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RBA が利下げ、政策金利は過去最低に:この理由と効果、追加利下げの可能性、投資家への影響は?

主なポイント

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豪州準備銀行(RBA)が6月4日に決定した利下げには、失業率の上昇や低インフレの長期化というリスクをもたらす豪州経済の更なる減速を阻止する目的があります。

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インフレ目標の引き下げは、大きな間違いです。

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最終的には追加利下げが必要となる可能性が高く、来年には0.5%へと引き下げられる見通しです。更なる財政刺激策が同時に打ち出されると、より理想的です。

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投資家にとっては、低金利環境がさらに長期化することになります。

はじめに

ここ2週間にわたり市場でも幅広く予想されていた通り、RBAが0.25%の利下げを実施、政策金利を1.25%としました。今回の金利政策の変更は、2016年8月以来初となります。2011年11月、4.75%からスタートしたこの利下げサイクルにおいて、今回の利下げは13回目です。(2011年の利下げ開始以降、利上げは行われていないため、新しいサイクルではありません。)一部の住宅ローン金利は既に過去最低となっていますが、銀行が預金金利を利下げ分と同じ0.25%引き下げると仮定した場合、預金金利は1950年代半ば以来の最低水準に達します。

金利は過去最低、またはそれ近くまで低下
キャッシュレートは、1980年代初期までは、認可取引業者金利と90日物手形金利を示しています。全ての金利において、5月に0.25%の低下を想定しています。出所:RBA

このレポートでは、今回利下げに至った理由、経済への効果、追加緩和の可能性、そして投資家への影響を見ていきます。

 

利下げ決定に至った理由

簡単に言えば、住宅価格下落を受けて経済成長が長期見通しを大きく下回っているほか、国内の干ばつや米貿易摩擦を背景とした世界経済の減速懸念など、その他要因が先行き不透明感を強めているためです。これを受けて、失業率と不完全就業率の合計は労働力全体の13.7%と高水準にあることからも、失業率見通しが悪化しました。そして、これが賃金成長の足枷となり、インフレはより長期に渡りRBA目標の2-3%レンジを下回って推移すると予想されます。これらを反映した結果、RBAはここ6か月間で経済成長とインフレ見通しを大幅に下方修正しており、2度の利下げを織り込んだテクニカル予測でさえも、インフレ率が2%を上回るのは2021年以降となっています。インフレを目標レンジに引き戻すには、失業率は5%よりもっと低い水準まで低下する必要があるというのが、RBAの判断です。しかし、足元の指標からは失業率の上昇が示唆されています。従って、RBAは成長を促進すべく、利下げに回帰したのです。

低インフレの要因

2019年3月におけるインフレ率は、僅か1.3%でした。ぶれの大きい項目を除いた基調的インフレ率も、1.4%に留まっています。これは、需要の軟化、高水準にある余剰生産能力と不完全就業率、競争の激化やIT技術のイノベーション、商品価格の弱含みを反映したものです。ここで問題なのは、インフレがRBA見通しと目標レンジの両方を下回って推移し続けている点で、RBAの信頼性を脅かしていることです。

RBAインフレ目標に対する信用の低下
出所:RBA、ブルームバーグ、AMPキャピタル

低インフレ率の問題

小幅な価格上昇または価格の下落は、プラスのはずです。従って、市場関係者の間では、RBAはインフレ目標を引き下げるべきだという意見が多く出ています。しかし、この議論はナンセンスです。第一に、インフレ目標を設定する意義は、インフレ期待を植え付ける点にあります。目標から外れるたびに目標が動くようでは、期待はぶれてしまいます。これでは、インフレ目標を設定する意味がありません。

2つ目に、低すぎるインフレを許容する事には問題があります。インフレの統計的指標は、質の向上を上手く調整できないため、実際のインフレ率を1-2%上回っています。つまり、低すぎるインフレ目標を設定すると、経済低迷時にデフレへと突入してしまうからです。

第3のポイントとして、賃金の低下、失業率の上昇、資産価格の下落、実質債務負担の増加に関連したデフレは、好ましくありません。債務水準が高い場合は、特にそうです。資産価格と所得が下落し、債務負担とデフォルトが増加し、そしてこれが繰り返される、債務デフレ・スパイラルのリスクが高まるからです。

そして最後に、超低インフレ目標を設定すると、実質金利をマイナスに引き下げる余地が限定的となり、各国中銀は経済低迷時に金融政策緩和に動く柔軟性を失ってしまいます。

より簡単に言えば、低インフレは低賃金成長と同意義であり、信頼感の欠如につながっているという訳です。これら両方を、より正常な水準に引き上げる事が望ましいと言えます。

豪州だけではない、グローバルの問題

RBAの動向を単独で判断しがちですが、グローバル勢力に翻弄されている点は明らかです。インフレ鈍化は世界的にも顕著であり、この背景にあるのは豪州と同じ要因です。長引くインフレの鈍化、そしてトランプ貿易戦争に起因する世界経済成長を取り巻く脅威が相まって、世界の債券利回りが過去最低を更新しています。この様相を反映し、豪州債券利回りも過去最低水準に達しました。つまり、RBAは、グローバル市場の勢力を認識しているだけなのです。

世界の債券利回りは更に低下
出所:グローバル・フィナンシャル・データ、AMPキャピタル

追加利下げの可能性

言ってみれば、利下げはゴキブリに似ています。1匹いれば、もう一匹が近くにいるのです。AMPキャピタルでは、7月または8月に更なる0.25%の利下げを見込んでおり、その後来年中旬までに2回の追加利下げを行い、最終的には政策金利を0.5%へと引き下げると予想しています。当初予想では、政策金利は1%まで引き下げられると見ており、住宅価格の回復はこれに寄与するものです。しかし、経済指標は多くが弱含んでおり、トランプ貿易戦争を背景に世界経済見通しのリスクが増加、雇用減速によって失業率は年末までに5.5%に達する見通しです。RBAがインフレを目標レンジに戻すには、失業率を4%以下に収める必要があることから、2回の利下げだけでは不十分であると考えられます。

銀行は、利下げ分を転嫁するのか?

