主なポイント
幅広い主要資産クラスで投資利回りが低下していることから、中期的リターンは抑制されたものとなり、分散型ポートフォリオで年率約5.6%程度を当社では見込んでいます。
低インフレを背景として実質リターンはそこまで低下していないことを踏まえ、投資家は、現実的な期待リターンを設定し、相応なインカムが持続的に獲得できる資産にフォーカスするのが良いでしょう。
はじめに
十分に分散を行っている投資家は、過去10年でかなり好調なリターンを享受してきました。バランス/グロース型のスーパーアニュエーション・ファンドのリターン中央値(報酬・税金控除後)は、2019年7月までの5年間で年率7.3%、同10年間で年率8.2%を記録しています。

公的債務、ユーロ圏、デフレ、インフレ、政策金利の引き上げ、米トランプ大統領、北朝鮮、中国、貿易戦争、経済成長、住宅価格など、株式や成長資産はここ10年で「不安の壁」を文字通りよじ登った訳ですが、投資リターンは、世界金融危機(GFC)後の回復や金利低下を受けたイールド追求の動きから恩恵を受けました。とはいえ、耳の痛い話かもしれませんが、イールドの低下は今後リターンが抑制される事を示唆しています。
利回り低下=中期的リターンの余地の低下
投資リターンは、利回りとキャピタルの成長という2つの要素で構成されています。これら2つを見る限り、今後5年間における投資リターンは、過去5年と比較すると、平均して低くとどまると予想されます。その他の条件が同じであるとすれば、資産価格は利回りと反対に動くのは、投資の基本です。例えば、投資先資産からのインカム収益が年間10ドルで、その資産価格が100ドルだと仮定した場合、インカム利回りは10%となります。利下げを受けてイールド(利回り)追求の動きが高まったことで投資先資産の需要が増加し、価格が120ドルへと20%上昇したとすれば、年間インカム収益は10ドルであることから、利回りは8.3%(10ドル÷120ドル)へと低下することになります。この様に、利回りは価格と反対方向に動くわけです。しかし、利回りの低下はリターン見通しの低下を意味します。
1980年代初期以来、投資利回りは低下しています。この頃は、豪州準備銀行(RBA)のキャッシュレートは14%程度、1年定期預金の金利は14%弱、10年物国債の利回りは約13.5%、商業用・住宅不動産の利回りは8-9%程度、株式配当利回りは豪州で約6.5%、グローバルで5%程度にありました。この様に、この頃の投資からは既に高利回りが獲得できていたため、成長資産が優れたリターンを創出するには、まずまずのキャピタル成長があれば十分でした。つまり、多くの資産は極めて堅調なリターンを達成し、バランス/グロース型スーパーアニュエーション・ファンドも、1982年~1999年にかけて、名目リターン(報酬・税金控除後)平均14.1%、実質(同)平均リターン9.4%を記録しています。
多くの場合、投資利回りは、ここ40年の間で大きく低下しています。次の図表をご覧ください。

現在、政策金利であるキャッシュレートは1%、1年定期預金金利は1.5%、10年物国債利回りは0.9%、住宅不動産の利回りは3%、商業用不動産の利回りは5%を僅かに下回る水準にあり、株式配当利回りは豪州で5.5%(フランキングクレジットを含む)程度、グローバルで2.5%となっています。これらからは、分散投資のリターンの余地も下がる可能性が示唆されています。
さらには、名目経済成長率の減速を反映し、成長資産におけるキャピタル成長の余地は、過去と比較して抑制されたものになる可能性があります。中期にわたり成長に影響を及ぼす可能性が高いメガトレンドには、次のものがあります:
- 家計債務増加の継続的な減速
- グローバル化、規制緩和、ポピュリズムを選好する小さな政府、市場寄りの政策姿勢の後退
- 企業の注目が、収益から「バランス(の取れた)スコアカード」へとシフト
- 地政学面での緊張の高まり:特に、増大する中国勢力を封じようとする米国の様子は、米中貿易戦争からも明らか
- 人口の高齢化と減少:労働力の伸びが減速し、公的予算を圧迫
- 技術のイノベーションと自動化
- アジアと中国における中間所得層の拡大
- 排出削減に対する圧力と地球温暖化の影響
- 価格低下を背景とした持続可能エネルギーへの大転換
これらの多くは、経済成長の重石となるものであることから、リターンの足枷要因です。
リターンの中期見通し
中期的なリターンの余地を考えるにあたり当社が最初に検討するのは、各資産における直近の利回りです。これに対し、前述のメガトレンドを反映したシンプルかつ一定のキャピタル成長に関する前提条件を適用します。また、予測は行わず、簡単な分析にとどめています。
- 債券:次の図表で示した通り、債券リターンの中期見通しを考える上で最適な指標は、直接利回りです。10年物国債を満期まで保有した場合、取得時の利回り(豪州では現在0.93%)が10年リターンとなります。当社では、債券指標の満期により近い5年物国債利回りを参考にしています。

