経済&マーケット

2020年のマクロ投資環境見通し

主なポイント

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ボラティリティが継続するものの、2020年は堅調なリターンが期待できる年となりますが、2019年程には至らないでしょう。

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(豪州ではより大きなリスクとなっているものの)リセッション入りの可能性は低く、大きく長い弱気相場の可能性も低くなっています。

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注目点は、米国貿易戦争、米国大統領選挙、米イラン対立、世界の景況感指数、豪州における金融/財政刺激策です。

はじめに

リターンが不調となった2018年を経て、2019年は予想に反して良好な結果となり、バランス型のスーパーアニュエーション・ファンドは15%程度のリターンを実現した模様です。
 

バランス型スーパーアニュエーション・ファンドのリターン

しかし、これは今年も継続するのでしょうか?米国とイランの対立が緊迫化する中で、世界的に不透明感が増加、豪州では干ばつと山火事の被害が深刻化しており、同国経済の重石となっています。このレポートでは、投資見通しに関する主要なポイントをリスト形式でまとめています。

2019年が投資家にとって良好な年となった理由5つ

米中貿易摩擦の悪化やイラン情勢の緊迫化を受けて企業利益が軟調となるも、投資家リターンはまずまずとなった2019年。この理由は5つあります。

  • 金融緩和:成長減速やその他の成長リスクを受けて、世界の中央銀行は緩和政策に乗り出し、2018年の引き締めから政策転換が起きました。
  • 低いポイントからのスタート:2018年の株価下落後、2019年は株安でのスタートとなり、金利と債券利回りの低下を受けて、株価やその他資産は比較的割安となりました。
  • 2019年年明け時点の見通しは暗く、不安に満ちていた:この様な局面において、資産価値は常に比較的容易に上昇します。
  • 地政学リスクの高い状態が継続したものの、年末にかけて若干の後退が確認された:米国と中国は第一段階の貿易合意に達し、イラン情勢が緊迫しているものの原油供給の目立った中断はありません。そして、とりあえずのところ、ハードブレグジットも回避される模様です。
  • グローバル成長は、年央のイールドカーブの逆転受けたリセッション懸念があったものの、市場が恐れていた程悪くなかった:実際のところ、世界の経済指標も年末に向けて安定化の兆しが確認されています。

2019年から学んだ教訓7つ

  • 米連邦準備制度理事会(FRB)、欧州中央銀行(ECB)、そして中国人民銀行(PBOC)や豪州準備銀行(RBA)には逆らうな:リセッション入りが回避される限り、成長資産からの投資リターンという観点から、金融緩和はポジティブです。
  • 開始時点が重要である:2019年の年明けがそうであったように、資産が割安で投資家心理が悲観的な局面においては、比較的容易に良好なリターンを獲得することができます。
  • 世界金融危機(GFC)後の警戒感の継続は、ポジティブでもありネガティブでもある:定期的に成長の足枷となる事は確かですが、経済の過熱を防いでおり、景気そして投資サイクルの長期化に寄与しています。
  • 地政学リスクは、市場と経済状況を左右する大きな要因である:緊張が後退する場面や、恐れていた程悪い結果とならなかった場合には、ポジティブ要因になりえます。
  • 豪州の住宅価格が上昇し、家計債務が高水準にあるからといって、住宅市場がクラッシュするとは限らない。
  • 投資戦略に忠実であれ:先行きの暗いスタートとなった2019年、市場が様々なニュースに翻弄される中で、分散投資を貫いていた投資家は良好なリターンを獲得できたはずです。
  • 株式市場にはボラティリティがつきものであり、非上場資産にもリスクがあるものの、これらの資産を組み合わせた分散型ポートフォリオから得られるインカムは、比較的安定しており、銀行預金よりも優れている点を忘れてはいけません。

2020年における主要なテーマ5つ

  • 貿易戦争が一時休戦となるも、地政学リスクは高い状況が継続するでしょう。大統領選で再選を目指すトランプ米大統領は、米中貿易戦争の激化を望まないと考えられますが、今後また再燃する可能性があります。その他のリスクには、米イラン対立や英国とEU間の自由貿易協定(FTA)の交渉が難航すればハード・ブレグジット懸念が再浮上する可能性、そして極左派が民主党候補に選出された場合には米国大統領選挙もリスクです。
  • 景気刺激策のおかげで景況感指数は足元で安定化の兆しを見せており、世界成長は安定化、そして上向き始めるでしょう。
  • 低インフレと低金利環境が継続するでしょう。基調インフレ率を押し上げるに十分な経済成長は望めないことから、(RBAを含む)一部の中央銀行は緩和政策を維持する見込みです。
  • 世界的な不透明感が若干後退し、米国以外の経済成長が加速するとともに、米ドルはピークを打ち、下落基調に入るでしょう。
  • 豪州の経済成長は、住宅建設の減少や個人消費の軟化を受けて弱含むでしょう。干ばつや山火事も重石です。

2020年における主な市場の見方

世界成長の改善と金融緩和の継続を受けて、2020年における投資リターンはまずまずとなるでしょう。しかし、バリュエーションが高いポイントで1年をスタートした点や、地政学リスクを背景としたボラティリティの影響などを受けて、2019年の様な2桁の伸びには届かないとみられます。