足元では銀行の資金調達コストが低下しており、昨年0.1~0.15%引き上げられた住宅ローン金利の上昇分は取り消しとなるべきで、銀行預金の約90%は金利0.5%以上(つまり、引き下げ余地がある)であることからも、大半の銀行はRBAの利下げ分を顧客に転嫁すると見ています。資金調達コストの急騰がない限り、銀行預金の金利構造は今後の追加利下げ分を吸収する事が可能だと考えられますが、政策金利が0.5%に達した時点で限界となるでしょう。

更なる利下げの効果

RBAの利下げ判断については、様々な議論が飛び交っています:「本当に必要になるまでは、措置を控えるべきだ」、「これまで利下げが効果をもたらしていない中で、追加利下げが機能するはずがない」、「利下げは退職者の購買力を低下させ、金利が下がったとしても住宅ローン利用者は返済を維持するにとどまるため、利下げは効果がない」など。これらを順番に見ていきましょう。

まず最初に、「本当に必要になるまでは、措置を控えるべきだ」という議論は、経済がリセッション入りしてからの、遅すぎる利下げとなるリスクがあります。金融政策はフォワード・ルッキングでなければなりません。

2つ目、利下げは、非資源セクターの設備投資をサポートすることで、資源投資ブーム終焉後の経済リバランスに寄与しました。政策金利が4.75%、住宅ローン金利が7.5%で維持されていたとすれば、豪州経済は相当前にリセッション入りしていたはずです。

最後に、家計債務の水準は家計貯蓄の倍以上あることから、金利低下は家計部門にとってプラスです。住宅ローンを抱える家庭の購買力の回復スピードは、退職者よりも早いのです。利下げを受けて、住宅ローン利用者の多くがその返済を進めるにとどまったとしても、住宅価格下落による逆資産効果が相殺されることから、消費抑制の圧力が緩和されます。そして、利下げによって豪ドル安が維持されるのです。つまり、高い家計債務水準と貸出基準の厳格化との相性はよくないものの、利下げは住宅ローンを持つ家計や企業の国際競争力の助けとなります。

量的緩和の是非

利下げが進むと同時に、RBAによる量的緩和(QE)、つまり国債の買い入れを通じて市場に資金を供給する事の是非について議論が白熱するでしょう。QEは、当社におけるベースケースではありません。なぜなら、状況はそこまで悪化しているとは考えていないからです。とはいえ、他の主要中央銀行がそうであったように、RBAも、利下げというカードを全て使い切るまではQEを検討しないと見られます。つまり、政策金利が0.5%(0.5%以下へ引き下げる事は銀行にとってマイナスです)に達しない限りは、QEの可能性は低いと考えられます。QEは、10年物国債利回りの低下をもたらすという観点からオプションのひとつであると言えますが、家計における借入の多くで短期金利が適用されている豪州では、それほど効果をもたらさない可能性があります。また、世界的に見ても、QEが最良の手段だったのかについては疑問が残ります。より効果的でフェアなオプションは、RBAと連邦政府が協働し、政府支出を通じた直接融資や世帯への現金支給を実施することかもしれません。つまり、ヘリコプターマネー政策の活用です。この刺激策を講じれば、インフレ加速は確実です。しかし、これはあくまで選択肢のひとつであり、状況はそこまで悪化せずに済むと考えられます。それまでの間は、財政刺激策がRBAへの圧力を和らげてくれるでしょう。

投資家への影響

継続的な金利低下が投資家に与える影響は幾つかあります。まず、低金利環境が当分の間続くということは銀行預金の利子も低くとどまるわけで、銀行預金に頼る投資家は他の投資オプションを検討すべきです。2つ目に、低金利環境の長期化は利回り追求の動きを加速させることから、商業用不動産やインフラ、高配当株の人気が高まるでしょう。株式のグロス利回りは、銀行預金の利回りよりもはるかに魅力的です。適度なインカム収入を選ぶのか、それとも資本価値の保全が大切なのか、投資家は投資目的を再考する必要があります。もちろん、経済が更に弱含むとすれば、状況はまた異なってきます。

イールドの比較:豪州株と定期預金
出所:RBA、ブルームバーグ、AMPキャピタル

3つ目に、RBAが想定よりも早く利下げに動いたことで、連邦総選挙やその他の要因と共に、住宅価格の早期底入れに寄与する可能性が高いと考えられます。しかし、債務水準は未だ高く、貸出基準の厳格化や失業率の上昇を考慮すると、住宅ブーム再燃には至らないでしょう。

そして最後に、豪ドルのショート・ポジションは相当積み上がっており、鉄鉱石価格の上昇や米連邦準備制度理事会(FRB)による年内の利下げ観測が高まる局面において、RBAによる利下げは豪ドル安の維持に寄与します。

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