- 株式:直近の配当利回りと名目GDP成長トレンド(キャピタル成長を示す代替指標)を見る事が、中期リターン見通しの良い判断材料となります1。
- 不動産:賃料利回りと合わせて、賃料とキャピタル成長を図る代替指標としてトレンドインフレ率を参考にします。
- 非上場インフラストラクチャー:直近の平均利回りと、インフレを若干上回るキャピタル成長を参考にします。
- キャッシュ:リターンの中期見通しを検討する上で、現行のキャッシュレートは参考にならないため、今後における若干のキャッシュレート上昇を考慮します。
最新のリターン見通しは、次の図表の通りです。

2列目は各資産における直近のインカム利回りを、3列目ではこれらの5-10年に渡る成長可能性を、そして最後の列はトータルリターンの余地を示しています。次のポイントに留意してください:
- インフレ率の平均は、各国中央銀行
- グローバル資産については、足元の市場価格に基づくフォワードポイントを検討に含めています。
1 次の項目は調整が可能:配当性向(しかし、過去データからは、内部保有はリターン向上をもたらさない場合が多いことが示されており、配当利回りが最も相応しい参考指標であると考えます)、株価収益率が均衡水準に近づく可能性(とはいえ、それを予想することは困難です)。
主な見解
これら見通しに関して、注目すべきポイントが幾つかあります。
- 資産の大半で価格が上昇し、利回りが低下している事を背景に、中期的なリターン見通しは低下が継続しています。このアプローチを使った分散/グロース型ポートフォリオのリターン見通しは、GFCの低迷期2009年3月時点で年率10.3%だったものが、5年前には同8.6%、1年前には同6.2%、現在は僅か5.6%まで低下しています。

- 超低金利を背景に国債からのリターンは低いものとなります。確かに、最近では利回りの低下が価格を押し上げたことから、債券リターンは力強さを見せていました。しかし、これは将来のリターンを示唆するものではなく、利回りの低下が止まったとしたら尚更のことです。
- 非上場商業用不動産とインフラは、高めの利回りを反映して、比較的良好なリターンが継続するでしょう。
- 豪州株は、利回りから判断すると、まずまずのリターンとなりそうですが、成長可能性の点ではアジア/新興株式の方が魅力的です。
- 中期リターン見通しにおけるダウンサイドのリスクは;世界的な景気後退による株式市場のベアマーケット入り、またはインフレが回復し、大規模なキャピタルロスを引き起こすことで利回りがより通常の水準に戻る可能性です。最後に大きなドローダウンがあったのは大分前であるように、リターンの損失は稀であるものの、発生する場合には集中したものになるという点を含んでおくべきでしょう。最初の図表をご覧ください。
- アップサイドのリスクは、(常に)あまり明確ではないものの、世界経済の成長が回復を見せる中でインフレが低水準に留まる場合には、可能性はなきにしもありません。
投資家への影響
第一に、妥当な期待リターンを設定する事が重要です。力強さに欠けるGDP成長と低利回りを見る限り、1桁台後半や2桁の持続的なリターン獲得は合理的ではない事が分かります。実際に、スーパーアニュエーション・ファンドの10年ローリング平均のリターントレンドは、1990年代以降、名目そして実質の両方で低下していることからも、低リターンの世界は既に長年の間継続しているのです。ただ私たちが、ベアマーケット入りとその後の好調なリターンを見て初めて、それを実感しているだけなのです。
次に、主要資産クラスにおけるリターン低下の可能性に対して、成長資産へのアロケーションを積み増すという対応は、より大きなリスクを取っているという事を忘れてはなりません。
3つ目として、弱気相場に痛みはつきものですが、中期リターンの可能性が高まることになるため、投資家にオポチュニティ提供される局面だと言えます。
第4のポイントは、投資リターンの可能性の低下は、一部で超低インフレを反映しており、実質リターンはそこまで下げていないという点です。
最後に、将来リターンに対する確信を提供するという点から、そこそこの持続的なインカムが獲得できる資産にフォーカスすべきでしょう。
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重要事項
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