主なポイント
欧州中央銀行(ECB)と米連邦準備制度理事会(FRB)は明らかに金融緩和に向かっており、恐らく7月に開始となるでしょう。
FRBは今年年内2回の利下げを実施すると予想しています。
低インフレを背景に、各国中央銀行が金融緩和へと舵を切っていることから、世界経済成長に対する信頼感は今後6か月程度で改善し、今後6ヶ月から12ヶ月にかけて株式市場をサポートをするでしょう。
豪州経済がより弱含んでいることからも、豪州準備銀行(RBA)による利下げ幅はFRBよりも大きくなると考えられ、総合的に見て、豪ドルは年末までに1豪ドル0.65米ドル近辺まで下落する見通しです。
はじめに
足元の2010年代を振り返ると、世界経済は、2011~12年、2015~16年、そして現在の3回、成長危機に直面してきました。次のチャートの丸枠部分が示す通り、これらは全て景況感(またはPMI)の悪化に関連したものです。

そして3回とも、株式市場は約20%の下落を記録しています。

これら3局面全てにおいて、各国中央銀行は、その度合に差があるとはいえ、金融緩和へとシフトしています。最初の2局面では、成長指標が改善し、株式市場は反発の後に過去最高を更新しました。そして3度目の現在、少なくとも中央銀行の動向においては、この様相が再現されているようです。
引き締め、ニュートラル、緩和へと動く中央銀行
FRBによる「辛抱」や「様子見」のスタンス、そして量的引き締めの終了、ECBに関しては、長期資金供給オペ(TLTRO)の再開や政策金利据え置きの期間を延長するとした金利ガイダンスなど、当初は引き締めバイアスからニュートラル/若干の緩和へと方針転換している様子でしたが、FRBとECBは本格的な緩和へと乗り出すでしょう。
とはいえ、貿易摩擦が5月に再燃し、世界経済成長とインフレをめぐる新たな脅威が出現した格好です。従ってECBとFRBは、中国、インド、豪州、ニュージーランドなど他国の利下げを追随する形で、ニュートラルを越えて「あらゆる手段を取る」姿勢へと、スタンスを移しているようです。
- ドラギECB総裁は今月18日、「改善がない場合~追加の景気刺激措置が必要となる」とし、「我々の目的を達成するためには、権限の範囲内で全ての措置を取る」と述べています。ECBによる追加緩和は、追加利下げ(マイナス金利をさらに引き下げる)や量的緩和によるものとなる可能性があり、そのタイミングは7月又は9月が最有力候補です。
- FRBの6月会合からは、明らかなハト派への転換が確認されており、利下げ観測が高まっています。経済活動の評価は「堅調」から「緩やか」へと引き下げられ、インフレ見通しの低下が示されたと同時に、利上げに関しては「様子見」という表現が削除されました。また、不透明感の高まりが指摘され多と同時に、インフレ見通しは目標水準の2%以下へと引き下げられ、経済動向に関しては通常利下げへの姿勢転換を示唆する「注視」という表現が使われています。米連邦公開市場委員会(FOMC)メンバーの見方をまとめた金利予測分布図(ドットプロット)では金利据え置き派が優勢であるものの、17名のうち8名は利下げ派、このうち7名が2回の利下げを見込んでいると同時に、金利据え置き派の多くも利下げの正当性が高まっているという見方です。つまり、これらのうち1名が利下げ派へと転じれば、年内に政策金利が引き下げられることになります。そして、このドットプロットによると、来年は利下げが確実であり、長期金利見通しも2.5%へと引き下げられています。1年前は今年3回、来年1回の利上げを示していたドットプロットは、今や大きく下方修正されています。全体的に見て、貿易問題の解決に向けた明確な方向性や経済指標の改善を無くしては、FRBは7月に利下げに乗り出す可能性が高いと見られ、当社では年内で合計2回の利下げを見込んでいます。

ニュース解説者の間では、FRBとECBによる金融緩和へのシフトは通貨摩擦の再燃リスクをはらんでいるとの懸念の声が出ていますが、過去がそうであったように、これは金融緩和の世界的な広まりの過程に過ぎないのです。実際にも、多くの中央銀行が既に緩和に乗り出しています。
この点は、豪ドル安を望むRBAにとって関連性の高いポイントです。FRBが利下げに転じることで、RBAの状況はより困難になります。しかし、豪州経済は米国経済よりも弱含んでおり、未活用労働力は13.7%と米国の7.1%より高い水準にあることから、利下げ幅は豪州の方が大きくなると予想されます。従って、豪ドルは年末までに1豪ドル0.65米ドル付近まで下落すると見込んでいます。FRBの緩和は米ドルの重石になることからも、豪ドルが過去最低を更新してクラッシュする可能性は低いと言えます。
米中首脳会議
一方で、日本で開催される20カ国・地域首脳会議(G20サミット)では、米国のトランプ大統領と中国の習近平国家主席が会談します。これによって、総額3,000億ドル相当の対中関税引き上げ第4弾が延期となる可能性が出ています。この貿易摩擦は、両国経済の成長を脅かしている(そしてトランプ大統領の2020年再選におけるリスクである)ことからも、最終的に解決に至ると予想されます。しかし、対立が根深いことからも、G20で解決に至るかは不明です。
とはいえ、貿易合意と金融緩和、または貿易合意なしとより緩和的な金融政策、のいずれかに落ち着くと見られます。
投資家への影響
貿易摩擦が深刻化し、米国のイールドカーブが逆転していることからも、リスクは高まっていると言えます。後者に関しては、時に間違った兆候を示し、タイムラグや量的緩和リスクを受けた歪みがあるとしても、最近は経済成長見通しではなくインフレ見通しの低下を反映しているように見えます。米国では、リセッション入りの前兆である一般的な過剰は、以前ほど確認されていません。
今後の道のりは険しいものとなるでしょう。経済指標の軟化や貿易摩擦を受けて株式市場はまだ下落する可能性が残っており、季節的にも弱い時期にあります。
とはいえ、投資家は「FRBには逆らうな(Don’t fight the Fed)」という古い言い回しを意識すべきです。これはECBやRBAに関しても同様です。なぜなら、金利低下によって株価は割安となり、企業収益を押し上げるからです。
超低金利やマイナス金利政策、そして量的緩和を通じた各国中央銀行の措置に対する懐疑論もありますが、過去10年でこれらの金融政策に逆行した投資を行っていたとしたら、大きな間違いとなっていたのは明らかです。
つまり、足元の局面についても、リスクが高まっているとはいえ、2011~2012年、2015~16年と同様に、単なる世界経済成長の脅威として考えるべきであり、その後にはより力強い成長と、6~12ヶ月間に渡る好調な株式市場が期待されます。
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