主なポイント
世界原油供給量の6%に影響を与えたドローン攻撃によって、原油価格はここ数日で高騰しています。
一般的に、原油価格が倍増すると、世界経済成長への影響が深刻化しますが、この状態には程遠い状況にあります。注視すべきは、供給停止がどの程度長期化するかであり、更なる攻撃、そして米国やサウジアラビアによる報復の有無です。
豪州においてガソリン価格が急騰した場合、消費支出と経済成長を脅かすものとなり、豪州準備銀行(RBA)に対する利下げ圧力が増すと考えられます。
はじめに
世界の原油価格は先週、サウジアラビアの石油施設に対するドローン攻撃を受けて、急騰しました。この事件をきっかけに、ガソリン価格の上昇が見込まれることからも、原油価格が更に上昇するとなればなおさら、世界経済成長への脅威を問う声が高まっています。
原油価格高騰の理由
原油価格は、先週の金曜日以来約13%上昇しています。トランプ政権が核合意から離脱し、対イラン制裁を復活させたことから、中東情勢は緊迫化が継続しています。この流れを受けて、ホルムズ海峡では一連のタンカー攻撃が発生していますが、サウジ原油生産・石油施設への無人機(ドローン)攻撃は、情勢の更なる深刻化を示しています。日量570万バレル相当のサウジ生産が影響を受けており、これは世界原油生産量の6%程度に匹敵します。石油輸出国機構(OPEC)の余剰生産能力は現在日量400万バレル相当と妥当な水準にありますが、サウジ生産停止分を補うには不十分であり、さらにはベネズエラとリビア産原油の供給不安といった課題が残されたままです。

もちろんの事、13%という原油価格の急騰を単独で考える事は不適当であり、原油価格は今年4月や1年前の水準にはまだ達していないことからも、現状を騒ぎ立てる必要はないと考えられます。

とはいえ、原油価格の更なる高騰が懸念されているのは確かであり、この点に関する不確定要素は次を含みます:
- サウジ生産の正常化に要する時間:最新の指標では、数週間から数か月と予想されています。
- その他生産地における備蓄分や余剰生産能力によって、供給不足分がどの程度補えるか:支援になるとはいえ、完全補給には至らないでしょう。
- 同様の攻撃が続く可能性:ドローン攻撃は、複数の分野で新たな脅威となっています。
- 米トランプ大統領が「臨戦の準備は出来ている(locked and loaded)」と発言したように、サウジアラビアと米国による報復:イラン情勢の更なる悪化が懸念されます。
日量570万バレル相当の生産停止は歴史上最大の規模であり、同560万バレルが供給途絶となって原油価格が約3倍に跳ね上がったイラン革命や、原油価格が約2倍に急騰したイラクによるクウェート侵略を上回る規模です。ドローン攻撃の脅威が継続するとなれば、原油価格が更に高騰する可能性があります。
これの逆を示唆する要因も幾つか存在します。まず、生産中断は一部で一時的なものに留まる可能性がある点。そして、OPECが世界原油生産に占める割合は、1970年代の50%程度から足元では40%未満へと低下している点。さらには、米トランプ大統領は中東戦争継続に反対するキャンペーンを経て大統領選に勝利しており、約1年先に迫った2020年米大統領選挙を前に、原油価格が更に高騰するリスクは回避したいのではないかと考えられ、対立拡大のリスクが増したとはいえ、米国の対応は今回攻撃に使われたドローンの基地撲滅に留まる可能性がある点、そして最後に、シェールオイル生産の増加を受けて、米国の原油輸入への依存度は低下している点です。次の図表をご覧ください。

世界経済成長への影響
イランとその連携勢力、そしてサウジアラビアと米国の対立という中東情勢の緊迫が更に進行し、原油の供給と価格急騰というさらなる脅威に発展した場合を考えてみましょう。過去を振り返ると、1970年代中ごろ、1980年初期、1990年代初期、2000年代初期、世界金融危機(GFC)前において、原油価格の急騰は世界経済後退の原因となってきました。次の図表をご覧ください。利上げやGFC以前に見られた住宅価格の下落など、その他要因の様にリセッション入りの決定要因にはなりませんでしたが、状況悪化を引き起こしたことは明らかです。なぜなら、原油価格の上昇、つまり幅広いエネルギー価格の上昇は、消費者から見れば増税と同じ効果を持つため、小売売上や車販売などが後退するからです。

