経済&マーケット

豪州住宅価格:底入れ間近も、活況への早期回帰は見込めず

By シェーン・オリバー博士
インベストメント・ストラテジー&エコノミクス担当ヘッド、チーフ・エコノミスト 豪州、シドニー

主なポイント

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住宅減税の縮小というマイナス要因が払拭された以外にも、早期の利下げ、マイホーム初回購入者に対する補助金、豪州健全性規制庁(APRA)が返済能力を評価する際に最低7%の金利を想定する規制の廃止を提案したことなどを受けて、住宅価格は当初想定よりも早く底入れし、下落幅も小さくなる見通しです。

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この結果、豪州主要都市における平均住宅価格の下落幅は当初見通しの15%から12%へと縮小し、今年後半にも底入れする見込みです。

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しかし、住宅価格はいまだ高水準にあり、アフォーダビリティに乏しいだけでなく、高い債務水準、貸出基準の厳格化、失業率の上昇を考慮すると、市場が活況を取り戻すには時間がかかるでしょう。

はじめに

豪州の住宅価格には、大きなマイナス要因が重くのしかかったままです。しかし、ここ3週間の展開を考慮すると、当初の想定よりも早期に底入れし、下落幅も小さくなると見込まれます。連邦総選挙では与党保守連合が政権を維持したことを受けて主要なリスクが払拭された点や、それ以外の要因がこの見通し改善に寄与しています。当レポートでは、これら主な課題を見ていきます。

過去40年で最大の下落幅

コアロジックのデータによると、2017年9月にピークをつけた豪州主要都市の住宅価格は、ここ40年で最悪となる9.7%の下落を記録しています。もちろん、下落幅には大きなばらつきがあり、シドニーで15%、メルボルンで11%、ダーウィンでは28%、パースでは18%となる一方で、ブリスベンとアデレードではそれぞれ2%、1%未満、キャンベラとホバートでは価格が上昇し、過去最高となっています。

豪州主要都市の住宅価格

住宅価格にのしかかる大きな重石

住宅価格下落の要因は複数ありますが、主なものは以下の通りです:

  • シドニーとメルボルンで2017年に住宅価格が急騰し、これに調整が入った。住宅価格は、このバブルによって、収入や賃料、長期トレンドと比較して極めて割高な水準に達し、アフォーダビリティが悪化し、家計債務が高水準となった。
  • 資源投資ブームの終焉を受けて、2014年にピークを打ったパースやダーウィンで価格が下落した。
  • 貸出基準の厳格化を受けて融資が減少したものの、2017年以降は当初利息分のみを返済するインタレスト・オンリー(IO)ローンに移行したことを受けて、信用力に再び注目が集まり、ローン借入れが困難となった。
  • 供給ユニット数も過去最高水準まで増加し、シドニーでは賃貸空室率が上昇した。
  • 外国人投資家からの需要が80%減少した。
  • IOローンの借り手の多くが元本と利息返済型ローンに切り替えたことによって、債務コストが上昇した。
  • FOMO(取り残される不安)が住宅ブームをエスカレートしたように、価格下落が見通しの悪化につながり、需要低下とFONGO(抜けられなくなる不安)に拍車がかかる悪循環が発生した。
  • 連邦総選挙で野党労働党が勝利したことから、投資家は、ネガティブ・ギアリング制度やキャピタル・ゲイン税控除制度が縮小される可能性、そしてその影響として住宅価格が更に5-10%下落するというシナリオを検討し始めた。

引き続き、多くのマイナス要因が住宅市場の足枷となっています。中でも、信用状況は引き続きタイトで、住宅ローンは2月に一時的に持ち直したものの、この分3月に再び下落しており、総合信用報告(CCR)制度の開始を受けて無申告ローンの管理が強化されます。数多くのクレーン基が示唆する通り、シドニーとメルボルン市場で今後出回るユニット供給は高水準が継続する見通しです。