  • グローバル株式のリターンは、景気回復と金融緩和が寄与する格好で、9.5%程度となるでしょう。
  • 米ドルが予想通りに下げに転じる場合には、米国以外そして新興国のシクリカルな株式市場がアウトパフォームするでしょう。
  • 豪州株はまずまずの結果となりますが、経済と収益の伸びが力強さに欠けることから、リターンは9%程度にとどまるでしょう。
  • 低いポイントからのスタートとなるイールドは一年を通して若干の上昇にとどまるとみられ、債券リターンは低くなるとみられます。
  • 実物商業用不動産と非上場インフラは、イールド追求の動きから引き続き恩恵を受けることになるでしょう。豪州小売不動産の価格下落の影響が尾を引きそうです。
  • 全国主要都市の住宅価格は、2020年初期まで堅調な伸びを続ける見通しです。しかし、アフォーダビリティに乏しく、経済は軟調、銀行貸出基準は未だ厳格であることからも、その上昇ペースは遅く、2020年を通じて最大10%程度となる見通しです。
  • RBAは政策金利を0.25%まで引き下げると予想されていることからも、キャッシュと定期預金からのリターンは、極めて低いものとなるでしょう。
  • RBAによる追加緩和を受けて、豪ドルは0.65米ドル近辺まで下落した後、世界経済の回復とともに若干回復するとみられ、今年はほぼ横ばいの状態で1年を終えると見込まれます。

注目すべき動向7つ

  • 米国貿易戦争:第一段階の合意によって落ち着きを見せると思われますが、挑発せずにはいられないトランプ大統領のことですから、何が起きるかわかりません。
  • 米国の政治:下院がトランプ氏の弾劾決議案を可決しましたが、上院が同氏を大統領から解任する可能性は低いと見られています。また、連邦政府の閉鎖の可能性もほぼありませんが、これらは両方ともボラティリティを引き起こす要因となりかねません。また、(可能性は低いものの)極左派が民主党候補に選出された場合も同じです。
  • 米国とイランの対立激化:イランが交渉を拒否し、トランプ米大統領が強気の発言に出るとすれば、今後さらにエスカレートし、原油供給に影響が及ぶ可能性があります。
  • ハードブレグジットは回避された模様ですが、英国・EU間の自由貿易協定の交渉は一年を通して注目すべきポイントです。
  • 世界経済指標、購買担当者指数(PMI)
  • 中国経済:世界経済にとって、中国の減速は引き続き主要な懸念材料です。
  • 豪州における財政/金融刺激策:大規模な財政刺激策の導入があれば、RBAによる追加利下げや量的緩和が回避される可能性があります。

世界経済成長が若干改善する可能性が高い理由4つ

  • 世界の金融情勢は、昨年を通して大幅に緩和されました。中でも、中国では大規模な財政刺激策が導入されています。
  • グローバル景気指数PMIはここ数か月で上昇しており、金融緩和が効果を発揮している事を示唆しています。
  • 債務の急速な増加、過剰投資、高インフレといったリセッション入りを警告するいつもの予兆は、確認されていません。
  • 米中貿易戦争が落ち着くことで、企業信頼感が(少なくとも若干の間は)回復するでしょう。

豪州がリセッション入りを回避する理由5つ

山火事が続く豪州では、農業、観光、消費者信頼感や個人消費への影響を中心に、1-3月期のGDPを0.4%程度押し下げると予想されます。既に成長が弱含んでいるこの局面での痛手によって、同1-3月期のGDP成長はゼロまたはマイナスとなる可能性もあります。しかし、リセッション入りのリスクが高まったとはいえ、その可能性は低いままです。

  • インフラ支出は堅調です。
  • 資源投資は再び増加しています。
  • 山火事によるマイナスの影響の後には、復興・再建が開始する4-6月期以降、支出の増加が見込まれます。
  • 既に力強さに欠ける豪州経済は、山火事で短期的にさらに打撃を受けており、追加の財政刺激策の出動が必要となるでしょう。
  • 豪ドルは弱含む展開が継続するとみられ、成長促進に寄与します。

RBAが今年追加利下げを実施する理由3つ

  • 2020年の成長は、RBA見通しである2.8%には至らない可能性が高くなっています。
  • これによって、不完全雇用が上昇し、賃金の伸びは減速、低インフレという状況が継続するとみられます。
  • 早い段階での財政刺激策は期待できません。

RBAは、2月に0.5%へと政策金利を引き下げた後、3月に再度利下げを実施して、最終的に0.25%まで引き下げるとみており、年央あたりから量的緩和に乗り出すと予想しています。

大きく長い弱気相場の可能性が低い理由3つ

昨年の力強い上昇を経て、株価は調整が入りやすい状況にあります。しかし、大きな弱気相場(20%の下落後、翌年さらに大幅下落)の可能性は低いでしょう。

  • 世界的なリセッション突入の可能性も低いままです。大きな弱気相場の多くは、リセッションと関係しています。
  • 投資家センチメント指数からは慎重な姿勢が確認されており、逆張りの観点からも、これはポジティブであると言えます。
  • 株式市場にとって、流動性が供給されている環境はポジティブです。例えば、豪州における銀行定期預金の金利は1.3%程度(これは今後低下する見通し)しかなく、5.7%程度のグロス配当利回りが獲得できる株式は、より魅力的であると言えます。
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インベストメント・ストラテジー&エコノミクス担当ヘッド、チーフ・エコノミスト シェーン・オリバー

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