時間の経過とともに企業や消費者は価格上昇に慣れていくことからも、重要なのは、原油価格水準よりも変化のスピードです。通常、原油価格が12ヶ月で倍増すると、深刻な問題へと発展します。これは、先週1バレル55米ドル程度をつけていたWTIで見ると、同110米ドル(ブレントやタピスの場合はそれ以上)への急騰を意味し、現在同62米ドル近辺にあることからも、まだ深刻な状況には発展していないと言えます。
米国では、国内原油生産の増加がエネルギー生産企業の追い風となっており、エネルギー利用の多い消費者や事業の負担軽減に寄与するなど、米国の情勢は複雑化しています。結果的には、エネルギー企業が享受するプラス効果よりも、原油価格上昇が消費者にもたらすマイナス効果の方が大きい事からも、総合的に見ると、過去ほどではないとは言え、米国経済はマイナスの影響を受ける事になります。
従って、先週の水準が倍増する様な原油価格の更なる急騰は、世界経済を大きく脅かすことになるでしょう。特に、世界成長が弱含んでいるこの局面においては、引き続き、貿易戦争が脅威です。
原油価格の上昇はインフレを促進するものですが、中央銀行らはこれを一時的なものとして差し置き、最終的には、消費購買力の低下が基調インフレやコアインフレ率(エネルギーと食品価格を除く)の足枷となるでしょう。つまり、1990年代初期、2000年代初期、GFC局面で見られたように、原油価格の急騰を受けて中央銀行らが追加緩和を控える可能性は低いと考えられます。
豪州への影響
次の図表で示した通り、豪州のガソリン価格は、(GST、燃料税、配送コスト、小売マージンを除き)グローバルで決定されることからも、アジアのタピス原油価格(豪ドル建て)を追随して推移しています。つまり、原油価格の急騰は、豪州のガソリン価格にも反映されます。サウジ石油施設の攻撃以前、豪州主要都市におけるガソリン価格は1リットル1.40豪ドルでした。原油価格の上昇を受けて、同ガソリン価格は1.46豪ドル程度まで上昇すると見られています。これは、マイカーを持つ人々にとって朗報とは言えませんが、昨年10月につけたガソリン平均価格水準まで上昇することはないでしょう。

現実的な問題に発展するのは、過去の中東危機時の水準を超えて、世界の原油価格が倍増した場合です。これは、豪州のガソリン価格を1リットル1.95豪ドルへと押し上げます。この様なガソリン価格の大幅値上がりによって、家計のガソリン代負担は、現在の一月当たり49豪ドルから、68豪ドル程度へと拡大します。

1週間当たり19豪ドルの支出増加は、大幅な増税効果を持つ事からも、最近実施された中・低所得層向け税金還付からのプラスの影響がほぼ完全に白紙に戻ることになり、消費支出の更なる足枷となります。繰り返しとなりますが、エネルギー価格の高騰は一時的にインフレを促進するものの、基調インフレに注目しているRBAは、購買力の低下や基調インフレ圧力の低下を考慮して、これを差し置くと考えられます。つまり、RBAによる追加緩和の理由が一つ増える事になります。
投資家への影響
原油価格の上昇はエネルギー株にとってプラスであるものの、利益率や消費需要への悪影響を考えるとその他市場にはマイナスとなります。また、このタイミングも悪く、世界経済が軟弱な局面で発生しています。当社におけるベースケースは、イランを巡る緊迫が落ち着きを見せることで、原油価格の更なる上昇は限定的となり、世界経済そして豪州経済の成長への影響はニュートラルとなるシナリオです。しかし、リスクは明らかに増大しており、中東情勢と原油価格の動向を受けて、今後1ヶ月程度にわたりボラティリティが高まる見通しです。
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