住宅用クレーン基数

一方で、シドニーとメルボルンにおけるオークション成約率は昨年12月につけた過去最低から戻り始めているものの、主に季節要因が関連していると考えられます。オークション成約率は住宅ブーム以前の水準である50%を下回っており、販売戸数と共に、弱含んだ状態が続いていると言えます。更には、月次での価格下落が確認されている主要都市の数は、1年前の8都市中3都市から、現在は同7都市へと増加しています。これらの要因を背景に、そしてパースとダーウィンでは5年間続いた下落局面で減速と加速が複数回確認されている事からも、ここ数か月における月次住宅価格下落の減速については深読みしないようにしています。

そして、豪州の住宅市場はまだ割高です。長期トレンドを27%上回る水準にあった実質住宅価格は、同7%を上回る水準まで低下していますが、所得や賃料と比較すると未だ割高な水準にあります。シドニーの住宅価格は2017年のピークから15%下落したとはいえ、このピークは2012年以降で+75%の価格上昇を反映したものであり、これとは対照的に賃金の伸びは14%に留まっています。そして、家計債務は高水準が継続しています。

しかし、プラス材料が出現し始めている

とは言え、ここ数週間で複数のプラス材料が鮮明になってきました。

まず最初に、マイホーム初回購入者に対する金銭的補助として5%の手付金でローンが借りられるファースト・ホーム・ローン・デポジット制度が導入されます。受け入れ人数が制限されている点や、ローン1件の借入額が大きくなることからネガティブ・エクイティのリスクが高まること、より厳格な信用基準をクリアしなければならず、実際の導入は来年となる点などを考慮すると、この制度単独ではゲームチェンジャーとは言えません。しかし、財政がより健全化しており、鉄鉱石価格の上昇を受けて予算が既に黒字化している可能性がある点を考えると、このファースト・ホーム・ローン・デポジット制度は、今後、より魅力的な制度へと発展するのではないかと考えられます。

二つ目のポイントは、APRAが返済能力を評価する際に最低7%の金利を想定する規制の廃止を検討している点です。現在の金利水準を考えると7%は極めて不適切な水準であり、APRAがより基礎的な信用基準へとフォーカスを移したことからも、これは必然的な進展だと言えます。これについては、住宅価格下落の最大要因ではない点や借り手が厳格な貸出基準を満たさないといけない点に変わりはないことからも、単独ではゲームチェンジャーとは呼べません。そして、昨年は、外国人投資家向け住宅ローンの伸びを10%に抑制する制度と、IOローンをローン発行総額の最大30%に制限する制度が緩和されましたが、この影響は極めて限定的だった点も忘れてはなりません。とはいえ、この緩和は若干なりともプラス寄与要因です。

3つ目に、連邦準備銀行(RBA)ロウ総裁が「利下げは雇用の伸びを支え、インフレが目標に一致する時期を前倒しする」とし、「2週間後の会合で利下げを検討する」と発言し、利下げ観測が高まっています。当社では、6月と8月にそれぞれ0.25%の利下げを予想しており、銀行の資金調達コストが低下していることからも、この利下げ分の多くは借手へとパススルーされると見込まれます。これは、前回住宅価格見通しの見直しを行った今年1月時点における8月と11月の利下げ観測から、若干前倒しとなった格好です。2008年と2011年を振り返ると、住宅価格は最初の利下げから3か月後に底入れしています。これらと足元の環境を比較すると、家計債務はより高水準で、政策金利は既に低く、貸出基準は厳格化していることから、底入れまでにはより時間を要すると考えられます。しかし、これも好材料です。

