ESG(環境・社会・ガバナンス)ラップでは、豪メディアで話題のESGトピックを取り上げ、投資への影響を考えます。
今月のESG話題
NSW州土地・環境裁判所が炭鉱開発プロジェクトを却下
メキシコの鉱山ダム決壊惨事
バグポカリプスの危機
NSW州土地・環境裁判所が炭鉱プロジェクトを却下
ニュー・サウス・ウェールズ州土地・環境裁判所は、温室効果ガス排出と気候変動などを理由に、グロスター・リソーシズ・リミテッド社が計画中の炭鉱プロジェクトを却下しました。
同件は、新規炭鉱プロジェクト計画において、専門家から世界的な炭素排出限度を守ることの必要性に関する証言が行われた、豪州初のケースです。プレストン判事は、同プロジェクトが「莫大なマイナスの社会的影響を地域社会にもたらす」と述べています。
同プロジェクトからの直接的・間接的な温室ガス排出は、二酸化炭素3,780万トン相当となると見られていました。
ポイント
同判決には、世界各地から注目が集まっていました。ここ数年で、米国や欧州を中心に、気候変動に関連した訴訟を起こすステークホルダーが増加しています。活動家らは、気候変動をめぐる規制変更がなかなか進まない事に苛立ちを見せており、温室ガス排出削減に向けて、司法制度の活用に乗り出しています。
この判決は、炭鉱・化石燃料と気候変動の直接的な関係を示す世界的な訴訟の一覧にその名を連ねる事になります。
豪州において気候変動政策の変更から最も影響を受けると見込まれるのは、多くの先進工業国で温室効果ガス排出量が最も多いとされるエネルギー・セクターです。
発電から鉱業、石油企業、LNG供給、その他企業まで、エネルギーのサプライ・チェーンにおける事業モデルは、変革を遂げるか、消滅するかのどちらかです。既存事業からの収益を長期に渡り維持する事は不可能であると考えられ、投資家にとって大きなリスクとなっています。
この判決は、化石燃料産業に対して明確なメッセージを送るものです。それは、気候変動に真剣に取り組むならば、化石燃料の居場所はなく、クリーンな安定した再生可能エネルギー・システムへの移行に向けたモメンタムが加速するでしょう。
今後の新規炭鉱プロジェクトは、認可取得にあたり、長期に渡る煩雑な手続きが必要となり、結果として却下される可能性も高まっていると言えます。
AMPキャピタルでは、投資先の発掘において、気候変動に関する当社の見方に合致する資産にフォーカスしています。当社ファンドにおける温暖化ガス排出量の測定と報告は、その取り組みの一例です。
メキシコの鉱山ダム決壊惨事
1月25日、資源開発大手ヴァーレ社がブラジル南東部で手掛けるコヘーゴ・ド・フェイジョン鉱区で、鉱滓ダムが決壊しました。泥水が隣接するブルマジーニョの村を飲み込み、死者は160名超、その他大勢が行方不明となりました。
メディア報道によると、ヴァーレ職員8名と安全評価を実施したドイツ企業職員2名が逮捕されています。また、米国投資家らは、環境リスクの開示を怠ったとして、ヴァーレ社とその経営陣に対して集団起訴を起こしています。
鉄鉱生産世界一を誇る同ヴァーレ社は、2015年、英豪系鉱業大手BHPビリトンとの合弁企業であるサマルコが運営する鉱山ダムが決壊し、19名の死者を出しました。あれから3年、サマルコは閉鎖されたまま、運営再開に必要な認可を待っている状態です。サマルコは、修繕と賠償費用として既に12億米ドルを支払っています。
ダム壁の破壊は、異常気象が引き金となるケースもありますが、多くの場合、設計やメンテナンスの不備が原因です。
度重なる鉱山ダム決壊惨事から見えるのは、その発生パターンです。報告によると、世界で3,500件存在する鉱滓ダムのうち、年間300件以上が決壊しており、決壊5回のうち2回は、ヴァーレの様な大惨事を引き起こしています。国連環境計画(UNEP)はこの現状を認識し、鉱山ダムの安全性向上に関する勧告を行っています。
ポイント
鉱山ダム決壊は、人の命を奪うだけでなく、基幹インフラ(交通、住居、鉱山)や環境(極めて有害な鉱山廃棄物)に悪影響を及ぼします。この様な災害は、これら社会面・環境面のコスト以外にも、当事者である企業の財務やコーポレート・ガバナンスに複雑な影響を及ぼします。金銭的責任、安全基準の厳格化を受けた将来的な設備投資増、風評リスク、社内のガバナンスや経営構造の変化などが、その例です。
サマルコとブルマジーニョの大惨事を受けた供給先細り懸念を背景に、鉄鉱石価格が短期的に上昇しました。しかしながら、中・長期的に見ると、罰金、修復コスト、保険掛け金、メンテナンス支出など、鉱業関連企業にとって、事業コストは大幅に増加する可能性があります。これら費用の膨張は、事件に直接的に関与した企業だけでなく、ESGに対する注目の高まりを受けて、鉱業セクター全体へと影響を及ぼしかねません。ESGの観点から、企業が学ぶべき最も重要な教訓とは、安全に妥協は許されないということです。
バグポカリプスの危機
保全生態学のジャーナル誌「バイオロジカル・コンサベーション」の2019年4月号に掲載された記事によると、現在のペースで減少が進むと、昆虫種の約40%が今後20~30年で絶滅の危機に瀕すると見られています。この原因は4つあります:
- 集約農業や都市化を受けた生息地の消失
- 農薬や肥料からの汚染
- 病原体や外来生物
- 気候変動
特に危急と指摘されているのは、ふん虫、蛾、蝶です。中でも、重要な役割を果たすのはふん虫で、健全な土壌づくりや家の畜感染回避に寄与します。また、ミツバチの世界的な減少に関しては広く調査が進んでおり、このESGラップでも以前取り上げています。
同ジャーナル記事では、農薬を削減し、より環境に優しいサステイナブルな代替品へと切り替える、農業地区や都市部の汚染水処理など、既存の農業慣行の再考が必要であると指摘しています。
ポイント
同件は、想像を超える幅広い分野に影響を及ぼします。昆虫は、地球上のエコシステムにおける重要な一部です。第一に、鳥や哺乳類のエサとなることで、植物連鎖における重要なつながりを形成しています。第二に、農業に必要な健全な土壌の維持に役立っています。そして第三に、その多くが農作物の授粉を担っています。同記事の著者によると、これら昆虫種の絶滅は「破壊的」な影響を及ぼすとしています。
農業やその他食品生産セクターの企業では、この様なサプライチェーンのリスクが高まるでしょう。特に肥料や農薬利用の観点から、効率性に優れた地球にやさしい農業慣行を行っている企業、たとえばオーガニック商品の生産・物流などは、長期的によりサステイナブルであると同時に、法令や規制変更といったリスクの影響を受けにくくなっています。
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重要事項
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