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住宅価格が回復:豪州住宅市場について知っておくべき7つのポイント

主なポイント

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豪州の住宅市場は、楽観主義者や悲観主義者が語るよりも、もっと複雑した状況にあります。

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割高で債務水準が高い点は確かですが、住宅ローン返済負担の増加は誇張されすぎであり、実際に供給不足が続いています。

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利下げ、連邦総選挙、若干の規制緩和という3つの要因が相まって、住宅価格の回復に寄与したものの、上昇幅は限定的となるでしょう。

はじめに

2017年9月から2019年6月までで10.2%の下げ幅を記録し、ここ40年来の大幅下落となった豪州の住宅市場ですが、主要都市の平均住宅価格が再び回復を見せています。AMPキャピタルでは当初、シドニーとメルボルンにおける25%程度の下落に牽引される格好で最大15%の下げ幅を見込んでいましたが、連邦総選挙の結果を受けてネガティブ・ギアリング制度やキャピタル・ゲイン税控除制度の縮小といったリスクが排除された点や、予想よりも前倒しで開始となった政策金利の利下げ、そして豪州健全性規制庁(APRA)が返済能力を評価する際に最低7%の金利を想定する規制の廃止など、5月以降その状況が変化しています。このレポートでは、住宅市場の今後の見通しについて考えます。

両極端な市場の見方

不動産専門家による市場の見方は、大きく二つに分かれています。「不動産価格は7年毎に倍増する」と熱弁する楽観主義者がいる一方で、極めて割高かつ債務水準が高く、住宅ローン返済負担が増加しており、40%程度の暴落は避けられないと語る悲観主義者も存在します。前者の見方における問題は、年間で10.3%の住宅価格の伸びが示唆されている点です。賃金成長が3.5%(これでも、ハードルは十分に高いと言えます)へと加速した場合でも、住宅価格の年収倍率は現在の約6倍から今後7年で約9倍へと拡大し、今後14年では14倍へと膨れ上がる事になります。一方、後者における問題は、15年間に渡って同じことを繰り返し言い続けている点で、未だクラッシュは起きていません。そして、これらの狭間では、「1,000平方メートルの敷地に建つマイホーム」というオージードリームを夢見る住宅初回購入者が、その実現の難しさに頭を悩ませている状況です。住宅市場の現実は、これらの両極端な見解よりも複雑なのです。ここからは、豪州住宅市場に関する7つの「事実」を見ていきます。

ポイント1:割高である

足元では価格調整が入ったものの、住宅価格の上昇はここ約20年近く継続しています。

  • 2019年のデモグラフィア住宅アフォーダビリティ調査によると、豪州における住宅価格中央値の年収倍率は5.7倍と、米国の3.5倍や英国の4.8倍を超える水準にあります。これは、シドニーで11.7倍、メルボルンでは9.7倍と、極めて高い状態です。
  • 対長期平均で見た住宅価格の年収倍率、そして賃料倍率も、豪州はOECD加盟国の中でも高い水準となっています。
住宅価格の年収倍率と賃料倍率
  • 住宅価格の年収倍率が上昇したことを受けて、家計に占める負債の割合が膨らんでいます。25年前はOECD加盟国の中でも負債割合が低かった豪州ですが、現在はこれが一転し、上位に位置しています。

こういった要因から、豪州の唯一の弱点は住宅市場であると言っても過言ではないでしょう。しかし、この状況は約15年間続いています。

ポイント2:市場間の乖離

一口に豪州住宅市場と言っても、実際には市場間で大きな乖離が存在します。資源ブームの終焉を受けて、パースやダーウィンで住宅価格が大幅下落する一方で、その他都市では価格が上昇するなど、特にここ5年間で差の開きが大きくなっています。

主要都市における住宅価格の推移

市場間の乖離は表面利回りにも明確に表れており、西オーストラリア州郊外の8.7%に対し、シドニーでは3.1%となっています。

ポイント3:「住宅ローン返済負担増加論」は誇張されすぎ

ここ10年以上にわたり、過剰な住宅ローン返済負担に関するニュースが幾度となく紙面を飾っています。住宅価格はアフォーダビリティに乏しく、家計債務は高水準、中には住宅ローン返済負担に苦しむ世帯が存在する事は事実です。しかし、住宅ローンの借り手の大半は、問題なく返済を行っています。一部でネガティブ・エクイティが見られ、住宅ローン借り手の多くが当初利息分のみを返済するインタレスト・オンリー(IO)ローンから元本と利息返済型のローンに切り替えている(これを受けて、ローン全体に占めるIOの割合は40%弱から23%へと低下)とはいえ、強制売却や不良債権の大幅増加は確認されていません。住宅ローンの焦げ付きが増加したものの、それでも0.9%という低水準が維持されています。豪州の融資基準は前回のブーム時に緩んだとはいえ、世界金融危機(GFC)前の他国程ではありません。債務増加分の多くは、年齢層の高い、より裕福な豪州国民、つまり住宅ローン返済能力に長けた借り手によるものです。豪州では、書類要件の低いロー・ドキュメンテーション・ローンは微々たるもので、高LVR(資産価値に占める住宅ローン比率)ローンやIOの比率は低下しています。

