿易戦争によって0.8%の世界成長が失われ、中国経済の減速が更に進み、米国GDP成長を0.5%押し下げています1。
ブレグジット後、英国そして欧州の成長が持続されるのかは不透明であり、大きな懸念材料となっています。
軟調な成長見通しは、豪州の主要な貿易相手国にも影を落としており、豪州経済にも影響が及ぶ見通しです。IMFの成長見通しによると、中国を含むアジア太平洋地域は、2018年の5.5%から、2019年と2020年は5.0%へと減速し、豪州経済の伸びも、同1.8%から同1.3%へと低下が見込まれています2。
経済の雲行きが怪しくなる中で、米国が力尽きて中期的にリセッション入りするのではないかという懸念が浮上しています。
米国のリセッションに関しては、当社のチーフ・エコノミストであるシェーン・オリバーが「米景気拡大は過去最長に:リセッション入りは間近なのか?」(2019年7月)など、レポートを幾つか発行しています。主なポイントは次の通りです:
- リセッションは景気循環の一部であり、避けては通れない。
- 足元の米景気拡大サイクルは過去最長であるものの、過去の成長サイクル程の力強さはなく、過剰な賃金の伸び等、調整が近い事を警告する予兆は確認されていない。
- 従って、現在の米国における軟調な成長サイクルは、まだ継続するであろう。
経済見通しの悪化を背景に、先進国に残された選択肢は、貿易摩擦の解決を急ぎ、刺激策を維持する以外にないでしょう。
現在の低成長・低金利・低インフレ環境は、最低でも今後数年間にわたって継続すると予想されます。
先進経済における投資見通し
最も代表的な資産クラスである株式と債券への大きな影響を、以下でまとめています。
株式
株式市場は独自のサイクルで動きますので、景気サイクルと動きが合致しない場合もあります。従って、足元の軟調な経済成長局面における株式市場の上昇は、珍しい事ではありません。シェーン・オリバーが指摘する通り、過去最低水準に低下した国債利回りと株式からの配当利回りを比較して考えると、株式市場の方が魅力的であり、これが株価の上昇を支えています。
また、先進国における経済見通しの悪化を受けて、金利引き下げ等、追加刺激策の導入が見込まれている点も株価のサポート要因となっています。
しかし、機関投資家の間では、現在の長いブル相場は終わりに近づいており、株価はピークを打っているという見方が広まっています。次の図表では、主要な機関投資家による株式市場の見方を示しています。2019年6月時点の調査で市場が既にピークを打ったと考える回答者は74%と、12か月前から18%増となりました。

一般的に、リセッションはベア相場(20%を超える下落が12か月以上継続する)を招きます。米国経済の大幅減速を引き起こす可能性のあるトリガーは複数存在しており、株式市場への波及が懸念されます。このトリガーの中でも最も懸念されるのは、米中貿易戦争の悪化です。
世界の市場は、米国株式市場から大きく影響を受けています。次の図表では、米国S&P500と豪州ASX200の指数(トータルリターン)を使って、この関係を示しています。世界金融危機(GFC)後においては特に、豪州指数が米国指数と足並みを揃えた動きをしていることがわかります。

債券
多くの投資ポートフォリオにおける伝統的な債券の役割とは、低リスクでまずまずの利回りを獲得する一方で、上場株式と債券利回りの低相関を活用することで上場株式市場のボラティリティに対するヘッジの効果を得ることでした。
従来選好されてきたのは、社債よりも低リスクである国債です。しかし、国債利回りは、次の図表が示す通り、過去最低水準へと低下しています。

この状況を受けて、経済の更なる刺激を目的に政府が金融政策を打ち出す余地は限定的となってしまいました。
さらに、国債利回りの低下によって、イールドを求める投資家への訴求力が失われることになり、株式市場のボラティリティに対するヘッジとしての効果も薄れています。
こういった国債の見通しを受けて、従来債券がポートフォリオで果たしてきた役割を担う他の投資オプションを模索する投資家の動きが継続すると予想されます。
この他のオプションとして考えられるのは、以下の通りです;
- 社債:まずまずの利回りが確保できるものの、リスクは国債よりも高くなる。これは、高分散の効いた社債ポートフォリオを構築することで、ある程度の低減が可能。
- オルタナティブ投資:以下を参照。
オルタナティブ投資
「オルタナティブ投資(オルタナ投資)」または「代替投資」とは、証券取引所を経由せずに取引される様々な投資(つまり、株式や債券に「代わる」もの)を指します。これらには、不動産やインフラといった実物資産への直接投資や、機関投資家向けファンドを経由したポートフォリオ資産への投資などが含まれます。これらの投資は流動性がない場合が多く、プルーデントなアロケーションの観点から、資産配分が限定的となるケースがあります。
機関投資家の間では、オルタナ投資の人気が高まっています。2018年のプレキン調査によると、その規模は9.1兆米ドルに達しており、2008年から3倍増となっています。
そして今後も、オルタナ投資の代表格ともいえるプライベート・エクイティ、プライベート・デット、インフラを中心に、投資家によるアロケーションの増加が見込まれています。

次の図表では、今後12か月において、機関投資家がこれら人気の資産クラス3つから求めるポートフォリオの役割を示しています。

機関投資家がインフラ投資に求めているのは、他資産クラスとの低相関や分散効果、安定したインカム源であることがわかります。
前回のレポート「インフラストラクチャー:金利上昇の影響」で検証した通り、非上場インフラと株式市場の相関は極めて低く、景気サイクルに対する感応度は低から中程度となっています。非上場インフラは、他資産クラスとの低相関と高い分散効果とともに、安定したイールドを提供します。
投資家は、これらを勘案することで、自身のポートフォリオにおけるインフラ投資の役割を明確化することができるのではないでしょうか。
1. 国際通貨基金(IMF)、世界経済見通し、2019年10月
2. 国際通貨基金(IMF)、地域別見通し:アジア太平洋、2019年10月
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重要事項
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