最後に、与党保守連合が連邦総選挙で勝利を収めたことから、ネガティブ・ギアリング制度やキャピタル・ゲイン税控除制度の縮小というリスクが払拭されました。つまり、住宅価格にとって大きなマイナス要因が消え去ったのです。選挙結果の予測が困難であったため、住宅価格見通しには野党労働党が勝利する確立を50%、つまりシドニーとメルボルンでは住宅価格が更に4%下落するシナリオを織り込み、その他都市における下落はより小幅としました。与党保守連合の勝利によって更なる下落の可能性はゼロとなり、これを当社見通しから除外する必要があります。

注目に値するもう一つのポイントとして、ネガティブ・エクイティが増加している(とはいえまだ低水準)にも関わらず、パニック売りや銀行による強制的な売りがほぼ確認されていないという点です。住宅ローンの延滞率は、住宅価格が18%下落し、失業率が急増したパースでさえも、比較的低い水準が維持されています。

一方で、(建築許可件数の減少を受けて)供給は来年から減速が見込まれる中、年率1.6%程度の力強い人口成長が引き続き住宅需要を下支えしています。空室率は、ダーウィンで極めて高く、シドニーではトレンドを上回る水準で上昇を続けているものの、大半の主要都市ではほぼゼロに近く、パースでは大幅に低下しています。

豪州主要都市の住宅価格

一部はマイナーですが、ポジティブ材料であることには変わりなく、これら全てを勘案すると、住宅価格は当初の見通しより早く底入れすると考えられ、下げ幅も小さくなると考えられます。

失業率上昇というリスク

主なリスクは、住宅市場の下振れ、そして世界経済の減速と同時に豪州経済が後退することで失業率が上昇し、これが住宅ローンのデフォルト増加を引き起こし、住宅価格が更に低下することで、全国住宅価格が30%超下落するというシナリオです。これはリスクに変わりありませんが、当社では引き続き、回避されると見ています。

当社の予想では、この住宅サイクルの下落を受けた失業者数は約60,000人となる見通しです。一方、RBAや政府の見通しより遅いペースとはいえ、成長維持に寄与する要因が複数存在しています。インフラ支出は堅調、資源ブーム終息後の停滞は底入れ間近、非資源投資はより活気に満ちており、翌四半期における中・低所得層向け所得税減税などがサポート材料となり、鉄鉱石価格の上昇が寄与する形で財政刺激効果も強まり、利下げが住宅ローン世帯の支援となるでしょう。これら要因は、失業率を6%未満に抑え、住宅価格にとってより大きな脅威となる事を防ぐに十分であると考えられます。

貿易摩擦が悪化する可能性がありますが、そうなれば中国が景気刺激策の強化に動くと考えられ、これがグローバル成長の減速を相殺することになります。鉄鉱石価格が一段と値上がりしているのは、これが理由でしょう。

もう一つの大きなリスクは、賃料利回り(ネット)とキャピタル成長の見通しが低下する中で、投資家離れが進む可能性です。

修正後の住宅価格見通し

これまでの当社予想は、全国平均価格で見た下落幅は15%(うち、既に10%下落)、シドニーとメルボルンの下落幅は25%(うち、シドニーは15%、メルボルンは11%下落済み)となり、底入れ時期は2020年となると予想していました。しかし、前途した要因、特にネガティブ・ギアリング制度やキャピタル・ゲイン税控除制度の縮小といった脅威が払拭され、早期の利下げ、マイホーム初回購入者に対する補助金、APRAが返済能力を評価する際に最低7%の金利を想定する規制の廃止を検討している点を考慮した結果、この見通しを修正し、(堅調な人口の伸びを背景に予想以上に持ちこたえていることからも)シドニーにおける下落幅は19%、メルボルンでは同15%、全国平均価格の下落幅は12%とし、底入れ時期も今年年末へと繰り上げます。

しかし、アフォーダビリティは未だ低く、高い債務水準、貸出基準の厳格化、失業率の上昇を考慮すると、市場が活況を取り戻すには時間がかかるでしょう。より可能性が高いシナリオとして、住宅価格は年末にかけて底入れした後、長期に渡り一定のレンジ内で推移すると予想されます。

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