銀行貸出基準は厳格化している

ポイント4:慢性的な供給不足

1995~2005年にかけて年間217,000人のペースで成長してきた豪州の人口は、2000年代半ば以降同373,000人へと加速しています。これは、年間で住宅75,000戸が追加で必要となる計算ですが、新規住宅建設はこの人口成長に追いついておらず、供給不足の積み上がりが住宅価格の上昇を招いています。2015年以降は集合住宅ユニット数が大幅に増加し、不足分が補われ始めているとはいえ、10年間に渡る供給不足の積み上がりこそが、豪州住宅価格が割高である最大の理由です。税制優遇措置や低金利が理由ではありません。これらが提供されている他国でも、住宅のアフォーダビリティは豪州より優れているのですから。

住宅建設と人口の伸び

ポイント5:住宅価格は上下に変動する

シドニーで15%、パースで21%、ダーウィンで31%という最近の大幅下落局面以外にも、ここ15年の間、多くの都市は5~10%程度の下落局面を度々経験しています。住宅価格は上昇するのみである、という幻想を抱くことは禁物です。

ポイント6:住宅市場は政策金利に敏感

懐疑的な意見が多かったにもかかわらず、政策金利の引き下げは住宅価格の回復に寄与しました。ただし、回復幅は都市間で異なっています。

ポイント7:住宅価格の暴落を予測するのは容易ではない

住宅価格の高騰と高い債務水準を背景に、ここ15年間に渡り、住宅バブル崩壊の危機が何度となく叫ばれてきました。2004年には、住宅価格急騰を一部理由として、エコノミスト誌が豪州を「米国の醜い妹」と呼んでいます。GFC後も住宅価格暴落を警戒する声は絶えず、住宅価格は最大で40%暴落するという賭けに出たある著名コメンテーターが負けるというハプニングもありました。2010年には、米誌フィラデルフィア・トランペットが、「GFC前後にロサンゼルスで住宅価格が40%暴落したのと同じ事が豪州でも起きる」と警鐘を鳴らしています。そして、足元では、数年前にヘッジファンドやヘッジファンド調査会社が、「豪州不動産市場はバブル崩壊直前まできており、その規模は驚異的なものとなるだろう」と指摘しています。これら、バブル崩壊の危機を指摘する意見は、幾度となくビジネスTV番組で取り上げられてきました。

当社の見方は次の通りです。一部都市における周期的な価格下落は除き、失業率と金利の大幅上昇や相当の供給過剰がない限り、全国的な住宅バブル崩壊の可能性はないと考えます。リセッション突入のリスクが高まったとはいえ、その可能性は低いままであり、積極的な利上げの可能性はさらに低くなっています。住宅供給にはまだ伸びしろがあるものの、新規住宅建設許可件数が減少に転じたことからも、大幅な供給過剰の可能性も低いと言えます。長年に渡り私たちが目にしてきた通り、価格高騰と高債務だけでは、住宅バブル崩壊に至ることはありません。

今後の見通し

マイホーム購入意欲は5月以降回復しており、シドニーとメルボルンにおけるオークション成約率は75%へと上昇、住宅価格は2%弱の上昇を記録しました。一方、その他都市では、まちまちの状況となっています。

シドニーにおけるオークション成約率と住宅価格の伸び

小幅とはいえ、住宅価格は回復基調にあると見られます。住宅価格の伸びは、現在のオークション成約率が示唆する10~15%よりも限定的となるというのが、当社のベースケースです。過去のサイクルと比較しても、収入に対する債務比率は高く、銀行貸出基準は厳格化した状態です。集合住宅ユニット数の大幅供給を受けて、シドニーでは既に賃貸空室率が通常の水準を上回っており、力強さに欠ける経済成長を背景に失業率も増加する見通しです。つまり、住宅ブームの再来は期待できず、住宅価格は2020年に向けて5%程度の小幅上昇となる可能性が高いでしょう。今後において注目すべきは、次の3つのポイントです。

  • 春の売り出しシーズン:売り出し件数の増加とともにオークション成約率が拡大を続けるとなれば、長期的な不動産市場の回復を示唆するポジティブな兆しです。
  • 住宅ローン・コミットメント件数:既に回復を見せ始めているものの、住宅価格を10-15%押し上げるには、更なる増加が必要です。
  • 失業率:経済成長の減速から失業率が上昇するとなれば、住宅市場の重石となって更なる価格下落を招く恐れがあります。

シドニーとメルボルンにおける住宅価格の回復が、追加緩和の実施における障壁となることはないと見ていますが、資産効果がマイナスからプラスに転じる事で、追加緩和の必要性は後退するかもしれません。そして、価格上昇が加速するとなれば、規制当局らによる引き締めが予想されます。

投資家への影響

長期で見ると、株式と似た水準(年率11%程度)のリターンを提供する住宅不動産ですが、株式市場とは異なる動きを見せるため、分散の観点からもポートフォリオにおいて重要な役割を果たすと言えるでしょう。複数の都市では、ここ数年間で価格が下落しており、投資開始の良いタイミングとなっていますが、シドニーとメルボルンにおける表面利回りは比較的低い状態が継続している点や、大規模な新規ユニット供給が見込まれている地域には注意が必要です。より優れたバリューを獲得できるのは地方都市やパースであると見られ、空室率が低く、人口増加が確認されているブリスベンでも、まずまずの利回りが獲得できるでしょう。

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